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第四十一話 ロヂの街3



 冬樹たちは街内にあった空き地のような場所で、壁に背中を預ける。

 家の物陰では、家主に注意を受けてしまったのだから仕方ない。

 しきりに考えることは研究所に入ること、またはワッパに興味をもたれることだ。

 子どもの遊び場としても活用されているようで、追いかけっこを楽しんでいる子どもの姿もある。

 見ていて微笑ましい気分になってくる。彼らを見守りながら、冬樹はクロースカに目を向ける。


「なあ、クロースカ、ワッパの役をやってくれないか?」

「……わ、ワッパさんっすか? ……はい、私がワッパっす」

「……よし、おまえは引きこもっているとする。その時、どんな状況になったら外にでたい?」

「ワッパさんだとしたら……そうっすね。たぶん、死んでも出てこないっすね」

「へ!? いやいや、さすがに研究所がぶっ壊れたら出てくるだろ?」

「いやー、前火事が起きたときにも気づかずに慌てて救出されたって過去を持っているっすから。あの人。今できる研究のほうが命よりも大切らしいっす」

「はー、おまえ詳しいなぁー。ファンか?」

「単純に、ワッパさんがドワーフだからっすよ。ドワーフは研究者みたいな人が多いっす」


 クロースカが詳しい理由はわかったが、今はそれを調べている場面ではない。

 冬樹たちはしきりにアイデアを出し合うが……結局どれも微妙なものだ。


「……ダメっすね」

「うーん、とりあえず今日はこのくらいにしておくしかないか。一度、ミシェリーたちと合流しよう」


 太陽を見て、昼間であることを確認する。

 昼になったら、一度合流するという手はずになっていた。

 すぐに宿に戻ってくると、疲れた様子で机につっぷしていたサンゾウがいた。


「どうしたんだサンゾウ」

「……ミシェリーちゃんの訓練が、ね。体ボロボロだよ」


 サンゾウは今すぐに風呂にでも行ったほうがいいようなほどに汚れている。

 彼の隣の椅子をひく。

 ちょうどそのタイミングで、食堂が騒がしくなる。


「……なあ、姉ちゃん一緒に食べようぜ?」

「へへ、いいだろう? な? な? まずは、お話しくらい聞いてくれよー。食事奢るからさ!」


 なんて日本ではなかなか見ることのできないナンパを目撃する。

 ミシェリーの美しさに引き寄せられたのだろう。

 確かに、それは仕方ないかもしれない。ミシェリーは珍しく眉間に皺を刻んでいる。

 まるで脈がないのは誰が見ても明らか。


 それでもナンパ男たちがひかないのは、今までの経験かただ気づいていないだけか。

 仄かにナンパ男たちは顔が赤い。ああ、後者だ。

 そう気づいた冬樹は、あまり大事になっては面倒だ、と席を立つ。

 食堂には他の客もいる。食事中にこんな光景を見せられても、あまり良い気分ではないだろう。

 冬樹は近づき、男たちの間に入って肩を組む。


「……あぁ?」

「なんだてめぇ?」

「いやいや、いい男たちだなって思ってさ。こっちのお姉さんと話すよりかは、俺と一緒に飲まないかい?」

「……ひっ」

「お、男に興味はねぇんだよ!」


 男達は酔いがどこかに去ってしまったかのように、すぐさま逃げ出した。

 食堂の視線が多少集まる。

 なぜか、好意的な目があり、少しばかり体が震えてしまう。

 演技でも、こういうのはしないほうがいいかもしれないと考えを改めさせられた。


「……だ、だーりん。まさか実は男に興味があって、今サンゾウに目をつけて……いる?」

「いねぇよ! さっきのは冗談だ!」

「なら助けてくれてありがとう。凄い怖かった。もう震えが止まらない。抱きしめて」

「抱きしめられているんだけど」


 行動する前にすでにミシェリーが左腕に抱きついている。

 ミシェリーが本気を出せば、あの男たちは盾で殴り飛ばされていただろう。

 しかし、それを言及することはしなかった。

 いくら強くても本当に怖かった、という可能性もある。


 ミシェリーからはまるで恐怖が感じられないため、その可能性は低い。

 注文しておいた料理がすでに並べられている。

 それらを口に運び、食事を楽しみながら切り出す。


「……さっき研究所を見てきたが、あれはダメだな」

「国の機密事項もあるかもしれないし、そう簡単に一般人は入れないよね」


 サンゾウの相づちが返ってくる。


「そこで、相談なんだけど、いいアイデアがあったら教えてくれ。俺考えたけど何も思いつかなかったっ」

「……うーん、事件とかが起きればまた話は別なんだけどね」


 それを理由に中に入ったり、どさくさ紛れになど色々手段はあるだろう。

 だが、そう都合よく事件は起きない。やるならば、自分たちで起こすくらいの覚悟が必要だ。


「研究所では、魔獣の死体も集めているらしい。この近辺の魔獣はおかげで結構狩られてしまっている」

「……どういうことだ?」

「だから、少し離れたところになるけど、ドラゴンがいるらしい」

「ど、ドラゴンだって!? それって、あの翼とかあるやばそうな奴らか?」

「そのやばそうな奴ら。もしも、そのドラゴンを討伐して研究所に持っていくことが出来たら?」

「……ドラゴンってのは、討伐は難しいのか?」

「それなりには。今も、Aランク以上の冒険者を募集していた。集まりはあまりよくなかった」

「誘われたんじゃないか?」

「それがさっきの男達」


 ようやく話がつながった。

 ドラゴン討伐が出来れば、研究所にも良いアピールになるかもしれない。


「ワッパってドラゴンの研究はしたいと思うか?」

「そりゃあ、ドラゴンってなかなか研究できないっすからね」

「へぇ……」

「おやおや……師匠知らないみたいっすね。説明してあげるっす! だいたいのドラゴンは知能があるから、人間を襲わないっす。むしろ人の言葉を話すやつもいるっす。けど、たまに今回のようにはぐれドラゴンがいるっす。そういうのは、たいてい魔力におかされて正気を失っているっす。だから討伐対象になるっす」

