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第六話 ルーウィン奪還5

「さて、と。……それじゃあ、武器は持ったな?」


 夜になったところで、盗賊四人に訊ねる。

 今、四人は水銃を両手で持っている。

 冬樹が作り出した領域の中でのみ、その武器たちは形を維持できる。

 日本のままでは、距離を離しての戦闘は無理だったが、ここではまだまだ領域は広げられる。

 四人はそれをどうにか構えて、ようやく十分に扱えるようになった。


「……それにしても不思議な魔法だな」

「いいだろ?」


 四人は顔を顰めながら、水銃を観察していた。


「……あまり、水を持ちたくはないな」

「本当にね。僕には似合わないよ」

「……確かに、嫌だけど……水を浴びせられた魔族たちの顔を想像しても楽しもうかしら」

「うーん、使い勝手はいいよねー。これぶつければ、魔族は大ダメージだしね」


 ちらと湖近くでホースを構えているルナを見やる。

 冬樹が一番心配しているのは彼女だ。


「大丈夫か?」

「は、はい……ちょっと大変ですけど」


 よっこらしょ、といった感じでルナはホースを街のほうへと向ける。

 ホースの二つある口部分の片方は、湖に入っている。

 このホースは特殊で、近くの水場に入れると中の機械が水を吸い上げて使用できる。

 中に水を吸い上げる機能があるらしいが、これも魔法だったのかもしれない。


「ルナはここでスピードスターと待機することになるけど大丈夫だよな?」

「はい。……それよりも、みなさん頑張ってくださいね」


 ルナの声援を受けたサンゾウが嬉しげに目を細める。


「やっぱ美少女の声援っていいねぇ! こっちの女二人はどっちも健康な色気ってのがないからダメなんだよねぇ」

「まあ、サンゾウに色気あるって言われて迫られても困るんだけどねー」

「……同文ね」

「サンゾウ、ふざけてないで歩け」

「トップはもう少し女に興味持とうぜー、なーミズノさん?」

「ま、そうだな」


 トップとサンゾウをあわせて割ればちょうど良くなりそうなものだ。

 ルナは不安げにこちらを見てくる。


「それじゃあ、スピードスターっ! ちゃんと、ルナの命令を聞いて吠えてくれよな?」

「わんっ!」

「……頑張ってください」


 ルナがぽつりと呟き、頷いて道を下っていく。

 街の入り口が見えるところまで到着し、冬樹は湖の方へ光を照らす。

 それが合図、とばかりに、


「ワオォォォォーン!」


 スピードスターの遠吠えがあたり一面に響く。

 それと同時に、空へといくつもの水粒が落ちる。

 ルナの攻撃が始まった。

 喧騒が街を包み、慌しくなっていく。


「……おまえたちの役目は、ここで敵をひきつけること。何しても構わないけど、無茶はしないでくれ」

「……あんたは大丈夫なのか?」

「俺の心配はするなっての。それより、おまえら絶対に死ぬような無茶はするなよな?」

「なんだよ。ミズノさん、僕たちを使い捨てるとか考えているんじゃないの?」

「……おい」


 トップが小突いてくる。

 時々、こそこそと何を話しているかと思ったらそんなことを話していたようだ。

 サンゾウは後頭部に手をやり、トップは片手を腰にあてる。


「……ま、協力してくれる奴ってつまり友達で、仲間みたいなもんだろ? 死なれたら嫌だって普通じゃねぇか?」

「……そう、だな。わかった。オレたちはオレたちにできる限りで敵を引きつける」

「よし、なら俺もさくっと終わらせてくるからっ」


 街の塀を頼りに移動していく。

 後方……そちらでは四人が魔兵を作り、出てくる魔族をひきつけながら水銃によってあしらっていく。

 たっぷりかけられる時間は一時間もないだろう。

 貴重な時間をもらい、例の小川を使った水路へと向かっていく。

 パワードスーツをまとう。

 水路はそれなりの大きさであるため、人一人程度ならば問題なく泳いでいくことができる。


 柵でふさがれている部分はあるが、その中を泳いでいくことはできる。

 柵にぶちあたったところで、冬樹は潜る。

 まさか、水の中を通ってくるとは思っていないだろう。

 それが敵側の盲点だ。

 水路から橋の下まで泳いだところで、顔をゆっくりと出す。

 パワードスーツを装備すれば呼吸はまったくしなくても大丈夫だ。

