2章−第2幕 試験艦ユリシーズ
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俗に『ワンマンオペレーションプラン』、一人一艦計画と揶揄される馬鹿げた戦略構想が連合宇宙軍にあった。従来の百名前後による戦闘艦船の運行は、先の戦役の大量の戦死者により不可能に近い情況となった。限られた人員で、多くの艦船を運行させる事を目的とした、この一大建艦プランは提唱者の名前を頭に『ルラン=アーテミーゼ・プラン』と呼ばれていた。
金星との講和条約の中にある技術交換を行ったアーテミーゼ社は、金星の無人艦船運用技術を基盤に、少ない人的資源で正面兵力を増強する為に考えた方策として、この荒唐無稽な計画を連合宇宙軍に提案したのである。
当初は、一笑し退けた連合宇宙軍首脳であったが、宇宙艦隊再建にあたって人的資源の逼迫は深刻な問題であり、改めてその実現性を検証することとなったのである。結局のところ、人的資源の枯渇はどうしようもない問題であった。中には、金星の無人艦船を採用すべきだ、という声もあったが、制御艦さえ掌握すれば、少数の人間で艦隊を制御できてしまう無人艦隊構想は危険視され、採用される事はなかった。
最終的な軍首脳部の結論は、試験ケースとしてアーテミーゼ社の提案を受け入れ10隻の戦艦並みの火力を備えた重巡艦を導入する事にしたのである。その一番艦の導入が決まり、アーテミーゼ社(と関連企業)は一気に沸き立った。これまで、宇宙戦艦やCAなどの六割がシャニアテック社製品であり、ほとんど独占状態であったが、もし、これが正式採用となれば宇宙艦隊再建の波に乗り、一気に巻き返す事も可能である。
そこでアーテミーゼ社(と関連企業)は地球・火星・金星問わず、優秀な技師を求めた。
そして、そこにはアーテミーゼ社によって集められた技師の中に様々な人間が――後の歴史を語る上で無視のできない人物らが――いたのだが、それはまた別の話である。