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第八話 移動


 領主の家にある作戦会議室。

 そこにて、ルナ、リコ、冬樹……そして自警団の代表が集まっていた。

 代表は四十ほどのおじさんに片足踏み込んだ程度の男ではあるが、気さくな笑顔で座っていた。

 

「今回、みなさんに集まってもらいましたのは、これからの戦争についてです」

 

 ルナが司会をつとめ、テーブルに両手をあてる。

 上座にいるルナから、リコ、代表。その対面に冬樹は座っていた。

 正直、場違いな気持ちであった。

 日本にいたころの会議では、すべて部下に参加させていた。

 もともと、上とのやり取りを面倒と思う部分もあったからだ。


「その前に、ルナ様、少しいいですか?」


 ぴっとリコが席をたち、代表と顔を見合わせる。

 二人は昔からの友人のようだ。

 というか、ここにいる三人はみな顔なじみであるようで、作戦会議といってもそこまで思い空気は流れていない。

 リコ、代表がそろってこちらを見てくるのだから、居心地が悪い。


「……きちんとは、お礼を言っていなかった。街を救ってくれて、ありがとうだ」

「自警団からも代表して伝えよう。ありがとう。まるで英雄のようだったよキミたちは」

「……い、いや。俺はルナに頼まれたからやっただけだ。それに、俺よりも四人たちに言ってくれよ。俺だけじゃどうにもならなかったしな」

「その謙虚な態度、さすがなのだ」


 リコはなぜか一方的な尊敬をぶつけてくる。

 二人が席に座りなおしたところで、ほっと呼吸を戻す。

 人助けが当たり前の職業だったため、正面からいわれるのは慣れないものがあった。

 二人の視線が戻ったところで、会議は進行していく。


「とりあえず、今集めなければならないのは兵士ですね」


 ルナの言葉にすぐさまリコが反応する。


「しかし、いくつかの貴族にあたってはいますが……どこも協力は難しいでしょうね」

「……やはり、そうでしょうか?」

「……はい。失礼を承知で言わせてもらいますが、今この街には圧倒的な人間がいませんからね」

「圧倒的、ですか?」

「前領主、ルナ様のお父様は……力で皆を引っ張っていける方でしたからね。魔族相手でも……十分善戦できる方でした」

「そう、ですね」

「……この戦争で、結局最後に焦点をあてるのは相手の神器をどう封じるか、です。それに対抗できる者がいない、この地にわざわざ兵を貸してくれる人はいませんね」


 疑問をもち、ぴっと手をあげる。


「……魔兵ってのは、魔力で作るんだろ? 時間稼ぎって意味でも、魔兵を出してくれる人はいないのか?」

「時間稼ぎといっても、一日の中での時間だから、それほど、な。第一、逃げ遅れてしまえば敵に捕まってしまうのだ。そうなれば元も子もないのだ」

「ほら、遠い場所からでも魔兵を操るとかさ」


 リコは途端、一気に眉間に皺をよせた。

 ルナがあちゃーと額に手をあてる。

 その反応でわかった。これはこの世界の常識、なのだと。


「……ミズノさんは、ちょっと常識知らずな部分がありますので」


 ぼそりというと、リコは一応納得したようだ。


「魔兵には操作範囲があります。ここから一番近い街にいる方でも……まあ、ここまでの操作は不可能ですね」


 ギリギリまで近づいてもらって……ということを考えたが、そこまでの労力を出すのならば、今から罠なりを準備して万全の状態にしておいたほうがいいだろう。

 自分の無知ぶりが露呈しただけで、話し合いは三人の間で進んでいく。


 ……やはり、根底の問題は実力者がいないということであった。

 たまに、ちらちらとこちらに目が向けられる。

 みなが何を言いたいのか、それを理解できないわけではなかった。

 それを強制しないのは、三人の優しさ、であろう。

 やはり、ルナに非情な役割は向かない。

 

「……ミズノ様少し良いか?」

 

