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第五十三話 街巡り2

 言われた場所に向かうと、イチが作業の手伝いをしていた。

 イチは力はあるほうで、木材を運ぶのを手伝ったり、きるのを手伝ったりしていた。


「リーダー、あの船ならいいって」


 そういって、人が数人乗れるか乗れないか程度の船の形をしたそれを見せてくる。

 作業の総指揮をしていた自警団のリーダーがこちらへとやってくる。


「それにしても、これは船としての機能はまるでないぞ!? 何に使うんだ!?」

「空を飛ぶため、らしいですね。俺も詳しいことはちょっとわからないです」

「空だと!? はっはっはっ! 空を飛ぶのは竜騎士の仕事ではないか! 船は海を渡るためのものだぞ!? まあ、面白い! 持っていけ!」


 事件段のリーダーは大げさに笑った。

 冬樹はどうにもこの人は苦手だなと思いながら、パワードスーツをまとって船を持ち上げる。

 結構な重量であるが、全力を出せば難しくはない。

 これがもっと大きな船であったら、大問題であっただろう。

 

「あ、サンゾウ見つけたら作業の手伝いしてって言っておいてよー。あいつ、レイドン国の旅について、街の女の子に話に言っちゃってるからさ」

「わかった」

「リーダー、頑張ってー」


 イチの声援を受け、冬樹はどうにかその重たい船をワッパたちのもとへと運ぶ。

 

「ありがとう……ございます!」

「凄いっすね師匠……」


 クロースカの驚いた顔が可愛らしい。

 それを見れただけでも疲れた甲斐があっただろう。

 冬樹はその場で腰掛けて、息を吐きながらパワードスーツを解除する。

 涼しい風がほてった肌を冷やしてくれる。


 ワッパとクロースカは協力しながら、いくつかの魔石を船に取り付けていく。

 やがて、ワッパが額の汗を拭い、休んでいた冬樹の膝の上に腰掛けてくる。

 注意しようとしたところで、ワッパが顔をこちらに向ける。


「フユキの……おかげです。すべての作業を……一つの魔石で補うのは無理が、ありました」

「どういうことだ?」

「今回は……この十一個の魔石にそれぞれ役割を与えています。まず……この一番大きな魔石が、風の魔法を書き込んだものです。魔力を……注入すると風を放つ仕組みになっています。それで……こちらの少し小さな五つの魔石が魔力を集める役割を。残りの五つ……が魔力を大魔石に注入する、という役割……です」

