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最終話



 戦争については、こちらの勝利ということになった。

 だが、ルナは管理する土地が増えるのも面倒……ではなく大変ということで、レナードに相談をした。

 もともと、あそこの領主は国の政策に対して不満が多かったらしく、今回を理由に別の領主にすることができるということになる。


 街にいた百人近い魔族は……ルーウィンの街でひとまず預かることになる。

 まあ、魔族とはいえ悪い奴は少ない。

 確かに仲は悪いかもしれないが、ミカーヌフェやレイドがいることもあり、魔族側は非常に落ち着いている。

 ルナやリコも人間たちに話をしているため、まだ大丈夫だ。起こるとしたらこれから、だろう。


 領主の屋敷。

 盛大なパーティーが開かれ、今も庭は騒がしかった。

 冬樹は自室の窓をあけて、空を見上げながら安堵の息をついた。

 無事にヤユを救出できてよかった。

 そうなると、次に考えるのは地球に戻ってからのことだ。


 今まで通りの生活は送れないかもしれない。 

 そうだとしても、地球に戻る必要はあった。

 ヤユにとっては、あそこが故郷なのだから。

 ヤユも戻りたいと行っていたし、何より兄に報告もしておかなければならない。

 窓の外を見ていたが、扉をノックされる。


 返事をすると、扉が開けられる。ルナがいつもの服装でたっていた。

 家のパーティーくらいはラフな格好で参加したいそうだ。体をそちらに向ける。

 歩いてきた彼女は冬樹の隣に並び、笑みを浮かべる。


「……フユキさん、ヤユさん見つかってよかったですね」

「ああ、本当にな。元気そうで何よりだ」


 外で年の近いイチと一緒にいる姿が見られる。

 笑顔もようやく増えてきて、心から安心する。


「……けど、これでフユキさんはもう地球に戻ってしまうんですよね?」

「ああ、一応戻れるってのはわかったよ。まあ、でもこっちの世界にもいつでも移動できるみたいだけどさ」


 すでにパーティーの準備が行われている間に、ヤユと確認したことだ。

 まだこちらでやり残したことがあるため、こちらに残っているが。

 一人ずつへの別れの挨拶。

 既にレナードは王都へと出発してしまったために、ここにはいないが、また会えるときに感謝は伝えればいいだろう。

 毎日こちらに戻ってこれるほど、お互いに暇人ではないが、まあそこは運に任せるしかない。


「……ルナ、今までありがとな。あんたに会わなかったら、俺そこら辺でのたれ死んでいたかもしれない」

「それはいいすぎですよ。私も、フユキさんに会ってなかったら……今こうしてこの土地で暮らせていなかったかもしれません」

「だったらいいんだけどさ……なんだか、俺ばっかり頼っていたような気がしてさ」

「そうですか? 私のほうが頼っていたと思いますけど」


 譲り合っていると、ルナが不意に言葉をもらす。

 なぜだろうか、どうにも彼女の表情は真剣そのものだ。


「……フユキさん。異世界とか地球とか……今そういうのはなしにして、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「私がもしも、フユキさんのこと好きっていったら、どんな返事をしてくれますか?」

