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第五十五話 街巡り4

「さて、みんなには色々感謝があるけど……まあ、それはまた今度でいいか。今回は、ちょっとした隠し事が俺とトップにはあるからさ。それじゃあ、まずはトップからどうぞ!」

「……ああ」


 そういうと、トップは赤い顔のまま咳払いをする。

 この場にいるのは、ルナ、リコ、イチ、サンゾウ、ニバン、ミシェリー、ワッパ、クロースカ、レナードだ。

 それらの視線は普段であれば慣れたものだが、あらたまって注目されると恥ずかしいということもあるのだろう。

 トップは何度か呼吸をする。


 それは、緊張とはいってもさっきまでとは違う。

 恐怖を含んだものだ。

 今自分が、酷いことをしているのは自覚している。

 トップにとっては、トラウマを引き起こすような行為であるのかもしれない。

 わざわざ、こんな大事な場面でやる必要もないかもしれない。


 ……仮に、受け入れられないとしてもその時はその時だ。

 トップが、このまま隠したままでは結局トップにとっての本当の意味での居場所は出来ない。

 トップはするすると服を脱いでいき、隠されていた肌を見せる。


 瞬間、事情を知っているニバンと、ある程度察していたのかイチやサンゾウ以外は息をのむ。

 少し反応が違うのは、ワッパだ。

 研究対象にでもなったのか、ワッパは目を輝かせてさえいる。

 大した胆力だ。


「……あざ、ではないな?」

「ああ……オレの体には僅かだが、魔族の血が流れている。これがその証拠だ」


 沈黙が続く。

 トップはそれに耐えられなくなったのか、さらに言葉を続けた。


「これから……この街は魔族と戦う。オレも……魔兵として参加する予定だが、隠したまま戦いたくは……ない。まあ、リーダーに無理やりというのもあるが、それでもオレも戦いたい。オレは魔族に恨みがあるし、ここが……勝手だがオレの居場所、とも考えている」

「……おまえは、どちらの心で戦うのだ」


 リコが厳しい目でトップを見据える。

 彼女は魔族によって最悪な事態を迎えるところだった。

 おまけに、ルナの父親が魔族に殺されるところもみている。


 魔族を恨むなという方が無理な話であろう。

 ……なんだかんだ、トップと話すことも多く、それなりに力も認めていたはずだ。

 彼女からすれば、裏切りのような行為に感じたかもしれない。


「……オレの体はほとんど人間だ。今回の戦争にだって、人間として参加するつもりだ」

「……そうか。私はトップに協力してもらいたいと思っている。はっきりいって、トップほどの実力者をここで切り捨てるのは痛いのだ。みんなの意見を聞きたい」


 リコは視線を全体に投げながらも、優先してみるのはトップの仲間たちだ。

 先に意見を言わせることで、周りの発言が出やすくなると考えたのだろう。


「僕はもちろん、構わないよ。トップは家族みたいなもんだしね」

「私もー。トップは私たちを一生懸命守ってくれてたもん」

「……私は事情を知っていたから、もちろんそうよ」


 それに続いて、ミシェリー、クロースカ、ワッパも頷く。


「そもそも、私はだーりんと同意見」

「私も別に魔族に恨みってほどのものは持ってないっすよ。ちと、怖いっすけど」

「血は四分の一……くらいですか? けど、そんな風に魔族と人間の二つを……持っているのは珍しい、です。ちょっと……研究したいです」


 ワッパが目を輝かせると、トップが頬を引きつらせる。


「……私はそもそも、領主に従うしかないからな。魔族は嫌いだが、領主が受け入れたのならば、私は何も言わない」


 レナードは黙りルナを見やる。


「私はイチさん、サンゾウさん、ニバンさん……それにトップさんをとっくにこの街の住人として登録していますからね? もしも、今さら逃げるというのならば、許しませんよ?」


 ルナがそういうと、トップは大きく息を吐いた。


「……ああ、そうだな」


 トップが一番求めていた居場所。

 それはすでにここにある。

 それを知ったからか、トップは途端に笑い出した。


 それは誤魔化すための笑いであっただろう。

 僅かに目尻に涙が浮かんでいるようにも見えた。

 冬樹は彼の肩を叩き、視線を自分に集める。


「ま、今のは大したことじゃないよな」


 みんなが受け入れてくるというのはわかっていた。

 言われたトップがむっとしたが、冬樹にとってはわかりきっていたことなのだ。


「まず、俺が考えた代表者は、ルナ、レナード、俺……であとの二人は、スピードスターとミシェリーってところかな」

「……私?」

「ああ。スピードスターは、トップの言うことを信じるなら、人間の姿で魔族に見せたあと、隠れて聖獣になってしまえば気づかれないということからだ」

「なるほど……ミズノ様考えたな」

「へへん、それで、もう一つ。ミシェリーにしたのは、単純にミシェリーが冒険者を率いるのがいいと思ったからだ」

「……確かにこの国に限っていえば、ミシェリーの名前はそれなりに知られているのだ」


 リコの相づちをうけて、冬樹は調子よく人差し指を立てる。


「作戦としては、俺がミカーヌフェを押さえつける。これはちょっと色々策を練ってるから一人でも大丈夫だ。で、レナードが敵をつぶしていく。スピードスターは逃走に専念。それで、ルナを守るのが一番連携の取れるトップを中心とした魔兵部隊だ」

「……心強いですねっ」


 ルナがぐっと拳を固める。


「今回の戦いで大事なのは魔石持ちの人間を誰にするかだよな。弱すぎてはダメ。だからといって、戦闘機会の多い人間にもつけにくい。だから、トップには魔石はつけずに、ルナを守るのに専念してもらいたいんだ」


