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元魔王の碧眼勇者  作者: 刹那END
第1章 「碧眼の勇者」
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09話 「会心の一撃」

「――――十億円の懸賞金の掛かった金城をみんなで捕まえよう大作戦! イエーイ!」


 拳を天高く突き上げた八崎(やつざき)はそのまま場を盛り上げようと拍手までしてみせる。結果として誰も彼に乗る者はいなかった。


「え? 何? こんな感じじゃダメなの?」

「普通に話してください」

「ごめんなさい」


 十六歳の女子生徒に怒られて、しゅんとする三十代の教師。

 見ていて情けなくもなるが、自分の中にいる自称元魔王が言うに、なかなかやる奴らしい。

 あの真っ白な部屋で、シャーロットに対する拳を怪しい魔法で防いだのもこの男の仕業なようだ。

 確実にただの教師ではない。


「まあ、さっきも言ったと思うけど、俺はシャーロットのクラスの担任で、書道部の顧問で、んで、色々と勇者関係の仕事もやってまーす。とりあえず、分かんない事あったら、俺んとこ来ればいいから」

「アヤネは知ってんのか?」

「俺のこと? モチのロンよー。勇者関係の奴で知らないのはお前だけだ」

「じゃあこの女が接触してくる前に、八崎が説明しとけばこんな事にはなんなかったってことか?」

「なかなか痛いとこ突いてくるねー。まあ、こっちにも色々とねぇ。やらないといけないことがあるわけよ。だから、この場を借りて遅れたことについては詫びとくわ。すんません。でもよかったじゃん? 怪我してないっしょ?」


 八崎が来た時にはいつの間にかすべての怪我が完治していただけで、怪我をしなかったわけではない。


「勇者同士が戦うことなんざぁそうそうねえから! こんなことはもうねえよ! 心配すんな!」


 二人一組が基本の勇者だが、凶悪な敵に対しては他の勇者たちと協力することも多いらしい。

 この話をもっと早くに聞きたかったのだ。

 そうすれば、シャーロットとの最悪なファーストコンタクトを避けられたに違いない。


「そして、上から記念すべき共闘のご依頼を頂いたわけだ! 十億円の懸賞金の掛かった金城をみんなで捕まえよう大作戦!」


 チョークをもって黒板に文字を書き始めるが、字が汚くて読めない。

 よくもまあ書道部の顧問が務まるものだ。


「俺とシャーロット。んでお前と桜彩音。この四人で、金城を捕らえるのが作戦の目的だ」


 八崎、シャーロットを一瞥し、彩音を思い浮かべる。

 本当にこのメンバーで大丈夫なのか?


「おまっ! 俺を疑うような目で見るなよー。俺は勇者の中でも強い方なんだぜ? 八崎だけに八つ裂きのやっさんとも呼ばれてたほどだ。はーっはっはっ!」


 誰も疑うような目で見てないのだが、勝手にそんな事を(のたま)って、シャーロットに引き気味の視線を浴びせられる男は本当に頼りになるのか、今になって疑問の眼差しを向けた。


「なんだよ、二人揃って疑いの目を俺に向けんなよ! シャーロットなんかは俺が戦ってるとこ見たことあんだろ? 強かったよな? な?」

「さあ? どうだったでしょう?」

「……うん。もういいよ。ここにはいないけど彩音ちゃんにはもう伝わってるから! 彼女がここにいないのは、この前の奴の後始末と病院で検査かな? まあわかんねー。気になるなら後で聞いときな」


