5話 トイレ
むず
ここで唐突だけどこのゲームの世界観を説明しよう。
言わずと知れた乙女ゲームだが、なーんとここは一応魔法の世界だったりするのだ。
呪文を唱え火やら水やらを出したり、空を飛んだりする。向き不向きはあるけど。
しかも魔法設定ぽく精霊とか妖精とかドラゴンとかいるようだ。まあ見た事ないけど。
しかしなぜ『一応』が付くのかと言えば、
むず、むず。
いえば
言えば
ぃ
……ieba?
むずずず
あーーーやばい。トイレ行きたい。
いろいろ考えても、尿意の気をそらせないいい。
あれか、待ってる時につい水やら紅茶やらをカブ飲みしたせいか。だってお好きに好きなのどうぞスタイルだったし。思ったより喉も乾いてたんだよね。
ううう…あおいちゃん待ってからと思ったけど待ってられないくらい緊急だ。
ここ動かないようにって言われてるけどさ。これ生理現象だし。
行ってこよう、で、さっと行ってささっと帰ってくればきっとバレないはず。
一応、携帯は持って。まあ私は使えないけど、バックに入れとけばある意味大丈夫。
場所取りのため、制服の上着を広げて置いておこう。
…ありがとう前世の知識。ほぼ日本でしか通用しないやつだったけど。
で?
あはは。ここどこ?
あああ。ちょっと寒いよぅ。上着はやっぱ羽織ってくるべきだったかな。
私はいまブラウス一枚。へっくし!!胸元にリボンくっつけてるけど、これじゃあ、暖は取れないし!またスカートってのがさらに寒い!!なんで女の子はスカートなんだぁ…いや可愛いけどさー。この緑のチェックスカート、よーく見るとチェック柄の所々に小さなハートがあるのもまた可愛いけどさあ。
やばいやばい…寒くてトイレ行きたくて違うことをつい考えてしまう。
トイレトイレトイレー
なんかさー。なんだろう。ここ何か食堂、いやもはやカフェの中じゃない気がする
いつの間に外に出ちゃったんだー?私。
てくてくてく。
ブラウス一枚でブルブル震えてトイレ探すってなんか私カッコ悪くないか…
歩いてたら、あら階段。とか、あら扉とか。あっても、とりあえず歩き続けたのが悪かったのかな。
ここどこー。どこですかー。
なんか教室っぽい部屋がズラリと並んるよ。いや当たり前か学校だもんね。
あートイレが恋しい。
人も見当たらないし・・・。
ガラガラ、ピシャン!
え、何の音。あ、扉が閉まる音か。
ボッスン!
「うひゃ!!」
「え!!」
尻餅とかかっこ悪…ああヤバ!うう…っ!トイレ我慢のつけが急にぃぃ!!!
「ごめん!だいじょう・・」
「トイレはどこですかあああああああああ!!!」
「ええええええ!?」
…襲われるかと思ったと後に笑いながら語っていたよ。失礼な。
***
セーーーーーーフ!!!ありがとう親切な人!なんかビビってたけど。
いやあ、親切な人がたまたまいて助かっちゃたよぉ。出たらお礼しないと!
そんでもってついでに食堂までいやカフェまで案内して頂こう。あれ、そいえばまだあおいちゃんもシュイナも来てないかな!?そうだといい!!すごくいい!!
そうだ!携帯…ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
着信がああ。数えんのも怖いよぉ!!
あおいちゃんに、シュイナ、ともちゃん、しぃ、りゅうさん………全員じゃん。まずいじゃん。
こりゃ全員知ってるパターンだよ。いちばん、まずいパターンだ。
どうするどうする?
うん。とりあえずトイレから出よう!!
…ん?
何か声がする。ぼそぼそ声じゃないから秘密話ではないな。これは聞いても大丈夫でしょ。
ってか人の入ってるトイレの前で何の話なの。女子高生か。あ、女子高生だった。
ってかトイレで会話ってどの世界でも共通なの?
「ありがとうございます」
ん?この声って確か。
「大丈夫です。気にしないでください。ちょっと声をかけただけで大げさです。」
「でも…あ。あなたも大丈夫?」
「え?」
「入学式で具合が悪くなったて。それってあの後すぐでしょう?わ、私のせいかと思って…」
「あれは…いや。違います。完全なる諸事情ってやつです!!」
何か、揉めてる。
この声からして、一人は多分…いやおそらく桜輝ひめかで。
で、もう一人。この声は、さっきのトイレまで案内してくれた親切な人?
でもって入学式で具合悪くなったって人らしいな…まさか?
いやいやいや…まさかだよね!?
出れないかも。こんな場面で出れないかも。
な、なにもこんなとこで話さなくても。いやゲームではトイレでなんか話してないよね?
だって乙女ゲームだもんね?
いやほとんど自分のせいで自業自得たけどさ!
こんなポジションでこんな状況下の中で聞きたかったわけでも会いたかった訳でもなーい!!
あくまでひっそり!!
ひっそり見とくべきだったのに!!
予定ではそうだったのに…ああ、会話は続いてるうう。
「そ、そうなの?…でも具合も良さそうで安心です。でもお礼だけさせて下さい。
自己紹介もせずに失礼だったし。あの私、桜輝ひめかです。」
「気にしないで下さい。気持ちだけで。それに名乗る程の者でも」
「…」
「…」
「…」
おおお。無言が続く。
美少女の無言。耐えられるのか?
ふう。
あ、ちょっとしたため息が聞こえた。もしかして言うの?言うのね?
「…いのり、です。桜詩いのり。」
ーーーーーー桜詩いのり。
ああ、そうだったー思い出した。モブ主人公の容姿も特徴も。この物語の最初のきっかけとなるヒロインと彼女の共通点すら。その共通点があったから、彼女はヒロインと行動する羽目になって行くんだった。
あはは…いやー思い出せば出すほど、彼女らとはやっぱ関わるべきじゃないなと思うよ。
だって、死と隣り合わせの生活中でもヒロインはまだしもモブの彼女もね、何でだか基本はしっかり生き残ってくんだよ。おかしいよ!!モブでしょうに。モブの定義とは何さ。
ああ。前世が懐かしい。
そうだ。前世の私は、よく画面に向かって言ってたよ。
『これ彼女は、もはやモブじゃなーい』って。
でもそれが、モブもどきっていうゲームだった。
ぴぴぴ。
…ひぃ!
ちょっと何の音!?今取り組みちゅう!まったく空気読んで!
やっぱ気づかれないように、彼女たちが移動したらここを出ようって決めたんだから!!
ああ携帯?
うるさいなー。えい。
あれ、押せた。ん?通話中……「葉月!!!!!!」
え。
「え。「今どこだ!おまえ!!」
!!!
わっすれてたぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!