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第33話


 取り囲む三体のゴーレムを見上げ、リリィがふんと肩を鳴らす。


 確かに巨大なゴーレムだが、所詮はただのデカブツだ。敵ではないとリリィはノロマな動きのゴーレムを睨みつける。


「なによこんなもん、またぶっ壊して……ッ!?」


 一閃。


 拳を握るリリィに、ゴーレムの一体が両手をハンマーのように振り下ろした。


「リリィッ!?」


 あっと声をあげる暇もなかった。


 それまでとは打って変わって高速とも言える動きで攻撃を繰り出したゴーレムに、俺はどくんと鼓動を跳ねさせる。


 目を見開いて叫ぶ俺の前で、けれど次の瞬間には、ゴーレムの腕が砕け散っていた。


「そんなもんが私に効くわけないでしょ!」


 吹き飛ばされた腕の下で、無傷のリリィがゴーレムを睨みあげる。

 身体は無事だが、汚れてしまったドレスを見たリリィのこめかみに青筋が立つ。


「だあああああッ!!」


 渾身の右ストレート。先ほどの結界と同様に、巨大なゴーレムの半身が吹き飛ばされる。


「す、すげぇ」


 まさに無双といって差し支えないリリィの活躍に、俺は素直に手を叩いていた。


「むっ……まだですぞ」

「へ?」


 しかし、倒れたゴーレムを見たリチャードが眉を寄せる。


 地面が再び揺れ動きだし、あれよあれよという間に吹き飛ばされたはずのゴーレムの半身が再生した。


「な、なによ!? こんなのキリないじゃないっ!!」


 リリィが破壊したはずのゴーレムが立ち上がる。それどころか、先ほどよりもわずかに大きくなっているような気さえするゴーレムに、俺はあんぐりと口を開ける。


 見る限り、粉々にされても再生しそうだ。リリィも懸命に拳を振るうが、吹き飛ばした端から修復される。


「このままでは、埒があきませんな……」


 リリィとリチャードのおかげでなんとか保ってはいるが、なにせ相手は三体だ。俺を守りながらの攻防は段々と無理が生じてきていて、情けないが俺は必死に二人の背に隠れることしか出来ない。


「大丈夫リチャード!? もう歳でしょ、あんま無理しちゃダメよ!」


 俺を守るようにゴーレムの拳をいなしていたリチャードは、リリィの言葉にくすりと笑った。


「いやはや、お嬢様にそのようなお言葉をかけていただけるとは。……立派になられましたな」


 微笑んで、リチャードは上空を見上げた。視界に多い被さるような巨大なゴーレムが三体。たとえ鳥でも、逃げ出すのは難しいだろう。


「……空に逃げても無理そうですな」


 そう呟くと、リチャードは俺をリリィの方へ突き飛ばした。


「テッペー殿、お嬢様をお願いいたします」

「リチャードさん!?」


 なにをしようというのだろう。叫ぶ俺をリチャードは手で制し、にこりと笑った。


 リチャードの笑顔を見て、側で拳を振っていたリリィが目を見開く。


「テッペー! 行くわよ!」

「え? わっ!?」


 その瞬間、なにかを悟ったようにリリィが俺の手を引いて走りだした。


 巨人たちの足下を抜けるように、しかしそれはあまりにも無謀というものだ。


 俺たちが駆けだしたのを見た巨人の右腕が振り上げられる。それをリリィは撃退する素振りすら見せない。


「リリィ!?」

「リチャードを信じなさい!!」


 リリィが叫び、巨人の右腕が俺たちへ振り下ろされた。


 直撃すれば死は免れない一撃。それを――



『グルルルルウウウウウウウウッッ!!』



 巨大なドラゴンが防ぎ止めた。


 轟音が鳴り響き、ドラゴンの体当たりで巨人の身体が砕け散る。

 それでも再生しようとするゴーレムに向かって、ドラゴンは口から炎の息吹を吐き出した。

 

「うわっ!? えっ!? り、リチャードさん!?」


 そのドラゴンの眼にモノクルが付けられているのを目撃して、俺は思わず声をあげる。


 リチャードが竜の拳を振りかぶり、もう一体のゴーレムの顔を吹き飛ばした。まるで怪獣映画のように、巨大な竜が巨大なゴーレム達を相手取る。


「前に言ったでしょ! リチャード結構強いって!」

「け、結構って」


 破壊されたゴーレムの破片が飛んでくる。慌てて身をかわして、俺は戦うリチャードを見やった。


 ……分が悪い。最初の勢いこそよかったが、数のハンデと相手が再生するのが痛すぎる。巨人の腕がリチャードを捉え、竜の鱗が鮮血と共に宙を舞った。


「リチャードさん!」


 しかし、俺は叫びながら踏みしめる足に力を込めた。

 リチャードを思えば、ここで引き返すわけにはいかない。


「走るわよテッペー!」

「お、おう!」


 無駄にはしない。そう心の中で呟いて、俺は遺跡の入り口へと全力で駆けていった。



 ◆  ◆  ◆



「ここまでくれば大丈夫ね」


 息を整えながら、リリィが後ろを振り返る。

 どれだけ走っただろう。気がつけば、俺たちは遺跡の正面までたどり着いていた。


「だ、大丈夫かなリチャードさん?」

「そんなやわじゃないわよ。あれでも、現役時代は『軍神』とか言われてたのよ?」


 リリィの声に、俺はこくりと頷く。俺たちを守りながらならともかく、離脱するくらいは大丈夫だろう。幸い、ここまではゴーレムも追ってこないようだ。


「そうだな。……リチャードさんのためにも、先に進もう」


 優先すべきは試練のクリア。魔王の証を手みやげに、リチャードとは再会を喜べばいい。


「それにしても、近くで見るとやっぱでかいな」


 目の前の遺跡を見上げた。遠目でも大きいのはわかっていたが、こうして間近で見るととんでもない巨大さだ。


 まるでオフィス街のビル群のような大きさを、俺は唖然とした顔で見つめる。


 日本で巨大な建築物は慣れているが、こんな石造りの建造物でこの大きさは類を見ない。エジプトのピラミッドより大きいんじゃないかと、俺は遺跡の入り口に目をやった。


「よし、行こう」


 俺の声にリリィも頷き、俺たちは薄暗い遺跡の中へと歩みを進めるのだった。


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