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5.アリーシャ


パチパチと激しい音を立てて、村一番に立派な針葉樹が少しずつ崩壊していく。


周りの草花も、ものの数秒で姿形が無くなり、赤と橙の閃光に包まれる。


輻射熱が肌を執拗に攻め、段々皮膚の感覚が無くなってきた、そんな気がする。





アリーシャは森だった場所の奥深く、自身の四方を炎に完全に塞がれ、どうすることも出来なくなっていた。

半ば諦めかけていた。



─嗚呼、今日もお祈りの途中で邪魔が入ったからだ。

だからきっと神様が、遂に業を煮やして天罰をお与えになったに違いない。


右手に持った弓が、何かを訴えかけるように一際煌びやかに光沢を放っている。


そう、私が悪いんだ。




「アリーシャ! こっちだ!!」




自分を呼ぶ声がしたかと思うと、その方角の炎が吹き飛んだ。


父が得意とする、疾風魔法だ。


エルフ族は魔法詠唱を得意としており、一人を除いて、村人が全員、何らかの風魔法を使うことが出来る。


アリーシャの父スコットも例外ではなく、強力な魔法を扱える、村でもトップクラスの魔法戦士だ。



矢が刺さり痛む左足を引き摺りながら、アリーシャはスコットの元へ急ぐ。


─父が助けに来てくれた、それだけで胸がいっぱいになり、涙が零れそうになった。


だが、こんな所で泣いている場合ではない。




一刻も早く、村から離れないと。








──「我が神よ、今日も一日平和をお与え下さい」


いつものようにお祈りをした後に、私は弓の練習をするために身支度を済ませる。



コレットの葉の繊維を編んで作られた緑のワンピースに袖を通し、牛皮のベルトで腰周りを絞る。


シンプルだが、これはフェルミナ村のエルフの民族衣装であり、女性はみんな同じ服装だ。


男性は狩りに行くことが多いため、もう少し厚着をしているのだが、基本はみんな似通っている。



アリーシャは部屋の壁に掛けられた大振りな弓を取り、状態をチェックする。


藤頭、握り、弦輪、問題ない。

あー、でも少しだけ弦輪が伸びている気がする。


いそいそと微調整を行い、両手に構えると、初めて満足の行く表情をしたアリーシャがそこにいた。


弓の練習を欠かさない彼女にとっては、これも当たり前の日課なのだ。



エルフは魔法以外に弓の扱いに長ける種族である。


昔から狩りをするには弓と定番が決まっていたし、エルフは視力が物凄く良いので、武器の中でも弓との相性が抜群に良い。



そのため、フェルミナ村には弓職人が何人もおり、材料さえあればすぐに拵えてくれる。


弓を作る際に普通の木材を材料にすると、しなりが弱くすぐ折れてしまうために、エルフの弓は通常『イチイ』の樹を用いて作成する。


イチイの樹の外周部の白木と内周部の赤木を、ちょうど弓の表裏になるように短冊状に切り出す。

あとは通常の手順通りに作成すれば、頑丈で強い弓が出来上がる。



村の弓を扱える人は、皆このイチイの弓を使っている。


だが、アリーシャの弓は少し特殊だ。


普通の弓に比べて物凄く軽く、そして大型である。

装飾も細かく、黒地の柄の部分には部分的に唐草模様の金の塗装が施されている。


材料が何で出来ているのか、全く検討がつかない。

少なくとも木材ではなさそうだけど。


弓を指で軽く弾くと、カンッと軽い音がする。


金属とも木材とも取れない不思議な素材に村の人は気味悪がったが、アリーシャはこの奇妙な弓にひときわ愛着を抱いていた。


そう、アリーシャは──





──魔法が使えないのだ。

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