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序章 宇宙史講義

地球軍VS金星軍の戦争がありまして、その後の火星独立戦争へ至るまでの話です

                              序 章


諸君、我が親愛なる地球に住まいし、同胞諸君!

我々人類は、今新しい時代を迎えようとしている!

幾多もの試練を乗り越え、幾百もの苦難の日々の果て、幾千もの同胞らの勇気と行動によって、ついに我々は火星テラツーへの入植への道を切り開いた!

宇宙は我々人類の永遠のフロンティアであり、いまだ無限の可能性を秘めている!!

もちろん我々は、そのフロンティアが希望だけに満ち溢れる楽園エデンではないだろう事も十分理解している!!

だが怖れるな! 怖れてはならない!!

我々人類はこれまでも、幾多もの障害を乗り越えてきたのだ!!

我々人類は難関を乗り越えいく、叡智が、勇気が、そして仲間がいるのだ!!

勇気あるフロンティアスピリット溢れる火星移民の諸君!!

我々人類は進まなければならない、進み続けなければならない!!

その羅針盤となる諸君らの未来を、我々は全力で援助する事を約束し、共に栄光を分かち合う事を、ここに宣言しよう!!

良い旅路をボン・ボヤージュ!!

         〈地球連合政府宇宙開拓省長官マオ・フェロノサによる第一次火星移民船出航時の演説〉

 

 


宇宙暦306年8月17日


時は地球連合政府と金星人類反地球連合共同体――一般的にはもっと簡単に「金星政府」と呼ばれているが――との全面戦争、即ち人類史上初の星間戦争『ハイヴィスカス戦役』が終決して2年半後の事である。

この有史以来の最長の遠征を伴う戦役の大損害を癒すには、2年半の月日はあまりにも短すぎた。故に、当然の如く戦災に苦しむ人たちも少なからず存在していたが、それでも人類の大多数はこの仮初の平和の恩恵を預かり始めている、そんな時期の話である。

その頃の地球連合政府は、ハイヴィスカス戦役で失われた戦力の再建を急ぐべく様々な方策を打ち立てていた。この事は、あまりにも有名な話であるが、政治経済と様々な因子が複雑に絡み合ってこそいたが、中核に軍事が中心にあった事が同時代のレアリティを高めている事に疑いの余地はない。

そこで今回は、物語を始める前に、少し宇宙艦隊の歴史について触れよう。


そもそも連合宇宙艦隊は、西暦2101年(宇宙暦元年)の【地球連合政府ガバメント】発足を契機に、地球軌道上での制宙権を巡って対立していた大国所有の宇宙戦闘艦船が軍として一つで纏められたのが発祥であり、当初は60隻の性能も目的もバラバラの混成艦隊であった。

とはいえ陸空海軍とは異なり、従来の国家という枠から離れた宇宙軍はある種独特の新鋭の軍隊としての使命感に燃えており、事実、地球連合政府も『地球』という天体を護る戦力と位置づけ、大いに政府宣伝に利用していた。とはいえ、地球外に外敵が存在する訳でもなく、プロバガンダの一環としての存在でしか価値がなかったのが、発足当初の連合宇宙艦隊であった。

一方で、地球連合政府が主導で行われていく、宇宙開発事業において次々に建造されていくコロニーや、開発移民が推し進められる火星や小惑星帯アステロイドには、当初こそ地球連合政府から選抜された科学者や技術者だけが居住を許可された最先端科学の粋が集められた場所であったが、地球から宇宙への本格的な移民が始まるにつれ、移民希望者自身による独自の開発、開拓の割合が大きくなっていった。


宇宙暦27年、第3コロニー【フランチェスカ】

犯罪史上稀にみる、個人による大量殺人事件ジェノサイドが発生。この民間人による大量殺傷事件を皮切りに次々にコロニーに於いて凶悪事件が次々に発生し、宇宙空間の生活ストレスが大衆に注目された。

宇宙空間が人類の生存を拒む『世界』である事は万人が理解する所であり、それを如何に緩和し、消化するかは宇宙世紀以前より何度も論議された事象であったが、閉鎖し自己完成した宇宙での生活空間コロニーでは、ストレスは避けられない因子とされ、結局、政府はその根本的な解決策を探すのではなく、ストレスによるフラストレーションを大規模開拓という外に向けて発散させる形で、ストレスの問題を先送りする事を決定する。かくして人類は、ストレスを発散させる行為の一環として、積極的に宇宙開発に力を込める方針を決めたのだった。


