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はじめての、人

なれていった両親不在の生活。

妹との二人暮らし。

特にイベントの無い無難な学生生活。

何をするでもない日常。

頭の中でリピートされる記憶は面白味のない現実味のある映像。

そして唐突に熊。

熊が、のそりのそりと重い足取りで近づいてくる。

頭がくらくらする、身体もバラバラになったかのように痛む。

立ち上がり逃げる気力は無かった。

熊が立ち上がり、周囲を見渡している。

他の獲物を探しているのか、獲物を他の捕食者に奪われないように警戒しているのか。

あの声の女性は、逃げられただろうか。


「カミュ!何か見つけたのね?」


駄目だったか。

声に反応して熊が後ろを振り向く。

このままでは、死にかかっている自分より先に襲われてしまうだろう。

ならば。

最後の気力を振り絞り、熊に飛びかかった。

少しでも時間が稼げればいい。

熊の腰にタックルするように伸ばした手だったが、何も掴むことはできなかった。

宙を舞っていた。

熊が僕の腕を掴み、そのまま投げ捨てたのだ。

違う、すでに熊は熊ではなかった。

女性。

その細腕に掴まれ、宙を舞っていたのだ。

再度、地面に叩きつけられた僕の意識は今度こそ闇に落ちたのだった。

夢というには鮮明に記憶を呼び出せていた。

追体験するかのように次々と流れ出る。

夢ではない夢。

それをただ眺める僕。

それはまるで、睡眠学習のような。

そんなことをボーっとしながら思っていると、空間に光が差し、包まれていく。

それが目覚めだと気がつく。

夢が終わろうとしているのだ。


「いったぁぁぁ!!」


起きて第一声がこれだ。

身体の至る所が痛い。

身体を起こそうとしてまず痛い。

痛さの原因を探ろうと首を動かして痛い。

痛いところを庇おうと腕を動かして痛い。

結果、ベットにまた身体を預けることになった。

ん、ベット?

あまり寝心地はよくないが、ベットに僕は寝ていた。

森で熊に投げ飛ばされたはずなのに。

で、小首をかしてげまた痛い。


「あっ!起きましたよ!」


扉が軋みながら開く音と、少女の声が被さった。

ドタドタと足音を乱暴にさせ、少女が顔を覗き込む。

ショートカットにした金髪が外の明かりに照らされてキラキラと輝いていた。

というか、この顔は見たことがあった。

僕を投げ飛ばした少女だ。


「まだ動かない方がいいよ。君の身体、凄くボロボロで、あれから丸一日起きなかったんだから。でも、ダメだよあんなことしちゃ」


少女は少し怒っているような、でも弟を怒るお姉さんのような、そんな優しい感じだった。


「熊は?カミュ、だったかな?女の人も、無事なんですか?」


節々は痛いが、喋ることはできた。


「カミュ?あたしだよ、あたしカミュ。女の人っていうのはサツキのことかな?無事もなにも、熊はあたしだし、カミュもあたし」


頭のなかにクエッションマークが乱立する。


「カミュ、貴方は説明が下手なのですから、少し口を閉じたらどうかしら」


扉の側から別の女性の声。

森で聞いた声だった。

カミュ、と呼んでいた女性。

よかった、無事だったのだ。


「身体は大丈夫よ、少年。カミュもかなり手加減したのだけれど、木から落ちたときの怪我が酷くて。でもそれも全てカミュが君を驚かせたからだものね。私を庇って怪我をしたのも、とても勇敢だと思う」


けれど、と女性は付け加えた。


「まだ魔王を倒して日が浅いのですよ。あの森に魔族が拠点を作っていたのを知らないわけじゃないでしょう。例えば、貴方がいた場所の近くには、魔王が産まれたと言われる沼地があります。魔界との道が通じてたとも言われていて、とても危険な場所なのです」


母親が子供を叱るような、優しさと厳しさが混ざった声色で怒られた。

しかし、少年というのはどうなのだろう、僕は童顔かもしれないが18歳だ。


「えっとね、サツキは怒ってるんじゃないんだよ?君のことをとにかく心配してたんだから。」


「カミュ、貴方は余計なことを・・・。あ、ごめんなさい、自己紹介もしてなかったわね。私はサツキ、それでこの子がカミュ。カミュはドルイドの一族で動物の霊を使役できるの。森で見た熊は、カミュ自身が熊の霊を降ろした姿」


サツキさんは先程までの雰囲気とまた変わり、優しい笑みを浮かべ説明してくれた。

よく見れば、腰まで伸びた黒髪はとても綺麗だし、厳しくも優しい表情はとても魅力的だ。


「私とカミュは森で不審な影を見たという話を聞いて調査していたの。邪悪な気を感じたという人もいたし」


あ、これはもしや僕達が悪かったのじゃなかろうか。

邪悪な気、というのには思い当たる節がある。


「まさか、そこで裸の子供がいるなんて思わなかったけど」


ん?

子供?


「でも良かった、傷は残らなかったみたいね。カミュ、鏡あるかしら?」


カミュが鏡を持ってきて、僕の顔を映し出してくれた。


「・・・これが、僕」


鏡には、まごうことなき少年、子供の顔が映っていた。

年齢は12~13程度にしか見えない。

しかし、これで全てに合点がいった。

身体の勝手が違うのも、子供扱いされるのも、全てこのせいか。

まんま、僕の身体は子供になっていたのだ。

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