「説明はありがたいけど、そのちょっと馬鹿にしたような目はやめてほしいもんだな」

「だって師匠知らないじゃないっすか。説明くらいはさせてくださいっすよ」


 楽しげにクロースカが口を開く。

 もともと、人に何かを教えるのが好きなようだ。

 食事を終えてギルドへと向かう。


 中に入ると、ギルド内の一角でドラゴン退治のメンバーを集めている人たちがいた。

 現在は五人ほどだ。それでもまだ足りないと判断しているのだから、ドラゴンが強敵であるということなのだろう。

 そちらに目を向けながらも掲示板の前へ移動する。

 多くの依頼書から探し出すには時間がかかると思ったが、


「……これがその依頼か」


 ドラゴン退治の依頼書だけは、他の依頼書よりも目立つようにはられていた。

 探すまでもない。というか興味なくとも目に入ってしまう。

 それだけ自己主張の強い依頼書を見ていると、


「この依頼は特別依頼だから、特に受ける手続きは必要ではない。とにかく、手の空いている冒険者に討伐が頼まれている」

「まあ、わざわざ誰かに独占させる必要もないよな」


 ドラゴン討伐さえしてくれれば、誰でもいいのだろう。

 依頼書にはドラゴンの特徴などがざっと書かれている。

 一度、冒険者のグループが勝負を挑み痛い目をみながらどうにか情報を持ち帰ってくれたらしい。


 アースドラゴン。

 土属性の魔法を操り、何より空を飛んで攻撃してくるために、ダメージが与えにくい。

 体には薄い魔力の防壁が常に張られているために、弱い魔法は届くことさえない。

 冬樹はその依頼書をカメラにおさめていると、


「おい、てめぇさっきのか!」

「なんだ、連れを助けてただけかよ!」


 冬樹は背中を押されてしまう。

 よく見ると食堂で見た顔だ。

 両者は歴戦の戦士と名乗っても信じてしまうような傷だらけの顔をしている。


 ドラゴン退治募集の中にいた男たちだ。

 確かに、彼らはAランク相当の実力はあるのだろう。

 男はじっとこちらを睨みつけてきたが、やがて視線をミシェリーにずらした。


「なあ、ミシェリーさん。頼むよ、ドラゴン退治に協力してくれないか? 今日戦闘してるところみたけど、あの盾さばきは見事だ! 是非とも力を貸してくれ!」


 ミシェリーが断るように首を振ったところで、冬樹が一歩前に出る。


「なんだよおまえ?」

「ドラゴン退治、手伝おうか?」


 アースドラゴンがどれほどの実力かわからない。

 仮にも今集まっている人たちはAランクなのだから、足手まといになることはないだろう。

 冬樹の態度に、男たちは怯んだ様子で手を出してきた。


「冒険者カード見せろ」

「……なんで?」

「んなの、ランク確認するためだろうが」

「え、えーと」


 冬樹はどうにか誤魔化してやろうと思ったが……やめた。

 諦めの気持ちで冒険者カードを渡すと、男達は目に涙を溜めるほどに笑いだした。


「お……おまえ!? まさかFで倒すつもりだったのかよ!」

「報酬を山分けしてもらいたいってか!? 態度だけはSランク級だな!」

「ぶっ、くくははは!? お、おい、ここにFランクでドラゴン退治に参加しようとしている馬鹿がいますよー!」

「お、おまえら! あんまり人の冒険者カード見せびらかすな!」


 男たちが冒険者カードを持ってギルド内を走っていく。

 馬鹿にしたような笑いがつられるように増えていく。


「あいつ大人のくせにいまだにFって才能なさすぎだろ!」

「この前登録したばっかなんだよ! ギルドなんて知らなかったんだ! 悪いか!」

「ぷははっ! 今どき、田舎に住んでてもギルドくらい知っているっての! 嘘下手すぎだろ!」

「お、俺はな……はぁ、まあいいけどさー」


 もともと馬鹿にされるのは慣れていたほうだ。

 日本の訓練校時代を思いだす。

 勉学は中の下であり、実戦でも成績はあまりよくなく、クラスメートからは馬鹿にされていた。

 まあ、単純に学校の訓練用パワードスーツが冬樹に合わなかっただけなのだが。


 とにかく幸い、ランクがいくつでもこの依頼は受けることができるのだ。

 ドラゴンの死体をここまで運んでくれば、彼らに力を証明できるだろう。


「……だーりん、私爆発しそう」


 凍りつけたような顔で、ミシェリーが拳を震わせている。


「そんだけの力あるなら、ドラゴン戦も大丈夫そうだな。期待してっからっ」


 放っておいたら暴れだしそうであったため、彼女の頭を撫でるようにぽんぽんと叩く。

 するとミシェリーの怒りは一気に治まる。

 温和な笑みに飾られる。


「……う、うん」

「ま、彼らの言うこともおかしくはないからね。リーダーがものを知らなすぎるのが原因ではあるけど……あんまり良い気分ではないよね」

「おまえら、あんまり怒るなって。別に俺たちに何らかの支障があったわけじゃないだろ? 所詮言葉なんだから、好きなだけ言わせておけって」

「……はあ、ここで力を自慢してくれればそれはそれで面白いんだけどね」

「どうせドラゴンは討伐しなくちゃならないんだから、まそのときに色々できるだろ」

「そうだね」


 冬樹たちはギルドを出て、ドラゴンがいる場所へと向かっていった。



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