そして歴史的に見てみても開拓時代には、無法者アウトローが歓迎されるのが世の常であり、それは宇宙開拓時代も例外ではなかった。多くの無法者や冒険家が前人未到の地へと挑み、開拓の道しるべを築いていった。地球上の例で見てもアメリカやオーストラリアを開拓する為に、最初に移民船で送り込まれた者の多くは母国イギリスで前科のある者であった。とりあえず危険な場所の開拓なら、殺しても死なないような連中に任せればいい、というのが地球人類の叡智だった訳である。

地球の環境破壊を軽減するため、その経済活動を年々、限定・規制されて続けていた全世界レベルのゼネコンが、宇宙という開拓の場を得て驀進し、どれだけのマンパワーを送り込み、その見返りにどれほどのチカラ(この場合、権力チカラでも金銭チカラでも同意である)を握ったか知りたければ『激動と浪漫の一世紀』なる宇宙世紀初頭の先人たちの記録に目を通すといい。まさに血肉躍り星巡る冒険の時代であった。

そして、この時期多少の・・・暴力は黙認された。

それは過酷な世界を開拓する為に必要な起爆剤であり、まさにアメリカ西部時代を彷彿させる無法アウトローな世界が広がっていったのである。

そして――無法者アウトローたちの時代は『火星テラ・ツー』への本格的な入植と共に終わりを告げた。


宇宙開拓時代の宇宙暦200年代は、先人たちが100年かけて開拓・冒険していった地を発展させる時代へと突入したのである。これも人類の歴史を見れば明らかであった。宇宙時代の開拓者たちも、治安秩序を維持する為に取締られ、かつての英雄たちは犯罪者として刑務所にぶち込まれ始めたのである。もちろん、彼らとて己らが切り開いた世界を簡単に手放したりはしなかった。

己らの権益を守る為、ある者は宇宙海賊に、もしくは社会の裏へ逃げ込み、犯罪結社を結成し、各地で猛威を振るったのである。そしてそれらを取り締まるべく脚光を浴びたのが、人類の軍隊たる連合宇宙軍(UES)であった。宇宙という広大な舞台で縦横無尽で活躍する宇宙艦隊は紛れもなく、宇宙世紀の騎兵隊であり、英雄ヒーローであった。

彼らの任務は、大きく分けて二つであった。

一つは云わずと知れた、宇宙海賊らを討伐する任務であり、これらには機動力と火力を併せ持った駆逐艦デストロイヤーや小型戦闘艇が好まれた。

そして今ひとつは、各コロニーなどで度々勃発する叛乱の鎮圧であった。この場合は、強襲揚陸艇による武力鎮圧を視野に含めていたが、最も効率のよい方法である目に見える戦力による抑止力を狙った宇宙戦艦ウォーシップや重巡艦が建造された。

かくして200年の歳月をかけて、連合宇宙艦隊は徐々に変容していったのである。


だが宇宙暦303年4月に世界情勢は一変する。

まさに天地が引っ繰り返るような驚天動地の大事件が勃発したのある。

今日で言う『ヴィーナス・ショック』である。

何の前触れもなく、月軌道上で勃発した無人艦隊との遭遇戦――連合宇宙艦隊の全滅劇は、人類が200年も前に「ありえない可能性」として捨てた地球外生命体の襲撃として脳裏に刻まれる事となったのである。後に、無人艦隊が金星人類の産物と知られ、一応の沈静が認められたが、異星人エイリアンの来襲として人々に記憶される事となり、それが地球圏を空前絶後の大迷走へと叩き落したのであった。


かくして月軌道上での無人艦隊との遭遇戦から始まる計4回に渡る無人艦隊との大規模会戦――ハイヴィスカス戦役は、地球側の辛勝という結果で終わったのだが、連合宇宙艦隊は組織として壊滅と言っていいほどの損害を受けたのであった。そもそもが宇宙戦艦スペースシップ同士の戦闘を想定していなかった連合宇宙艦隊にとって、それは当然の帰結であり、結果、抜本的に組織概念を変化させる必然性が生まれたのだった。


