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3章−第1幕 『戦争狂い』出撃

                          第3章


宇宙は、無限である。この無限という意味を考えていただきたい。どのような叡智をも飲み込むだけの果てしなさを持ったもの、という意味である。その果てしなさに対して、永遠に叡智を放出できるのもまた人類でしかない。その叡智と気力、そして、精神を、なぜ人は、他人にぶつけることだけで満足して死んでいけるのか?

それが、人に与えられた使命ではない。

神は、宇宙そら駆ける者として人を創造されたのである・・・

                         (宇宙世紀87年 ある革命家の演説より) 

 

                          ※ 1 ※


船底甲板ボトム・デッキに設けられた機動兵器格納庫。

ステーション連続襲撃の実行を行っている強襲戦艦アルテミスに搭載された9機の漆黒の外殻を持った機動兵器が、射出口に整然と並んでいた。それに自動工作機械群取り付き、最終調整を行なっている姿は、まるで、人間に虫が無数に取り付いているようにも見え、何とも醜悪であった。

|《黒》(ノワール)――そう名づけられた火星独立集団が独自に開発した機体である。開発者は、軍のCA開発主任者であると言われていたが、この艦に乗っている者には、そんな瑣末な事を気にする者はなかった。彼らは、金で雇われ、火星圏の独立を目指しているとかいう、御目出度い連中から、この戦艦とCAコンバットアーマーを貸し与えられ、彼らの崇高なる計画とやらの為に、地球連合のステーションを破壊して回っていただけなのだ。

半年ほど前に、彼らは各地から集められ莫大な報酬と引き換えに、その力を火星の真なる独立を目指す組織――彼らは己らを《火星評議会》と名乗っていた――に貸す契約をしたのである。彼らは騒乱を求めた、彼らは闘争を求めた、ゆえに《火星評議会》は彼らに武器と目的を与えた。報酬は金と戦争。

|《戦争狂い》(ウォー・モンガー)、それが「彼ら」が名乗った名称であった。「死ぬってのは、もう殺せないってことだ」と真顔で云う狂気の戦闘集団であった。彼らにとって、戦争は遊戯であった。己の生き死にすら問題としない、熱狂的なまでの闘争欲求。それを満たす為だけに戦う、彼らにとって《火星評議会》は都合がよく、そして《火星評議会》にとっても金と武器を与えてやれば、確実に作戦を成功させる《戦争狂い》は都合が良かったのだ。

そして、その|《戦争狂い》(ウォー・モンガー)を名実共に取り仕切る男がいた。

それは濃紺のジャケットを纏った褐色肌の美丈夫であった。跳ね上がった細い眉、高すぎない鼻梁、薄い唇、そして頬から顎にかけて、やや肉が削げ落ちていた精悍な容貌の男であった。だが彼を見た者は、その漆黒の双眸に魅入られる。猛禽のように鋭く輝き、そして血に餓えた凶戦士の本性を瞳の奥に隠した、危険な輝きに惹かれるのである――男の名を《レイヴン》という。

|《戦争狂い》(ウォー・モンガー)を構成する連中は、酷く人間として大切な資質に欠ける連中であったが、それに代わり危険に対する嗅覚に優れていた。そして、これまでの五箇所のステーション襲撃の手腕と作戦立案能力に、彼らは《レイヴン》の優秀さと危険性を認め、彼に従うようになっていた。狂暴な狼に従う戦争狂の集団は、確実に人類圏最強の戦闘部隊への階段を上っていた。そして、それを一人一人が実感している彼らは、まさに一個の|《戦争狂い》(ウォー・モンガー)と化し、この一時の平和に暗雲をもたらそうとしていたのである。


『30分後に、地球連合軍駆逐艦ガンドレイクに接敵予定。CA部隊は搭乗待機』

無機質な女性の声が格納庫に響く。一昔前の地球のアイドルの声らしいが、機械合成されたそれには、やはり生気が欠けていた。だが、艦橋の野郎の声よりは余程マシと採用され続けているのだが、レイヴンはどうもその声が好きなれなかった。

漆黒の耐Gパイロット・スーツのバイザーを降ろし、外部音声を遮断する。靴の磁力をオフにし、床を蹴り、全高八メートルと、一般の機動兵器より一回りほど小さい|《黒》(ノワール)のコクピットに取り付く。周囲に、自動工作機械群が取り付いているが、まるで気にする風でもなく、高機動状況下での高Gよりパイロットの体を保護する為の衝撃緩衝固定ユニットとシートによって、殆ど埋め尽くされた狭いコクピットの中に潜り込む。

その狭苦しいコクピットの中で、レイヴンはコンソロールパネルに表示されたデータのチェックを行う。自分の機体の状態を自分の目で把握する。それは、何時の時代にも変わることなきパイロットの義務であった。 彼がどのような出自の者か知る者はいなかったが、その神業めいたCA操縦技術から地球連合政府の精鋭CA部隊のメンバーではないかと噂されていた。

事実、9機の|《黒》(ノワール)の中で、彼の騎乗する機体のみ、リミッターを解除していた。リミッター解除とは、戦闘状態になったパイロットが知らずに自分の体が耐えられない高速機動を行う事によって、一時的な貧血状態――ブラックアウトという失神状態になるのを防ぐために、実際には機動可能だが、それをさせないように予め設定されたプログラムを解除する行為である。これにより、機体性能を限界まで引き出せるが、それに伴い操縦者への負担は爆発的に高まるのであった。

黙々とチェックリストを進めていくレイヴン。

そこに|《戦争狂い》(ウォー・モンガー)の副長格であるコニー・チャンが、コクピットの装甲ハッチの隙間から顔を出した。若干23歳のメガネを掛けた痩躯の青年であり、この|《戦争狂い》(ウォー・モンガー)には相応しくない身なりの青年であった。そして確かに彼は身体的には劣っていたが、一方でそれを補って余りある智謀と度胸があった。現にアルテミスの作戦指揮については、レイヴンから一任されている青年である。

「レイヴン、今回は《黒》部隊だけで本当に大丈夫ですか? EC(電子戦)の準備も用意しておいた方がいいかと思うのですが」

「アルテミスの情報を向こうに悟られるのは面白くない。|《黒》(ノワール)だけでいく」

「分かりました、ご武運を」

アルテミスは目的上、スタッフは多くなく必要最小限しか乗っていない。それゆえに全長450m級の戦艦の保守点検全てをコニー・チャンが担当していた。相当な負担といえたが、コニー・チャン自身は嬉々としてその重労働をこなしていた。本人曰く『新鋭戦艦を好き勝手、指揮できる立場なんですよ? こんな機会は、最初で最後ですよ、ホントに!』だそうである。

「システムオールグリーン、退却のタイミングは貴様に任せる」

「了解」

コニーの声が、出撃準備の進む格納庫に吸い込まれるように消えていく。

出撃は、もうすぐであった。

 



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