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自由

作者: としゆき

80年代には年間300万台を超える売り上げを誇った自動二輪車。

今やその数は40万台まで減少している。

企業も販売拠点を新興国などの海外にシフトし、新興国で受けるデザインでバイクを作る。

学生の死亡事故から3ない運動がおこり、若者のバイク離れが始まる。

そうすることで、暴走族などのイメージだけが残り、バイクは危険なもの。バイク乗りは不良といったイメージまでついた。


それでも、バイクには魅力があると思う。





ふぅ。



秋も深くなり、夕方にもなると日は暮れ、息は白くなる。

コンビニの駐車場に鎮座し自分の単車の前でコーヒーを喉に流し込む。

バイクというものは不便だ。

夏は暑いし冬は寒い。着るものも考えなくてはならないし、安全にも気を配る。

髪型は崩れるし、ヘルメットは荷物になるし、荷物は積めないし。

乗るのに準備が必要だ。


近頃は道端でバイクを見かけることも減った。


若い頃は周りの友人もバイクに乗り、皆でバイクについて語り合っていた。

そんな友人たちもどんどんバイクを降り車になった。


車は座っていられるし、風は当たらない、虫も当たらない。

暑くても寒くてもエアコンがあるし音楽も聞ける。今ではTVだって見ることが出来る。

ほとんど無くなってしまったがMT車であれば乗り物を操作する楽しさもある。

私も車を持っているし、家族と出かけるときは車だ。



原付などはまだ少し生き残っているが、昔ながらのバイクは今や絶滅危惧種に等しい。

丸目1灯。

むき出しのエンジンにアナログな吸気システム。

キーを回すだけでエンジンに火が入るのではなく圧縮上死点を合わせ、キックを踏み下ろすことでエンジンを掛けるキックスタート方式。


乗らなければ動かなくなるし、乗っていれば消耗品を変える金がかかる。

むき出しのエンジンや部品は雨に当たれば錆びる分車より手入れの頻度は高いし、乗れば疲れる。

2輪というのは自立することは出来ず、手を離せばたちまち倒れ、壊れてしまう。


常に誰かの手を必要とする。


いろんな意味で人間臭いなと思う。


我儘な乗り物なのだ。



そんなことに想いを馳せながら缶を傾け残りの珈琲を流し込む。


飲み終えた珈琲の缶をごみ箱に捨て重い腰を上げるとヘルメットを被り後ろのポケットに突っ込んでいた手袋をはめる。

キーを回すとニュートラルランプが光る。


こっちの準備は出来たぜとでも言わんばかりである。


ハンドルを握りバイクの向きを変えまたがるとステップを畳み、キックレバーを出す。

キックレバーに足を乗せ、圧縮上死点を合わせ、踏み抜いた。




ドルゥンッ!!ボボボボボボボッ



単気筒の心地よいサウンドと振動がシートから伝わる。

ヘルメットのシールドを下げ、クラッチレバーを握り、ギアを1速に入れる。


スロットルを回しながらクラッチレバーを離していくと動力が伝わりタイヤが回り始める。



スピードを徐々に上げながらギアを2速、3速と上げていく。


秋のひんやりとした空気が身体にまとわりつく。

冷たいけれど、冬とは違う、秋の香り。


街の街灯や前を走る車のテールランプはキラキラと輝く。

風切り音と街の音が混ざりあう。


変わらない日常の世界の中で自分だけがどこか浮いているかのような違和感を感じる。

スピードを上げ、帰路ではなく郊外の方へと舵を取った。


街を外れるとひんやりとした空気はより一層冷たさを増す。草木の匂いや虫の音が聞こえる。静寂を切り裂くようにバイクの音だけが静かに響く。




自転車しか乗れなかった私がはじめてバイクに乗った時、地球がちっちゃく感じた。

どこまででも行けるのだと思った。


あの、どこまでも続く道の終点を知る術を得たのだと心が躍った。


年を取るとそういったワクワクはどんどん薄れていくのかもしれない。


だけど、バイクに乗っている時だけは。



その時だけはその気持ちが蘇ってくる気がする。


バイクは五感で感じる乗り物だと思う。



移動手段としては車やバスに勝てっこないし、手軽さでは電動自転車で十分だろう。

だけど、バイクに乗っている




その時だけは





誰だって、自由な旅人なのだ。






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