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五月の約束 - [あや] 編  作者: oohonoo
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07 探し物(2)

 「見えね…」


 それは、生卵を割って放つとサニーサイドアップでおいしく焼けてしまいそうなアスファルトの上で荒い息を吐く25歳男性のため息交じりの一言だった。


 6車線道路の上で曲がった腰を伸ばして周辺を見回した。いつのまにかガラスで囲まれた高層ビルが一目に入るくらい遠くまで移動していた。


 いくら何でもこんな所に落ちてるはずないよな‥


 手首の濃度計を確認する。時間は午後3時35分。ぬいぐるみを探し始めてからすでに1時間が経過していた。汗だくになったシュンは透けて見えるワイシャツを見てふと限界を自覚した。


 「仕方ない‥」


 人もいないしいきなり台風でも来ない限り、落ちたぬいぐるみが消えることはない。あやには悪いけど、昼食を済ませてからまた探してみることにしよう。そう気を引き締めて、熱気に呑まれる前に引き返した。


 まず道路を横切って外側の影のある歩道に入った。雑草がたくさん生えていて歩きにくいが、熱いアスファルトの上を歩くよりはましだった。


 そうやって建物の影の中から心地よく耳元を掠る草むしりの音を感じなら歩く途中、目に入ったのは人影のない都市の風景。いや、『都市だった場所』の風景だった。


 内側に雑草がたくさん生えている捨てられた車、つるが複雑に絡まっている信号灯、下水道で育った植物によって開いてしまったマンホールの蓋など‥


 それは見慣れた光景であると同時に凄惨な光景でもあった。ふと植物に侵略されているような気がするほどに。


 …まあ、あながち間違った話でもないか。


 しばらくして、シュンはガラスの建物の広い入り口に着いた。ガラスの建物にある入り口の中で一番広い道路側の入口には、駐車場に入る車両用の出入口とビルの名前が書かれている大きな造形物があり、ぱっと見で『正門』という感じがする。


 階段を上りながら、もしかしたらどこかにぬいぐるみが落ちてないか周辺を見回ったが、無駄だった。最後の階段に足を踏み入れた直後、入口前で足を止め後ろを振り返った。


 …やはり見えない。惜しいが正面を直視する。壊れた回転ドアの横、開いているガラスドアを通ってシュンは建物の中に入った。


 すると、いつの間にか汗が乾き、冷たくなった体が寒いという信号を送ってきた。寒気を感じながらあわただしく広いロビーを通ってエレベーター乗り場へ行く階段を上った。間もなく、階段越しに電源が入っているエレベーターのLEDパネルが見えた。


 ところが、なぜかそこにいるはずの二人の姿が見えない。階段を上った直後にエレベーターの内部を含めて隅々まで周辺を探したが、無駄だった。不吉な予感がした。シュンはエレベーター乗り場を出て広いロビーに向かって大声で叫んだ。


 「めい─!」


 広いロビーに響く声、帰ってこない返事にシュンは迷わず上がってきた階段を下りて再びロビーに足を踏み入れた。懐中電灯をつけていればすぐ目につくはず。夢中で両側に首を振りながら周辺を見回った後にすぐ走り出した。


 しばらくして着いたカフェのベンチにも二人の姿はなかった。シュンは休む暇もなくまた走り出した。まぶしい太陽の下にいるのでも、熱いアスファルトの上にいるのでも、草むらの茂った場所を通っているのでもなかったが、いままでにない勢いで気持ち悪い汗が流れ出てきた。


 そうやって1階のあちこちを荒らしまわっていると、いつの間にかロビーに戻っていた。体をかがめ、その場で何度か息を整えた末に腰を伸ばして大きく息を吸い込んだ。


 「めい──!! あや──!!」


 ‥その時だった。


 「シュン──!」


 急いで音がしたところを見た。そこは庭側の入り口。シュンは入ってくる日光に眉をひそめた。細い視野にかすかに人の形が映った。逆光で顔は見えなかったが、日光の中でなびく髪がかすかに銀色に輝いていた。


 「めい!」


 駆けつけてくるめいの姿を見た瞬間、安心感で心臓が熱くなった。こっちからも足を運び、かすかに顔が見え始めたところでふと口を開けたが一瞬しっとりと濡れた瞳を見て言葉が詰まった。


 「シュン、大変! あや‥、あやが‥!」


 自分の前に立ち止まった直後、気が気でない様子で話し始めるめい。シュンは動じることなく震える肩に手を乗せた。


 「落ち着けめい。あやがどうした」

 「……」


 物静かな声に、めいは不安そうな顔で胸に手を乗せてそのまま目を閉じた。それから一度大きく息を吐き出し、たちまち胸上の手をぎゅっと握りしめながら目を開けた。


 「急に倒れたの」

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