「……もっと若くて良い奴はいっぱいいるだろ?」

「今の私には、フユキさんが一番です」


 そういってもらえるのは素直に嬉しかった。

 男として、これほどの女性にそういわれて、嬉しがらない人間のほうが珍しいだろう。

 冬樹も向き直り、それから軽く頭をさげる。


「ごめんな。俺はそういうのは考えていないんだ。例え、この世界の出身だとしてもな」

「……そうですか。あはは、振られちゃいましたね」

「……」


 冬樹は頬をかくしかない。

 別に嫌いではないが、女性として、好きというわけではなかった。

 そもそも、彼女を女としてみたこともなかった。

 どちらかといえば、ヤユと同じ娘のような存在だった。


 ……それを伝えるのは、さすがに酷であるだろう。

 小学生が教師に好意を抱いてしまうのと同じようなものだろう。

 そう考えて、冬樹は外に視線を戻す。


「……フユキさん。それじゃあ、私も外に行きますね」

「ああ、俺も後でいくよ」


 短くそういうと、ルナはゆっくりと扉をしめて去っていった。

 冬樹は一つ呼吸をついてから、廊下に出る。

 すぐにみつけたのはニバン、サンゾウ、トップ、イチ、ヤユたちだ。

 それぞれ、肉を口に運び、がさつに食べている。

 たまに談笑している彼らに近づく。


「おまえら、ありがとな」

「……何がだ?」

「おまえたちがいなかったら、そもそもこの街はなかったかもしれないんだ。だから、その感謝をな」

「それはこっちもだ。あんたに誘われていなかったら、オレたちはそもそも、ここにはいないんだ」


 サンゾウとニバン、イチも笑みを浮かべる。

 冬樹は彼らにそれだけを伝えて、会場へと歩いていく。

 クロースカとワッパだ。

 二人はドワーフ同士通じることがあるようで、よく一緒にいる姿を見かける。

 こちらに気づいたワッパがぱっと表情を明るくする。


「フユキ! 本当に……地球に戻ってしまうのですか?」

「まあな」

「私も……」

「それはダメだ。第一、俺もたまにはこっちに顔を出すつもりだ。だから、それまでの少しの別れだ。そのくらい我慢できるよな?」

「……はい。寂しい……ですけど、我慢します。そのときに……フユキを夫とします!」

「……ああ、悪いけど、俺はおまえと付き合ったり結婚したりするつもりはないんだ」

「……うぅっ! けど、いつか……振り向いてもらえるようになりますから!」

「……へいへい」


 ワッパが拳を固め、その隣でクロースカが手をあげる。


「師匠のおかげで私も少し成長することができたっす! ありがとうっすよ!」

「俺だって、おまえには結構助けられてるからな。おあいこだろ」


 二人にも、軽い感謝を伝えてから別の場所に向かう。

 リコとルナの姿を見つけ、すぐにそちらへ向かう。

 ルナにはさっきも伝えたが、また同じように感謝を重ねる。

 ふうと一つ伸びをする。


 後は、ミシェリーとスピードスターくらいだろう。

 戦争のときの感謝もあるし、ミシェリーにはその他色々と手伝ってもらっている。

 彼女らがいる場所を探していると、二人が一緒にいる姿を見つけた。


「……だーりん」

「……よ、ミシェリー。そのだーりんをいい加減やめてくれよ」

「だーりんは、地球に戻る、だよね?」

「ああ」

「わぅぅ……」


 スピードスターも悲しげに耳を下げる。

 犬の体を撫でながら、冬樹はミシェリーに頭をさげる。


「色々とありがとな」

「……だーりん、私はだーりんのこと好きだよ?」

「ごめんな。俺は別に好きじゃない。もちろん、友人としては好きだし信頼もしているけど、女としては見たことがない」

「……胸がないから?」

「違うっ。単純に……最初からそうは思えなかったんだよ」


 ルナは単純にヤユとどこか被る部分があったから。

 ミシェリーの場合は、ヤユとはいわないが年下の……部隊の仲間でも見ているような気分だった。

 良い仲間とは思っているが、それ以上の感情はない。

 素直に伝えると、ミシェリーは頬を膨らませたあとに腕を組んだ。


「まだまだ、諦めないから」

「……えぇ」


 冬樹は疲れのまざった声をあげると、ミシェリーが体を寄せてくる。


