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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の物を欲しがる妹〜後悔と懺悔〜

作者: 田中

※感想はネタバレが盛り沢山です。

 妹は、とても私が好きだった。


「おねぇさまっ、これ、リーアにちょーだい!」


 そういって、リーアは私のお気に入りのくまのぬいぐるみを持ち上げた。


「えっ?」


「おねがいおねがいおねがいっ!」


 駄目?駄目?と上目使いで私を見るリーアに、つい許可を出した。


「やったぁぁぁっ!」


 満面の笑みでくまのぬいぐるみを抱きしめてぴょんぴょんと跳ねるリーアは、ふわふわとした薄桃色のドレスと相まって春の妖精のようで、とても可愛い。


「どうして急にくまのぬいぐるみを欲しがったりしたの? あの時は欲しがらなかったでしょう?」


「え、えっとね……」


 リーアは、頬を薔薇色に染めてドレスを握る。


「こ、このぬいぐるみは、ずっとおねぇさまの近くにいたでしょ……? だから、私の知らないおねぇさまも知ってるんじゃないかなぁって」


 目を潤ませ恥ずかしがるリーア。


 あんなに必至に欲しいと言った理由が、私?

 そんな可愛らしい理由なら、幾らでもきいてあげるのに。

 

「本当にリーアは可愛いわねぇ」


「かわいい? わーいっ!

 おねぇさまに褒められた〜っ♪ ミオ(乳母)に自慢してくる〜っ」


 リーアは、くるくる回ったりぴょんぴょん跳ねたり、スキップしながら私の部屋から出ていく。


「本当に私の妹は可愛いわ。可愛すぎるわ。

 でも……誘拐でもされそうで怖いわね。

 誘拐されないように警備員を増やす提案をしてみましょう」


 この時間なら、お父様は執務室(しつむしつ)に居るはず。


 リーアはミオに自慢すると言っていたので、自室の待機室だろう。


 私は、真反対の方向に向かって歩き出す。

 少し早歩きで、だけど優雅に見えるよう頭の天辺から爪先まで集中する。


 早くお願いして、家の警備員を増やして貰ってリーアに護衛騎士をつけてもらうのだ。


 今年の私の誕生日プレゼントはこれで決まりね。リーアの喜ぶ姿が(まぶた)の裏に浮かぶ。


「私の妹は世界で一番可愛いわ」






 ★★★★★






 私がリーアにぬいぐるみをあげた日から5年。


 昔は何処に行くにもくまのぬいぐるみを持ち歩いていたけど、今はベッドの横に置いて一緒に寝たり、お洋服を縫ってあげたりととても大切にしている。


 大好きなおねぇ様から貰ったのだもの。


 そういって、ベッドでそれはそれは美しく微笑むリーア。

 リーアは、妖精ではなく女神様だったのね。


「もう、おねぇ様ったら。」

 

 眉を下げ苦笑するリーア。


「そんなことを言うのは、もうおねぇ様だけよ」


 泣きそうな顔と震えた声。


 誰がなんと言おうと、リーアは世界で一番可愛くて美しい子よ、と手を握る。


 リーアは、正体不明の病気にかかってしまったのだ。

 少しづつ、少しづつ。体を、(むしば)む病。

 始めは、少し疲れやすくなるだけだった。

 だけど、だんだん体力が落ちて、筋力が落ちて。

 昔のように、ぴょんぴょん跳ねたりすることはできなくなったリーア。


「どうして……こんなにいい子のリーアが、こんな……っ!」


「仕方ないわ。天命には逆らえないもの」


 弱々しい微笑み。

 もう、あの満面の笑みを見ることはできなくなった。


「ねぇ、おねぇ様。我儘(わがまま)、言ってもいい?」


「えぇ、えぇ、勿論よ……っ」


「」


「……っ! 分かっ、た。」


 喉がひりつく。自分でもわかる程、声が震える。

 だけど、これが……リーアの、願いだから。


 私の返事を聞いたリーアは、とても幸せそうに笑う。握っていた手から、力が抜けていく。


「リーア……? りー、あ…………」


「りーあ、ねぇ、やめてよ、そんないたずらするこじゃないでしょ? ねぇ! りーあっ!!」











 リーアが、死んだ。


 信じられないと毎日部屋に通った。


 だけど、リーアはいない。


 どんなときもリーアの傍にいた、私のあげたぬいぐるみ。

 そのぬいぐるみを抱きしめ、唇に血が(にじ)み、噛み千切りそうなほど強く噛みしめる。


 今日はリーアのお葬式。


 泣いたら、きっと心配されてしまう。


 唇が自らの血で色づく私に話しかける人影。


「失礼、そのぬいぐるみは……?」


「……り、あの……」


「サリア嬢のものですか……」


 リーアの物だとしたら、何だと言うのだろう。


「もしや、サリア嬢はずっとそのぬいぐるみを抱きしめていたり……?」


 何故、そんなことを聞くのだろうか。


「あぁ、私は医者でして。サリアさんの病気が、とあるものの中毒症状とにておりまして」


「え……?」


「それは何かにまぜると効果が無くなりますし、長期間摂取し続けなければいけません。

 もしかしたら……そのぬいぐるみに、入っているかもしれません」


 え……? リーアが死んだのは、私の、せいって、こと?


「そん、な……」


 私があの時、リーアにぬいぐるみをあげなければ……?


 息が、できない。リーアと、約束したのに。


『私が死んでも、おねぇ様は長生きしてね。

 だけど、神様に召されたら私のところに来てこんなことがあった、って楽しい思い出を沢山聞かせて。約束、ね?』


 ごめん、ね。約束、守れなかった。

 おねぇさまなのに、妹との約束を破るなんて、駄目だよね。

 謝ったら、許してくれるかしら。


 意識が遠のく。視界が狭まる。体に力が入らなくなって、私の記憶はそこでおしまい。






 ごめんなさい、リーア。

 私、長生きできなかった。






 ただの自己満足の小説を読んでくださり、ありがとうございました。


 補足の様なものが感想にございますので、そちらを読むと何故こんなことが起こったのか等が分かります。


 また、気になったことがありましたら質問をどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子供のぬいぐるみに毒物を仕込むとはサイテーな暗殺。許せませんな。 これがなろうテンプレのワガママ妹だったらすぐにぬいぐるみに飽きて捨て、姉妹とも死ぬことはなかったのかと思うと何とも複雑な気分…
[一言] ん?  これって誰かが姉を殺そうとしてぬいぐるみに毒を仕込んでいたけど、妹の手に渡ってしまったってことなのかな?  そして時間差で姉のほうも毒にやられた?
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