エピローグ
1
翠の葬儀は、晴れ渡った青空の元で行われた。沙輝は彼女の柩にユリの花を添える。綺麗に化粧をされた顔は、眠っているように無垢で綺麗だった。
彼女の顔を見た途端、涸れたと思っていた涙が再び溢れでた。彼が最後に彼女に何を告げたかは、誰も知らない。
まだまだ涙は止まらず、ふとした瞬間に、沙輝は思い知らされる。
もう翠がいないこと。二度と会えはしないことを。
兄と妹。自分と彼女のそのつながりは、永遠に消えない。
けれど、彼女と出会い過ごした時間も、なくなりはしない。
―――翠。
晴れた天空へ上って行く煙りこそが、彼女の魂。
耳元に蘇るのは、笑い声ばかりで。
楽しかった。結末がどうであろうと、彼女との出会いは必然だったから
2
凍てついた吹雪が止み、分厚い雲の合間から、陽光がさしこむ。
翠が日差しを受けて、庭園に眠っている。柔らかな髪が、フワリと風になびく。
もう、案じることは何もない。この楽園で、ただ彼の幸せを願うことのほかは。
決して、幸せな結末ではなかったけれど。
まだ、哀しみは残っているけれど。
これからは、幸せな夢を見れる気がする。彼が幸せになれる、そんな夢を。
もう二度と、凍てついた心で幻を追わなくてもいいように。
―――大好きな、あの人へ。
あなたが誰よりも、幸せになれますように。
いつか、この庭園に吉報が届くように。その涙が涸れて、哀しみを乗り越えて。
―――あなたが、幸せになりますように。
幸せに、誰よりも、それだけを。
夢に眠る END