「なるほどな……仕事を分担させたことで、どうにか負担を減らせたってことか」

「フユキも……似たようなことをして、いました」

「……へ?」

「最初……魔力を入れられない……と思ったら、途端に調子がよくなりました」


 飛行船での行動のことを言っているようだ。

 彼女は冬樹が異世界から来ていることを言い当てている。

 別に隠す必要もないだろう。


「よく見てるな。俺の脳内に……まあ、そんな機能があるんだよ」

「脳に……ですか」


 興味を持ったのか、瞳を輝かせる。


「そうだ。けど、これは危険だから興味は持たないほうがいいかもしれないな。俺もあんまり詳しくないから説明もできないし」

「そう……ですか」


 しょんぼりとした様子をみせる彼女に協力はしたかったが、脳をいじらせるわけにもいかない。

 やがて、ワッパは船に乗り込み、片手を床に当てる。

 まだ、操縦できるほど船としての機能はない。

 しかし、ワッパはその状態で魔法を放った。


 風が周囲に吹き荒れ、冬樹は距離をあける。

 ワッパが改造した船は、いともたやすくその場で浮き上がる。

 それから、十分近くが経っても、船が落ちることはない。

 ワッパが船の縁からこちらへと顔をだす。


「どう……ですか!?」

「ああ、凄いな」


 やがて魔法を解除したワッパが、着地して船を見上げる。

 調子が良さそうに笑っている。


「あとは……空中で移動できるように船として作ってもらう、だけです」

「ああ、頑張れよ」

「飛行船が……出来れば、空中から敵へ攻撃をしやすくなります」

「そうだな」

「相手も……一体くらいはドラゴンがいるかもしれません。だから……これを完成させるのですっ」

「……ワッパ、戦争に協力してくれるのか?」

「フユキ……がいるからです」

「そうか……ありがとな」


 ぽんぽんと彼女の頭を撫でると、気持ち良さそうに体を左右に振る。


「それじゃあ、そろそろ別の場所を見てくるよ」

「そうっすか。それじゃあ、師匠! 頑張ってくださいっす」

「そりゃあ、こっちの台詞だ。ワッパもよろしく頼むな」

「はい……っ」


 ワッパは拳を固め、冬樹は彼女たちに背中を向ける。

 それから、しばらく歩くと、掛け声にまざるようにレナードとミシェリーの声が聞こえてきて、そちらへ向かう。

 道を抜けると、冒険者たちが多くいて、訓練をしているのが見えた。


 若い子が多い。

 比率的に女性のほうが多いのは、やはり魔力的な問題だろう。

 隠れるようにしばらく見ていたが、サンゾウが隅のほうで楽しげに会話しているのを見つけそちらへ向かう。

 

「それでね……アースドラゴンの強力な攻撃の隙間を縫って、僕が渾身の一撃を叩き込んだんだ」

「それでそれで!」

「ふふ、まあー見事に……」


 サンゾウが調子よく話しているのを邪魔するように耳を引っ張る。


「なーに、嘘話してるんだ?」

「り、リーダー……?」

「あっ、ミズノさん!」

「え?」


 女性が甲高い声で叫び、冬樹はサンゾウから手を離す。

 彼女が友達を呼んでいる間に、冬樹はイチからの伝言を伝えておく。

 サンゾウは渋々といったようすで歩いていく。

 彼が本当に作業を手伝いに行ったのか気になったために後を追おうとして、頬が引きつった。

 ずらりと冒険者たちが冬樹を囲んでいた。

 

「今は……訓練の途中だったんじゃないのか?」

「キミが来たせいで、この有様だ」

「だーりん……」


 ミシェリーが頬を膨らませ、自慢の盾を下ろす。

 レナードも一時休憩といった様子で、剣を鞘に戻す。

 

「ミズノさん! 大会での活躍かっこよかったです!」

「本当に凄かったです! 黒騎士様との戦い……本当に凄かったです! 二人とも凄すぎて、もう……あんまりよくわからなかったですけど!」

「あ、ああ……ありがとね」

「それに、一つの街のために戦う姿も凄いです! もう、大ファンです!」

「……あ、ああ」


 冒険者たちがわんさか押し倒さんばかりに迫ってくる。

 さすがに彼らをレイドン国の忍者のようにつぶしていくわけにもいかず、後退するしかない。

 その後退も、背後にいた冒険者たちによってすぐに出来なくなるのだが。


「ミシェリー! レナード助けてくれ!」

「まあ、人気者の宿命だ」

「……だーりん、女に手を出さないでね」


 二人の声が耳に届いたが、返事をすることはできなかった。

 冒険者たちにもみくちゃにされる。

 まるで、ぬいぐるみでも扱うかのようだ。

 本当に慕ってくれているのか疑問さえもあるほどだ。

 レナードの休憩終了の声でようやく冒険者たちは訓練に戻るが、気もそぞろな様子だ。

 

「ミズノも訓練を見てやってくれ」

「おう、了解した」


 これでも教官としての仕事もちょくちょくやってきている。

 人の才能を見る力はそれなりにあるほうだ、と自負している。

 全体を眺めるようにして、大まかに視線を飛ばす。

 一人をじっくりと見たいのだが、


「……っ!」


 視線があった女性が緊張した様子で、昔のロボットのような動きになる。

 相手からしたら、自分は偉大な人間か何かのようだ。

 冬樹も兄にじっくり教えてもらえば緊張もするため、気持ちもわからないではない。

 

