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第三十九話 ロヂの街2

 宿の外――タオルに水をつけて、体を拭いていく。

 風呂もあるようだが、この宿にはない。

 銭湯のような場所までいく必要がある。


 体を洗い終える。綺麗好きではないが、日本での生活に慣れているため最低限の汚れはとりたかった。

 明日は金を稼ぎ、銭湯まで足を運びたいものだ。

 などと考えながら宿に戻る。階段をのぼり、いくつもの扉がある廊下を歩き自分の部屋に到着する。


 すでにサンゾウは眠ったようだ。

 起こさないよう、静かに扉をしめたところで、ノックされた

 来客で予想されるのはミシェリーかクロースカだろう。


 だが、クロースカもずっと眠そうにしていたし、恐らくはミシェリーだ。

 念のため、盗賊の仲間たちの報復なども考えて警戒しながら扉をあけると、ミシェリーがいた。


「だーりん、ちょっと夕食食べよう」

「……あれ、まだ食べていなかったのか?」

「だーりん食べた?」

「体洗う前に軽いものだけどな」

「私もクロースカと少しだけ食べた、けど。まだおなか減っている」

「そんなに食べて大丈夫なのか?」

「……肉はつかない」

「そうじゃなくて、お金大丈夫か?」

「さっきの報酬金がたんまりある。まだまだ全然いける」

「そか。なら、行くか」


 冬樹も腹は減っている。

 ミシェリーは恐らく、冒険者としてそれなりに生活してきている。

 そのミシェリーが財布を管理して大丈夫というのだから、信じてみよう。


 ともに食堂に下りて、食事を注文する。

 夜も遅くなっているため、注文出来るギリギリの時間だ。すでに食堂にいる人々は、食後の休憩をしているものたちばかりだ。

 これで終わりだったのに、とコックには思われたかもしれない。


「ありがとな」

「……どうしたの?」

「俺一人じゃあ、ここまで来れなかったかもしれない」


 この旅が始まってすぐに感じたのがそれだ。

 危険に巻き込みたくない、そんな気持ちで一人で行動しようと思っていたが、よくよく考えれば一人でどうにかできるはずがない。


 ルナたちのいる国でさ、冬樹にはまるでわからなかった。

 他国に行けばもうどうしようもなくなるのは仕方ないだろう。

 ここまでスムーズに移動できたのは、三人がいたから。何より、ミシェリーのおかげが強かった。


 ミシェリーは頬を僅かに染めて髪の先をいじる。

 普段、恥ずかしいことばかり言っているくせに、褒められるのには慣れていないようで珍しく赤面顔だ。


「……けど、もしもだーりん一人でも、たぶん問題なく来れたと思う。多少時間はかかっても」

「いやいや、たぶん船の時点で無理だったぞ? 闘技島で、別の船に乗り込んでいた可能性もあったし」


 そのシーンは自分のことながら容易に想像できてしまい、頬がひきつる。

 しかし、ミシェリーは首をふり、胸に手をあてる。


「だーりんは素直だから平気。質問はすぐするし、自分の弱さも簡単にさらけ出せる。だから、きっと、誰かに協力してもらって、助けて……人が増えていると思う」

「……人が増える?」


 ジト目で睨んでくる。


「戻ってくるときに、また女が増えている」

「そりゃあねぇだろ、言うほど人に好かれることはないしな」


 適当でがさつ、知識なし、部下に丸投げ人間、とよく評価されたものだ。

 ミシェリーのように高評価してくれる人間ばかりがこの世界にいるのならば、確かに好かれるかもしれないが。


「それならそれでいいんだけど。とにかく、だーりんは人に優しくしすぎな部分が多い」

「優しくした覚えはないけど……」

「優しい。普通私が本当に嫌なら、誰かに相談して遠ざけるはず」

「……ま、別に好かれること自体は嫌いじゃないからだ」


 別に本気で嫌っているわけではない。

 これほどの美人だ。求められて嬉しくないとは口が裂けても言えない。

 頬をかいていると、ミシェリーが微笑んだ。


「あ、今のちょっと可愛い」

「うっせ……優しいってのは、イチを助けようとしているからか?」

「それもある」

「なら、それは……違う。俺にとっての仕事みたいなもんだ」

「仕事?」


 冬樹は首を縦にふる。

 困っている人を助けたり、悪者から街を守ったり……それが当たり前の仕事だった。

 冬樹にとって、これは仕事の延長みたいなものだ。


「自分より年下の子は子どもって俺の中で勝手に判断してたんだ。だから、イチも守らなきゃってな」

「そうなんだ」

「だから、さっきの一人でこの国に来ようとしてたのも、おまえたちを巻き込みたくなかったからなんだよ」

「……やっぱり優しい」


 そう言われるのは少し納得できない。

 だから、きっぱりと首をふらせてもらう。


「違う。みんなを守らなきゃっ! って思ってたんだよ。きっと、危険で……俺がどうにかしないと、って勝手にな。けど、全然そんなことないんだよな。みんな、自分なりに出来ること考えて、それを実行してる。そりゃ、大人に比べたら考えが甘いこともあるかもしれないけど、そりゃあ俺だって同じだし。だから……なんていうか、ちょっと反省」

