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第四十七話 ロヂの街7


 宿に到着した冬樹は、ひとまず自分たちが使っている部屋に全員を入れる。

 しかし、そこで一つの問題が起きる。

 ミシェリーとワッパのにらみ合いだ。

 あまり運動ができないはずのワッパであるが、冬樹の背中にずっと張り付いている。

 ミシェリーがそれを引き剥がそうとしてもなかなか離れてくれない。


「ひとまず、二人とも落ち着いてくれ」

「だーりん、とにかく一日何をしていたのかも気になるし、また女を増やした」

「……その言い方やめてくれねぇかな」

「フユキ……どういうこと、ですか?」

『……ま、あれね。よかったじゃない、地球にいたときみたいなもんでしょ?』

『……地球?』

『……あんた、部下にだいぶ好かれていたんでしょ? 記憶見せてもらったじゃない』

『ありゃあ、面倒事押し付けられてただけだってのっ』


 確かに仕事を散々押し付けられる相手、という点では好かれていたかもしれない。

 ハイムが呆れたようなため息をつき、それ以降黙ってしまう。

 彼女と話している間は現実を忘れられたのだが、冬樹は諦めて前を見る。


「とりあえず、まずは一日何をしていたか、からだな」


 まずはミシェリーに事情を説明するほうが先であろう。

 なんだかんだで、彼女は大人だ。事情を聞けばある程度は納得するだろう。

 部屋の隅にいるクロースカやサンゾウにも聞こえるようにいうと、厳しい目が向けられた。


「リーダー、僕たちを巻き込みたくないっていうのはいいけど、ちょっと過保護すぎないかな?」

「……そ、そりゃあ……今回は俺のわがままで旅に付き合ってもらったからな」

「師匠、私心配だったっすよ? 師匠が死んでたらって……。師匠世間知らずなところあるし、お人よしで事件にすぐ突っ込むし……そのくせ自分が危険な役を請け負うことも多いっす。……ちょっとは頼ってくださいっすよ」

「……私は大人なんだから、だーりんはもっと頼ってもいい。子ども扱いするのはよくない」


 三人にそういわれて、冬樹は頬をかいて軽く笑う。


「……やっぱり、子ども、じゃないよな」

「……リーダー?」

「俺、こっちに来てから反省しっぱなしなんだよ。悪かった。もう子ども扱いはしない」

『……あれでしょ? ヤユちゃんを過保護にしすぎて嫌われてるってことでしょ?』

『……まあな』


 危険な目にあわせたくない。

 ヤユを守るために、あれこれとやってきた。それが親として、大人としてふさわしいと思っていた。

 しかし、子どもだってちゃんとした力を持っている。

 一方的に弱いもの、と決め付けて守るのはおかしい。


「……それでも、やっぱり俺は他人を守るってのが合ってるんだよ。だから、まあこの戦い方までは変えないからな」


 そういうと、三人は苦笑まじりに頷いた。

 丸くおさまった、と冬樹が話を切り上げようとしたところで、ミシェリーが肩を掴んでくる。


「……それで、なぜこんなに懐いているの?」

「え、もうよくないか? 夜更かしすると、お肌に悪いぞ?」

「なら、続きはベッドの中で。さっき、別の部屋を借りておいた」

 

