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股間転生  作者: 天ぷら屋
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5.色欲のままに

 ふわっと目が覚めた。

窓を抜けた太陽光線に視界を阻まれながら、耳朶に小鳥の声が触れる。

薄い毛布と体が擦れてこそばゆい。

私は服を着ていなかった。

ベッドをキシキシと鳴らしながら体を翻すと、目を閉じたリキューが居る。

穏やかで静謐な面持ちが見えた。


 歩一歩と意識が覚醒して、昨晩のことが思い出された。

長らく眠っていた男の本能が解き放たれ、昔のように

幸福に異性と体を交えたことを。

実際には同性と言うべきかもしれないが、私の中身は男そのものだ。

昔から性欲は人一倍強かったが、

この年にもなれば下火になるものだと思っていた。

しかし、それは今に至るまで衰えていないことを昨日証明された。


 もちろん昔の妻への罪悪感がないわけではない。

人生の伴侶を裏切る引け目は感じていた。

リキューが私に跨った時のあの顔、熱、息衝き、

どれもが懐かしかった。まるで若返るような夜だった。

しかし、彼女の華奢な体躯に妻の影がちらほらと差していた。

快楽に浸かりながらも、私の目先に現が時遇ちらつくのだ。

出始めはそれに怯んでいたが、途中から思考を止した。

私は、影を畏れた故人の遺訓に倣うことにした。

もう悔悟することもしない。これは私の新しい人生だ。

中年の男は襤褸い肉体を失い、代わりにこの可憐しいボディを授かった。

前の身体など、冷たい土に埋もれていればよい。

元々、あの女のせいで私は報われなかったんだ。

あの苦労を考えれば、慈悲の手を差し伸べられてもおかしくはない。

ここまでの事の次第は全て、天命だったんだ。

宇宙のロジックか、あるいは神様か。

何者か、絶大な力で世界を回す某氏が、私の煩労を見兼ねてここへ連れてきたのだろう。

私の陰茎を切り裂いた彼奴も、某氏の使いに違いない。


 耳元でガサガサと音がした。

リキューが目覚めたようだ。

きっと彼女は頬を赤らめるだろう。

私の初体験の翌日、妻がそうだったし、私も同じだった。

さて、どんな反応をするだろうか。

彼女はむくりと起き上がった。

次に辺りを見回して、私の存在に気がついた。

一瞬、驚いたように目を見開いて、すぐに顔を赤くして目を逸らし、言った。

「おはよう…。」

なるほど、傍から見ていると可愛らしいものだ。

この反応を客観できる日が来るとは、思いもよらなかった。

私は口元が緩みそうなのをこらえて言った。

「おはよう。」

彼女は口をキュッと閉じた。

まるで、喉に物が詰まったかのようだった。

目を見れば、上の空。視線が宙を彷徨っている。

しばらく見ていると流石に哀れなものだったので、

助けることにした。

「ご飯、食べよっか。」

彼女はすぐさま反応して、無言で頷いた。


 私は、台所のパンらしきものや、肉製品を机に並べた。

リキューは、落ち着かないまま椅子に座っている。

夫妻はまだ帰っていないようだ。

昨日出勤して、次の日にも帰ってこられないとは。

ここには恐ろしい一面もあるようだ。

まあ、私には関係のないことだが。

さて、飲み物を用意しよう。

たしか、コーヒー豆があったはずだ。

ドリッパーらしきものも置いてある。

そろそろリキューにも動いてもらいたい。

「飲み物、入れてほしいな。」

若干、声を高くして言った。

「う、うん。」

リキューは重い足でドリッパーの元へ向かった。

私はというと、椅子に腰かけ、その手取り足取りをにやにやと見ていた。

私の体よりも年上であろう彼女、やはり経験は無かったようだ。

しかし、ここまで初々しい反応をされるとこちらも何だか恥ずかしい。


 二つのコップになみなみのコーヒーが注がれた。彼女は傍の角砂糖を

二つ入れた。私は砂糖は少ないほうが好きだが、まあ良しとしよう。

次に、彼女は何かの乳を別の容器に入れた。

ミルクはいつも入れずに飲むが、これもまあ良しとするか。

すると、彼女はミルクを勢いよく混ぜ始めた。

これはまた珍しい。

ミルクを泡立てて入れるなんて、そうそう見ない。

まるで息子のよう…だ?

