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第五十七話 変化



 斬撃が飛ぶ。

 冬樹は震刃と魔力領域によりどうにかそれらを逸らしながら攻撃を回避する。

 背後にあった森が、あっさりと切り裂かれる。

 なぎ倒された木々をみながら、冬樹は震刃を振りぬく。


「……ははっはっ! 男でこれほど強い奴は初めてじゃぞ!」

「俺だってこんなヤバイ相手は初めてだっ」


 どれだけ震刃を振るっても、ミカーヌフェはあっさりと回避してしまう。

 魔法を破壊しても、すぐさま撃ってくる。

 ハイムとの訓練で、敵がノータイムでの連続魔法をしかけてくるのは理解していたが、まさかこれほどの威力を連発されるとは思ってもいなかった。

 遠くでも雄たけびと戦闘が繰り広げられているのがはっきりとわかった。

 爆発音、さらには空かの奇襲によって……なかなかいい対決をしているようだ。


 魔力探知内で、敵と思われる魔兵が続々と減っていく。

 ミカーヌフェを押さえつければ、どうにでもなる。

 冬樹は跳びあがり、空中で魔力を固めて震刃を振るう。


 ミカーヌフェは剣を横に振りぬく。魔力の塊を震刃で破壊するが、すぐさま二撃目が飛んでくる。

 震刃で受けるが、弾かれる。

 冬樹はパワードスーツをまとい、近くの地面に線銃を打ち込む。

 無理やり転がって着地する。


 ミカーヌフェが剣を振りぬき、水の刃が雲を切り裂くように空へとのびていく。

 冬樹は体を起こし、震刃でミカーヌフェの攻撃を待ち構える。

 

「はっ! ここまで接近してくるとはな! くくく、心が躍るんじゃ! もっと、わしを楽しませるんじゃ!」

「……っ」


 パワードスーツをまとっても、ミカーヌフェを力で押し切れない。

 冬樹は仕方なく、切り札を放つ。

 震刃の刃をなくすと、均衡していた力を失いミカーヌフェの体がぐらつく。

 その隙に、彼女の胸元の魔石へと拳を放ち……そこで、ミカーヌフェの体から魔力が放たれる。


「ライトニングボム!」


 ミカーヌフェが叫ぶと、周囲に電流まじりの衝撃が走る。

 敵を弾き、さらに電流で痺れさせる魔法のようだ。

 パワードスーツがある程度の電気に耐えられるつくりでなければ、冬樹はまともに動けなくなっていただろう。

 弾かれた冬樹は着地するが、すぐさま水の刃に襲われて震刃で受ける。


 彼女の基本戦術は、これなのだろう。

 確かに、これだけ攻撃力があるのならば、近接戦闘など馬鹿らしくもなるだろう。

 放たれた水の刃を弾き、冬樹は左手に砲銃を取り出す。

 数発の魔力弾がミカーヌフェを襲うが、現れた水の障壁によって防がれる。


「見たこともない魔法に、見たこともない鎧、見たこともない剣! はっはっはっ! わしは今最高に高ぶっておるんじゃよ!」

 

 両手を広げるようにして叫ぶミカーヌフェに、焦りの表情はない。

 冬樹も対抗の気持ちで笑みを作る。

 まだまだ、こちらだって手札はいくつもある。


 とにかく、今は敵の魔法をどうにかしなければならないだろう。

 ハイムが協力してくれればラクでいいのだが、彼女は基本的に戦闘を嫌っている。

 魔本がらみでなければ協力はしてくれないだろう。


『……ふんっ』


 ハイムがどこか苛立ったような声をあげる。

 ミカーヌフェに注意をしながら、そちらに耳を傾ける。


『……ハイム? どうしたんだ?』

『……今調査中』

『あぁ?』

『……はっきりとはしないから、わかったら伝えるわよ』


 戦闘中に紛らわしいことをするものだ。

 

「身体能力もそれなりのようじゃな。どれ、やってみるとするかの!」

 