 そこで、ようやく緊張が解けたのか、トップが口を挟んでくる。


「……なるほど、だからさっき、オレの秘密を明かさせたんだな」

「……へ?」

「はっきりいって、オレは……あまり自分を明かしていなかったからな。そんな奴に守られていては領主も不安になる、違うか?」

「ま、まあそんなところだな」


 はっきりいえば、作戦を考えるのに頭を使いすぎたためにそこまで気は回っていない。

 第一、この作戦だってハイムに協力してもらいながらようやく考えたのだ。


『……』


 全員のジト目がぶつけられ、冬樹は誤魔化すようにテーブルを叩く。


「と、とにかくだ! 今のが俺が考えた基本的な作戦だっ。はっきりいって頭を使いすぎてもう数日は眠っていたいくらいだ! だから、後はリコたちで念入りに打ち合わせしてくれ!」

「……そうだな。あとはこちらで色々と考えるのだ」


 リコが頷き、それぞれが席を立ちあがる。

 そしてレナードが冬樹の肩を叩いてくる。


「戦闘の大筋は見えてきたし、信用しないわけではないが……ミカーヌフェははっきりいってかなり強い。黒騎士を超えている可能性もある……策が本当にあるのだな?」

「ああ、任せろよ」


 強気に頷くと、全員の安堵の顔が返ってくる。

 ……それだけで、信頼されているのが強くわかった。

 このくらいのプレッシャーは心地よい。

 冬樹が満足げに頷き、解散と告げようとしたところで、


『……あんた、大事な話はいいの?』

『げ、忘れてた!』


 すでに皆は部屋に戻る気満々のムードである。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 大した話じゃないけど、俺も隠してる秘密があるんだ! みんな聞いてくれ!」

「……まさか、キミも魔族とかいうだすわけじゃないよな?」

「違う違う」


 レナードのジト目に射抜かれて、冬樹は首を振る。

 彼女は一度、嘆息してから席につき、それにあわせて全員が座りなおす。

 静かになったところで、口を開いた。


「俺は異世界から来た人間だ。ヤユっていう義理の娘はどうにも、異世界を移動できる魔法を持ってるみたいでさ、それに巻き込まれてここに来たんだ。……だから、ヤユを助けたらたぶん、異世界――地球っていう世界に戻ると思う」


 皆が黙ったままなので、さらに続ける。


「もちろん、また来れる機会があるなら、こっちにも顔を見せるけど……最悪戻ってこれないかもしれない。まあ、もしかしたら戻れない可能性もあるけど……まあ、あれだ。悪い、ずっと黙ってて。それだけだ……以上、解散!」


 言い終えると、事情を理解していたルナとワッパ以外はポカンと口を開いていた。

 解散しても良いのだが、なかなか動きださない。


「ちょっと待て!」


 一人一人、多少語尾に違いはあったが、全員の声が揃った瞬間だった。

 

「異世界って……まさか、昔のあの異世界人か!?」

「ミ、ミズノ様はなんなのだ!?」

「……だーりん、妻をおいていく気!?」

「し、師匠……っ、なんすかそれ! なんすかそれ!」

「……おい! オレの魔族よりも重要な話だぞっ」

「さすがリーダー。……あーおなかすいてきちゃったなー」

「……イチはほら、別の部屋でメイドと食事してきなさい。けど、驚いたわね……おかしい人だとは思っていたけど……」

「……まあ、僕もこの世界の人間ではないと思っていたけどね。強い割に、常識がなさすぎるんだもん」

「……おまえら、好き勝手いいやがるな」


 その中で何も言っていなかったワッパとルナに視線が向けられる。

 なにやら、事情を知っていたことについて質問されていく。

 そして、ミシェリーが立ち上がる。


「……だーりん、どうして私に言ってくれなかったの?」

「ワッパは、自分で気づいたんだよ。……話さなかったのは単純に俺が怖かったからだ」

「怖かった?」

「……ああ。みんな……、俺と仲良くしてくれたから……その別れの日があるっていうのは伝えにくかったんだよ」

「……大切に思ってくれた?」

「まあ、そうだな」


 冬樹の言葉を受けると、ミシェリーは嬉しげに微笑んだ。

 それで機嫌を直してくれるのだから、優しいものだ。

 

「……ほかに、質問はあるか?」


 ほとんど全員は予想外の自体に考えがまとまっていないようだった。


「……だーりん、私も一緒に行っちゃだめ?」

「……ダメ、だな」

「……」


 深い理由は伝えなかった。

 聞きたいことがあったら、また明日ということにして、今度こそ解散した。

 部屋に戻った冬樹はベッドに横になる。


『……あたしは、ついていくわよ』

『生きていけるのか?』

『……魔力がなくても、別にね。でも……あんたの国もちょっと色々あるみたいじゃない?』

『……ああ、そうだな』


 ミシェリーが一緒についてくるのを拒否したのは、地球には色々知らない謎がありそうだったからだ。 

 パワードスーツのエネルギーは魔力。

 それをなぜか政府は公開していない。


 それに、テロリストたちは、元の世界に戻ろうとしてヤユを狙っていたのだ。

 異世界から来た人間がいれば、また狙われる可能性もある。

 まだテロリストの中には、ヤユを狙った奴らのような人間もいるかもしれない。


『……あんたも色々大変そうね』

『地球に戻ってから……凄い忙しくなるだろうな』


 まずは二週間近くも何をしていたのかを追及されるだろう。


『……まあ、あたしも……少しくらいなら協力してやってもいいわよ』

『ありがとな。それじゃあ、頑張って遊園地でも作るか』

『……ええ、楽しみだわっ』


 今日の夢の世界は、ある意味今まで一番大変かもしれない。

 冬樹は覚悟を決めて目を閉じた。 

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