魔王再開
その日はとても晴々とした、最高の天気だった。
開会式とでも言うのか、大人の心構えや儀式の目的というものを長々と、責任者のグズリさんが太い眉を動かしながら力説している。
その姿を、儀式の参加者である僕ら子供達は各々の事情を抱えながら見守っていた。
参加者は7人。
農家の兄弟のハンソンとシンプソン
鍛冶屋のリリーナ
御者のオリオット
金貸しマルセン
そして行商人のデュラン
最後に僕。
ハンソンとシンプソンは開会式なんて興味がないのか、ずっと二人で話している。
リリーナは、真面目に聞いて、時折相づちまで打っている。
オリオットも聞いて入るが、船をこぎながらだ、つまり寝ている。
マルセンは何かを気にしているのかソワソワと落ち着かない。
デュランは父親の方をチラチラ覗き見しながらも、真面目に聞いている姿を周囲に見せようと胸を張って1番姿勢を良くしている。
そんな中でも、僕は孤独だった。
精神年齢が離れていることもあり、なかなか仲良くなれずにここまできてしまっていた。
現実でも、異世界でもボッチとはなんとも悲しいことである。
「であるからして、正々堂々、挑むことのが大事なのです。では、ルールの説明をサツキ君からしてもらいます」
お、サツキ姉さんだ。
知った顔が周りの注目を浴びるというのは、気持ちがいい。
「成人の儀式の最終目標は、隠された宝物を探してくることです。それを持ち帰った者は文句なしの合格となります。他にも合格する方法はありますが、それはチェックポイントに行くことで開示されるようになっています。また、各自に渡された首飾りは、不正を監視する魔法アイテムであると同時に、皆さんを護る効果もあります。外せば即失格となります」
各々、自分の首にかかっている首飾りを手に取り眺める。
どんな魔法がかかっているのかはわからないが、これが鍵となるらしい。
「一人ずつ出発してもらいますが、その後は合流するのは自由です。では、各自の安全と武運を祈ります」
ハンソンとシンプソンがこちらを見てニヤニヤしている。
何か仕掛けてくると思うが、心配しても仕方ない、どうせこちらは魔法も何も使えないのだから、と少し肝が座ってきた。
順番は、ハンソン、マルセン、リリーナ、シンプソン、オリオット、僕、最後にデュランとなった。
目隠しをされ、一人一人名前を呼ばれる。
その時、横から声をかけるものがあった。
「な、なぁ、お前リーンだろ?サツキさんとこの。お、俺と組んでくれないか?」
この声は、デュランか。
「組むっていったって、どんなメリットが?」
抑揚を抑えた警戒した声で答えた。
デュランの人柄は、正直わからない。
年代が違うので、あまり関わることがなかったからだ。
僕を利用しようとしているのか、単に心細いなどの理由なのか。
「お前、魔法はからっきしなんだろ?父さんから聞いたよ。でも体術はそこそこなんだろ?なら俺は知識がある、悪いようにはしないよ」
などと話しているうちに、僕の名前が呼ばれた。
最後にデュランは言った。
「ハンソンとシンプソンには気を付けろ。あいつら、お前のこと気にくわないって言ってたから」
「ありがとう」
僕は声のする方へ進み出る。
「リーン君だな?君は今回の最年少だ、あまり無理はせず、辛くなったらリタイアするんだよ?」
「はい」
「では、そのまま3歩進んで、一呼吸してから目隠しを取るんだ、そこから儀式は開始される」
言われるままに3歩進む。
大きく深呼吸し、目隠しをとった。
「なっ・・・」
そこには、見たことのある人物が立っていた。
「ナジャ?」
「どうじゃ?久々の再開は?貴様も面白いことになってるようじゃな。じゃがこの我から姿を眩まそうなどと百年早いわ!どうじゃ?畏怖したか?」
懐かしい口癖。
これは本物だ。
「いや、そもそもどこ行ってたんだよ!一年も放置するとか、育児放棄にも程があるだろ!?」
「何を言うか!貴様がこんな結界が張られた面倒な場所に隠れるから悪いんじゃ!貴様も魔力持ちなら、この里に入るのは苦労したはずじゃぞ!」
「え?」
「え?」
「いや、苦労どころか、魔力なんて全くないし」
「魔力が、無い、じゃと?そんな馬鹿な!あの沼地の魔力はとんでもないものなんじゃぞ!?それを使って生成された身体で、どう間違えたら魔力が無くなるというんじゃ!」
「そんなこと言われてもなぁ。現に、サツキ姉さんにもカミュ姉さんにも、魔力もないし精霊も寄り付かないってお墨付きを貰ったくらいさ」
「何?姉さん、じゃと?貴様、この一年何をしていた!我が孤独に耐えながら探していたのに!」
「悪かった、悪かったよ。でも確かに当然か、勇者の作った村なら結界も張られているか」
「なっ、ゆ、勇者?勇者と言ったか?」
「そうだよ、サツキ姉さんは勇者だ。魔王を倒したうちの一人、ナジャを封印したのも、なのかな?」
「い、いや、サツキという名は我を封印した中にはいなかったはずじゃ。し、しかしなんでよりによって勇者なのじゃ?」
「うーん、成り行きではあったけど、強ければ強いほど復讐には丁度いいのかな、って」
「勇者の恐ろしさを知らないからそんなことを言えるのじゃ。あやつらに貴様の正体が知れたら、また、我は一人になるとこじゃったのだぞ!」
そういう考え方もあったか。
確かに、自分の正体を少し忘れる程に穏やかな日常を過ごしてしまった。
僕は魔王に身体を作られた泥人形なのだ。
あまりに精巧に作られすぎて、完全に忘れていた。
「ごめん、確かに軽率だった」
「待て、誰か来るぞ」
足音がする。
1つ、2つ。
2人分の足音。
「おいおい、こんなとこにまだいのかよ。期待の新人ってやつはいいね、呑気で」
「いや、案外ビビって動けなかったんじゃないか?まぁ関係ねぇーよ、俺達2人が今からリタイアさせてやるからさ」
ハンソンとシンプソンだ。
「おい、お前の隣のチビ、なんだそいつ」
「儀式には関係者しか関われないはずだぞ」
しまった、と思うがもう見つかってしまった。
ナジャの存在を知られるのは色々と不味い。
「まさか、お前の守護獣か?」
ぴき。
今、何か怒りに血管が膨張した音がしたような。
ああ、何か嫌な予感がする。
ちなみにこの予感は、すぐ当たるのであった。