 そういってミシェリーが鍵をちらつかせる。

 アースドラゴン討伐によって金が余っているからだろう、金持ちらしい派手な使い方だ。


「だから、俺たちは別に結婚してるわけでも付き合っているわけでもないだろ?」

「だーりん、怖かった」

「……そうっすよ? ミシェリー涙浮かべて街中探していたんすよ?」

「う、うるさいっ。泣いてはいない」

「リーダー、泣いていたよ? さすがに、女の子を泣かすのは僕が許さないよ?」


 サンゾウが笑みを浮かべながら剣の刃を僅かに見せる。

 ……これはもう拒否をするなということだろうか。

 二人に後押しされるようにミシェリーが潤んだ瞳を近づけてくる。

 別に変なことをしなければいいだけだ。

 冬樹は頭をかいて、嘆息した。


「わか――」

「わかった……です。私が……その部屋をフユキと使います」


 ワッパがようやく背中から離れたと思ったら、即座にミシェリーが持っている鍵を奪い取る。

 あっ、と短くミシェリーが声をあげてワッパの首根っこを掴まえる。


「あなた、何?」

「あ、あんまり……顔を近づけるな……です!」


 強気な様子であるが、やはり人見知りもあるようでワッパは微妙な表情だった。

 

「……だーりん?」

「フユキ……?」


 二人が揃って睨んでくる。

 助け舟をサンゾウたちに求めると、二人は伸びをする。

 サンゾウはベッドに入り、クロースカも部屋を出て行く。

 恐らく自分の部屋に戻ったのだろう。


「リーダー、早く部屋を出てってねー。僕、明るい眠れないから電気ちゃんと消して、ね」

「……サンゾウ、助けてくれよっ」

「モテる男ってリーダーじゃなかったら僕がさっくりやってるからね?」


 サンゾウが顔を顰めた様子を作る。

 ……ここまでの旅で疲れているであろう彼の眠りを邪魔するわけにもいかない。

 言われたとおり電気を消して部屋を出る。

 ミシェリーとワッパに引っ張られるように別の部屋へと向かう。

 大きいサイズのベッドが一つだけある部屋だ。


「……とりあえず、だーりん。説明をお願い」

「フユキ……お願い、です」


 どこから話せばいいのだろうか。

 二人との出会いを一つずつ説明していくしかないだろう。

 どちらとも付き合っていない、というのをはっきりするまで、二時間近くの時間を要した。



 ○


 