「もっと愛せばきっと」

「……ええと」


 なんて答えればいいのか迷っていると、


「……フユキさん?」

「お、おうルナ、とリコ」

「……ここでは食事を楽しむのだぞ」

「フユキは女を食べている」

「食ってねぇよ! ヤユに聞かれたいらん誤解をされるだろ!」

「聞いてるけど?」


 冬樹の背後から声が聞こえる。

 ゲートを使い、トップたちとともに楽しげにこちらを覗いている。


「おっさん、意外とモテるんだね。あたしのことは気にしないでいいから、素敵な恋を探すといいよ」


 一番楽しそうにしているヤユに冬樹は助けを求めるように手を伸ばす。

 しかし、ゲートが閉じる。


「……いい娘さん」

「……そうか? いい娘ならここで助けてくれると思うんだけど」


 それから冬樹は、ミシェリーたちと共に行動する。

 もちろん楽しかったが、こうして遊んでいられるのも、恐らくは今日が最後だろう。

 そう思うと、少しばかり悲しくもなってきてしまった。


 ○

 

 パーティーで盛大にはしゃいだが、今日地球に戻るということで身体はきちんと朝に起きてくれた。

 地球で着ていたスーツに身を通し、体の調子を確かめながら部屋をでる。

 朝食を食べにいくと、すでにヤユもおきている。


 少しばかり眠そうにあくびをしているが、こちらに気づくと軽く手をあげる。

 返事を返しながら、今日の予定を簡単に確認して食事をとる。

 食事を終えて、庭に出る。

 屋敷にいた冬樹の知り合いたちが外にでて、ヤユを見る。


「大丈夫か?」

「……うん」


 ヤユは小さくうなずき、それからゲートを作りだす。

 白いゲートの先には、地球の建物が行くつも見えた。


「わぁ……見てみたい……です」


 ワッパが興奮を抑えきれないようでふらふらと近づいてくる。

 クロースカがそれを押さえ、全員に苦笑が生まれる。

 

「……それじゃあ、みんな、今までありがとな」

「別に、また戻ってこれる、ですよね?」


 ルナが代表していってきて、冬樹は頷く。

 いつになるかはわからないが、落ち着いたらまた戻ってくる。

 ヤユも大きく手を振り、見にきてくれていたミカーヌフェとレイドが抱きあいながら涙を流す。

 まるで、小学校入学を見に来た親のようだ。

 というか、一度、冬樹と兄で同じようなことをやったことがある。


 ヤユが落ち着いたところで、冬樹は共にゲートをくぐる。

 目を閉じながら歩き、数秒後車の音に目を見開く。

 ああ、見慣れた世界だ。――懐かしい。

 そう思えてしまうほどに、冬樹には感動があった。


「……地球だ!」


 思わず叫ぶ。

 地図を見直すと、すべてきちんとインプットされている。

 まぎれもない地球の、自宅のあるマンション前だ。

 と、同時に部下からの通信が入る。

 冬樹は即座に返事をする。


『た、隊長! 隊長ですか?!』

「ああ、隊長だ。悪かったな、留守の間そっち任せて」

『い、いえ……そ、そうだ! またあの二人が別の部隊に喧嘩を吹っかけたり……それに、他にも色々仕事があって……留守の間のことも知りたいですし、今すぐにこれますか!? 一応、季節はずれのインフルエンザということにしておいて誤魔化してはいますが……』


 優秀な部下を持ってよかった。


「あー、ちょっと色々してからな」


 電話をきり、家の鍵を開けながら、ヤユとともに部屋に入る。

 ヤユの学校にも連絡をしておかなければならないだろう。

 やることがたんまり残っていて冬樹はため息しか出てこなかった。


「お義父さんっ、とりあえず……」


 何かをしようとしたところで、ヤユの腹がぐーとなる。


「……とりあえず、飯でも食べるか?」

「うん。久しぶりにあたしが料理するから」

「……。うん、とびきりうまいのを頼むよ。……って冷蔵庫のもの大丈夫か?」

「冷凍の野菜とかあるしね。足りない分は、お義父さんが買いに行ってきてよ」

「俺をこき使うとはいい度胸だな……よし、それじゃあよろしく頼むな!」


 冬樹はヤユに笑いかけ、ヤユも笑顔を浮かべて頷いた。


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