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第五十一話 帰還3


 戻ってくると、すぐにルナの部屋へと連れて行かれる。

 リコからざっと事情を聞いた。

 すでに、魔族との交渉があったこと。

 敗北条件は、代表者の魔石が破壊されることであること。

 代表者はルナに決まったこと。


 魔石をつけた代表者に、魔兵を分配し、代表者の魔石が破壊されると同時に、その魔石に入っている情報から魔兵も破壊される、というものになったらしい。

 魔兵と魔石の連結は、かなり腕のよいドワーフでなければ作れないらしいが……クロースカもワッパも作れるようだ。

 ただし、勝敗条件に関係する代表者、今回の場合でいえばルナには魔兵をつけることができない。

 他にも細かい話はいくつかされたが、冬樹にとってもっとも大事なのは勝敗条件程度だろう。


「細かい作戦もいくつかあるのだが……、それは後でも良いのだ。とりあえず、今は無事に戻ってきたことを喜ぶのだ」


 というリコだが、なぜか頬が膨れたままそっぽを向いてしまっている。

 ルナがはははとかわいた笑いを浮かべ、冬樹は顎に手をやる。


『……たぶん、相談なしに出て行ったのが気に食わなかったんじゃない?』

『ああ……なるほどな。ありがとさん』


 ハイムのおかげで、リコの膨れた顔の理由がわかった。


「ごめんな、リコ」

「なにがだ?」

「……黙って行っちまってさ」

「……ふん、別に気にはしていないのだ。私は相談されないくらいの信用なのだ」

「いや、リコは戦争のことで疲れてると思ってさ。ホレ、魔兵とか色々あっただろ?」


 今は、貴族の協力も得られ、おまけにあの大会を見ていた冒険者たちも希望を出して参加してくれているようだ。

 ギルドにも、奪った相手の土地を報酬として渡すなどと提案して、ある程度の参加者がいるらしい。


「……確かに、色々と悩みはあったのだ。けれど、ミズノ様が無断で飛び出したと聞いたときは驚いたのだぞ!」

「だ、だから悪かったよ。ごめんな」


 謝ることくらいしか冬樹に誠意を見せる手段はない。

 深く頭をさげると、


「い、いや……顔をあげてくれ。違うのだ、別にそこまで……謝罪しなくても良い。うん、悪かった。私も少しムキになりすぎていたのだ」


 冬樹はホッと息をはき、あわあわと手をふるリコに軽い笑みを返す。

 調子が崩れた様子でリコは頬をかいている。

 それからルナに視線を滑らせる。


「わがままいってごめんな。何も事件は起きなかったか?」

「ええまあ……小さな事件はちょいちょいありましたけど……別段報告するようなものは。それよりも、私としては、この状況で忍者に狙われることのほうが心配でしたから、むしろ感謝していますよ」

「そうか」

「ただ、少し問題があるとすればワッパさんのことですね」

「ああ……やっぱり連れてきたのはまずかったか?」

「いえ、国としての争いには発展するはずがありませんよ。むしろ、ワッパさんを先に誘拐したのはレイドン国ですし」

「ああ」

「それでは、話を戻しますが、こちらの代表者五名のうち、三名はすでに決まっています」

「ルナは……領主として参加しなくちゃなんだろ? で、あとはレナードと……俺か?」

「はい。問題は残り二人なのですが……ミズノさんは誰がいいと思いますか?」


 残りの候補は何名かいるが、冬樹も正直言って判断に迷うところだ。


「……順当に行くなら、力のある奴ってことになるんだよな。ミシェリーとサンゾウは知っているけど、トップについてはあまり力は知らないしな」

「……トップさんなら、街で問題を起こしたAランクの冒険者を叩きのめしてくれましたよ」

「ああ、小さな事件の一つね」

「はい。あとニバンさんが、問題を起こしていたBランク冒険者に毒飲ませてたり、スピードスターが珍しい魔石を拾ってきたり、途中で人型をとったり、ですかね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 最後のは小さな事件じゃないだろ!」