 起床と同時に、抱きついているミシェリーの体を引き剥がす。

 裸で寝るなよ、と思いながら冬樹は昨日のことを思いだす。

 どうにか、誤解を解除する、真っ先に吠えたのはワッパだった。


 ワッパに対しての『おまえが必要だ』という発言が、そもそもの誤解の原因であったようだ。

 なんだ、それという心境であった。

 確かに言葉は足りないが、会っていきなり告白をする奴がいるかと、指摘したことでどうにか誤解はなくなったのだ。


 巻きついているワッパも引き剥がし、冬樹は体を伸ばす。

 昨日は二人が奪い合うように張り付いてきたせいでロクに眠れなかった。

 最終的にはパワードスーツをまとって眠ったほどだ。

 睡眠の途中で解除されていたが、それでも無事身体は守られた。

 冬樹は軽い伸びをしていると、


『……夢で遊ぶっていったのに』

『き、昨日は忙しかったからな。わかるだろ?』

『……ふーん、今からあたしはいじけるから何かあっても知らないわよー』


 なんだかんだ、知らないことを聞くことがあったため、ハイムに無視されるのは結構しんどいものがある。

 また無知な状態に逆戻りだ。

 仕方ないと冬樹は体の調子を確かめながら、今日の日程を思いだす。

 死体偽装はさほど難しくはないという話だ。


 材料自体も研究所に揃っているため、今日は研究所に戻り素材を集めてすぐに帰国する。

 ワッパも、パワードスーツについて調べたいようで、冬樹たちに同行してくれることになっている。

 帰りも護衛任務を受けていけば、スムーズに行けば一日、時間がかかっても二日で帰れるだろう。


「だーりん、おはよう。昨日は激しかった」

「そっくりそのまま返してやる。俺は抱き枕じゃねぇーの!」

「あの鎧さえなければいくらでもできたのに……」

「物騒なことを言わないでほしいもんだ」


 冬樹は起床したミシェリーの裸身を見ることになる。

 ずっと気になっていたがオーガ族というのは胸が膨らまない呪いでもあるのだろうか。

 前に会ったオーガ族もすらっとした美人であったが胸はなかった。

 おかげで、一瞬男かと思ってしまうほどだ。


「……なに?」


 気づかれたのか、ミシェリーが目を細めてくる。

 冬樹は急いで視線をはずして、外に出る。


「先に食堂行ってるから、ワッパがおきたら一緒に来てくれ」

「……了解」


 ミシェリーの頷きを見てから、サンゾウの部屋に向かう。


「あ、おはようリーダー。昨日はどうだった?」


 ニヤニヤとした思わず殴りたくなる笑みに、冬樹は苦笑する。


「おまえが考えているようなことは何もねぇよ」

「あ、へたれか」

「違う。それより、今日はもう国に戻るから、戻れる準備をしておいてくれよ」

「わかったよ。……ていうか、一緒にねたんだよね? なのに、手を出さないなんて……実は女経験が豊富か……男好き!?」

「年下に手を出すか、馬鹿。女と付き合った経験は数えるほどしかないよ」

「そうなんだ。可愛い子?」

「さ、そりゃあ個人の感覚だからな」


 余計なことを言ってしまった、と思いながら冬樹は扉をしめる。

 クロースカにも今日の予定を軽く説明しようかと思ったが、さすがに女性の部屋に入るのは躊躇いがある。

 

「んー? 師匠じゃないっすか。おはようっす」

「ちょうどよかった。今日は研究所に荷物とりに行ったら、そのまますぐ帰る。おまえ一番荷物あるし、用意はすませておけよ」

「大丈夫っすよ。いつでも移動できるように準備は万端っす」


 クロースカがぐっと親指を立ててきて、一緒に食堂へ向かう。

 五人が座れる場所を見つけて、腰掛けるとクロースカが首を捻る。


「昨日はどうだったっすか?」

「何もない」


 サンゾウもクロースカもかなりそういった話が好きなのかもしれない。

 これ以上言われても面倒だ。

 冬樹は暇つぶしがてら話題を変える。


「そういえば、師匠として何か役に立ったことはあるか?」

「そうっすね。私は魔器のなかでも魔石魔法を作るのが得意なんすよ」

「魔石魔法ってあれか。他人の魔法を魔石に封じ込めるとかって奴か?」

「そうっす。サンゾウやミシェリーのも入れさせてもらったことがあるっすけど……魔力の運用でちょっとコツをつかめたんすよ」

「へぇ……」

「師匠って周囲の魔力をかき集めたり、分散させたり、固めたり……ってのが得意っすよね? それを少し真似してみたんすよ。今まで、そんなやり方を使用とは思わなかったっすから」

「それで、結果はどうだったんだ?」

「完璧! っとまではいかないっすけど、前に作ったときよりも魔力をうまく込められたっす。魔石全体に満遍なく魔力を溜めることができたから、いつもよりも威力高めの魔石魔法の完成ってわけっす」

「なるほどね」


 話をしていると、ワッパたちが降りてくる。

 こちらに気づいたワッパが顔をうつむかせながら、冬樹のほうに寄ってくる。


「おはよう……フユキ」

「おはよう、よく眠れたか?」

「三日ぶり……くらいに眠った気がします」

「ちゃんと寝ないと死ぬぞ」


 冬樹がいうと、ワッパはこくこくと首を縦に振って、冬樹の上に座ろうとしたので首根っこを掴まえて隣へ。

 後から来たミシェリーが座ろうとしたので、回避して隣の椅子に座る。

 全員で食事をとり、部屋の鍵を返す。

 もうこの宿に戻ってくることはない。

 昨日騒ぎがあったが、それでも街は普段通りの賑やかさであった。


 いや、むしろいつも以上かもしれない。

 冬樹はそれに対して多少の疑問を抱きながら、研究所に到着する。

 見張りの忍者は、門近くにはいない。

 ワッパがいるため、中に入ってはいけないということはないが、少し緊張してしまうものだ。


(……なんだ?)