「反省?」

「……俺には娘がいる。ヤユっていうんだけど、ヤユのこと、子ども扱いしすぎてたなって。もっと信じていれば、よかったかもって思う場面も何回もあったんだ」

「そうなんだ。どんなこと?」

「例えば、街が危険だから学校まで送っていこうとしたりさ」

「学校……もしかして、だーりん貴族?」

「え、あー……貴族の知りあい?」

「……?」


 ミシェリーが首を傾ける。

 あまりこの話をするのはよくない気がしてきた。

 自然、冬樹の日本での話になりそうであったため、冬樹は話題を変えることにした。


「ミシェリーはこの国の出身なんだろ?」

「うん。ここからもっと離れたところ」

「どんな感じなんだ?」

「……森の中で暮らしていたから、この街や前によった村よりももっと田舎っぽいところだった」

「前の村よりってそれもう文明ないんじゃないのか?」

「だーりん酷い。けど、あまり魔法などにも頼ることはなかった気がする。最近は少し変わってきているけど」

「へぇ……。故郷にはもどらなくていいのか?」


 ふと、例の双子オーガが思い出される。

 彼女らはあまりミシェリーを好んではいないようであった。


「……うん」


 やはり、ミシェリーは暗い顔をする。


「だーりんはどこ出身? ご両親に挨拶をしないと」


 この話を続けたくなかったのか、すぐに話題を変えられる。


「両親はいないし、そもそも結婚しないから大丈夫だ」

「勘は絶対」

「その勘に頼ってばっかなのはやめたほうがいい」

「そうはいってもそれが自然だったから」


 冬樹は何かしらを口に出そうと思ったが、


「明日からはどうするの?」


 話題を変えられてしまった。

 わざわざ戻してまで話すこともなかったため、自分が今考えているプランを伝えることにした。


「とりあえず、まずはワッパとかいう奴の研究所に行ってみる。会えればそれでいいし、ダメなら……まあ、おいおい考えていくとして」

「うん、なら二手に別れる? 私はお金を集めにいく」

「それもいいかもしれないな」

「ならだーりんといきたい」

「実力的には、俺とミシェリーは一緒に組まないほうがいいだろ」


 闘技大会での戦闘から、クロースカは前衛よりか、後衛のほうが得意な印象だ。

 サンゾウは単純に四人の中でもっとも弱い。

 クロースカとサンゾウが組む、というのはあまり相性がよくないだろう。


「戦闘があるなら、クロースカとミシェリーが一番じゃないのか?」

「……行きたかった」


 彼女はしょんぼりとした顔を作るが、運ばれてきた料理に目を輝かせる。

 パスタっぽいものを食べていると、ミシェリーが一口食べたがってきた。

 料理の入った皿を彼女のほうに近づけるが、ミシェリーは口を開けるだけだ。


「……食べさせてほしいってか?」

「……」


 こくこくと首を縦に振る。

 ……まあ、それで喜んでくれるのなら安いものだ。

 フォークにパスタをまきつけてミシェリーの口に持っていくと、彼女は目を緩めてぱうりと食べた。


「おいしいか?」

「うん、はい、だーりんも」


 ミシェリーが自身のパスタをこちらに向けてくる。

 トマトのような色をしている。食べさせてもらうと、確かにトマトのような味が口の中に広がる。

 そんな風に、食事を楽しんだ。



 ○



 次の日。

 どうやって別れるかについては、ギルドの依頼を見てからということで、依頼を見ていると……。

 どうにもDランクの依頼が多かった。

 だったら、サンゾウのランク上げのついで、ということで、冬樹はクロースカと組むことになった。


「……変なことしたら」


 ぎりぎりと奥歯を噛むようにしてミシェリーがクロースカを睨む。

 クロースカはそんなミシェリーの様子が楽しかったらしい、からかうように腕を掴んできた。

 不意に腕を組まれて驚いていると、ミシェリーがさらに暴れだす。


「ホレホレ、早くいくっすよー」

「……サンゾウ、行こう」

「それじゃあ、よろしくねミシェリーちゃん」


 サンゾウとミシェリーが話をしながら去っていく。

 途端、クロースカが楽しそうに歩きだす。


「師匠! どうやってワッパさんに会うつもりっすか!?」

「とりあえず、そろそろ離れてもいいんじゃないか?」

「えー、たまにはいいじゃないっすかー」


 といいながらもクロースカはパッと離れる。


「とりあえずは正面から行ってみて、ダメそうだったら考えるって感じだな」

「なんだー、なんか作戦でもあるのかと思ったっすよ」

「ワッパがこっちに興味を持ってくれることとか、何もわからないんだ。まずは調査が基本だろ」

「そうっすね。……あ、でも、もしワッパさんにあの鎧を見せることが出来れば、もしかしたら面会できるかもしれないっすよ」

「だろうね」


 ワッパがいったいどんな人物なのかはまるで知らない。

 研究者というイメージだけで語るが、なんとなく未知のものに興味を持ちそうではある。

 それには、冬樹のパワードスーツは最適、なのではないだろうか。

 研究所に到達する。

 入り口には忍者が二名立っている。すんなりと通れるということはなく、忍者たちに道を塞がれる。


「……なんだおまえたち?」

「えっと……ちーっとワッパに会いたいんだけど」

「面会の約束は聞いていない。去れ」

「……はいはい」


 忍者に手をひらひらと振られ、家の影に隠れる。

 そこからじっと研究所を観察する。

 たまに研究者と思われる白衣を着た人間が出入りしている。


 中に入るときに、何か許可証のような物を提示している。

 それに、忍者は研究者の顔をしっかりと見ているし、あれを盗んで中に入るというのは難しそうだ。


「正面から突破ってのは……さすがに大問題になるよな」

「そうっすねぇ……うーん、けどワッパさんって研究熱心で外に出るなんてこと滅多にないっすよ? 機会はまるでないっす」

「……さてさて、難しい問題だ」

 

 家の物陰で唸りながら、作戦を考える。



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