 この男は想像で話を進めるのが好きなのか、勝手に気になっていると判断して、話を広げた。

 確かにこの場にいないのは気になっていたところだったので、ちょうど良かったと言えばそうだが。 

 彩音の顔を思い浮かべていると、魔界に引きずり込まれる前の彼女の発言を思い出す。



『どうやったら、この空間から出られる?』

『やっさんに……』

『誰?』



 この時言っていた「やっさん」というのは、どうやら八崎の事のようだ。

 一人で納得していると、フカフカの椅子に足を組んで座って、紅茶を味わっていたシャーロットがカップを皿の上に置いて、片手を上げる。


「ちょっといいですか?」

「なに? 質問? なんでも答えちゃうよー」

「このお方は必要ですか?」


 指一本では行儀悪いと思ったのか、五本指を揃えて此方に向けてくる金髪の美少女。


「ご一緒で、とおっしゃるなら、他の仕事にしていただけません?」

「いやー。それがさあ、シャーロット。この件は上から直々に言い渡されたことでね。そう簡単に断れないんだわー」

「だったら、この方抜きの作戦でお願いします」


 自分抜きでできるならそうしてくれた方がいい。

 此方としても、この前のような痛い思いは、したくないのだ。


「まあ、シャーロットの言い分も分かるんだけどさあ。こいつだって、囮くらいにはなるからさ。作戦にいても問題ないだろ?」

「ちょ、ちょっと待て……!」


 このおっさんは何を言い出すかと思えば、とんでもないことを口にした。

 囮にする? 冗談じゃない。


「ん? お前、自分が戦力になると思ってんの?」

「思ってねえけど……だからって囮はやめろよ! それに金城って奴。俺、この前吹っ飛ばしたぞ? 大したことないって! 絶対俺いらねー!」


 厳密にいうと、吹っ飛ばしたのはあの白い魔物だが、そう大差はないだろう。


「ちょっと金城のこと、なめすぎだぞ? 魔界の治安維持局の職員の証言によるとだなぁ」


 生徒を怒るときも、こんな感じの口調でやりそうな、八崎の話を黙って聞く。


「金城の目的は生前と変わってないらしい。ってことは、また同じような事件を引き起こす可能性があるってことだ。これをほっとくわけにはいかんでしょー? 加えて、その事件てのも凶悪すぎるんだよなぁ」


 「事件?」っと呟きそうになったが、その前に彼は説明し始めた。


「同時多発爆破テロ。お前らが小さいときに起きた事件だが、金城の目的は無差別殺傷じゃなかった。あいつは、ある実験をしていたんだ。ここで問題! 人は死んだらどうなる?」


 普通なら「天国か地獄に行く」とか、「何もない」とかなんだろうが、彼が求めている答えはそれではないだろう。


「幽霊になる?」

「そう。お前が連れていかれた、治安維持局の人々のように、幽霊となって魔界に降り立つ。そのメカニズムは未だに解明されてないけれど、人が死んだその一瞬、魔界と人間界が繋がると言われている」


 黒板に棒人間を描いたと思えば、天使の輪を付けて、白いチョークで塗りつぶされた円を描く。

 絵の意味は理解できそうで、できない。


「つまり、金城は魔界に繋がる扉を人間を殺す事で開けようと試みて、事件を引き起こしたってわけよ。んで、その脅威は未だ存在するとあっちゃあ放っておくわけにはいかないってこと! 以上!」


 髑髏を描いて、それにバツを被せる。


「質問は?」

「囮にしかならないなら行く意味なくない?」

「囮は重要だぞ? それに、二百万貰った件でお前、金城に恨み買ってそーだからなぁ。良い囮になれるよ、きっと。将来有望だなぁ! おっと、いけねえ。俺は色々仕事あるんで、ここらへんで退散させてもらうぜー」


