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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王の誕生日

作者: さよなら

魔王の誕生日

ドラクエのデスピサロとか魔王化しても仕方ないよなぁパターンが割と好きです


私はどこにでもある1つの村で暮らしていた


きっとこの時の私は幸せだった


自分を愛してくれる両親


いつも優しく甘やかしてくれる歳離れた兄


喧嘩が絶えないながら一緒になって遊んでくれる姉


家族5人でいつも笑いあって生活していた


朝起きて、神に祈り、遊び、働いて、ご飯を食べ、そして眠る


決して裕福ではなかった、けれど確かにそこには幸せがあったのだ


しかし、その幸せは脆くも崩れ去った


突如王都に大量発生した魔物の討伐に父と兄が駆り出された


行かないでと泣く私に、困ったように笑って「大丈夫だよ」と声をかけた2人の姿を覚えている


2ヶ月ほどして2人の戦死報告の書状が届いた


大丈夫と言ったのに、とまた泣く私に母は「お母さんとお姉ちゃんがいるから」と慰めてくれた


姉は俯いてただ黙っていた


泣きたいのは母も姉も同じだっただろう


私を不安にさせないために2人とも涙をこらえていたのだろう


そんな思いなど知らず私は、絶対にもういなくならないでと泣いて喚いた



それからしばらくは親子3人で暮らした


生活は以前より厳しくなり、月に4回ほどご飯を食べられない日ができた


遊ぶ相手も、遊ぶ時間もなくなった


1人でいる時間が増え、祈る時間が増えた


もう何も奪わないでください


何も欲しがりません、と



母と姉はごめんねごめんねと繰り返し言った


父と兄がいなくなった生活に慣れはしたが、寂しさはごまかせなかった


しかしそんな生活の中でも母と姉がずっと一緒にいてくれるだけで幸せはあった


だからご飯が食べられない日があることなどほとんど気にならなかった


目の前にある幸せをまた失わぬように、

ただそれだけを考えていた



だがそのささやかな幸せもまた奪われる


村が盗賊の襲撃に遭い、村にわずかばかり残っていた若い男達も皆死んだ


そればかりか姉も戦いに巻き込まれて死んだ


残った家族は私と母の2人


いっそここで皆死んでしまっていた方が幸せだったのかもしれない


しかし醜くも生き残ってしまった私達は生にしがみつく


盗賊は撃退できたものの、村の被害は大きい


再び襲われれば全滅は免れない


村の移動が行われた



村の移動中、森の中で魔物の襲撃に遭った


魔物は一般的な狼型の魔物であった


成人した男性、村にいた男達ならば勝てたのだろう


しかし戦闘経験のないただの村人である私たちは、ただひたすら逃げた


魔物に捕まり喰われる村人達を見ながら、私と母は手を繋いでひたすら逃げた


私達を追う魔物は2匹


私はこんなに生きたかったのかと自分のことながら驚いた


しかしその逃走も魔物相手に長くは続かない


母は一瞬握る手に力を込め、そして私から手を離す


私を見る母の顔は恐怖と絶望に満ちながら、必死に私を心配させまいとした笑顔であった


母はどこか諦めたように、私に背を向け狼と対峙する


そして一言「生きて」とだけ言い残し、

狼の群れに突っ込んだ


勝算があったのか、自分が喰われている間に逃げて欲しかったのかはわからない


わかりたいとも思わなかった


わかるのはまた家族を失うということだけ


私は母の願いを聞き入れられず、魔物に向かって走りだした


2人に増えたところで女と子供、


魔物2匹に勝てるはずもない


負けるとわかっている勝負だった


しかし私に絶望はない


むしろ愛する母、家族と一緒に死ねる

そして先に死んだ家族と会えるかもしれない


死に希望を見た私は、私に死を与えるであろう魔物に期待の眼差しを向けた


死を待つ私を待っていたのは順当な結末であった


先行した母は私の目の前で、首元を噛まれ生き絶えた


後を追うように私は魔物に向かう


魔物は私を警戒するように待ち構えている


