可笑しなお菓子屋おかげさま-お菓子への旅路-
こちらはなろうラジオ大賞応募作品となります。
このままでもお楽しみいただけますが、本編もお読みいただくと更にお楽しみいただけます!
妻が死んだ。
自分には勿体無い、よく笑う良い女だった。
もういい歳なのだからいつ死んでもおかしく無いがあまりにも急だった。
棺の中で真っ白な死装束を纏い化粧を施された妻は、まるで眠っているようだ。
涙で視界が歪む中、何故か白無垢を着て微笑む妻の笑顔が重なって見えた。
無口で愛情を上手く表現する事も出来ない不甲斐ない自分にずっと寄り添ってくれた愛おしい妻。
間もなく棺の蓋が閉じられる。
親族や妻の友人達が涙を流す中、妻の好きだったローズマリーの花束を最後に添える。
皺だらけの顔が酷く歪んでいたが気にする余裕は無かった。
「また…あっちで会おうな。お前の好きやったクッキー持ってくから待っててなぁ」
瞼を閉じた妻の冷たい頬を、ガサついた皺だらけの手でそっと撫でた。
葬儀が終わり、すぐさま背負い鞄に荷物を詰め込む。
もうこの家に戻ることはないだろう。
そうして自分は旅立った。
妻とよく行っていた喫茶店はもう無い。
あの喫茶店で出されるクッキーが妻は大好きだった。
せめて似た菓子があればと思い、色んな所を歩き回り気付けば髭も伸び、服もよれよれだ。
随分と長い時が過ぎ離れた街まで来ていた。
街の商店街の隅で休んでいると揃いの格好をした二人の幼女が興味津々に話しかけてきた。
「おじぃちゃん旅人?」
「何処に行くの?」
こんな状態の自分に話しかける人なんて居なかった。
いや、話しかけられる筈が無いのだ。
驚いたが幼さ故、怖い物知らずなのだろう。
こんな幼い子どもに分かる訳もないが藁にも縋る思いで彼女達に尋ねた。
「何処かで…この葉っぱを使ったクッキーを売っとる店を知らんか?もうずっと…ずっと探しとるんや」
二人は顔を見合わせるとニンマリと笑みを浮かべた。
「知ってるよ!お山の途中にあるの」
「どんなお菓子も作ってくれるんだよぉ」
「ほ、本当か?詳しく教えてくれ!」
腰を上げ、礼を言うと二人は笑顔で手を振り見送ってくれた。
言われた通りに雨の中店へ向かう。
その店は山の中にポツンと建っていた。
『これで…やっとあいつに会いに行ける』
皺だらけの手でグッとドアノブを引いた。
──チリンチリン。
「ここは注文すれば何でも作ってくれるという菓子屋であっとるか?」
「いらっしゃいませ。ええ、合っていますよ。お客様のご要望に出来る限り寄り添って、お菓子をお作りしております。」
奥から出てきた人の良さそうな青年は笑顔で答えた。
長い旅路にやっと、終わりが見えた瞬間だった。
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