 外をちらと見ると、まあ耳に痛いほどの怒号が聞こえた。


「……なんだこの雨は!?」

「……わ、わかりません! 雨雲は一切ありません! 雨が降ること自体がおかしい状況です!」

「ならば、水魔法か……っ。くそっ! あの賊共め!」

「レッド様に報告は!?」

「領主の部屋で楽しむところだな……。とにかくレッドに報告だ! 魔兵を使う場合には布で身を覆うなりして工夫するんだ!」

「そ、それが……さっき向かった二名の魔族は……水に打ち抜かれてすぐにやられてしまいました」

「なんだと……? そんなに水魔法の使い手がいるのか。一度、雨が届かない場所に避難して、作戦を立てるぞ」


 橋の上から話し声が聞こえた。

 レッドというのがリーダーで、今話している男は副リーダーというところだろうか。

 何人もに声をかけられていく副リーダーは声を強めながら去っていく。

 雨が届かない場所……それは街の西側だ。


 そして、地図の西側でまったく影響を受けていない場所に、ちょうどよい建物がある。

 ひとまず、水中からあがり、パワードスーツを一度解除する。

 濡れているのも嫌だったし、何よりパワードスーツでは目立つ。

 街の中にさえ入ってしまえばこっちのものだ。


 今も外では戦闘が繰り広げられている。

 橋からあがり体を軽く動かす。

 周囲に人は誰もいない。雨から逃げるように皆が移動しているのだろう。

 おかげで動きやすかった。すぐに近くの建物の影に隠れる。

 副リーダーがいては、リーダーを倒しても敵が降伏しない可能性がある。

 ……仕方ない、か。


 直接戦闘は出来れば避けたかったが、一人ずつ消していくしかない。

 西側へと追いかけていくと、街の人が多く集まっていた。

 よく見れば全員首輪がつけられている。奴隷として、扱っていたのだろう。

 その中で二人ほど魔族が警戒に当たっている。

 チャンスだ。


 人々に紛れ込むようにして歩き、大柄な男の背中で水鉄砲を展開する。

 あの四人に貸しているマシンガン並みに撃てるものではなく、本当にお遊びの水鉄砲。

 日本ならそこら辺のコンビニで売っているようなものだ。

 これが魔族には大ダメージとなる。


 水鉄砲を魔族二人に向け、引き金をひく。

 ぴしゅっと水が放たれ、真っ直ぐに魔族二名の顔に当たる。

 と、彼らはそのまま悲鳴をあげた。


「ぐ……あぁぁ!?」

「み、水だと!?」


 何度かぶつけると、二人は気絶した。

 これで倒せるのならば、地球の一般人でも問題なく倒せてしまうだろう。

 倒れた魔族に驚いたのか、街の男たちがこちらを見てくる。


「あ、あんたは……?」


 返事のかわりにパワードスーツを展開し、水銃を作りだす。

 今度は大きいサイズの水銃。

 

「何事だ!?」


 建物から魔族が叫んで出てくる。

 そいつに水銃をぶつけてやると、威力に弾かれ、水による追加効果で気絶する。


「な、なんだ!?」

「ば、馬鹿やめろ! 外に出るな!」


 副リーダーと思わしき声が届いたが、その男はすでに外に出ている。

 もちろん水銃で打ち抜いてやり、水銃を消して両手に水鉄砲を持って建物へと入っていく。


「……よ、この街をもらいにきたぜ、魔族さん」

「き、貴様何者――」


 相手は魔法を持っているため、下手に時間をかけるつもりはない。

 さっさと水を全員にばらまき、動きを封じたところで水銃で掃除していく。

 敵は数秒で全員気絶した。

 建物内に気配はない。外で二人がやられたと言っていた。冬樹が倒したのは七人。

 残るはリーダー一人だけのようだ。


「あ、あの……あなたは何者なんですか?」


 街の人が聞いてくる。


「領主に頼まれた傭兵みたいなもんだ。ちゃっちゃとリーダー倒してくるから、おまえたちはこいつらを動けないようにしておいてくれ」

「……わ、わかりました」


 領主の家へと向かう。街で一番のサイズだわかりやすい。

 鍵がかかっていないのは、油断からだろうか。

 家の中にはいくつか高そうな品がある。ここで派手な戦闘を繰り広げれば、その損害は想像したくもないほどだろう。

 廊下を照らすあかりは、不思議な石から生まれている。 

 足音を立てないよう移動すると、ある一室から女性の悲鳴が聞こえてくる。

 すぐさまそちらへ向かう。


「……や、やめてください! 私は……!」

「けっけっけっ、いいじゃねぇかよ!」

 

