しゃぼん玉
「耀いかないでぇ」
「椿絶対かえってくるから!」
古い記憶が蘇る、懐かしい稲の匂い、瞼に焼き付いてる田んぼの風景何も変わっていない、そう帰ってきたのだこの村に。
俺の名前は中野耀(なかの、かがや)母と父が離婚して母方に引き取られたので東京に引っ越した。母が死に父の親戚の方に預けられることになった、懐かしの村に帰ってきた
「よろしくお願いします」
親戚の方に挨拶をし家を簡単に案内され、自分が住む部屋に通された、
次の日
朝、早起きをし歯磨きを済ませ朝食を頂いた俺はワクワクしながら学校に向かった教室に入る直前俺の心の高鳴りはピークに達した
ガラガラ
先生からの説明の後挨拶をするよう言われた
「中野耀と言います、この村には幼少の頃住んでおり家の事情で戻ってきました、よろしくお願いします」平凡な挨拶をしてるとふと女の子が目に入ったずっと窓の外を見ているすると、目が合った
「あっ」
と俺とその女の子が言った、
「耀、帰ってきたの!久しぶり!」
とても喜んで迎えてくれたこの女の子は西野椿(にしの、つばき)だ俺が引っ越す前によく遊んでいた幼馴染である、しかしどことなく寂しそうだった
「おう、久しぶり!」
俺も空元気に挨拶を返した、先生に席を指示され席につく懐かしの村での授業は普通だったが俺からすればとても心が踊った
昼食、椿が
「一緒に食べよっ」
とクラスに馴染めてない俺に声をかけてくれた俺は久しぶりの幼馴染との会話が楽しくて楽しくてしょうがなかった、帰り道校門を出てすぐあからさまにヤンキーです。みたいな感じの奴らに絡まれた。
「お前ちっと調子乗りすぎじゃねか」
とこれまたありきたりなセリフに笑いそうになった
俺は椿と買い物に行く約束をしていたので厄介事に巻き込まれないため
「すいません」
と一言いい過ぎ去ろうとした、これも案の定肩を掴まれたすると、
「耀こっち~」
と椿が坂をチャリで下っている、俺は察し肩の手を振りほどき椿のチャリの後ろに乗りその場を後にした、チャリの後ろはスピードのせいかがたがた揺れるチャリと風を切る感覚がとても爽快だった。それから買い物に出かけ、家に帰り、次の日はまた遊び、とそんな日々が続き夏のある日、夏休みに入って俺は村を散歩していた、ふと看板が目に入った夏祭りの看板だ
「夏祭りかぁ」
とつぶやき、すぐに、椿を誘おうと思ったその日の夕方空が茜色に染まり月がぼんやりと見え始めるような幻想的な風景の中俺は椿に
「あ、あのさ明後日の夏祭り一緒にいかね?」
と少し緊張してしまってかっこ悪い誘い方になってしまった、でも椿は満面の笑みで、いやどこか儚げで寂しげな笑顔で
「うん」
と笑ってくれた、俺は家路につき玄関をあけ家に入ると、どこか嬉しそうにしてしまったのか
「なにか、あったかい?」
と親戚のおばちゃんが聞いてきた、俺は正直に話した
「やだ、若いっていいわねぇ」
とてもありきたりな会話だが俺はどこか照れくさかった、その日の晩御飯はなんだかとても美味しく感じた
そして迎えた夏祭り当日、椿は浴衣姿できた俺は気の利いた言葉も出ず見入ってしまった、椿は恥ずかしそうにしている、
「じゃ、行こうか」
やっと出た言葉だった、まずは定番のリンゴ飴を食べた椿は美味しそうに食べている、俺は椿が楽しそうにしてくれてるのを見てとても嬉しかった、恋の味は甘酸っぱいと言うが本当にそう思った
その後も金魚すくい、射的、当てもの、輪投げ、楽しくも終わってしまうという思いが強くなってくる、早くこの思いを伝えなくては、でも言えない言ったらこの関係も終わってしまうかもしれないそんな考えで思い詰めていると
「もうすぐ花火だね」
椿が嬉しそういった、もうこんな時間か、やはり楽しい時間はすぐに過ぎてゆく、俺たちは花火が見れるような場所へと行こうとするも人が多くて進めないそんな中すぐ前の列にクラスの女子がいる、俺はとっさに顔を隠した、その隙に椿とはぐれてしまった、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、もう花火だと言うのにせっかくまた会えたのにまた伝えられないまま終わるのは嫌だ
俺は人目も気にせず椿の名を呼んだ
「椿!どこだ!椿!」
正直言って今思えば恥ずかしい、でもあの時の俺は必死だった、耳をすますと微かに
「耀」
と人混みの中から離れていく声が聞こえた、俺はその方向へ死にものぐるいで進んだ、椿だ!俺は椿を見つけたでも、花火がもう挙がってしまう、いまだ今言わないともう言えない
「つ、椿俺はお前がどこにいても探し出すし、お前の元をもう離れない、だから俺と、いや、僕と付き合ってください」
言えた、椿を見る、泣いている俺が呆然としていると
「はい…」
消えそうで嬉しそうな声で椿が言った
ヒュ~~ドン
花火がちょうど挙がった俺は椿と花火を見ながら、触れたら消えてしまいそうなほど儚いしゃぼん玉のような夏の思い出を作った