 そういって、リコがこちらを向く。

 彼女が何を言いたいのか。

 どこか決意を固めたような非情な瞳。

 そこから、リコが何を口にし、何を押し付けようとしているのかは十分わかった。


「……ミズノ様はどれくらいの実力者なのだ? 話を聞いたところでは魔族をばっさばっさとなぎ倒したとか……」


 そこまではしていない。


「がははっ! 目撃者のオレから言わせてもらうとだな、そこの青年は魔族の拳を片手で受け止め、笑みを浮かべて蹴り飛ばしたぞ!」


 それは誰の戦いの後だ。

 ルナのきらきらとした瞳が、こちらを射抜く。

 ルナがこの中ではもっとも自分の力を知っているはずなのだが、どうにも彼女が一番勘違いしているような気がした。

 それは、期待が幻覚を作ってしまっているのだろう。


「……俺は戦いには自信があるほうだ。けど、神器相手に戦ったことはないから……はっきりとどのくらいの強さかは言えないよ」

「……でしたら、闘技大会に出ないか?」


 口を開いたリコの両目には、何かを企んだような色があった。


「闘技大会?」

「国で月に一度行われるものだ。この闘技大会では、騎士や冒険者が集まり……自分を雇用してくれる人間や、師匠、人によっては恋人を探したりするのだ」

「なるほど……それはいいかもしれませんね! 私もミズノさんの戦いが見たいですし!」

「ルナ様にそんな余裕はありません」

「えぇ……!?」


 しょんぼりと、言った様子で髪とともに肩を落とす。

 沈んだルナを見ていた冬樹だが、リコに問うた。


「その闘技大会で、俺が恋人でも探すってわけでもないだろ?」

「それも一つの候補だ。力を持つ貴族の女性がいれば、もしかしたら力を貸してくれるかもしれない」


 そこで、ようやくリコの狙いについて気づくことができた。


「俺がある程度勝ち残れば……それを使って、他貴族との交渉をするってことか」

「こちらに、実力者がいる、というのを証明できれば、な。何より、国に関わるものが、ミズノ様に力を貸す価値があると思えば……」

「なるほど、な」


 ルーウィンの街に兵を投資するだけの価値を見出せれば良いのだ。

 これはあまり悪い話ではない。

 現在、冬樹は自分の実力がどれくらいなのかがわからない。


 闘技大会で、おおよその実力を計ることができるだろう。

 状況を理解して、拳をぶつける。

 ようは殴り合い。

 単純な戦いであればあるほど、やりやすい。


「なら、闘技大会に参加する」

「では、すぐに向かおう。今から竜を走らせれば……一日もかからずにつくはずだ」


 リコが立ち上がり、ルナもうきうきといった様子で席を離れる。

 そんなルナを見て、リコはすかさず釘をさした


「言っておきますが、ルナ様には……舞踏会に参加してもらいますので試合に集中していられるような時間はありません」

「はぇ?」

「今の間抜けに口をあけた顔もやめてください。他の貴族に舐められます」

「は、はぁ……それで、どうして闘技大会を見てはいけないのですか? 舞踏会の合間に見るくらいいいじゃないですか」

「時間がある限り、今は浅くでいいので関係を広げてください」

「……私、実は人見知りなんです」

「知っています。騎士学校では随分と苦労していたそうですね」

「……な、なぜ」

「家に成績が送られてきました」

「……」

 

