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ネカマ・オンライン  作者: 中神 遥香
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今までの日常

 

「クソ、また理不尽な怒り方しやがって……。送ったメール読んでなかったのはお前の方だろ……」


 口からはため息混じりの上司への愚痴がこぼれる。

 このところ、独り言が極端に増えた気がする。

 早朝に会社に行って、上司に理不尽に怒鳴られ、深夜に帰宅する。そんなクソみたいな日々をあと何十年も続けなければならないと思うとゾッとする。

 きっと、常人ならば精神がもっと病んでいただろう。

 だが、俺にはこの溜まったストレスの解消方法があった。


 それがこの「アイリス・オンライン」というネトゲだ。

 唯一俺が、5年以上も続けているネトゲで、運営は女性向けのネトゲと謳っている。

 しかし、男性受けするキャラや飽きないゲーム性などが高く評価され、今ではユーザー数が300万人を超えるというノリに乗ってるネトゲである。

 そして、何より俺がこのネトゲを続けている理由は。


 《雪兎@テスト明け さんが ログイン しました。》


『ばんわー!』


『ばんわー!って、もうほぼ朝ですよw』


『ばんわーです!雪氏、こんな時間にログインして大丈夫なん?(´・ω・`)』


『大丈夫。明日休みだし、友達いないから予定もないZE!!✩』


『悲しいこと言うなwww』


『クソワロwww』


『華のjkでしょwwww大丈夫?wwww』


『ほっといてwwww』



 ...とまぁ、こんな感じで、俺はギルドから好かれている。しかも恐らく全員が、俺のことを友達がいないネトゲ廃人のjkだと思って接している。

 これが、俺のストレス発散方法だ。

 現実世界でこんな優しく接してくれるのは、近くのコンビニ店員くらいだ。それ以外の場所では、きっと俺は必要とされていない。目立った特技もなければ、自慢できる長所もない。見た目もナヨナヨしてる、誰が見え手も根暗な25歳を必要としている世界があるのならば、是非移住を検討したい。


 こうしたリアルでは得られない、優越感を味わえるのが、このネトゲをプレイする大きな理由だ。


『それより、今日はどうするん? 雪ちゃん狩りたい奴でもいたっけ?』


『眠れないんで、みなさんとチャットしにきましたー』


『なるほど。でも、この時間結構エグイ話するよ?? 果たしてjkが耐えられるかな????』


『なんですかエグイ話ってwww』


『エグイというか、エロいでしょwww』


『言うなしwwww』


『雪ちゃんは何色のパンツが好きかな??』


 このようにセクハラまがいの事を聞いてくる輩もいる。こんな奴は、大体俺を女だと信じ込んでいる。


『私は黒かなー。いつも履いてるの黒だし』


『フォーーーー↑↑↑↑』


『雪氏のパンツ事情キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』


『以外にセクシーな雪氏で草』


『見せて見せて』


『マグナム♂野郎さん、死んでください(はぁと)』


 こんな会話、普通にキモイ。しかし、こいつらがこんなのに喜んでると思うと、優越感で笑みが零れてしまう。きっと、俺もコイツらと同じでキモイ奴なんだろうと思いつつ、俺はオタク受けする可愛い女子高校生のキャラを演じるのだった。





『そういえば、明日のアプデってなんか聞いてるー?』


 と、誰かが不意に言った。

 明日、水曜日は大型アップデートの予告が運営からされていた。しかし、アップデートの詳細や終了時刻などが明記されておらず、分かっているのは開始時刻だけであった。


『多分、前々から噂になってた、《薔薇と睡蓮のメイキュウ》の追加ジャネ?』


『俺は新しいジョブの追加って聞いたぞい』


『は? 水着イベの復刻じゃないの??』


『まだ2月だぞwwwww』


『凍え死ぬわwww』


『でも雪氏の水着また見たいなぁ』


『それな』


『ええー? スク水しか着たことない私にとっては、露出度高いから恥ずかしいです////』


『スク水の方がエッチな件について』


『それな』


 こうして、誰かが言った大型アップデートの話は、俺に何の水着を着させるかという気持ち悪い話題へと変わっていった。俺じゃなくて、キャラが着るんだから恥ずかしい訳ないだろと思いつつ、俺は純新無垢な女の子を演じ続けた。


『雪氏。手伝って欲しいクエあるんだけど、頼んでいい?』


『構わないですよー』


『俺達も連れていけwwwww』


『lv98の雪氏だけで十分なんですけどwwwww』


『2人でデートなどさせん』


『ガルバロス狩りデートとか、ロマンチックじゃないんで嫌です』


『フラれてやんのwwwwww』


『デートじゃないからwwww』


 そうして、俺と他のギルメンはフィールドへと赴いていった。

 大型アップデートへの疑問なんて、綺麗さっぱり忘れて。

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