「あー、おまえ、踏み込みが悪いな。もっと余裕を持って」

「は、はい」

「おまえは、魔法を使うときに無駄に魔力を吐き出しすぎだ」

「え、えと……はひっ!」

「おまえは剣を振るときにむらがありすぎるな。もっと一回一回集中して」

「ほ、ほえぇ!」


 と、一人ずつにアドバイスを出していく。

 とはいえ、この短時間では目立った悪い点くらいしか見ることはできない。


「意外と見る目があるな。キミは弟子でも持ったことがあるのか?」

「え、えと……まあ」

「ふむ、なかなかやるな。技術的なものは私も指導できるが、そうだな。ミズノは、魔法を見てやってくれ」

『とはいえ、あんまり魔法は詳しくないんだよな』


 だからといって、この世界の剣や槍などの扱いも詳しくはない。

 魔力の流れ、体の動きや意識的なものくらいしか指摘はできない。

 困っているとハイムの声が心に響く。


『……だったら、あたしが少しくらい力を貸してあげるわよ。後で、いっぱい遊んでくれるって約束してくれるならね』

『……今日の夢も訓練したかったんだが、まあ遊びっぽい訓練でいいか?』

『……いいわよ』


 冒険者はざっと四十人ほどいる。

 ハイムの協力もえて、とりあえず半分ほどの冒険者を見ることになる。

 訓練を始める前に、冬樹は全員を集めた。


「……とりあえず、みんなルーウィンの街に協力してくれてありがとな」


 声を張って言うと、冒険者たちはきょとんとした様子を見せる。

 隅でレナードやミシェリーが苦笑を浮かべる。


「戦争では……魔兵での参加しかないと思うけど、無茶はしないでくれよ?」

「……」

「もしも怪我をしたら、俺が嫌だからな。とにかく、そういうことだから、何があっても怪我はしないこと、無茶はしないこと。あと、目立とうとかそういうことも考えないでくれよ。みんな……自分ができることだけを頑張ってくれ、以上訓練再開だ」


 冒険者たちは、顔を見合わせた後に大声で笑った。

 笑いをこらえようとしていたようだが、それでももれてしまったといった様子だ。


「……まあ、あまり強い人間が今みたいな頼みごとをするのは少ないからな」

「おまえだって俺に魔本の処理を頼んだじゃねぇか」

「まあ、私はなるべくできるように心がけているからな。……自然には無理だ」


 とりあえず、つまらない話はここで切り上げる。

 冒険者なのだから、体を動かしたいだろう。

 全員の魔法をチェックしていく。

 相手の魔法がまるでわからない場合は、ハイムに協力してもらいながら、一人一人の魔法を確かめていく。

 そうして、四十人全員を見終えると、皆の魔法がだいぶ変わった。


 意外と、魔力の込め方が悪かったり、変に力が入っていたりなど……悪いクセを指摘するだけで簡単に一段階程度魔法の質があがった。

 まあ、さらにレベルをあげるには地道な訓練が必要になってくるだろう。


「……驚いた。だーりん、教える才能もあるなんて……今度は私にいけないことを教えてもらいたい」

「みんながすぐに修正できる力があったからだな」


 ハイムのおかげが大部分を占めている。

 だが、レナードがいるここでハイムのことをばらすわけにはいかない。

 冒険者たちに頭をさげてもらい、冬樹は居心地の悪さを感じながら、屋敷へと戻っていく。


『ハイムゥー。本当にありがとなー!』

『……気持ち悪い声を出さないでよ』

『いや、だって誰もおまえを褒めてくれないだろー? 俺まったく何もしてないところもあったし……せめて俺くらい全力で感謝しないとなっ。なんでも言うこと聞くからさっ』

『……なんでも? へぇ、なら、今日の夢ではあんたの国の遊園地を再現してもらおうかしら』

『ま、また脳が疲れそうなもんを……まあ、お安い御用だ』

『……それで、一緒に遊ぶわよ?』

『ああ、遊ぶのはもともとの約束だろ? でも、少しくらいは訓練の時間も用意してくれよ?』

『……もちろんよ』


 冬樹たちは、屋敷に戻り、昼食をとりに向かった。



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