 ルナのダメな部分をリコが、立派に補佐している。

 良い関係だ。リコについてあまり詳しくはないが、ルナの右腕というものだろう。

 冬樹は……日本の仲間たちを思いだして、少し落胆してしまう。

 あいつらは……今心配しているのだろうか、と。


「それじゃあ、オレたちは……拠点の場所を検討してくる!」

「はい、お願いします……あの四人共も使えるようでしたらこき使ってください」


 リコはあまり四人には良い感情を持っていないようだ。

 冬樹をリーダーにした理由がよくわかる。


「……リコ。私は何をするのですか?」

「ルナ様は舞踏会で貴族を誘惑したり、今後のことを考えて友を増やします。貴族からは力を貸してもらわなければなりませんが……難しいでしょうね」

「い、色仕掛け……ですか。騎士団で……簡単にですが習いましたね」

「問題は色気でもっとも大事な胸がない部分ですが、それはおいおい考えるとしましょう」

「考えてどうにかなるのですか!?」

「難しいでしょう……が、それ以外でも誘惑は難しくありません」


 ルナががくりと肩を落とし、とぼとぼと部屋の外へと歩いていく。

 リコもまた緊張を抜くように息を吐いてその背中を追っていく。


「ミズノ様。南の国について、少し話がしたいので私の部屋に来てくれないか?」

「ここじゃダメなのか?」

「いくつか資料があるのだ」


 資料がどれほどかわからない以上、もってこいとは言えない。

 別に彼女の部屋が嫌というわけではない。

 ただ、一応は年頃の女だ。

 娘のヤユでさえ、最近では部屋に無断で入ることを拒否しているために、ついそう質問しただけだ。

 共に部屋へと入る。

 部屋は質素であり、ぬいぐるみなどはあるはずもない。

 それもそうか。

 明日には死ぬかもしれないような世界で、部屋に力を入れられるのはよっぽど余裕のある人間だけだろう。

 彼女が用意した椅子につくと、リコはいくつかの紙を見せてくれる。


「こちらが、南の国が人間の土地だったときの地図なのだ」

「……なるほどな」


 ついでに、この街の地図ももらう。

 以前自作したものよりも精巧に作られている。

 やはり、その道の人間が作ったものとなれば、それなりの質となるだろう。


「これはもらってもいいのか?」

「街を救ってくれたお礼でもある。遠慮せずもらってくれ」


 紙は貴重なほうなのかもしれない。ありがたく頂く。


「……南の国に、娘さんがいる、というのは誘拐されたのか?」


 確かに、地球からこの世界へは誘拐がきっかけだ。

 だが、リコはそういうことを言っているのではないだろう。

 

「いや……ちょっとした手違いで、な」

「そうか。まあ、深くは聞かないでおこう」

「ありがとな」

「……それで、娘さんだが……たぶん、悪いようにはされていないだろう」

「……と、いうと?」

「支配されてからも、特に人間たちが奴隷のようにこき使われているなどはないようなのだ。普段通りに生活をし、魔族が街を自由に行き来できるようになった、くらいのものらしい」

「そうか……」


 宣戦布告さえなければ、あっさりと街に入れただろう。

 そう思うと、タイミングは悪かった。

 だが、ヤユが酷い目にあっていない。その可能性が高まっただけ今はよしとしよう。

 ホッと息をもらすと、リコが吐くように笑った。


「なんだよ?」

「……なんというか、ルナ様が助力を求めたのも理解できるのだ」

「え?」

「一人の人間の父、というからだろうか。どうにも、前領主様に雰囲気が似ているのだ」

「そうなのか?」

「ああ、ルナ様は意外と人を見る目はあったのだな」


 くすりとリコは笑みを作った。

 リコはルナと同い年くらいに見える。

 しかし、今のリコの笑みには、まるでルナの母親か何かのような大人の微笑みがあった。


「色々抱えてるんだな」

「……」


 リコは呆けた顔でこちらを見て、それから小さく笑みを作った。

 今度は、子どもらしい笑みだ。


「ルナ様のために……私は頑張らなければならない。さて、竜車の用意もできているはずだ。外に向かおうか」


 一通りの資料に目を通しながら、冬樹もリコの背中を頼りに歩いていく。

 パワードスーツの地図に地形を書きこんでいると、着飾ったルナが外にいた。

 それと、二人のメイドが待機している。


「あ、ミズノさん。どうでしょうか?」

「おー、悪い虫がつきそうだな」


 父親的な視線でルナの衣装を見る。

 少しばかり肩を大胆にだし、背中側も肩甲骨近くまで見えている。

 胸こそリコの指摘通り悲しいが、それがすべてではないだろう。

 人との関わりが多い冬樹からすれば、ルナのようなタイプは付き合いやすいとも思っている。

 これならば……ある程度の助力も期待して良いのではないだろうか。

 付き添いということで、メイドが二人いる。


「ルナの護衛とかは必要ないのか?」

「一応、私がやる予定だ。貴族とはいっても、ルナ様に大した力はないからそこまで危険なことはないと思うが……」


 しかし、リコに自信はない。

 闘技大会に出ない時間は、冬樹がついていればいいが……、とそこで数人の顔が浮かんだ。


「後一人か二人追加してもいいか?」

「護衛に心当たりが……?」

「四人の誰かだよ」

「……げぇ」


 わかりやすいほどに表情をゆがめた。

 とはいえ、背に腹は変えられないといった様子だ。リコは小さくうなずいてくれた。

 屋敷に戻り、盗賊たちの部屋をめぐっていく。

 すると、ちょうど四人は一つの部屋に集まっていた。

 

