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第四十三話 アースドラゴン討伐2


 作戦は簡単だ。

 子どもアースドラゴンたちが声をかけて、意識を引っ張ってくる。

 なんでも、たまに正気に戻りアースドラゴンが棲みかに帰ってくることもあったらしい。

 可能性はゼロじゃない。ゼロじゃないのならば、気合でどうにでも出来る。


 冬樹は三人に水銃を渡し、いつでも対応できるように準備を整える。

 こちらを見据えるアースドラゴンは、翼を軽く動かす。

 いまだ動けないのを確認してから、赤い目で睨みつけてくる。

 まっさきに目をつけられたのは、冬樹だ。

 好都合だ。冬樹はアースドラゴンの周囲を駆けまわり、放たれる攻撃の数々を避ける。


「……お母さん! お願い目を覚まして!」

「お母さん!」


 兄ドラゴンが叫び、妹ドラゴンも大声をあげる。

 アースドラゴンはそれでも攻撃をやめない。

 わずらわしそうにさらに拳を振りぬいてくる。


「二人とも頑張ってくれ! っと!」


 落ちてきたアースドラゴンの尻尾の一撃を横に跳んでかわす。

 衝撃に地面が震えたような気がした。


「お母さん! お願い、戻ってよ!」


 妹ドラゴンは叫ぶと同時に、口から土の塊を吐き出す。

 それはアースドラゴンに比べれば非常に弱い一撃だった。

 しかし、アースドラゴンの頭に当たった。 

 アースドラゴンが口を大きくあけた状態で動きを固める。


「……に、んげん……私を、早く殺してくれ……っ」

「お母さん!」


 駆け出そうとした妹ドラゴンを兄ドラゴンが止める。

 冬樹は水銃を取り出して、ありったけの声で叫ぶ。


「アースドラゴン! 今からありったけの水を叩き込む! 正気を失わないように頑張ってくれよ!」

「……な、に?」

「あんたを助けるっていってんの!」


 冬樹は返事を待つより先に、水銃を放つ。

 水がレーザーのようにアースドラゴンへと伸びてぶつかる。


「べぶっ!?」


 後ろに控えていた三人も水を放ち、クロースカはついでとばかりに魔石を放り投げて水の塊を落としてくれる。

 水が終われば、新しいものを作り、休みなく水を当てる。

 しばらくそうしていると、アースドラゴンが叫んだ。


「あ、悪意ある魔力は消えた! や、やめろ! 私は土属性で水には本当に弱いんだ!」


 その声が響いたと同時に、冬樹は片手をあげて水銃を消す。

 ミシェリーたちが持っている水銃も消滅させて、冬樹は子ドラゴンたちを見る。

 子ドラゴンたちは一度頷き、涙をあげながら駆けていく。


 ボロボロの状態のまま、アースドラゴンは二人の子どもを受け入れる。

 ワイヤーも解除してやると、アースドラゴンはその翼で思い切り抱きしめた。

 ……子どもを思う気持ちはドラゴンだろうが変わらないだろう。

 冬樹はパワードスーツを解除し、軽く痛む腹をさすりながらしばらく見つめる。

 やがて、子ドラゴンたちが落ち着きアースドラゴンが這うようにやってくる。


「大丈夫、か?」

「体の疲労はあるが、傷はこの通りだ」


 アースドラゴンは疲れた様子でその場でしゃがむ。

 それなりに傷を受けていたアースドラゴンだが、その体のどこにも傷はない。

 脅威の再生能力だ。

 冬樹はそんなドラゴンたちの近くに腰掛け、同じように近くに座ったミシェリーに顔を向ける。


「だーりん、無茶しすぎ」

「助けられると思ってたんだよ、一応前にも似たようなことしたしな」

「それでも……まあ、いい。子ドラゴンが人間に恨みを持たなかったし、これでいいんだと思う」


 ミシェリーはドラゴンたちを眺めながらそう呟く。

 子どもと親が再会できたことを何よりも喜んでいると、アースドラゴンは子ドラゴンたちを抱えあげながら、


「あらためて礼を言おう、ありがとう人間の戦士よ」

