1 もうすぐバレンタイン
「はぁ……」
放課後、グラウンドをぼんやりと眺めながら、頬杖をついて私はため息をついた。
「なにやってんの高坂、そんなところで」
友達のカヨが声をかけて来た。
「もうすぐバレンタインだなって思って」
「そっか……告白するの?」
「まさか」
肩をすくめて答えた。
私の思い人はグラウンドで練習をしているサッカー部のカズキ君。
学校一のイケメンと言われるくらい人気がある。
同じクラスの彼にずっと片思いしていたが、告白したところで恋が叶うはずもないと、投げやりになっていた。
私以外にもバレンタインにチョコを渡そうとしている女子がいるのだが……これまた厄介な相手。
学校一の美人と言われるくらいに容姿端麗。
サッカー部のマネージャーでもある彼女の名はミカ。
とても太刀打ちできる相手ではない。
彼女の告白を成功させようと、取り巻きたちがあれこれとたくらんでいるらしい。
バレンタイン当日に向けて、ライバルを減らそうと工作活動に励んでいる。
と言っても大したことはしていない。
カズキ君に告白しようとしている他の女子生徒に、ミカの告白を邪魔するなと触れて回っているらしい。
本当にばかばかしい。
そんなことをして告白が成功すると思うのだろうか?
「無理だろうねぇ。
ミカ嬢がガード固めてるし」
「だよねぇ……はぁ」
私はため息をついた。
ミカがいなかったとしても、告白したところで付き合ってはもらえないだろう。
何せこんな……。
自分のほほに触れる。
容姿にはコンプレックスがあった。
小学生の頃にクラスの男子から「ブス」とののしられたことがあった。
それも毎日のように。
担任が注意してもやめないし、一時期は本気で悩んでいた。
鏡の中の自分の顔を見るのが怖くなり、ごはんも食べられなくなった。
不登校になりかけたのだが、カズキ君が助けてくれたのだ。
ブスブス言っていたクラスメートをみんなの前で叱り飛ばしてくれた。
あれは本当にかっこよかったなぁ。
高校受験の際には寝ずに勉強に励んだのだが、全ては彼と同じ高校に進学するため。
その努力が実って何とか合格できたわけだが……彼との距離は縮まらないまま。
カズキ君はクラスの人気者。
私はただのモブキャラ。
釣り合うとはとても思えない。
「はぁ……」
「ため息ばっかりついてたら幸せが逃げちゃうぞ」
カヨはそう言いながら私の頭に軽くチョップを入れる。
彼女の言う通り、このままでは本当にダメになってしまう。
気持ちを切り替えないといけないな……。