同時に連合宇宙軍の壊滅的打撃は、地球連合政府ガバメントの高官たち、強いては地球人類全体に大きな恐怖を与える結果となった。

ハイヴィスカス戦役にとって致命的打撃を受けた連合宇宙軍、強いては地球連合政府ガバメントに人類圏を統治する力がないのではないか、という疑念が生じる結果となったのである。今回の一連の戦闘で、地球連合政府ガバメントは己の座する地球にのみ防衛力を振り分け、結果として火星テラツーやコロニーが地球連合政府ガバメントに不信感を抱くようになったのである。

既に惑星間経済に組み込んでいる、火星テラツーやコロニー、月面都市ムーンサイドの独立は、疲弊しきった地球連合政府ガバメントにとって最も恐ろしい予測であり、何としても防がなければならない悪夢であった。

さらには金星艦隊のような、ある日突然来襲する異星人艦隊が再び現れるのではないか、という世論も強く、結局、地球連合政府ガバメントは識見者らを集め、『異星人来襲への備えとしての戦力の必要性』なる政策大会なる場を提供し、大真面目に論議をしたのである。大物政治家らが「エイリアンが実在するか」などという滑稽な議論をしていたが、当の本人たちには極めて重要な事であった。

さらに現実問題として金星艦隊に散々に打ちのめされた宇宙艦隊の存在を知るがゆえに、過剰なまでの反応を迅速に見せたのであった。


曰く『宇宙戦力の増強と強化こそが、人類圏に恒久的な平和と安全を約束するだろう』


これは旧世紀にあった第二次世界大戦における帝国主義の再来であった。強大な戦力が人類圏の恒久的平和を約束するなどという『戯言』を信じる楽観主義者は少なかったが、それでも一定の効果がある事は誰しもが認めていた。

結果、宇宙世紀に突入した人類としては、あまりに未熟で陳腐な発想であったが、壊滅的な損害を受けた地球連合政府はヒステリックにその軍事強化策をこの二年間、押し進めていったのである。

その軍事強化政策に於いて、始めに地球連合政府の前に立ち塞がったのは、その再建資金と資材の確保であった。それを地球連合政府は、愚直かつ確実な方法で調達する選択をした。即ち、地球にとっての植民地である「火星テラ・ツー」からの搾取であった。

『地球文明圏特別再興法』なる大層な名前の時限法を、地球連合政府は宇宙暦304年9月7日に制定し、翌305年3月7日に施行させた。その施行までの半年間は、地球連合政府による効率的な「火星テラ・ツー」からの搾取を試行錯誤するための雌伏の期間であり、また反抗的な火星の有力者を選別し排除する為の期間であった事を、多くの人民が理解するところであった。

まず『戦時復興特別債』なるものの購入が「火星テラ・ツー」市民に義務付けられた。その内容は、踏み倒す借金の名称に化粧をしただけの代物である事はジュニアハイスクールの子供でも理解できた。

さらに稀少金属レアメタルを含む、鉱石の価格レートを不当に地球連合政府は下げさせた。これはハイヴィスカス戦役による月面都市やコロニーの復興をする為に、人類は助け合わなくてはならない、という美辞麗句に飾られていたが、その価格レートの低下が「火星テラ・ツー」にだけ適用されていた事から、その意図は明白であった。

しかも、それだけに終わらなかった。火星惑星改造の心臓部とも云える、火星環境制御システム【Lily】の火星連合自治体からの地球連合政府直轄管理への移行が発表されたのである。これまでは『オアシス』と呼称される十二の街の合議に拠る「テラ・ツー市民による自治管理」から考えれば、事実上の「火星テラ・ツー」の完全な地球連合政府の直轄統治への移行とも思える処置であった。


これは、宇宙暦283年1月に設立された『火星テラ・ツー治安維持軍』以来の地球連合政府の暴挙であると云えた。(『火星テラ・ツー治安維持軍』とは、火星圏内の人類社会の治安維持を目的とした、連合宇宙軍直轄の艦隊。しかし、その実態は急速に力を伸ばしているテラ・ツー市民への抑止力であり、その運営費用に関してはテラ・ツーの各自治体から捻出させた。また、この治安維持軍の存在により、火星テラ・ツーは独自の戦力を持つ事を禁止されたのである)

各地でデモ行進や、反地球連合政府集会が行われ、火星の地球連合政府宿舎は毎日のようにテラ・ツー市民による抗議の嵐に晒されるようになったのである。もっとも高級官僚は既に火星を離れ、そこにいたのはスケープ・ゴートとして残された地元採用の下級役人しかいなかったのだが。

