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コミュ障令嬢と悪役王子

掲載日:2017/03/08

 それはある日の、談話室での出来事だった。

 いつものように殿下の食事の様子を眺めながらちびちびとお茶をすすっていると、現れたのだ、彼女が。


「イリスさん!クラルス様を誘惑するのはやめてください!」


 私は固まった。

 この女、衆目の中で言ってくれやがりました。

 ざわつく周りには目もくれず、彼女はびしっと言い放つ。


「クラルス様は純粋なお方です。貴女の毒牙にかかって操り人形にされるなんて、なんて可哀想な!」


 毒牙って...。操り人形って...。


 あまりの暴言に固まり続けていると、殿下が空気を読まずに「あまっ!」と叫んだ。

 見ると、勝手に私のお茶を飲んでいるではないか。何してんですか。


「イリス、これすごく甘いぞ!お前よくこんなの飲めるなー」


 言う割に貴方もごくごく飲んでいますね?

 って、ああ、あっという間になくなってしまった、私のお茶...。


「ク、クラルス様!毒でも入ってたらどうするんですか!」


 喧嘩を売っているんですね、分かります。


 彼女の発言に殿下はきょとんとし、首を傾げた。


「何で毒が入るのだ?」

「イリスさんが入れているかもしれないからです!」

「何を言ってるのだお前、イリスが俺に毒を盛ってどうするのだ」

「じ、実際私もイリスさんに毒を入れられたことがあるんです!」


 嘘を吐くんじゃありません。

 やるとしても私だとバレないようにやります。


 殿下と彼女の問答を見守っていると、「ルナ!」と彼女の名を呼ぶ声がした。

 彼女はぱあっと顔を明るくして振り返った。


「レックス!」


 一国の王子を呼び捨てにするんじゃありません。


 殿下の異母兄であり、同い年であり、王位継承順位は殿下に続く第二位のレックス殿下が、珍しく焦ったようにこちらへやって来た。


「レックス、聞いて!イリスさんが」

「それは後で聞かせてもらう。イリス」

「...はい?」

「分かってくれ」

「...はい」

「ありがとう」


 レックス殿下は彼女を半ば強引に連れて去っていった。


 はて、分かってくれとは一体何を分かれというのか、全く分からなかった。

 でもあそこで聞き返す勇気は私にはなかった。

 何故か?