 冬樹たちが中に入ると同時、いくつもの気配が研究所を囲むように現れる。

 研究所に入ろうとしたところで、建物の入り口を守護する忍者二名が警戒態勢をとる。


「ワッパ……です。中に……入れてください。この人たちは……私の知り合いです」

「……ワッパさんだけは通しても良いですが、彼らは別です」

「今まで……みんな入れられたはず……です」

「ええ、ですが、ワッパさんだけということで」

「どうして……ですか?」

「それは、ワッパさんを国に連れていくためですよ」


 聞きなれない男性の声が、背後から聞こえた。

 忍者のような黒装束に身を包んだ忍者はこちらに近づいてくる。

 ミシェリーとサンゾウが警戒したように武器を構えると、忍者は両手をあげて笑みをつくる。


「失礼、グロイドと言います。ワッパさん、一緒に来てください」


 やれやれといった様子で額に手をやる。

 その動作とともに、研究所を囲んでいる塀に忍者がずらりと現れる。

 なかなか用意周到なものだ。

 ワッパがぎゅっと抱きついてくる。


「レイドン国は……嫌い、です」

「……そう、なのか?」

「……小さい頃に、誘拐、されました」


 うつむきがちに言ったワッパに、冬樹は拳を固める。


「悪いけど、ワッパは嫌みたいだぞ?」

「……大人しく、ワッパさんを渡してください。平民」

「私は……自分の好きなところでしか研究は……しません」

「でしょうね。ですが、上はあなたのわがままをどうにかする方法をあみだした、そうですよ」

「……どうにか?」

「ええ、人を操る魔法の開発に成功したとか。まあ、私はどうでもいいのですけどね」

「……っ」


 ハイムが驚いた様子を見せ、それにミシェリーたちの動揺も大きくなる。

 怯んだ様子のハイムが、冬樹の服の裾を掴んでくる。

 ミシェリーの陰に隠れるようにして、冬樹はハイムと話をする。


「……荷物は諦めて、逃げてもいいか?」

「う……ううん……私が開発中の飛行船が……研究所内に……ある。一応空を飛ぶくらいはできるから……それを使ったほうが……たぶん、逃げられる……と思います」

「……そうか。なら、ハイムはすぐに三人を連れて飛行船まで逃げてくれ」

「助けて……くれるのですか?」

「話の流れからわかるんじゃないのか?」

「……はい」

「よし、詳しい作戦はミシェリーに伝えてくれ。用意ができるまで俺が時間を稼ぐ」


 冬樹は全員を後ろに下げるようにしながら、ミシェリーに一言伝える。

 ミシェリーはどこか厳しい目を作った。

 また、一人でやることを注意されているのだろう。


「フユキ……頑張って、ください!」


 ハイムの叫びに軽く手をあげる。

 ……今回は違う。

 みんなに協力してもらわないとダメなことで、冬樹が時間を稼ぐのに一番適しているからこうするだけだ。

 冬樹はすべての注意を集めるために、グロイドの前に立つ。


「ハイムは渡さない」

「……そうですか。では、死んでください」


 投げられた手裏剣には、毒がついているようだ。

 冬樹はすぐさまパワードスーツをまとい、それを鎧で受ける。

 冬樹の脇を抜け、ミシェリーたちが研究所へと突っ込む。

 冬樹も研究所の入り口の前に立ち、誰も入れないようにする。

 と、グロイドはくくくと笑みをつくり、額を押さえた。


「……本気で、私たちを止めるつもりですか? ここにいる忍者はざっと二百人はいますよ?」

「それがどうしたんだ? あんたは脅して諦めてくれることを祈ってばっかか?」


 挑発して冷静さをかいてくれるのならそれが一番だ。

 しかし、グロイドは不敵な様子を作り後退していく。


「……わざわざ近接攻撃をする必要はありません。じっくりといたぶってやってください」

「……へぇ、やってみろよ」


 グロイドの言葉に合わせ、手裏剣がとんできた。

 

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