「いやいや、この子達のおかげだよ。こいつらがいなかったら、普通に討伐していたよ」

「……ふむ、そう軽々といわれるのは気に食わないな。……それよりも、そなたらは、ロヂの街から来たのか?」

「ああ」

「では、送っていこう。恐らく、ロヂでは今も私を討伐するかしないかで話し合っているだろうし、一言伝えにいきたい」

「……だ、大丈夫か?」

「まあ、急に攻撃される可能性もあるが……しっかりと話もできる、大丈夫だろう」


 冬樹は隣のミシェリーの肩をつつき、ぼそぼそと聞く。


「……ていうか、アースドラゴンってロヂの街と親交あるのか?」

「……一応、街を守っている、という話はあるらしい」


 ミシェリーが同じように小さく返してきてくれる。

 ここで何かをするというわけでもない。

 冬樹たちはアースドラゴンの背中に乗せてもらう。

 四人が乗るには少し小さい気もしたが、さすがはドラゴン。

 力強く翼を広げ、疲労の様子もみせずに高く飛ぶ。


「わー! ドラゴンに乗るなんて初めてっす! 後で里のみんなに自慢するっす!」

「……僕も、良い旅の報告ができそうだね」

「だーりん、新婚旅行はこうやって移動するのもいいと思う」

「……しねぇよ」


 風が肌を撫でていくのは気持ち良い。

 地上を歩く何倍もの速度で、空を移動していく。

 空を飛べるのは本当に良い。

 飛行系の装備を入れたい気持ちにかられていると、


『……さっきの魔力』

『どうした?』


 ここ最近生きているのか不明なほどに静かだったハイムが話しかけてきた。

 冬樹の驚いた声が嫌だったようで、むっとした声が返ってくる。


『……あんた、あたしを忘れていたでしょ』

『い、いやそういうことはないって』

『……ふん、まあいいけど。気をつけなさいよ、アースドラゴンを汚染していた魔力、嫌な魔力だったわ』

『どういうことだ?』

『……今のでわかりなさいよ。魔族が、たぶんあたしみたいなのを作ろうとしているか、作ったものを試している』

『……魔本をか? けど、それってかなりの魔力を持っているような奴じゃないと作れないんだろ?』

『……そうね。けど、いるんだからいるの! 気をつけなさいよ!』

『よし、気をつけるよ。ありがとな』

『……ふん。死んだら、あんたの体改造してあたしのものにしてやるから覚悟することね』


 つまりはゾンビにでもされるのだろうか。

 そんなことを考えながら、冬樹はアースドラゴンに声をかける。


「あんた、気をつけてくれよ? どうにも、変な魔族がこのあたりにいるようだ」

「ほぉ、気づいたか。私に攻撃を仕掛けてきたのは、恐らく魔王級の魔族だ。……実験と言っていたが、まあ危険なのは理解している」

「そいつのこと、もう少し分からないか?」

「……名前まではわからないが、銀髪で……どんよりとした目をした男、だったな。どうにも不気味であったが、その魔力量は相当なものだった」

「……そうか」


 やがて、ロヂの街近くにやってきて、冬樹たちは門の前で着地する。

 門の入り口を守護していた二名の忍者が警戒するように武器をとりだす。


「……待て。私はもう大丈夫だ。この者たちによって、正気に戻してもらったんだ」


 アースドラゴンが翼の足で頭を叩いてくる。


「……す、すぐに報告をしてこい!」


 忍者の一人が叫び、冬樹たちは結果的にはこれでよかったのかもしれないと顔を見合わせた。



 ○



「……それでは、ギルドへ報告に向かいましょう」


 門兵が呼んできた別の忍者の言葉に、アースドラゴンは頷く。

 アースドラゴンは再び全員を乗せて空を飛ぶ。

 ギルドにある訓練場へと向かい、アースドラゴンは下降する。


 夕陽が落ちていく景色を空から眺めるのは随分と綺麗だった。

 普段、本物の太陽を見る機会が限りなく少ない冬樹には、何もかも新鮮であった。

 飛行機、というのはこういうものだったのかもしれない。