「え? けど、聖獣は変身魔法も使えますので、変身自体はおかしくありませんよ?」

「そ、そうかもしれないけど……もう一回教えてくれないか?」


 詳しくルナが話をしてくれる。

 聖獣は、人の姿をとることができる。

 とはいえ、人の姿は恥ずかしいもの、ということでご主人様に見せることはまずないそうだ。


 つまり、冬樹の前で変身しないのは、スピードスターにご主人様と認められているからだそうだ。

 これ以上問題ごとが増えても敵わない。

 スピードスターは女の姿になったらしく、ミシェリーやワッパに何か言われることを考えれば、このままで良い気がした。

 それから一つ呼吸をしてから、


「残りの日数で、誰を代表にするか俺が判断すればいいって感じか?」

「……はい。お願いしても良いでしょうか?」

「まあ、このくらいはな」


 今まで個人的な理由で街には協力できなかったのだ。

 ルナは顎に手をやる。


「……後は最大の問題ですね。敵の大将であるミカーヌフェをどうするかですね」

「俺か、レナードが相手をしないとまずい相手、だよな?」

「……いえ、二人にお願いするつもりです」

「そんなにやばいのか?」

「私はわかりませんが、レナードさんが言っていました。……はっきりいって、ミズノでも倒せるかわからない、と」

「おいおい」


 魔族と何度か戦ってきたが、あれらはすべて最下級の存在であったのかもしれない。

 短く息をはく。

 ミカーヌフェだけではなく、さらに四人も敵が出てくるのだ。

 勝ち目が薄いと協力者が少なかったことも頷ける。


「それでは……また、後で話をしましょうか」


 ルナが立ち上がり、冬樹も伸びを一つする。


「……それじゃあ、俺はもう寝るな」


 口元に手をやり、大きなあくびを隠す。

 ルナはそれからニッコリ笑顔で、


「明日、ワッパさんがすごーく懐いている理由もお聞きしますからね?」

「……お、おう」


 じろっとしたリコの視線も重なり、冬樹は逃げるように扉をしめた。

 懐かしい廊下を歩き、ひとまずは風呂にでも行こうかとしたところで、イチが笑顔でやってくるのが見えた。

 少しばかりその笑顔が引きつっているようにも感じたが、冬樹は片手をあげる。


「リーダー、話聞いたよー」

「何の話をだ?」


 イチは冬樹の隣に並び、後ろで手を組むようにしながら自由に歩いていく。


「……全部。どうして、四人がレイドン国に行ったのかもね」


 ニコッとイチが笑い、冬樹は頬をかく。

 その無邪気な笑みだと思っていたものは、すべて実験による弊害。

 そう思うと、その笑顔を正面から見るのがつらかった。


「言っておくけど、俺たちはみんな自分の意志で行ったんだからな」

「うん、助けてくれてありがとね。それで、少し話をしたいなーと思ってね」


 おおよそ話の内容は理解できた。

 冬樹はせかすことはせずに、口を閉ざしたゆっくりと歩いていく。


「私……こんなのなんだけど、ここにいても大丈夫かな?」


 イチは笑いながら、そういいきる。

 笑顔であるが、どうにも見ていて胸を締め付けられるようなものだった。

 冬樹は息を僅かに吐きながら、立ち止まった彼女の頭を叩く。


「大丈夫だろ。みんな、事情を理解して……それで守るために行動したんだよ。第一、領主のルナが、出発の許可をくれたんだぜ?」

「けど、またもしかしたら迷惑をかけるかもしれないよ?」

「そんときは、相談してくれよ。俺がどうにかするし、おまえの一番の仲間たちがきっと手を貸してくれるって」

「……」


 イチは黙り、僅かに目尻に涙を浮かべて笑った。


「やっぱり、子どもって笑っているのが一番いいよな」

「そうかな? けど、子ども扱いはしないでほしいなー。それじゃあ、おやすみリーダー」

「おう、おやすみな」


 イチは手を振りながら、赤くなった目を隠すように去っていった。

 すべてを完全に解決したわけではない。

 今だってレイドン国では、イチのような子が生まれているかもしれない。

 冬樹は大きく肩を落としてしまった。


 どれだけ戦闘が出来ても、それでは救える人間など少ない。

 まだまだ、自分は弱い、と思い知らされてしまった。

 風呂で疲れと汚れを洗い落としてから、部屋に戻りベッドに倒れこむ。

 そのまま、夢の世界へと旅立った。



 ○



「……ちょっと、あんた起きなさいよ」

「夢の中で起きるって相変わらず変な感覚だよな」


 冬樹は自分の体を揺さぶる小さな少女、ハイムに目を向けて体を起こす。

 そこは廃墟ばかりの夢の世界だ。

 最近は、寝るときに銃撃戦などをハイムとしていたために、こういった夢世界であるのだろう。


 ここは夢であるため、どんなステージも、武器も用意することができる。

 地球にあったVR訓練のようなものだが、それよりも自由である。

 ハイムの他人の夢に乱入し、夢を作るという能力は相変わらず便利すぎる。


「いつも思うけど……この空間は凄いよな」

「……ふふん」

「妖艶な美女でさ、こう大人の余裕とかあるような女性も作れるよな? ちょーっと作ってみてくれないか?」 

「……殺すわよ?」

「じょ、冗談だっての」


 冗談として笑みを浮かべたが、ハイムの両目は鋭い。


「なあ、ハイム。相手の神器使いってそんなに強いのかな?」

「……さあ。けど、同じ神器使いがそういったんだから、まあそういうことなんじゃないの?」

「だよな……俺ってまだまだ弱いんだ。ハイム、今日は銃撃戦の遊びじゃなくて、神器使いとして相手をしてくれないか?」

「……えぇ、まあいいけど。あのレナードって、フユキに水が効かないことは知らないんでしょ?」

「いや、それもあるだろうけど、単純に強いんじゃないのか?」

「……まあ、そうね。とりあえず、全力でやってやるしかないわねっ」


 どこか楽しげにハイムが右手に剣を作りだす。

 透き通るような水色の剣。

 まるで、澄んだ川を彷彿とさせる刃に、冬樹は思わず見とれる。


「……あたしが今作ったあたしなりの最強の神器よ」

「へえ、どんなところが?」

「……例えば」


 そういってハイムが剣を振るうと、冬樹の身体が真っ二つになる。

 痛みはないし、すぐに身体は再生する。

 しかし、冬樹は彼女の異常な攻撃をただみることしかできなかった。


「……神器が強いのは、何よりノーアクションで魔法を放つことができること。今のは、威力をあげるために剣を振ったけど、本来はそれも必要ない。魔石魔法は、魔法名を言わなければならないけど、ね」

「なるほどな」

「……それに、神器の中には、ランクがあるのよ。レナードが使っているのが中級レベルだとしたら、今あたしが持っているのは上級――それもトップクラスのものよ。ま、こんなもの、現実じゃ一本あるかないかくらいだから、今回は関係ないわね」

「ってことは、おまえのそれに反応できるようになれば、俺一人でミカーヌフェを押さえられるってことか?」

「……そうね。やれるならやってみなさいよ」

「ああ、やってやるよっ」


 冬樹はパワードスーツを展開する。

 夢の中であるため、自分が普段使っているものを正確に作る必要があるのが大変だ。

 そして、特訓が始まった。

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