「おい、ちょっといいか? これから、クロースっていう街に向かうんだけど……ルナの護衛を一人か、二人欲しいんだ」

「……護衛、か。オレは守るのは苦手なんだが……」

「なら、僕が行くよ! 女の子のためなら、水の中だって行けるさ!」

「……確かに、女の護衛なら適任、だろうなぁ。……だけど、お目付け役が一人必要だよな」


 ちらとニバンをみると首が振られる。


「……私は無理よ。情報収集に力を入れさせてもらうわ」

「オレも、自警団に協力を頼まれている」


 トップとニバンがダメとなり、必然的にイチに視線が集まる。

 イチは待ってましたとばかりに手をあげて、笑顔をふりまく。


「はい! 私はこういうときのためにいるんだよねー! 任せてよー!」

「イチは基本何でもできるから……確かに、ちょうどいいかもしれないな」


 トップとニバンの許可もおりたので、二人をつれて竜車に戻ってくる。

 リコは明らかな苛立ち顔。ルナはどこか歓迎するような眼差しだ。


「というわけで、候補の二人だ」


 なんとも居心地悪そうにイチが笑顔で頬をかく。


「うひょうー! 貴族の舞踏会かぁ……美人さんいっぱいいるんだろうなぁ! ぐへへっ!」

「サンゾウ、あまり変態な面は出さないようにね」

「わ、わかってるけど、興奮が止まらないよ! ああ、ズボンが苦しくなってきたなぁ! 今日は忙しいや!」

「……」


 リコの刺さるような視線を受け、たまらず顔をそらす。

 人選としては間違ってはいないはずだ。

 貴族の場にふさわしいかとなると……それはリコが判定するだろう。

 リコはしばらく二人を眺め、


「……確かに、優秀ではありそうだな。貴族たちに好かれそうな体つきの良い体でもあるのだ」

「あはは、貴族さんに褒められると嬉しい限りですなー」


 イチの同行はすぐさま認められる。


「あ、リコちゃんっていうんだ? いやー可愛いねぇ、昨日借りてた水鉄砲みたいに僕の欲望が発射しそうだよ!」

「……なにやら意味のわからないことだが……とても不快さを感じたのだ。だが……着飾れば顔は整っているし、誤魔化すこともできそうだ」

「やっぱり、僕のかっこよさに気づくんだね。リコちゃんかわゆい! チューしたいね!」


 昼間から酔っ払っているかのようなテンションの高さだ。


「……」


 リコがじろっとした目を向けてくる。

 ここまで評価をさげてしまったのだから、仕方ない。

 こちらで最低限のフォローくらいはしておく必要があるだろう。


「イチは何でもそつなくこなせるらしい。身の回りの世話、護衛を任せるにはちょうどいいとおもう。それに、サンゾウは女に対して熱心だ。ルナの護衛ならしっかりしてくれるよな?」

「さすがリーダー見る目あるね! 僕は、絶対に女の子を見捨てないよ! そりゃあもう、敵だろうが味方だろうが、隙あればおさわりよっ!」

「……」


 フォローしたそばからこれだ。

 肩を落としたくなったが、リコは諦めたように首を振った。


「……人材が不足しているのは仕方ない、な。だが、サンゾウ。もしもルナ様、他の貴族に変態な行為へおよんだ場合は、相応の処置をされる。覚悟しておくんだぞ」

「牢獄に美少女っているのかな。看守さんとかでもいいんだけど……あっ、見た目可愛かったら男でもいいや!」

「見習いたいくらいの前向きなのだ!」


 リコは怒鳴りつけるようにして、髪を風に乗せるように回る。

 それでも拒否の言葉はなかった。

 二人を先に竜車に乗せてから、冬樹も乗り込み、扉を閉じた。

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