 訓練場に降りると、訓練中だった冒険者たちが、尻餅をついたり目を白黒させたり……とにかく、阿鼻叫喚であった。

 忍者が落ち着けるように話をし、この街のギルドを管理しているものを呼び、アースドラゴンについて説明をする。


「……この者たちが、アースドラゴンの暴走を止めてくれました。報酬金は彼らに払ってください」

「……わ、わかりました」


 忍者たちの話を聞いていると、中からたくさんの冒険者が現れる。

 ……こちらを見て、冬樹と目が合った瞬間、顔を青ざめるものばかりだ。

 本当に舐められていたようだ。


 そんな彼らに手を振り返すと、冒険者たちは血相変えて逃げていった。

 今後、彼らがこのギルドに顔を出すことはないかもしれない。

 冬樹はそんな気持ちで、後処理をミシェリーたちに任せる。

 報酬金とか、ランクとか、今はどうでもいい。

 冬樹が何より気になっているのは、研究所についてだ。


「忍者さん、俺たちワッパに会いたいんだけど……どうだ?」

「……ワッパさんにですか? 一応、話は通してみますが、我々の権力では絶対に会えるとは限りませんよ?」

「そうか……なら、異世界について話したい、と伝えてくれ。俺、そのことを研究しててさ」

「……は、はあ」


 他に良い言葉が思いつかなかったのだから仕方ない。

 どこの宿に泊まっているかを伝えると、忍者は何度か頷いて去っていく。

 一番良いのはこの装備を見せることだ。

 しかし、パワードスーツがどうたら、といってもまるで理解されないだろう。

 異世界、という言葉にどこまで興味を持ってくれるかはわからないが、珍しい言葉として一度くらいは会ってみるか、と思われるかもしれない。


 やがて、ギルドは一つの落ち着きをみせていく。

 アースドラゴンが棲みかに戻ったのがきっかけの一つだろう。

 次第にギルドは静かになり、やがていつもの風景を取り戻す。

 夜が近づいたことで、人々が訓練を切り上げていく。


 やがて、ミシェリーが駆けてきて、たんまりと膨らんだ袋をこちらに持ってくる。

 予想していたよりも大量の金額だ。

 ミシェリーの背後では、先ほどみたギルドリーダーの老人もいる。


「……若いの、この街の冒険者にならないか?」


 ギルドリーダーの言葉に周囲が騒然とした。


「……なんですかそれ?」


 冬樹の返事にさらに、周りから声があがったのがわかった。


「……冒険者は自由に旅をしてまわれるけど、ギルドに雇ってもらうこともある。ロヂの街に住むことになるが、給料が支払われるようになる」

「は、はあ」

「もちろん、ギルドの仕事をしてくれれば、の話だが。悪い話ではないだろう?」

「……いや、俺たちは旅がありますから。すみませんね」

「そうか、残念だ」


 そう口にすると、人々の不思議そうな目が向けられる。

 冒険者にとっては誉れなことだったのかもしれない。

 ギルドリーダーは大きく笑って、


「そうだな。うん、そうだ、何気にしないでくれ。働いてくれれば嬉しかったというだけだ。それでは、冒険者として今後も平和のために頑張ってくれ」

「ああ、おっさんも仕事頑張ってくださいよ」


 冬樹が言うと、ギルドリーダーは笑って去っていった。

 ホッとミシェリーが息をもらす。


「あの人、昔はそれなりに有名だったらしい」

「へー、やっぱりそういう人がギルドリーダーになるんだな」

「うん。はっきりいって、あんまり失礼な態度をとると、周りが、ね」


 ミシェリーがぼそりという。

 彼女につられて回りを見ると、確かに鋭い視線が多くあった。

 気にしていてもきりがない。

 もう今日出来ることはやったのだ。冬樹たちは宿へと戻っていった。

 明日は、いい報告があることを期待して。


 

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