 ミカーヌフェは纏っていた鎧を脱ぎ捨てる。そうなると、肌色が多くなる。

 意識していても、人の視線をひきつけてしまうような力がある。

 絶世の美女と称されてもおかしくはない容姿なのだから仕方ないだろう。


「くくく……やってやるんじゃよ!!」


 ミカーヌフェは体に魔力をまとわせる。

 あの戦闘手段は忍者のそれに似ている。

 おまけに、目に見えるほどに魔力が溢れていて、その異常さがよくわかる。

 失敗……ではなく、強化が鋭すぎるのだろう。


 冬樹は震刃に魔力を纏わせ、相手の魔力を分解するように振動させる。

 ミカーヌフェの身体がぶれ、その場から消える。

 敵を見失うことはない。

 それでも、背後に瞬間移動したミカーヌフェに反応できない。

 背中に一撃をもらう。


 冬樹は回るように、全体へ魔力分解刃を放つ。

 直撃するが、ミカーヌフェはすぐに魔力強化を施す。

 恐ろしいまでの魔法構築速度と魔力量だ。

 上下左右からの連続攻撃を、どうにか防御していく。


 反撃をしたくても、そんな余裕はない。

 レナードが言っていた最強の存在というのは間違ってはいない。

 やがて、ミカーヌフェは攻撃の手を止める。

 冬樹は深呼吸をして、体を落ち着ける。


 負けるわけにはいかない。

 もしも、ミカーヌフェに負ければ冬樹たちは自由に行動できなくなる。

 負ければイチはどうなる? トップは……?

 街のみんなは?


