魔王になれと君は言う
サクサク読めるファンタジーを意識しています。
ジャンルは復讐ものですが、ショタだしお姉さんだし年下ものだし、重いものは何も無いと断言します。
「驚くのも無理は無い。魔王ナジャ・ガランを前にして畏怖しない人間などいないのだからな!」
これは夢なのだろうか。
晩御飯を作り、妹に声をかけようと居間を振り向いた。
するとどうだろう、やたら露出の高いビキニアーマーとでも称するべき衣服を纏った少女が仁王立ちしているのだ。
テレビを見ているはずの妹も、夏なのに出しっぱなしのコタツもそこには無い。
「恐ろしかろう?ふはははは!それも仕方なし!我が転生魔法は異世界にすら干渉する力を持つのだからな!畏怖したか!」
この有り様である。
よく周りを見渡せば、どうも家とは違う場所にいるらしい。
がらんと広いその場所は、家具がある訳でもなく、ただ祭壇があるだけだ。
その祭壇で少女はまだ何か自慢げに語っている。
「しかし口惜しや四天魔人のやつらめ!転生した人間どもをけしかけ、我を罠にはめたのじゃ!もちろん転生者の一人や二人など我の敵ではないぞ?じゃがのー、流石に十の魔力を編み上げた極大魔法をくらってはのぅ」
少ししょんぼりした。
なんとなく妹の可愛かった時代を思い出すなぁ。
「じゃが安心せい!我は滅びはせぬ!滅びはせぬが.....。その、封印されてしまった訳じゃ。いや、封印しか出来なかったのじゃ!なんせ我は強いからな!畏怖するがよい!」
復活した。
「さぁ!名誉に思うがよい!貴様は我の目にとまったのじゃ!世間では勇者として異世界に転生させられる者がおるが、勇者なんぞ盆百じゃ!すでに何人も転生勇者なぞ打ち取っておるわ!だが貴様は違うぞ!魔王!魔王として転生するのじゃ!貴様が魔王ナジャ・ガランの継承者となるのじゃ!」
成る程。
合点がいった。
僕は魔王になれる権利を得たラッキーボーイなのだ。
目の前の少女が言うのだから間違いない。
「えー、すいませんごめんなさい嫌です」
沈黙。
少女は何を言われたかいまいちピンと来ていないらしい。
「そうじゃ!魔王らしくハーレムも作れるぞ?我の父など種族関係なく囲っておったわ!人型、妖精型、妖魔型、植物型、触手型なんでも思いのままじゃ!」
理解してる言ってるのだろうか、この子は。
「本当結構なんで。野心がない訳じゃないですけど、魔王ってなると、やっぱりちょっと」
「何故じゃ!?」
涙目になった。
少し可哀想だが、可愛い。
「だって、現に討伐されてるじゃないですか」
あ、泣いた。
「ちょ、ちが、泣いてない。泣いてない!うぅ、なんでじゃ?ようやく、ようやく、見つけたのに、なんで、そんな、酷い」
本格的に泣き出してしまった。
これには妹がいる身としては弱い。
「ごめん、泣かせるつもりじゃ。その、僕には妹がいるんだけど、僕がいないと何も出来ないっていうか、心配なんだ。魔王がやりたくない訳じゃなくてね」
「妹が、心配?なんじゃ!それなら安心せい!お前はお前の世界でも生きておるぞ!」
「はい?」
「まぁ植物人間?という感じらしいがな。希に見る奇病にしてやったおかげで、医者が喜んで入院費、治療費を請け負ったそうじゃ!もちろん家族への保証もバッチリじゃ!」
たどたどしく奇病とか保証とか言っている。
頑張って難しい言葉を言っている感じは微笑ましいのだが、え?奇病?
「お前を転生させるためには魂を抜かねばならなかったのでな。魔王たるもの、あのようなちんけな肉体ではいかんぞ?」
奇病にされた上にちんけな身体と馬鹿にされた僕はどう反応したらいいのだろう。
しかし心配していた妹は大丈夫だ。
三度の飯より、当然兄の身体よりお金が大好きな妹だ。
きっといつも以上にニコニコしながらアニメを見ていることだろう。
「えーと、つまり僕はもう帰れないんですかね?」
「はっはっは!我がそんな非道なことをするはずが無かろう!」
奇病にして魂を抜いたくせに。
「貴様が魔王として力をつけた暁には、己の魂を戻す魔法も使えるはずじゃ!どうじゃ?凄いじゃろ?畏怖したか?」
「でも、魔王なんでしょ?何か色々悪いことというか、人間に酷いことしなきゃならないんじゃ嫌だなぁ」
「そりゃ魔王じゃからな」
「うーん、じゃあやっぱりいいです。他の人を探してください」
またもやポカンとする少女。
少しずつ涙目になっていく。
「ほら、その転生魔法とかで別の人喚んでさ」
「もう、魔力が・・・・・・」
うつむく少女。
本格的に泣きそうになっている。
「貴様を、異世界から見つけて、転生魔法を使って、もう、魔力なんてないだもん」
だもん。
今まで虚勢を張っていたのか、魔王の威厳とか風格を全てかなぐり捨てて泣き出してしまった。
「お父様も、お母様もいないしっ。私だけ、封印されてっ。どうしたら、どうしたらいいんですか、お父様ぁ、お母様ぁっ」
ボロボロと涙がこぼれ落ちる。
つられて僕もボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「わかった、わかった、ごめん。魔王になる」
喘ぎながら答える。
少女の力になってあげたい、心からそう思った。
「本当か?男に二言はないな?言葉だけでも契約は成立するのだぞ?」
「うん。やるよ、やるさ。でも、一つだけ」
なんでも聞くぞ!
と少女は駆け寄ってきた。
涙でぐちょぐちょの顔は鼻水も出ている。
「とりあえず、勇者に味方して四天魔人を倒そう」
「えっ?」
これが、僕らの出会いだった。
大体30話程度で終わらせたいところですが、果たして。