1章−第3幕 死告烏《レイヴン》
※ 3 ※
深遠の宇宙を背景に駆け抜ける黒い機動兵器。
その星明かりすらも吸収するような漆黒の装甲をまとった機動兵器のコクピット。
並みのパイロットでは操縦するどころか気を失ってしまう程に苛烈な加速Gにあっても、そのパイロットは黒い耐Gスーツとヘルメットバイザーとの隙間より覗いている口元に薄い笑みを張り付けながら縦横に機体を操っていた。
迫り来るCA部隊の攻撃を巧み回避し、合間を縫ってステーションの防衛機能を着実に奪っていく。
「…………首尾は?」
猛る戦闘の愉悦に酔った狂気の響きがバイザーの中で木霊する。
『良好です《レイヴン》、あと90秒ほどで強襲艇がステーションに取り付きます』
耳元から聞こえてくる女のアルト。
「巡視艦の動きが妙だ。注意しろ」
『はい』
常人であれば、その異常なまでの高機動戦闘で気を失うだろう最中、レイヴンと呼ばれた男はさらに周囲の状況さえもハッキリと把握していた。これは、達人とか名人とかいうレベルではない。生物学的に、そんな真似をできる人類はいない。何かしらの強化手術を受けているのだろうか。
「120秒後、離脱する」
『了解です』
「機体の損耗率はどうか?」
『装甲18%減、対衝撃ジェルも万能ではありません。何か操縦系統に不備が?』
「問題ない。計測で25%を超える事があれば報告しろ」
『了解です、レイヴン』
通信を切り、レイヴンはステーション指揮官はどんな奴かと思考を巡らす。
反撃の迅速さ、果敢さから臆病な指揮官ではない。だが、決して無謀なだけの指揮官ではない。あの巡視艦の動きは、脱出を図ろうとしているのは間違いないだろう。冷静に彼我の戦力を分析し、勝てぬと判断したら一目散に逃げれる指揮官という事だ。
小さくレイヴンは哄笑う。
「いいだろう、見逃してやる。戦争をするには、相手が強くないと面白くないからな」