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6章−第2幕 新地球連合艦隊 

                                ※ 2 ※


太陽系の第三惑星、地球。その唯一の衛星である「月」に、連合宇宙軍の『統合作戦本部』が置かれている。その連合宇宙軍統合作戦本部ビルの一角に設けられた第三会議室。

その広めの室内は今、主照明が落とされ、卓上より照り反す間接照明が参加者の姿を暗やみより浮かび上がらせていた。

50人が列席できる会議室中央の円形卓に座る会議の参加者は、男女併せて42名を数えた。彼らはいづれも閣下と呼ばれる身分の者か、それに近しい階級の者だけであり、事実上の宇宙軍のトップ会議と呼べる会合であった。

彼らの議題は、宇宙艦隊再建と宇宙軍の作戦計画。

専任の情報士官の出席が無かった為、ゼノ・シールス大将の副官であるケイト=ブランシェ大佐が、一連のステーション襲撃事件に関して判明したことを記載した報告書を読み上げていた。

「――と、これまでの軍情報部からの報告から、今回の一連のステーション襲撃、及び、駆逐艦ガンドレイクの撃沈は『火星評議会』と名乗るテログループによる反抗の可能性が高く、また彼らの所有する仮称『黒騎士』なるCAなどから、その背後には現政府内に大きな影響力を持った人物がいる可能性が指摘されております」

「その火星評議会とやらのこれまでの活動内容などは?」

「情報部からは、新興組織であると報告されております、ウッドワード少将」

「阿呆な事を云うなよ、ブランシェ大佐。貴官は新興のポッと出の組織に5つもの中継ステーションが破壊され、老練で知られたガンドレイクが撃破されたとでも云うのかね? これは明らかに軍事的訓練を受けた人間が関わっている。軍を退役した連中か、武装警備隊などと名乗る企業を当たった方がいいのではないか?」

「まぁまぁ、ウッドワード少将。調べたのはブランシェ大佐ではないのだし、そう血圧を上げなさんな」

豪勇で知られるウッドワード少将に、連合宇宙軍副参謀長ウーラ=フォックスが窘める。二人の確執は連合宇宙軍では有名であり、議場に険悪な沈黙が訪れる。そこへ張りのあるバリトンが響く。

「大佐、報告ご苦労だった」

恐縮した面持ちで深々と頭を下げブランシェ大佐が着席すると、それに代わり連合宇宙軍総艦隊司令の地位にあるゼノ・シールス大将が鷹揚に口を開く。初老と呼ぶにはまだ早い、この壮年のエリートが先のハイヴィスカス戦役で劣勢に追い込まれた連合宇宙軍を勝利に導いた事は記憶に新しい。

地位的には、連合宇宙軍統合本部長、作戦参謀総長に次ぐナンバー3であったが、事実上、軍の若き指導者として彼が連合宇宙軍を牽引している事は誰にも否定できなかった。

「ウッドワード少将、貴官の指摘はもっともだが、それは我々の領分ではない。違うかね?」

「………仰るとおりです、閣下」

「宜しい。我々が当面なさなければならない事は非常に多く、また重大だ。先の戦役にて9名の艦隊司令が戦死され、また12個艦隊を誇った宇宙艦隊も壊滅状態に追いやられた。新艦隊の編成、新兵の補充訓練、深宇宙探査船団計画、金星残党及び叛乱分子の討伐など、数々の難問を一つ一つ乗り越えていかねばならない。だが、我々はそれを苦痛と思ってはならない。これは能力を持つ者の義務であり、宇宙という広大なフロンティアの開拓を先導する栄誉こそが我々の行動力になるのだから――」

しばらく続くゼノ・シールスの演説をその場にいる者は、様々な目で見ていた。彼の指揮官としての有能さ、連合政府を手玉に取る政治センスなど瞠目に値する男である事は、ここに座っている者ら全てが理解していた。この2年間で、実質的に3個艦隊分の戦力しか残らなかった宇宙艦隊を、引退した旧式艦を改修させハリボテの2個艦隊を作り出す一方で、精力的に連合政府高官と折衝し、結果、年明けと共に新造艦で編成された3個艦隊が就航する事となっていた。

当初、20年掛るだろうと云われていた艦隊再建が、僅か5年でここまで形になったのもゼノ・シールスの手腕に拠る処が大きく、その功績は広く認められてはいたが、同時に彼を危険視する風潮が連合政府内、あるいは軍部内に広がっていた。何を彼が求めているのか、それを真に理解している者はいなかったが、権力欲というよりも名誉欲、あるいは己の理想を実現すべく行動しているように思われていた。

来年一月から、連合宇宙艦隊は再編成を行い、その装いを新たにする。その人事の発表と調整、各艦隊の任務の確認、それが今回の会議の主旨であり、冒頭のステーション襲撃事件については、目下、宇宙の治安を預かる軍全体のメンツの問題であって、最優先で解決しなければならない事項として上がっている為に、説明と報告をしたに過ぎなかった。

そして、宇宙艦隊総司令ゼノ・シールスの発表による布陣は以下の通りであった。


宇宙艦隊総司令官 ゼノ・シールス大将

宇宙艦隊参謀総長 フィリップ・ウィナード中将

第一宇宙艦隊司令 ロナルド・マッケンジー中将

第二宇宙艦隊司令 シンタロウ=ミムラ中将

第三宇宙艦隊司令 アイス・ロデリック中将

第四宇宙艦隊司令 オスカー・グスタフ中将

第五宇宙艦隊司令 レインフォルス・レイバーグ少将

第六宇宙艦隊司令 レイ=ヴァレンタイン少将

第七宇宙艦隊司令 ボーニー・ブロー少将

第八宇宙艦隊司令 フィリオ・ウッドワード少将


その全てがハイヴィスカス戦役以前とは顔ぶれが変わっていた。戦後、生き残った艦隊司令四名がいたが、彼らは戦役での壊滅同然の損害を受けた責任で退役しており、これまでは副司令や参謀などが繰り上げで艦隊司令代理として任についていたのであった。今回の発表は、来年からの再編成より新体制になる事の宣言である。

当初、この来年からの新人事はゼノ・シールス派閥の人間が上層部を占めるだろうと思われていたが、宇宙軍の花形であり中心戦力の艦隊指揮官は、派閥から離れた実績から選ばれている事は一目瞭然であった。

猛将で知られるウッドワード少将やグスタフ中将などは、軍の反主流派の代表格であり、また今回の紅一点であるレイ=ヴァレンタイン少将なども、提督の地位に就けると予想する者は一人もいなかったと云ってもいいだろう。

金星軍という仮想敵の登場と先年の戦争により、三世紀に渡って地位を継承してきた高級軍人の子弟らにしてみれば、黙って頷いていれば恩給つく提督の椅子ならば興味はあっただろうが、先の戦役で二階級特進した先達らの最期を見れば、その地位に就くよりは安全な後方任務の基地司令が良いと考えたのだろう。

事前に通達があり、各人が十分に吟味した上の新体制発表であった為、一部で微調整こそあったものの、概ね発表案通りに決定した。


宇宙暦309年10月15日、まだ世界の仮初の平和は続いていた。


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