小峠澄とハットトリック
ハットトリックとは競技の試合中に特定の人物が得点につながるプレイを3回以上達成することだという。
中々達成することが出来ないからこそ、栄誉ある称号となるそうだ。
小峠はこの話を聞いてとある日の思い出が頭に浮かんだ。
小峠が〇〇村の村長宅へ取材に向かおうとしたおり、道の隅に十数人の子供を見つけた。
「どうしたの?」
小峠が声を掛けると一人の男子が、広場を指差しながら答えた。
「外人さんが『サッカー』をやりたいからって占領しているんだ」
子供の遊び場を奪うなんて許せない。小峠が一言文句を言おうとした時だった。
「子供の遊び場を大人が奪うとは、イギリス人はよっぽど暇なんだな」
大きな声が聞こえて小峠が振り返ると、身長が6尺(1.8m)を超える大男が立っていた。
男は小峠を一瞥することなく、長い手足をコンパスのように動かしながら、外人達の前に立った。
「おい、イギリス人。サッカーで俺と勝負しろ。俺が勝ったらここを明け渡せ」
外人は鼻を鳴らした。
「黄色い猿が誰に向かって口を聞いているんだ。外交問題にしてやってもいいんだぞ? と、言いたいところだが遊んでやる。そのかわり、お前が負けたらこの土地は明け渡せ」
「いいだろう」
「そうか。他のメンバーは誰だ?」
「居ないな。俺一人だ」
「舐められたものだな。いいだろう」
広場の端でゆらゆらと揺れるゴール前に立つ一人の大男を11人の外人が囲んだ。
「ああ。その前に。俺はここに立っているから、お前ら全員俺にボールを渡せ、そして俺が蹴ったボールを誰も触れるな」
大男の言葉に外人達は腹を抱えた。
「バカ言うな。 猿は猿らしく山で遊んでいればいいのだ」
「良いんだよ。試してみな」
その言葉を皮切りにゲームはスタートする。外人は広場の中央に置かれたボールを蹴り出すと大男が立つゴール前まで走った。
仁王立ちの姿勢から動かない大男。ゴールへボールを蹴り込もうとする外人。小峠がもうダメだと思った瞬間、不思議なことが起こった。
外人は大男へボールを渡したのだ。
「何をやってる!!」
外人の叱責が広場に響く中、大男はボールを相手のゴールへ蹴り返した。
恐ろしく緩やかに転がるボール。小峠は諦めの声を上げそうになるが、奇妙なことは続いた。
外人は誰一人ボールを取りに走らなかった。ゴール前に立つ者ですら、ゴールの中に入るボールを見つめていた。
「まず、一点」
そこからは更に奇妙だった。大男はボールを蹴り込み、何度も相手のゴールポストを揺らしたが、外人は誰一人として動かなかった。
「ハットトリックどころじゃない。化け物め」
外人達は全員広場の外へ逃げ出した。小峠は大男に話を聞こうとするが、ヒュウと風が吹く間に消えてしまっていた。
ハットトリックって
戦後の日本でそんな言葉を使うやつ居なさそう感