 街の人々の笑顔が冬樹の脳裏をよぎる。

 ルーウィンの街を自由な街にしておくためにも、ここで倒れるわけにはいかない。


「くははっ! これほどまでの強者……興味がわいたぞ! 貴様、名前はなんという!?」

「……水野冬樹だ」

「そうか、そうか……この戦争でルーウィンの街もそうじゃが、まずは貴様が欲しいなフユキよ!」

「……嬉しい誘いだけど、それは断らせてもらうよ」

「くくく、勝てばわしのものなんじゃよ」

「だから、それが無理なんだよ」

「なんじゃと?」

「この勝負に勝つのは俺だ」


 冬樹は線銃を片手に持ち、右手に震刃を構える。

 はっきりいって初めてだ。

 夢の中で何度か練習した高速戦闘術であるが、ハイムの評価はいまひとつというものだ。


『……相手の探知くらい、協力してやってもいいわよ』

『……ありがとな。けど、それをやったらこの真剣勝負に水を差すだろ?』


 返事をすると呆れたようなため息が返ってくる。


『……あんたって結構勝負好きだし、負けず嫌いよね。まあいいわ。けど、だったらあいつには勝ちなさいよ? あんたの身体は将来的にあたしのものになるんだからね?』

『へいへい。死んだら、ゾンビ化させるんだろ? 恐ろしい計画だぜ』

『……当たり前じゃない。あたしの遊び相手がいないなんてつまらないもの』


 緊張していた体がほぐれる。

 冬樹は魔力をまとったミカーヌフェではなくその背後に線銃を放つ。


「む?」


 冬樹はその先の空気を魔力で固める。

 地面を蹴り、線銃によるワイヤーの引っ張りも利用して一気に迫る。

 ミカーヌフェは軽く跳んで回避する。

 冬樹は線銃をしまい、すぐにもう一度取り出し、ミカーヌフェの近くに撃つ。

 もちろん、同じように空気を固めて。


 身体が引っ張られ、ミカーヌフェが線銃のワイヤーを切ろうとする。

 即座にしまい、別の場所に撃つ。

 そうして、冬樹はミカーヌフェが着地する場所に魔力の塊を作る。

 彼女を地上から離していく。


「……ほぉ、魔力を魔法として使わないんじゃなっ。ここまで細かい使用ができるなんて魔族にもおらんぞ!」

「そんな油断してていいのか?」


 次々にワイヤーを放ち、移動してはしまう。

 そうして、ミカーヌフェが跳んでよければ、その足場は魔力で固める。

 ミカーヌフェは空へと逃げざるを得ない。

 それ以外の逃げ場は、魔力で固められているのだから。


 あちこちの魔力領域を操作するために、冬樹の脳は焼け切れそうだ。

 魔族に出来ない、というのはこれが理由だろう。

 冬樹もミカーヌフェをおい、空中へ。

 ワイヤーを操り、空中を自在に。ミカーヌフェは空中を冬樹の誘導に従いながら。


 たまに、水の神器で破壊しようとするが、ミカーヌフェを真似して、即座に足場を固める。

 そちらに集中すれば、冬樹の追撃が行われる。

 やがて、地上から二百メートルほどの高さになったところで、冬樹はミカーヌフェの足場を消す。


「なぬっ!?」


 まだ、ミカーヌフェは冬樹が足場を作ってくれていると思ったのだろう。

 いきなりの足場の消失にミカーヌフェは目を見開く。


「空中にあげるとは卑怯な奴じゃな!」

「ここからだ!」


 冬樹はワイヤーを放ち、自分の足場を固めて加速する。

 ミカーヌフェの死角を狙うように移動して攻撃する。

 ミカーヌフェは神器と魔法で対応していく。

 だが、冬樹の攻撃はさらに数を増やす。


 空中を移動し、ミカーヌフェの魔法が薄い場所を狙っていく。

 そのほうが分解もラクだ。

 ミカーヌフェは結界のような防御を放ち、雷まじりの爆発を使ってくる。

 それを寸前で回避し、冬樹は震刃を振りぬく。


「くっ!」


 一発が入る。震刃の刃はただの剣だ。

 それでもそれなりの一撃だっただろう。

 ミカーヌフェの表情に揺らぎが見える。

 冬樹はちらと下をみて、ミカーヌフェの背中があたるように魔力の壁を作る。


「ぐぬっ!?」


 まだ地上との距離があると思っていたミカーヌフェには思わぬ衝撃となったようだ。

 そちらに注意が向き、こちらへの注意がおろそかになる。

 冬樹は落下と体重の力すべてを乗せるように、彼女の体に震刃を叩きつける。


「おらっ!」


 ミカーヌフェが神器を振りぬき水の刃が襲い掛かるが、それを震刃で破壊する。

 二回目は……間に合うはずがない。

 震刃の当たる距離に迫り、冬樹は思いきり胸目がけて震刃を突き刺す。

 淡い光を放ち、魔石が破壊される。

 同時に、遠くの魔力反応が消えていく。

 魔石が割れたのを確認して、冬樹はミカーヌフェの足場にクッションを作ってやる。


「って俺の分も作らないと……いて!?」

 

 脳を酷使しすぎたのか、鈍い痛みが襲う。

 冬樹は結局パワードスーツの頑丈さに頼る形で着地する。

 全身が痛み、ハイムの馬鹿にした声が響く。

 パワードスーツを解除して、胸を見るとなんとか魔石は無事であった。


「……ずるいんじゃ! わしもっと戦いたかったんじゃよ!」


 子どものようにその場で駄々をこねるミカーヌフェ。

 戦闘によって服はボロボロになっているため、色々なところが見える。

 一対一の戦いに決着はついたが、まだ向こうでは戦争が行われている。

 冬樹は急ぎ、装備を整えていると、不意にハイムの苛立った声が届いた。


『……フォールレイド……敵の街のほうから嫌な魔力が……たぶんある』

『それって、魔本がらみのか?』

『……たぶん、そうね』

『……それって、街全体に何かしでかすとかじゃねぇよな!?』

『……そこまでは遠くてわかんないわよ。たぶん、この前のレイドン国と同じ奴……。契約してる奴が、あの街にいるのよ』


 あの腕の紋章だろう。

 無効化こそできる代物だが、あれは契約者の身体能力や魔力を強化する力があるらしい。

 一応、荒れた性格になるなどの副作用もあるようだが、暴れたい奴からすればあまり関係のないことだ。


「おいミカーヌフェ! あんたの街に……その魔本ってないか!?」


 倒れてわがままっぷりを疲労していた彼女の肩を掴み、こちらに顔を向けさせた。



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