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第34話


 足を踏み入れた瞬間、辺りが明かりに包まれた。


 遺跡の壁、そこに連なって並べられた松明(たいまつ)に次々と灯が点っていく。


 ぼんやりとオレンジ色に浮かび上がった遺跡内部に、俺は辺りを見回した。


「すごいな。勝手に明かりが」

「いいじゃない、歓迎してくれてるってことよ」


 男前な発言をしながら、リリィは前に進んでいく。臆せず歩き出したリリィに、俺は慌てて声をかけた。


「り、リリィ! 罠があるかもしれないし、もっと慎重に!」

「罠ぁ? そんなもん、避けれるもんでもないでしょうよ」


 リリィの返事に俺は言葉を詰まらせた。リリィの言うことももっともで、仲間にトレジャーハンターでもいれば話は別だが、今は俺とリリィの二人しかいない。


 と、そのときだ。リリィの足元で、カチャリと小さな音がした。


「リリィッ!?」


 途端、壁から斧のような刃が振ってくる。


 振り子の要領でリリィに襲いかかった刃は、けれど突き出された拳に砕け散った。


 無傷の拳を見つめて、リリィはなにごともなかったかのように振り返る。


「ね? 大丈夫でしょ」

「そ、そのようですね」


 頼もしすぎる。なんて頼りになるんだと自分の婚約者に感謝しながら、俺はそそくさとリリィの後ろを付いていくのだった。



 ◆  ◆  ◆



 罠に遭遇すること137回。


 せり出す壁、迫る大岩、飛んでくる槍、なにかよく分からない猛獣……それら全てを拳ひとつで粉砕しながら、俺たちは遺跡の奥までたどり着いていた。


 もう大分進んだはずだ。そろそろなにかが見えてきてもいいと、俺は慎重に辺りを見回す。


「あっ」


 そして、ついに俺たちは遺跡の最深部までたどり着いた。


 目の前が急に開き、大きな空間が出現する。その先には、仰々しい大きさの巨大な扉が俺たちを出迎えていた。


「いかにもって感じね。ここが最後の関門ってやつみたい」


 リリィの声に、俺もこくりと頷く。


 あの本には、試練は全部で三つだと書かれていた。


 先ほどの猛獣を思い出す。確かに、見た目は恐ろしかったが、言ってしまえばただのデカい犬だった。勿論、俺にとっては驚異だが、再生機能付きのゴーレムとは比較にならない。


 要はこの遺跡のトラップは小手調べで、試練の内には入っていないということだ。


「この扉の先に、最後の試練があるってわけか」


 ひとつ目の試練が最初の結界だとすれば、ふたつ目の試練があの巨大なゴーレム三体だろう。


 高度な魔法に、物理的な戦闘能力……魔王の力を測る試練としては、これ以上のものはない。


 だとすれば、最後の試練はいったいなんなのか。


「考えてても仕方ないわ。行くわよテッペー」


 俺の心を読んだかのように、リリィは一歩前に進んだ。


 確かに考えていても仕方がない。後はなにが来ても頑張るだけだと、俺は目の前の扉を見上げる。


「あっ……でもリリィ、扉になんか……」


 なにやら石版で出来た扉には緑色に光る場所が存在していた。いかにもな窪みは、なにかをハメなければならないようだ。


 形と大きさからして、宝石のようなものか。そういえば、リリィが以前見せてくれたネックレスの石が緑色だったと思い出す。


「……リリィ、この穴って」


 王家縁の宝石。それが鍵に違いないと、俺はリリィに振り返る。


 その瞬間、俺は拳を振りかぶっている婚約者を目撃した。


「だあああああああッ!!」


 石の扉が無惨にも破壊され、遺跡の内部にけたたましい轟音が鳴り響く。拳が当たった瞬間、なにやら緑色の波動が抵抗していた気もするが、それもリリィの右ストレートの前にかき消えた。


 そうして、なにか大事な役割を持っていたはずの扉は、ただの瓦礫と化して俺たちへと道を譲った。


「なんだ、楽勝ね! 行くわよテッペー!」


 満足そうにリリィが笑い、部屋の中へと歩を進める。


「……ま、いっか」


 なんかもう慣れてきた。こういう解き方もありだろうと、俺はリリィと二人、最後の試練へと臨むのだった。



 ◆  ◆  ◆



「すげぇ」


 扉を抜けた先には巨大な空間が広がっていた。


 天井を見上げようとしても、天辺が見えてこない。どうやらここが遺跡の中心で、あの高層の中はこの巨大空間に繋がっていたようだ。


「なんもないじゃない。魔王の証ってのはどこよ」


 リリィが眉を寄せる。確かに、軽く見回した限りでは特になにもない空間が広がっているだけだった。


 しかし、なんの魔力も持たない俺でさえ、この空間がなにか特別なものであることを肌で感じ取れる。


「リリィ、あれ!」


 ふと、部屋の中央にぼんやりと光るものを見つけた。先ほどまではなかったはずだ。


 罠かもしれない。ただ、ここまで来れば行くしかないと俺とリリィは光に向かって歩き出した。


「なにこれ? なんかぼんやりしてるわね」


 近づくとその光は意外に大きく、人型くらいの大きさだ。


 まるでぼんやりと光る霧のようで、俺とリリィは二人してその霧をのぞき込む。



『よく来ました。次代の魔王よ』



 そして、突如として聞こえてきた声に俺はびくりと身体を竦ませた。


「しゃ、しゃべった?」


 聞き間違いではない。確かに、目の前の霧が俺たちに話しかけてきた。


『怖がることはありません。わたしは王家の守護神ララパルード。……あなたたちに、最後の試練を与えます』


 その声に、俺とリリィは顔を見合わせた。どうやら、今までの試練は間違ってはいなかったようだ。


 はっきりと最後の試練と伝えられ、俺は守護神の声に耳を澄ませた。


『魔王候補は……「ニンゲン」ですか。いいでしょう、最後の試練を授けます』


 ララパルードがそう呟いた瞬間、辺りを目映いまでの閃光が覆い尽くす。


「――ッ!?」


 なにも見えなかった。思わず腕で光を遮るが、そんなものでは止められない。


 何秒だっただろう。身体が光に溶けていきそうな錯覚の中で、俺はリリィを探していた。



 そして、ついに視界が開ける。


「……え?」


 光が掻き消え、ようやく目を開けたその先には、信じられない光景が広がっていた。


「な、なによこれ?」

「どうなってんのよ!?」


 お互いに顔を見合わせる二人のリリィを前にして、俺はあんぐりと口を開ける。


 こうして、俺の最後の試練が始まった。


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