一方でこの復興政策は、確かにその方向性にこそ問題があったが、それでも人類圏の経済を、もっと云えば人類社会そのものを快復させるカンフル剤となった。火星で採掘されたレアメタルは月やコロニーで精製され工業事業が活性化した。採掘機械や鉱石を運ぶ貨物船カーゴシップの需要が増し、民間企業はこぞって宇宙運送事業に取り組み始めた。ハイヴィスカス戦役の戦災復興から、多くの人民は停滞しつつあった活力を取り戻したのである。

確かにこの一世紀間、人類社会に於ける総人口は頭打ちとなっており、また目覚ましい技術革新や偉人の出現はなかった。一部の識者などは、人類という種そのものが停滞していると述べ、報道機関なども旧世紀の中世暗黒時代に風刺される退廃的な文化が蔓延しつつあると、暗澹たる事件を多く報道していた。

特に『埋め込み』インプラントというナノマシンを利用しての生脳と機械との直接接続技術によって新たに誕生した『電脳麻薬』デジタルは、化学麻薬ケミカル樹脂麻薬ピュアなどに続く第三の麻薬として社会問題とされており、若者層を中心にジワジワと社会を蝕んでいた。

そんな停滞しつつあった人類社会に、このハイヴィスカス戦役は強烈な一撃を頬に叩き込んだのである。あるいは「戦争」という行為そのものが、人類が活性化する為に必要な糧なのかもしれなかった。

ともかく疑いようもない事実として、人類は種としての活力を急速に取り戻しつつあった。艦船建造ドッグは次々に新しい艦船を建造し吐き出し、若者は人手を必要とする宇宙そらへ上がっていった。そして人類にとって幸運な事に、この時期に数名の若く優秀な政治家の台頭があったのである。

ハイヴィスカス戦役終戦後、幾人かの地位に固執する地球連合議会の長老議員らが様々な方法で排除されたのであった。

これは地球連合軍部の実力者であるゼノ・シールス大将や、軍情報部バラゾーク・カーク大佐、また若手政治家である神楽幸三やルーク・シルバ、地球圏の指折りの財閥である栗原財団、テレッセ重工などの陰謀・謀略があったと言われる。その結果、実に地球連合議会の4割の議員が職を失い、若く柔軟な指導力をもった政治家たちが議席を占めたのであった。

彼らは自分こそ、この中世的厭世観から人類を脱却させる救世主である事を疑わず、真摯に、誠実に、正義に沿った改革を推し進めていった。ハイヴィスカス戦役の戦災を目のあたりにした人類は、彼らこそ人類の中興の士だと信じて疑わず、彼ら若手政治家も己自身をそう位置づけていた。

その中でも特に目立った法令としては、ハイヴィスカス戦役での多大な戦死者による人員の欠乏を補う為に、ルーク・シルバが立案施行させた『人類社会復興に於ける一助としての、社会復帰貢献による特別更生処置法』(通称、シルバ法)は、軽犯罪者や更生施設の少年らを以って人的欠乏を補うというトンデモナイ法律であったが、5年という時限法であった点などが考慮され、成立してしまったのである。これにより、軍部や人で不足に悩む企業は一定の人員を保障できる事となった。

そして人類社会復興と躍進の目玉として『太陽系航宙路整備計画』が発表されたのも、終戦後すぐの総選挙後の事であった。これは太陽系内での一大高速物流ネットワーク建設をその最終目標に、人類領域の全てを網羅する前人未到の巨大物流システムのインフラ構想であった。その計画は、提唱者の名前を使い『カグラ・プラン』と呼ばれる事となる。

既存の航路の整備などを含め、現在、地球圏から火星テラ・ツーまでのネットワークの一部が完成していたが、これは最終施設予定の一割にも届かず、地球連合政府の一大事業として精力的に推進される事となった。さらに、この計画では金星独自の技術である空間跳躍を導入する事により、外宇宙にまで順次拡大していくという、人類の輝かしい未来を約束するかのように思える計画であった。


そして、この物語はカグラ・プランを担う、一つのステーションから始まる。

場所は月・火星間の中継ステーション。

磁気嵐や太陽風などの宇宙天候の発信地と、航路の安全性と光速通信システムの維持を主目的とした【クリハラ008・ステーション】。

最近では、レアメタルなどの強奪を目的として勇躍する宇宙海賊スペース・パイレーツの取締や航路哨戒任務も加わり、にわかに活気ついてきていたステーションの一つでもあった。




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