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3章−第2幕 駆逐艦ガンドレイク

                          ※ 2 ※

 

駆逐艦ガンドレイク艦橋に張り詰めた空気が漂っていた。

そこは今、強力なECMによって文字が乱舞するディスプレイの情報の意味を読み取ろうと、オペレーターが必死に調整していた。

「確認でました!! やはり、CAコンバットアーマーです。方位、進路向かって八時の方向。機体数は3機! 距離、12万!!」

緊張した声でディスプレイに写し出された情報を読み取る情報管制兵。

襲撃者らは、太陽を背に艦に向かってきていた。 この時代になっても、太陽を背にするという行為の利点は大きかった。宇宙では、太陽の発している強力な電磁波、紫外線等によって相手の観測機器を混乱させる事ができるのである。 実際、今回の事例でも、ECMによる累積効果もあるだろうが、発見から確認まで、通常の倍近い時間が掛かっていた。

「識別反応…………無し!」

第一種戦闘配置コンディション・レッド発令! 敵機ボギーとして防衛システムに認識させろ!」

間髪入れずに発令される第一種戦闘配置。その発令に従って、ガンドレイクの戦闘システムが起動する。 艦各部に設けられた赤色回転灯が光を撒き散らし、非常事態を報せる。

『総員第一種戦闘配置! 繰り返す。総員第一種戦闘配置!! 非戦闘員は速やかに指定シェルターへと退避せよ!』

艦内に設置された拡声器が警報をかき鳴らす。

 

ガンドレイクは旧式の駆逐艦であり、その艤装は就航して50年さしたる進歩はしていなかった。だが、それでも先のハイヴィスカス戦役では金星軌道での激戦を潜り抜け、生き残ってきた強さがあった。ガンドレイクの乗組員たちは、器材の古さを補えるだけの練度を持っていたのだ。

その事を証明する見事な操艦で、敵襲撃方向に僅か5分に方向転換をする。錬度の低い艦であれば、下手をすれば1時間以上掛る操艦である。

「対空砲、チェック。5番砲座が再設定に時間が掛かっており、あと180秒は必要です。他は全て起動確認しました!」

「艦内の与圧正常です。第二級乗組員の退避は終了です」

「隔壁封鎖、300秒後に開始します」

「不要区画への不燃剤充填が完了しました!」

艦各部の装甲隔壁が次々と閉鎖される。否応なしに、戦闘が始まるのだとガンドレイクの乗員たちは実感した。敵は、これまで戦艦ウォーシップでも陥落するのに苦労するステーションを5つ破壊してきた手練である。勝つ事よりも負けない事が重要である事は、彼らはよく理解していた。

そして、ガンドレイクのCAチームの隊長サリュー・スタンは、剛毅に笑い部下たちに出撃を命じる。

ガンドレイクは、地球連合軍旧式の駆逐艦キルバリー級であり、最近標準装備されているリニアカタパルトといった値の張る装備は施されておらず、艦内にもCAを格納するスペースなどなかった。ゆえに真っ平らな上部甲板に、防塵用航宙シートを掛けられただけの状態で露天繋留されていた9機、CA中隊のパイロットは宇宙服を纏い、次々に己の愛機に身を滑り込ませていく。

「発艦許可が下りてねえってのはどういう事だ!?」

その一つであり、隊長機のコクピット内部でサリュー・スタンが喚いていた。

『ですから……今回は逃げる事を最優先とします。この距離で迎撃されますと回収できないと言ってるのです』

「逃げる!? おい、テメェ! あっちは3機、こっちは9機、負ける訳ねぇだろ!」

『いや、ですから、艦長命令です』

「あぁ!?」

『遠方射撃と、機雷散布で足止めして、その隙に最大戦速で逃げるそうです』

「アホか、あちらさんと接触する前に打撃いれんで、打ったってカスリもしねぇよ!」

機動兵器同士の高機動戦闘に比べれば、艦砲射撃や機雷などはちょっとした障害物に過ぎない。そんなもので足止めできるなら、これほど軍上層部がCAを重要視する訳がない。歴戦の指揮官とは思えない発想と作戦であった。

「ハゲ親父に伝えろ! 頭の中にウジ湧いてるぞ、爺ぃ!ってな!」

己の上官を遠慮容赦無く罵り、サリュー・スタンはガンドレイクとの通信を叩き切る。前線で戦うのは己らだという矜持がCA乗りにはあった。誰もが戦争によって正直になり、生き残るために何をすればいいかを考え続けてきた。結果、名目上、あるいは便宜上の指揮官の命令ではなく、己の信じる道を行く命令違反の集団が出来上がるのである。そして、通信を切ったサリュー・スタンに部下たちからのコールが入る。

『どうするんです、隊長ボス

『定番の通信機故障にしとくか?』

『この通信機は、機体が大破しても使えるってメーカーの技術者が言ってたぜ?』

『なに、俺らがしょっちゅう壊すから、フカしてるだけさ』

『かっかっか、さもありなん』

この部隊のパイロット全員が滞宙2000時間以上、単独撃墜数スコア15機以上というバケモノじみたベテラン揃いであり、そんな彼らにとって戦いの前の緊張は、ある種馴染んだものであった。

そして唐突にディスプレイに発生する白い輝点群。

『敵機動兵器、補足! 距離4万!』

「よっしゃ、出撃るぞ、野郎ども!!」

 

9つの機体が白い軌跡を放ちながら、漆黒の闇に溶け込んでいく。

戦闘の始まりであった。



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