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Dの庭園 〜The Garden of dreams and death〜  作者: 長月京子
第三話:MEMORY

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0:THE PAST(過去)

 ここで君と出会えたのは 神の引き合わせなのか


   1


 ホテルの会場へ足を踏み入れ、結城透(ユウキ トオル)は親友の姿を探す。

 パーティーは終盤にさしかかった様子で、招待客は各々に輪を作っていた。

 今日のパーティーの中心であり、透の親友にあたる吹藤和彦(フトウ カズヒコ)が、ひときわ華やかな場から、スッと移動する。

「透。こっちだ。わざわざ来てもらってすまない」

 二十才を目前にした、新しい当主が透へ歩み寄り、苦笑を向けた。

「おめでとう。ついに吹藤を背負って立つわけだ」

「気が重い」

 サラリと真実を述べ、和彦が透を連れて会場を辞した。

 一階のロビー近くにある茶店へ入り、二人が改めて向かい合う。

「和彦が当主の座につくということは、(アズサ)さんの懐妊を意味するな」

「――ああ」

 しばらく重い沈黙が続いた。ウェイターがコーヒーを運んで来る。カップから立ちのぼる湯気を眺めながら、和彦が言った。

「俺はおまえを巻き込むことを迷ってる。あらゆる意味で大変なことだ」

「僕は承知したはずだよ。全てを知った上で」

 穏やかな眼差しに支えられながら、和彦が小さくうなずいた。

「俺は、俺の代で本家の慣習を打ち破ってみせる」

「和彦なら大丈夫だ。影ながら協力するよ」

「でも、おまえもまだ学生で。……頼子(ヨリコ)さんは何て?」

「僕も頼子も君の味方だよ。和彦は、君と梓さんの子供に吹藤を名乗らせたくないんだろう?問題は君の祖父である総帥だ。和彦がその内情を整理できるのであれば、僕は君の子供を結城として迎えるさ」

「――ありがとう。感謝する」

 わずかに声を詰まらせた若き当主に、透は優しく笑いかけた。

「僕と頼子が一緒になれたのは、和彦のおかげだ。その借りが返せて嬉しく思ってる」

「すまない」

「だから、負い目に感じるな。もうこの件についてはやめよう。子供の出産予定日や名前は決まっていないのか?性別は?」

「予定日は今年の十一月十一日。男の子で、名は、(アキラ)

「あきら?」

「ああ。日を三つ重ねて(アキラ)だ。祖父が名付けた。一族とグループの未来を照らす人間になるようにと」

 コーヒーに口をつけて、透が吐息をつく。

「一族とグループのためか。じゃあ、僕はアキと呼ぶよ。彼自身の未来が、明るく照らされるように。結城晶(ユウキ アキ)と戸籍に入れる」

 親友の言葉に、和彦が目頭を押さえた。熱い涙が頬を伝って落ちて行く。

 息子は彼に託して大丈夫だと、確信を持ちながら。

「透。……感謝してもしきれない。おまえがいてくれて良かった」

「僕も、君がいてくれて良かった。ちょうどおあいこだ」

 穏やかに、幸せな談合が幕を閉じる。深い友情が断ち切られる未来も、子供の閉ざされた行く末も、まだ二人は知らない。



   2



 暦が十一月に入った、第十一日目。予定日に違わず、子供が誕生した。吹藤を統括する男は、自分の憩う邸宅でその知らせを耳にする。同時に、その子供の戸籍の在り方についても。

「総帥。和彦の勝手なふるまいを許されるおつもりか」

 先日、会長の座に就任した男が、髪に白いものが交じりはじめた父に向かって糾弾する。

 浅く笑ってかわし、総帥は侮蔑した瞳で息子を見る。

「出生や戸籍を変えたところで、子に流れる血が消えるわけではあるまい」

「――しかし、やがて当主の座につく時、非難を受け、いらぬ敵を作ることになる。一族内で派閥ができ、問題を引き起こすことにでもなれば」

「心配は無用だ。何者にも非難を受けない人間を作れば良い。それに、都合の良いことではないか」

「何故に?」

「吹藤を名乗らぬということは、一族内でのいかなる婚姻も許される。手間がはぶけただけのこと」

 濃い血統を作り出す駒。どれほど近しい者と交わっても支障を来さない出生。

久方(ヒサカタ)(アズサ)は、和彦との離別を望んでいると聞く」

「確かに」

「梓はボーフォードへ嫁がせる。そこで晶の妹でも身ごもれば、何も言うことはない」

 吹藤和彦、久方梓。総帥にとっては孫にあたる二人の婚姻によって生まれた子供。

 それ以上の濃い血統を望むためには、兄妹の契りしか残されていない。

「しかし、総帥。なにもそこまで」

 自分の子孫を道具としか考えない父に、さすがに息子も戦慄を覚える。冷酷に笑い、彼は一言もらした。

「……私は私のやり方で、一族を大きくする。そのために、我々の血に潜むものがあるのだから」

 変革。いつか遠い未来に。現在の価値観を破る新たなものが生み出されたとき、先陣を行くのが、一族のものであるように。

 今、子供達に強いた苦境が、いつか繁栄を導くように。

 一族の血に宿る力。

「私は自然に馴染まぬ夢のために、異端者の刻印を自身に架すことをしたくない」

 まだ総帥が子供であったとき。一族の中で、力は畏怖されていた。消えてなくなることだけが望み。あまりにも受け身な結論。

 他人の叫びを夢の中で聞いてしまう。科学的には、不自然な脳波。

 それは、知られてはならない、異質なものでしかなく。

 どこかでおびえていた。他と違うということが露見することを。

 苛まれていた。他人のプライバシーを犯す力に。

「分かるかね、会長」

「いいえ」

「つまり、他の者と違うということを、異とする考え方を一族内から排除したい。他人の叫びが夢へ共鳴する。それは罪でも何でもない。私達が選択したことではないのだよ。我々に受け継がれる血は、そんなマイナスのものであってはならない。我々の未来を照らすものでなければね。そのために、研究をすすめ、応用の途を探すのだ。例え、どんな手段をもってしても」

「――はい」

 恐ろしく思いながら、会長の座にある男は敬礼する。

「晶は英国の施設へ入れる。そこで、何者にも劣らぬ人間へと教育すればよい。吹藤を名乗らずとも、彼は一族の人間なのだからね」

「はい」

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