 コミュ障だから。


「イリス」

「何ですか」

「お前は何を分かったのだ?」


 私と同じ疑問を不思議そうな顔でいとも容易く人に聞ける殿下。

 ...いやでも、あそこで私が聞き返したらレックス殿下の格好がつかないし、うん、私は空気を読んだ。筈。

 でもここで殿下の質問に答えられないのは恥ずかしい。

 ここは難しいことを言って誤魔化そう。


「分からないのを分かったから分かったんですよ」

「おお...うん?うーん...んん?お前は何を言ってるのだ?」


 私にも分からないんだからそれ以上掘り下げないでおくれ。


「うーむ、分からん。兄上もイリスも言っていることが難しいぞ」

「そうですね」


 私はともかく、レックス殿下は。


 殿下は考えるのに飽きたのか、食事を再開した。




 私には前世の知識がある。

 記憶ではない、知識...というか私の前世の人の歴史だ。

 記憶は「昨日お餅をもらった。嬉しかった」というものだけど、私にあるのは「昨日お餅をもらった」という事象だけで、伴う感情は覚えていない。推測は出来るけれど。


 その知識によると、ここは前世であった小説の中の世界らしい。

 その小説は「転生少女は聖女になる」というタイトルで上下巻が出ており、そこそこ人気があった。


 内容は簡単に言うと、異世界に転生した男爵家の少女、ルナが、貴族の学園に通いながら、前世の知識を活用して世界の危機を救うというもの。


 ルナと結ばれて王になるのが、レックス殿下。ヒーローにふさわしい、爽やかでキラキラしたイケメン。

 一方クラルス殿下はルナをひたすら苛めぬく悪役。その顔は美しいのだけれども、暖かい笑みより嘲笑の方が似合うという妖艶な悪役顔。


 そして私は、上巻ではルナを手助けする初めての友達、親友として登場する。

 その外見は庇護欲を掻き立てられるというか、小動物的な可愛さがある、らしい。対してルナは可愛い系ではなく、綺麗系だ。

 ルナは、彼女、イリスの助言と働きによってレックス殿下と仲を深めていく。

 彼女がルナに裏で献身的に尽くす一生懸命な様子は、読者をも虜にして、大勢のファンをつくった。イリスたんマジ天使、とさえ言われていた。


 だが、それはあくまで仮初めの平和だった。


 下巻で、クラルス殿下がルナを殺そうとするのだ。それを庇ってレックス殿下は怪我を負ってしまう。

 クラルス殿下は自分が兄を傷付けたことに呆然とする。

 それを見たレックス殿下は弟に問いかける。何故ルナをそこまで嫌うのかと。


 クラルス殿下が語ったのは、衝撃の真実だった。


 彼は、彼女に、イリスに操られていたのだ。

 今まで見せてきた悪役の顔は、全て偽物。イリスの言うことに従っていただけだと言う。

 イリスはいとこであり、幼い頃から一緒に育ってきた。イリスはクラルス殿下の全てだったのだ。


 親友の裏切りに、ルナは思わずクラルス殿下を疑う。

 しかしそこにイリスが現れ、男爵家という身分でありながらレックス殿下に近付いたルナをなじり、今までルナの友達のふりをしていたのは警戒されない為と行動しやすくする為であると告げ、ルナと、ついでにファンの心をずたぼろにした。


 その後何やかんやあって、イリスは魔王になる。この辺から展開が色々とおかしくなる。

 ルナとレックス殿下、クラルス殿下は学園を放ってイリス討伐の旅に出る。

 最終的にクラルス殿下はルナをイリスの攻撃から庇って死に、イリスはルナの聖なる力で倒される。

 そして世界は救われルナとレックスは幸せに暮らしました。終わり。


 聖なる力って何だよぽっと出じゃねえか、おいクラルス軽く死にやがったぞ、レックスお前弟死んだのに反応薄いな、など、様々な意見が飛び交う中、やはり一番多かったのは上巻のテンションのまま進んでほしかったということ。

 魔王とか旅立ちとか出さずに、学園の日常を見たかったという意見が多数だったそうだ。


 私の前世の人も、その意見に賛成していたらしい。


 私が前世の知識を得たのは、幼い頃。侍女に首を絞められ殺されかけた次の日あたりから、少しずつ頭に浮かんできた。

 今思うとあの侍女は転生者で、将来悪女になる私を消そうとしていたのだろう。

 しかしそのおかげで私は他人が信用出来なくなり、我儘放題から一転、前世でいうコミュ障になってしまった。

 例外は家族と、クラルス殿下だけだ。

 家族は私を愛してくれているから、殿下はば...純粋だから。


 小説とは異なり、殿下と私は一緒に育ってはいないが、よく遊んでいた。 

 二人で同じように大きくなって、学園に入学した。

 学園には主人公がいて、レックス殿下にべたべたし、ついでにクラルス殿下にも色目を使い、私を敵視している。多分、いや絶対転生者だと思う。

 だってほら、


「何で苛めてこないの?馬鹿なの?せっかく口実あげたのに。クラルス取られて悔しくないの?シナリオ通りに動けよブス!」


 こんなこと言ってくるもの。


 わざわざ人通りの少ない階段の踊り場に私を呼び出した彼女は、いらいらしているように睨みつけてくる。綺麗な顔は歪んでいる。


「何か言えよ、口もきけないの?」


 こちとらコミュ障なんです。よく知らない人と会話するのはとても怖いことなんです。

 それでも流石に何か言わないといけないのは私にも分かる。


「...あのさあ、私、あんたみたいに暇じゃないんだけど。早く答えろよ。何?病気なの?キモっ。入院でもしてろよ」


 ええいうるさい今何を言うか考えてるんです!

 ああ、大変、何か言わないと、と思った途端、心臓が、バックバック。

 え、ええいもちつけ私、一言、一言でいいんだから!


「...す」

「は?」

「好きに、したら?」


 彼女はぽかんと口を開けた後、ぶちギレた。


「ふざけんな!!」


 ひええええごめんなさい!


「あんたが悪役やんないと私が幸せになれないっつってんでしょ!?ちゃんとシナリオ通りにやれってんだよ!!」


 激昂した彼女は私を突き飛ばした。


 あ。と思った瞬間にはもう遅い。


 私はバランスを崩し、階段を落ちていった。



*****



「...イリス」


 寝かせられている、意識が戻らない少女から目を離し、少年は立ち上がる。

 少年の大切なものを傷付けた女に、制裁を与える為に。

 少年は、動く。

続き書くか連載するか悩み中

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は続編希望です。
[一言] 続きお願いします!
[一言] 是非、続きが読みたいです‼
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