 「じゃな!」というと、忙しそうに教室を出て行った。

 教室に取り残された良とシャーロットとその使用人。

 気まずい空気しかないこの空間に居座る勇気は持ち合わせていないので、出ていこうと決心した。


「あなたは出て行かないの? 部活動をしたいのだけれど」


 墨汁と硯を机の上に準備し始める彼女。

 決心した瞬間に言われたので、逆に出ていくタイミングを失ったような気がする。

 それにしても彼女は本当に書道部なのか。

 見た目は完全に外国人なのに書道をやっているという、何か違和感を覚えるような光景である。だが、国際化が進む今の時代、そう珍しいものでもないのかもしれない。

 集中して、書道に取り組み始めたシャーロットの邪魔をしようものなら、面倒くさい事態になりかねないと部屋を大人しく出ていくことにする。

 二百万円を返してもらっていないことに気が付いて、 部室のドアの前で立ち止まって、彼女の方を振り返ってみる。

 使用人の横で黙々と、文字を描いていた。その背中は少し淋しそうであった。









「なに? だからってお前、二百万円を渡したままさぁ。黙ってここに来たの? ちゃんと金玉付いてる?」

「心配しなくてもちゃんと付いてますよ……」

「心配なんてしてないよ。お前に玉が付いていようがなかろうが、私にとってなんの関係もない話だからね」


 書道部の部室から家には帰らずにいつもの古本屋に行くと、いつもどおり、その人は客をからかうことを楽しんでいる。

 そういうからかい甲斐のある客を呼び寄せるために辺鄙なのところに店を出しているらしい。

 今日は、いつものように本の積み上がった机でだらしない格好のした女性と、他愛も無い話をしに来たわけではなかった。


「笹屋さんって魔界について詳しいですよね?」

「まあ、今のお前よりは詳しいと思うけど……パートナーに聞いた方が早いんじゃない?」


 それはそうだが、聞きにくいこともあるだろう。


「なんだい。お前ら付き合ってないの?」


 お茶を飲んでいたら噴き出すところだったが、生憎、何も口には含んでいなかったため、不発に終わる。


「あれはちょっと馬鹿すぎます」

「ねえねえ。それって誰のことー?」


 笹屋の方を見て話していると、急に後ろから声が聞こえて、目を見開く。

 人がいたというのも驚きだが、それ以上に、聞き覚えのあるその声にぞっとした。それは学校でいつも後ろから聞こえてくる声に似ている。


「いやあ、誰のことでしょう?」


 しらを切りながら、後ろを振り返る。

 そこには笑顔を振りまいた桜彩音の姿があった。


「どうもこんにちは、アヤネさん……今日も頭が良さそうですね」

「どうもありがとう、リョウくん。自分に正直でいようね?」


 それから彼女にボコボコにされたのは言うまでもなく、加えて笹屋さんに聞こうとしてた事まで問いただされた。


「それで? 私に聞きにくいことってなんだったの?」


 自分の内側に存在する、どうにも面倒くさそうな存在について、聞こうと思っていたのだが、よくよく考えてみると、笹屋に話したところで、彩音と然程対応は変わらないと気が付く。

 ただ馬鹿にされるのがオチだ。

 頭の中から変な声が聞こえるなどと言った瞬間に笑われるに決まっている。

 こうしている間にも聞こえてきてもおかしくはないのだが、シャーロットとの戦いの後、その声は響いてこない。

 とりあえずは元魔王のことについて聞いてみるとする。


「元魔王って……どんな奴だったの?」

「知らん!」


 即答したのは勿論、彩音。元から当てにはしていないので、その発言はスルーしつつ、笹屋の方に目を向ける。


「今の龍王が魔王になる前は、ずっと獣王が魔界の王だったんだよ。本に記載されている史実によれば、獣王以外の王が、魔王となったのは今回が初めてだよ」

「ふーん……じゃあなんで、今は龍王が魔王なんですかね……?」


 ずっとその種族の王が魔王だったのなら、そのまま継続して、魔王になるのが普通に思える。

 逆にずっと一つの種の者が、王として君臨し続けた事がおかしかっただけなのかもしれない。


「さあねぇ? 一個前の魔王は勇者にやられちゃったらしいからねぇ。人間ごときにやられるなんてって、信用がなくなったんじゃない?」


 なら、今、自分の中にいる彼女は、勇者にやられてしまった元魔王なのかもしれないという事か。

 元魔王と言っても一個前なのか、それよりも前の時代で魔王だったのかが定かではない以上、決めつけることはできない。


「それより二百万円はどうすんの?」

「え? なになに? 誰かに盗られたの?」


 彩音には言わずに、後で取り戻しておこうと思ったのに、余計な事を笹屋は呟いた。


「シャーロットに盗られたんだよ……んで、次の仕事は金城を捕らえることだって。八崎が言ってた」

「ちゃんと取り戻しといてよねー! それは私もやっさんから聞いた! だから、バスケ休んで、ここまで来たんだよ! リョウがいると思ってね!」


 ここを行きつけにしている事が、バレている以上、うかつにこの場所に来ることはやめておこう。


「今のままだと、リョウは囮くらいにしかならないと思ってさぁ」

「もう既に同じこと言われた。でもお前だって、金城って骸骨に狙われてたんだから、俺より囮に向いてんじゃね? てかなんで狙われてたの?」

「私が可愛いから?」


 「はいはい」と流しつつ、早めに店を出ていこうとしていた時、裾を誰かに握られ、逃げられなくなった。


「ちょっと! どこ行こうとしてんの? このままだと、ホントに囮になっちゃうよ!?」

「いや……そんな事言ったってどうしようもないでしょ?」

「だから、私がどうにかしてあげようって、ここにいるんじゃん!」


 別にどうにかしてもらわなくても、いいような気もするが、彩音はやる気満々らしく、声を張り上げた。


「会心の一撃を使えるようになればいいんだよ! そーすれば、リョウだって戦力になれる!」

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