 そんな下卑た声と何やら走り回るような音。

 扉を蹴り開け、言葉を受ける前にさっさと水鉄砲で気絶させる。

 それにしても呆気なかった。

 魔族の体を動けないように縛り付けてから、すぐさま外にいる盗賊たちの元に向かった。



 ○



「リコ!」

「ルナ様っご無事だったのですね!」


 領主の家へとルナを連れてくると、真っ先にリコという女性に抱きつく。

 先程襲われかけていた女性だ。

 四人はポカンとした様子でルナを見ていた。


「……あいつ、おまえの奴隷じゃないのか?」


 トップが指をさしこちらを見てくる。


「あ、悪い悪い。ルナはここの領主だ」

「な、なんだと?」

「……ま、なんでもいいけど可愛い女の子いっぱいいるじゃん! 一人くらい手つけても……」


 サンゾウが救出したメイドをみると、女二人が殴って動きを止める。


「……いいのかそれで?」


 サンゾウの扱いに引きつった笑みを向けながら伝える。


「うん。さっきの戦闘で調子のってやられそうになったからこのくらいやっておかないとね」

「……ええ、こいつのせいで死にかけたのよね。毒でも飲ませましょうか」

「それはやめておいたほうがいいかなー」


 ルナはやがてリコから離れ、冬樹の前にやってきて頭をさげる。


「ありがとうございました! あなたのおかげで、見事に助けることができました……っ」

「ま、よかったよ」


 一つ伸びをして、冬樹は緩みかけていた集中を戻す。


「……早速で悪いんだが、こいつらへの褒美はどうするんだ?」

「……そうですね。ひとまず、余っている部屋が屋敷にはいくつもあるので、そこを利用してもらうというのはどうでしょうか?」

「……だそうだ」

「い、いいのか?」


 トップが困惑気味にいい、サンゾウがそんな彼に肩を組む。


「おいおい、素直にもらっておこうよ。んじゃ、領主さん、僕たち疲れたから早速眠りたいんだけど、部屋に案内してくれない?」

「……おい。おまえたち、あまりふざけた態度をするな。賊のくせに」


 リコが厳しい目を向ける。


「……リコ、彼らがいなければこの街を奪還することもできなかったんですよ?」

「……そうですね」

「それに……オレたちは賊じゃない」

「……」


 トップの言葉を受け、リコは四人をメイドに案内させる。

 どうにか無難に終わり、それから冬樹は 


「……一日くらい休んだほうがいいのではありませんか?」

「そうはいってもな……あいつ、結構泣き虫だから……一人じゃ何もできないんだよ。だから、すぐに迎えに行かないと」

「……ルナ様、詳しい話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」


 リコがそう言ってくる。

 ルナが簡単に話をすると、リコは頭をさげてきた。


「先程はありがとうだ。……それで、南の魔族の国に向かう、という話だが……今のままで向かうのは危険だ」

「……それはわかってるよ。けど、水が弱点なんだろ? だったら、どうにか突破できるような気がしないでもないんだよ」

「肉体的な疲労の話だ。……もうずっと戦いっぱなしなのではないか?」

「……ま、まあ……それは気合でどうにか」


 リコにそういった瞬間、彼女は一歩を踏み込みナイフを首元に近づけてくる。

 ギリギリ反応して防ぐことができたが、リコはほらとナイフをしまった。


「失礼した。……私はあまり強いほうではない。そんな私に、ここまでの接近を許したのだ。魔族の国に入るというのは休みなく戦う可能性も出てくる。万全の状態のほうがいいのではないか?」

「……それは」

「第一、魔族相手に正面から戦いを挑むのは危険だ」


 わかっている。けど、ヤユが心配だった。

 ……この世界に来てから、ヤユの過去を知ることができた。

 一人でいるときに寂しげな表情をするヤユ……その意味を知ったから、近くにいたかった。

 だが、死んでしまってはもともこもない。

 悔しさに歯噛みしながら、頷いた。


「……わかった。今日はここに泊めてくれないか?」

「……すぐに準備させるのだ。南の国についての情報は、今から集めておこう」

「ありがとな」


 案内された部屋で横になると、確かに身体は疲れていたようだ。すぐに眠ってしまった。

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