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早速おいてけぼり

エーゲンカ大陸には様様な種族がおり、その種族ごとに領地を作っている。

大陸の大きさはかなりのものらしいが、正確に測量した者はいない。

というのも魔王が健在だった頃に作った魔族の領地が所々にあり、異種族同士の交流はほぼ絶たれていたらしい。

今いるのはエーゲンカ大陸のほぼ中央に位置するソキという町だ。

ここは人間が統治している数少ない町だという。

ちなみに僕とナジャは、森の奥にいる。

人に見つからないために。


「という訳じゃ。人間のお主が初めて足を踏み入れる場所としては、適当じゃろう?」


僕は応えられない。

まだ口が出来ていないからだ。


「まぁ、なんじゃ、悪いのぅ。よもや受肉する魔力が足らぬとは思いもしなかったのじゃ。しかし泥に受肉させるなど、やはり我にしか出来ぬ所業よ。畏怖したか?」


そう、泥、泥なのだ。

今の僕は、泥から身体を作っている。

転生というのだから、もっと都合のよいスムーズな展開を予想していたのだが、現実はどこも厳しいらしい。

ナジャの持ってきた大量の泥の中で、僕は生暖かな感覚に包まれながら、モゾモゾしていた。


「おお、中々立派な、うーん、あれー?」


耳は聞こえるらしく、さっきから全部聞こえている。

あれー、とはなんだろう。

何か予想と違っているのだろうか。


「もっと筋肉質なトロール風にしたかったんじゃがのぅ。お主の魂のせいかのぅ」


トロール。

僕はトロールになる予定だったらしい。

ナイス僕の魂。


「ほれ、もう口も聞けるし身体も動かせるじゃろう」


気がつけば、いつもと変わらない感覚が戻っていた。

手を動かそうと思えば動き、息を吸おうと思えば吸い、匂いを嗅ごうと思えば嗅げる。


「うむうむ、まぁ良いじゃろう。どれ、とりあえず町に行ってみてはどうじゃ?何をするにも拠点は必要じゃろう」


「とりあえずそうするか。で、君はどこにいるんだ?」


声は聞こえども姿は見えず。

ナジャを探してキョロキョロと回りを見渡すが、誰もいない。


「我も同じじゃよ。身体はここにはない。本体はなんせ封印されているのだからな。身体をどこからか探して受肉せねばならんのじゃ」


「泥は?」


と足元を指差す。

まだまだ泥は沢山あった。


「泥なんかで我の身体を作れと?魔王の身体を?」


魔王後継者の身体を泥なんかで作っておいてなんて言い様だ。


「とにかく、我は身体を作るのにしばらくかかる。それまではこの世界を見て回ってるといい。お主の居場所は逐一把握出来るからな、身体が出来たらすぐ会いに行くぞ!」


ーーーーー


というのが数時間前の出来事だ。

泥で出来た身体というのは不安だったが、今のところ支障は無い。

無いのだが、まだ町にはいけないでいた。

というのも、今町へ行っては大事になると思ったからだ。

身体を使いなれていなくたってわかる。

全裸だ。

一糸纏わぬ姿なのだ。

魔王の少女は、その辺の気は利かせてくれていなかった。

全裸で町へ行けばどうなるか、そんなの異世界だって現実だって同じことだ。

なので服が必要だ。

難なら葉っぱで作ったっていい。

そんなことを考えながら、森をさ迷っているのだった。


「なんか、身体能力が下がっている気がする」


疲れやすい、とかではない。

とにかく歩くのが遅い。

歩幅が小さい。

跳んでも木の枝に届かない。

様様な弊害が発生していた。

推測ではあるが、僕の身体は現世の時とは違うものになっている。

それがこの世界の摂理なのか、魂による何かなのかは解らないが。

少し頭が混乱してきた。

仮にそうだとしたら、やはり森でさ迷っているのは不味いだろう。

なんせ


グルルルル・・・


低いうなり声。

なんせ、森には当然、野性の動物がわんさかいるだろうから。


考えなしに動いていた自分も悪いが、悪いのはやはりナジャだろう。

何を聞いても


「この世界のことは我に任せておけ!とりあえず町へ行って宿におれ、なんとかなる!金?そんなもん、我も持っておらぬわ!えーい、なんとかなるったらなるんじゃ!畏怖しろ馬鹿!」


と最後にはへそを曲げてどこかへ行ってしまったのだから。

とにかく木にでも登るしか浮かばなかった。

登りにくいが、不思議と疲れることもなくするすると登っていけた。

狼ならこれでなんとかなるかもしれない、と下を見て絶望。

のそりと茂みから出てきたのは熊だった。

熊は確か木に登れるはず。

死んだふりと木に登るのは熊に対して悪手だと聞いたのを思い出し、冷や汗が滝のように流れる思いがした。


「カミュ、何か見つけたの?」


女の人の声だ。

助かった、と安心すると同時に、このままでは女の人も熊に襲われてしまう、という焦りが生じる。


「ーー!ーーー!」


声を張り上げたつもりが、声帯をまだ使いこなせていなかったらしく、かすれた声が漏れた。


「カミュー?」


全然気がついていない。

こうなれば、少しでも熊の気をそらして逃げる機会を作るしかない。

手元の枝を折って投げつけようとしたその時だった。


あ、落ちる


自分の手の長さを謝ったらしい。

空振りした手は宙を掴み、その勢いで体勢を崩してしまった。


「熊だ!逃げて!」


身体の力全てを使って叫んだ。

声が出た。

泥が喉に詰まっていたらしく、叫んだ後にむせて泥を吐き出した。

そして、地面へ激突。

身体がバラバラになるような痛みだった。

頭を打ったのか、意識が朦朧とする。

薄れ行く視界の中、見えたのは熊、だったはずの、人影?

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