ちょっとまって。

よく見てみれば、まるで飲み方を知っているような手つきじゃないか。

ドリッパーの使い方を知っているようだし、飲み物に砂糖を二つ入れ、

ミルクを泡立てて入れることなど考える人は少ないだろう。

サーっと血の気が引いた。

そもそも姿形が息子ではないが、それはおかしいことではない。

実際、私も女性になってしまっているのだ。

息子もあの時、死んでいた。

ここが死後の世界ならば、息子もここにいるのかもしれない。

もはや、全身から血が抜けたような感覚だ。

思考に浸り、外への意識が無く、言葉が漏れてしまった。

「タケシィ…。」

ガチャン、と硬い音が響いた。

床には茶色っぽいミルクのような液体が広がった。

聞かれてしまったか。

そしてこの反応は図星で間違いないだろう。

息子は学校で「たけちゃん」と呼ばれていたらしい。

「武志」と呼ぶのは私ぐらいだった。

きっとすぐに私が父だと勘づいたはずだ。

「父さんなの。」

震えた声で聞かれた。

首を縦に振りたくはない。

しかし、もう悪あがきもできない。

「ああ、そうだ。鬼河原武志の父、鬼河原権蔵だ。」

「ああっ…。」

息子は絶望の嘆息を漏らした。

それもそうだ。

私は昨日、息子とセックスしたのだ。

ああ、吐きそうだ。

ロマンチックな言葉を吐きながら、父と息子が

フレンチキス、そしてお互いの我が物ならぬ陰部を

擦り合わせたりしたのだ。

罪悪感や虚無感を超えた、すさまじい悪寒が私を襲った。

武志も、先ほどまでの恥じらいは消え去ったようだが、

苦虫を噛み潰したような表情をしている。

当然だ。


「これからどうしようか。」

息子が平然を装ったように切り出した。

「ぅむ。」

どうしようとは…。

とりあえず、状況が分からない。

まず、この場所について。

そして、この体について。

今まで都合よく解釈していたが、

そうはいかなくなってしまった。

どこへ行けばいいか。

資料だとか、情報を扱う場所だ。

例えば…書店、図書館だ。

「本屋か図書館を…探そう。分からないことだらけだから…。」

「ああ、なるほど…。」

相変わらず気まずい空気が漂っている。

とりあえず早く探そう。

せめてこの密室から脱出しなければ。

「もう行こうか。」

私たち父子は、家を後にした。

聞きたいことは山ほどあったが、それは後だ。


 少しばかり歩いていると、一人のマダムに会った。

あの人に聞いてみよう。

「すいません。本屋さんか図書館ってこの辺りにありませんか。」

「えーと、図書館ならそこを右に曲がるとすぐだったわね。

それにしても、本に興味があるなんて小さいのに真面目な子だねぇ。」

えへへ、おっさんだもん。

とは言えず、お礼を言って私たちは再び歩を進めた。

ところで、またひとつ重要なことに気がついた。

こちらに来てからも、私たちは日本語で滞りなく

コミュニケーションしていたことだ。

こちらで会った人間の中には、自警団団長のような

欧米人の顔の人間もいた。それらの人々も含めて、

全ての人間に日本語が通じていた。

また一つ、疑問を増やして私たちは図書館を目指すことになった。


 ほどなくして、ひときわ大きな建物が見えてきた。

近づくにつれ、「図書館」の文字が見えてきた。

図書館は煉瓦製のようで、大きな倉庫のような風貌だった。

扉は無く、外からでも多くの本が見える。

「何か分かればいいね。」

武志が言った。

私は正直、これ以上何も知りたくない。

しかし、この状況で置いていかれるのは嫌だ。

解決するためには、知らなければならない。

「入るぞ。」

お互いに顔を見合わせて、図書館へと足を踏み入れた。


 中はまさに倉庫だった。物流センターを思わせるような

風貌だ。数々の本は大きな棚に乱雑に積まれている。

扉がないせいか風通しは良く、埃っぽさは無いが本の保存状態は

悪そうだ。


 私たちは、司書らしき女に歴史に関する文献の場所を尋ねた。

案内された棚には、歴史に関する文献の数々が紛然と並んでいた。

私はその中から、最も分厚いと思われる一冊を手に取った。

「歴史典籍」

そう書かれている。

まず、この世界の出で立ちを知るべきだろう。

状況を打開する鍵になってくれ。

そう願って、私は分厚い表紙を開いた。






皆さんすみません。

この作品は作者の一身上の都合で

続けられなくなりました。

申し訳ございません。

本当はこの後の展開も決まっていたのですが

(正確にはこの後

・平安時代編

・ロード・オブ・ザ・チンポ編

・第3次世界大戦編

と続いておりました。)

文を書くのが面倒という理由で

締めさせていただきます。

誠に申し訳ございません。


完結

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