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天星の勇者

ー天に満る星々よ

数多の煌めきよ

束ね、集い、混ざれー


詠唱、というのだろうか。

頭の中に直接響くような不思議な声。


ー我が名はサツキ

天星に導かれし者

今ここに

魔を払う一筋の剣を求めんー


大気が震える。

大地が鳴動する。

天の輝きが、サツキさんに集まるような錯覚を覚える。

光が溢れ、束ねられ、放たれた。


「神薙の剣!」


サツキさんを中心に、広野に一筋の光が走った。

それで、戦いは終わったのだ。

大鬼の首が、ゴロリと落ちた。

周りにいた小鬼達も同様だった。

そこにいた鬼達の首、全てが地面に転がっていた。

しばらくして、首がないことに気がついたように胴体が地面に倒れこむ。


「あれでまだ全力じゃないんだよ、サツキは」


ごくり、と生唾を飲む。

小鬼や、大鬼を見た時の衝撃はすでに消えていた。

自分の首を触ってみる。

とりあえず、あるべき場所に頭はあるようだ。


「安心してください。私の剣は、私の敵にしか向けられることはありません」


涼しげな表情でサツキさんは歩みより、頭を撫でてきた。


「私達といるというのは、こういうことです。それでも、居てくれますか?」


頭を撫でる手のひらが少し震えていた。


「か、かっこいい・・・」


自分でびっくりするくらい素の言葉が出た。


「かっこいい?本当に?怖くない?」


「かっこいいよ!凄い!これ、僕にも使えるようになるの?」


「無理だよー。天星の力は導かれた者にだけ許された力だもん。君は生粋のこの国の人間でしょ?僕と一緒で無理無理。でも、ドルイドの技なら教えられるよ!」


カミュさんはそう言うと、ニヤリと笑った。


「わ、私も剣技なら教えられます!」


「いやいやー、ドルイドの技なら剣なんていらないよ。何なら門外不出の憑依だって教えちゃうよ、お姉ちゃんは」


「おねっ・・・!カミュ!貴方、お姉ちゃんって、ずるい!呼び方は一緒に決めるはずでしょ!」


「こういうのは早い者勝ちだよ、サツキ。二人もお姉ちゃんって呼ぶのは変だしわかりにくいしねー。僕がお姉ちゃん、サツキはー、サツキさんでいいんじゃない?」


今まで怪物と対峙していたとは思えない雰囲気に拍子抜けした。

ここにいれば、味気なかった無味無臭の人生が変わるかもしれない。

そう考えると、興奮から身体に震えがきた。


「君が、魔の森にいたという少年かな?」


初老の男性と、その従者である二人の若い男性が近づいてきた。


「神父様。この度は、このような辺境の地に招いたばかりにこのようなことになりまして、本当に申し訳ありません」


サツキさんとカミュさんが頭を下げる。


「いや、私もね、見てみたかったのだよ。君たち二人が気に入った少年というのをね。ふむ、なんとも、不思議な星を持った少年だ。天星者ではないが、こんな星は初めてみたよ」


じろじろと僕の顔を眺めたり、目を覗きこんだり、手を握ったりした後に、成る程成る程、と何か納得したようだった。


「この少年の名前が降りてきたぞ」


「えっ!?もう?神父様、私の時は三日かかったよね?」


「人によって違うんだよ、カミュ。仲間に聞いた話では、一年かかっても名前が降りてこない者もいると聞く。まぁ、数分というのは私も初めてだがね」


「すいません、名前とか、降りてきたっていうのは?」


「おや、サツキから聞いていないのかい?」


神父様は困ったようにサツキさんを見た。


「今夜話そうと思っていたのですが、この通りで、ごにょごにょ」


「少年、君の御両親は、君に名前をつけていなかった、そうだね?」


「はい」


そう言えばそういう設定にしていたな、と思い出す。


「この世界ではね、名前は神様から授かるものなんだ。それまでは代わり名という名前をつける。代わり名はその子が強く育つまで、守ってくれるんだ。でもね、あえて代わり名をつけない親もいる」


神父様はカミュをちらりと見た。


「名前がない状態で育った方が、この世界の聖霊や神様と繋がりが持てる、という考え方もあるからね。だから、もしかしたら君の両親はそういう思いだったのかもしれない」


そう言われると、優しい両親な気がしてくる。

ありがとう、想像上のお父さん、お母さん。


「リーズマランスッタカンコス。それが君の名前だ」


リーズ・・・なんだって?


「まぁ!とても良い名前ですね!」


「凄い!スッタカンの名前を貰えるなんて!僕が代わって欲しいくらいだよ!」


この場にいる全員がとても嬉しそうにしている。

従者の二人も、何がそんなに嬉しいのか涙なんかを浮かべている。

そして何を思ったか唄いだした。


「その男の名はスッタカン、平和を愛し、平和をもたらす神の使者、おおスッタカン、スッタカン、スッタカンに栄光を」


「おお、スッタカンの唄ですね」


「懐かしい!僕も子供の頃、よく聴かされてたよ。かっこいいんだよなぁ、スッタカン!」


物凄く異様な空気が流れている。

場にいる全員が、スッタカンスッタカンスッタカンと連呼しているのだ。

恐れおののきながら、僕は唯一ヒートアップしていないサツキさんの服を掴んだ。


「私は、スッタカンはあまり詳しくないのです。この国の生まれではないもので。でも、安心していいですよ、リーズマランスッタカンコスはそのまま名前になる訳ではありませんから」


すでにこちらの不安は見抜かれていた。


「属性、とでも言うんでしょうか。スッタカンは強靭で、偉大な属性です。皆が喜ぶのも無理はないくらいに」


そういうものなのか。

安心すると同時に、緊張の糸が切れたのか疲れが襲ってきた。


「さぁ、今夜はもう帰りましょう。神父様と連れの方々には宿を用意しています。カミュ、またこの子を運んで貰っていいかしら?」


任せて!と胸を叩いてカミュは僕を抱えあげた。

結局、僕の名前はどうなったのだろう。

しかし疲れきった僕の脳みそは、考えることを拒否し眠りへと誘われていった。

長い夜が終わった。

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