ついに私は死ぬのだ、死ねるのだ


救いを求めて踏み出した私は大きく裏切られることになる


死を願い魔物に近づいた私は、魔物と向かい合う


「ガウゥッ!!」


不用意に近づく私に若干の警戒を滲ませながらも、魔物は私の喉元を目指す


私にも防衛本能はあったようで身体が避けようと動くが、動きの速さで大きく劣る私は腹に噛み付かれた


「あああああぁぁ!!」


あまりの痛みに叫び声をあげる


しかし絶命には至らない


一発で私を仕留められなかった魔物は、距離を置き様子を見る


「グルルルッ!」


不機嫌そうに鳴く魔物を見つめながら、血の吹き出す腹を撫でる


痛みは収まらない、むしろ増すばかりだ


手早く、なるべく痛みなく死ぬには、寝転がった方が仕留めやすいのではないか


出血のせいで働かない頭を使って考えた私は地面に寝転ぶと





頭の中に私を嘲るような声が響いた


「貴方の運命に幸多からんことを」





やけに人を苛立たせる声を聞いた私は、

1つの異変に気付く


腹の傷が治っている


魔物の牙によって穴が空いたはずの場所は、傷があったようにはとても見えない


自分の身体の異変に戸惑っていると、魔物が再び襲いかかってくる


またも狙いは首であろう


先の痛みを思い出し、どうにか避けられないかと考えるがもう遅い


私は再び魔物に噛み付かれた


「うがあああぁぁ!!」


激しい痛みが首元を襲う


即死に至らない腹部と異なり、次は首


きっとすぐに死ねるのだろうと若干の喜びを感じる


自分によって作られる血溜まりを想像しながら倒れる私は、再び異変に気付く


血溜まりを想像しながら倒れる私は何だ?


なぜ死なない?


なぜ死んでいない?


首に走った痛みは本物だ


死ぬほどに痛かった、もう二度と経験したくないと思うほどに



ここで腹の傷の例に思い至った私は、首元を確認する


確かに噛まれたのだ、血が出ているはずだ


震える手で首元に触れる


しかしそこにあったのは平時と変わらない少し汗ばんだだけの綺麗な首であった


なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?


頭の中に浮かぶ疑問符を打ち消すように目の前の魔物と向かい合う


不審げにこちらをうかがう魔物を見る


魔物も2度も致命傷を与えたのに未だ生きている私を警戒しているようだ


不用意に近づく様子はない


傷が治る身体、戦ったとして勝てない相手

そして2度私を襲った痛み


気づくと、森を出るべく魔物に背を向け走り出していた



「あああぁぁぐっ!」


激しい痛みに足を止める


痛む右足に目を向けると狼の魔物が噛み付いていた


振り払うように右足を振ると魔物は私から距離を置く


足を見るといつもと変わらない足がそこにある


魔物はしばらく向かい合っていると、どこか諦めたように去っていった


森を抜けたらしく周りに魔物の様子はない



私は自分の身に起きたことを振り返る


頭に響いた声


怪我の治る身体


そして


家族の死



もう何も考えられなかった


ただ感情の任せるままに泣いた


みっともなく声を上げ、今の自分を取り巻く状況も全て忘れてただただ泣いた











どれほど時間が経ったのかはわからない


涙はもう出ない


泣き疲れ、ひどく冷静になった頭で考える



きっとこれは罰なのだ


連れて行かれる父と兄を見送ることしかできなかった弱さへの


盗賊の襲撃に、怯えて隠れ逃げることしかできなかった弱さへの


死を願った私への





ならば私は強くなろう


傍観者でしかいられない弱さを捨てて強く


不幸を嘆くだけの弱さを捨てて強く


どれだけみっともなくとも生き残れる強さを



そしてもう何も奪われないように

身に降りかかる理不尽に立ち向かえるように



そして













私の幸せを奪ったすべてを壊せるように








1人の子供が強さを求めた


そしてこの日、世界に魔王が生まれた


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