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第三十六話 レイドン国侵入2

「……助けてくれたのは感謝しよう」

「ありがとう、少しちびった」

「そういうことは言わないほうがいい」

「海の中だしわからない」


 双子はお互いに注意して、船をおりていく。

 相変わらずミシェリーとは仲が悪いようだが、こちらへの視線から険が抜けたような気がした。

 冬樹たちも船をおり、港街を歩いていく。

 久しぶりの大地は少し変な感覚になる。今もどこか波に揺れるような……思いだして気分が悪くなったために忘れる。


 ここは今こそレイドン国であるが、つい数年前に奪われた土地だ。

 もともと、この大陸には二つの国があったが、レイドン国が強襲したのだ。

 というわけで、あまり忍者に対して友好的ではない。

 先に降りた忍者を睨む視線がいくつかある。


 冬樹はそれを見ながら人々の群れに入っていく。

 船ではそれなりに目立ってしまったし、あまり派手に行動したくはない。

 冬樹たちは人のいない場所まで来たところで、ようやく一息つけた。


「さて、こっからどうするか……」

「ワッパさんはここから北にずーっといったロヂという街に研究室を持っている、と聞いたことがあるっす」

「じゃあ、早速そっちに向かうか」

「どうせだったら護衛任務でも受ける? 徒歩じゃ移動だけで二日くらいかかる」


 ミシェリーの投げかけに、クロースカがいいっすねっと表情を明るくする。

 護衛任務。そんなあっさりと受けられるものなのだろうか。

 冬樹もテロリストに狙われているという人間の護衛をしたことがあるが……。


「……あんまり詳しくないから、色々任せていいか?」


 出発前の自分を少し思い出す。

 これでは、ルナも心配するはずだ。

 一人では途中でゲームオーバーしていてもおかしくないほどだ。


「詳しくない……? まさか、だーりん、冒険者カード持っていない?」

「い、いやいや……師匠……まさか?」


 ミシェリーが珍しく驚いた顔で、クロースカも引きつった顔。

 サンゾウはなんとなく予想しているようで、いつも通りの余裕のある笑み。


「……持ってないけど、みんな持っているものなのか?」

「……それであの強さっすか? いったい、どこで鍛えていたっすか?」

「よく今まで生活できた。さすがだーりん。ひとまず、冒険者ギルドに行く」


 ミシェリーがついてきて、と先頭を歩いていく。

 その後ろにクロースカが並び、冬樹はサンゾウと歩いていく。


「さ、サンゾウ、色々教えてくれ!」

「リーダーってそういうところ素直だよね。冒険者っていうのは、さすがにわかるよね?」

「まあな、散々戦ったし。強い奴らだろ?」

「……正確には魔獣討伐の権利を持っている人たちのこと。市民は身の危険がない限り、魔獣を勝手に討伐しちゃダメなんだよ?」

「……なんで?」

「魔獣の肉も食料になるからだよ。好き勝手に殺さないように、冒険者ギルドで管理しているんだよ」

「はぇー」


 返事をしてから凄くアホっぽい声を出したなと思った。


「冒険者ギルドはもともと闘技島で始まったんだよ。だから、本部も闘技島にあって……世界中どこにも冒険者ギルドは基本的にあるよ」

「そうなのか……どうせだったら闘技島で登録してきたほうがよかったか?」

「あんまり関係ないよ。気づいたのがここでよかったかな。レイドン国にはいくつかギルドがない町もあるからね。特に首都なんかは冒険者を嫌っていて街にも入れていないんだよ」

「徹底してるんだな」

「まあ、そういう例外は少ないかな」


 敵国とかを行き来されたら嫌だから、気持ちはわかる。


「他のところはそういうのはいいのかな?」

「冒険者に情報を渡さないようにするのも、その国の技量ってことだよ」

「けど、やっぱりギルドがあるってこと、危険以上に便利なんだな」

「まあね。冒険者は基本的に国に縛られないからね。例えば、自国ですぐに兵士が送れないような場所がドラゴンとかに襲われていたとするよ? 名前を売りたくて冒険者が討伐してくれる、なんてこともあるくらいだからね」

「……そりゃあ確かにラッキー、だな」

「それに、冒険者は仕事の中で得た情報を他人にべらべら喋るのは一応、禁止されているんだよ。もしも、目撃されたら殺されて文句はいえない。……まあ、そんな感じかな」


 そうこうしていると、やがて回りよりも大きい建物が見えてきた。

 物騒な装備に身を包んでいる人たちが多いことから、冒険者ギルドであると推測できた。

 階段をのぼり、ギルド内に入る。

 それなりに整えられた空間では、武器を持った男女が右に左にいる。

 受付の女性を眺めていると、ミシェリーに腕を引っ張られる。


「……ロヂ行きの護衛はないけど、その中間地点の街までならある」

「そこまで行って、別の護衛をするってところか?」

「うん……とりあえず、これで金儲けと移動ができる」

 

 冬樹はじっと依頼書を観察する。ほとんど読めない文字であったが、Dという文字だけは見ることができた。


「このDってのは、あれか。冒険者の階級みたいな奴か?」


 闘技大会では、確かそんな階級のようなものがあったはず、とうろ覚えの知識を口にする。

 ミシェリーはこくりと首肯する。


「SからFにわかれている。私とクロースカはA級」

「Aって凄いんだな」

「だーりんはたぶんSの力もある」

「色騎士はS級ってことか?」

「うん」


 日本でやってきていた訓練がしっかりと体に身についているということ。

 嬉しい評価だ。


「けど、いきなりSってのはないんだろ?」

「うん。よくてD級だけど……まあ、大丈夫。何級をとってきても、合格さえすれば」

「ご、合格か……試験って字書くとかないよな?」

「B級以上にならない限り大丈夫」

「よし。さっそく受けてくるか」

「なら、あっち」


 ミシェリーに指定された場所に行き、冬樹は早速試験を受けに行くことになる。

 ちょうどこれから試験を行うようだ。

 受付に案内され、冬樹はミシェリーたちと別れ、奥に連れて行かれる。

 ギルドの奥の扉を出ると、訓練場が広がっていた。

 そこを歩いていくと、四隅に木が打ち込まれた簡素な対戦場のようなものがあった。

 試験官と思われる男と、対戦場に入ってきた人間。


「それじゃあ、こいつと戦ってもらう。武器は木剣でいいか?」


 囲いの外に立っていた試験官が野太い声をあげ、こちらに木剣を差し出してくる。


「ああ、はい」


 冬樹は剣を渡されて、冒険者とにらみ合う。


「では始め!」

 

 試験官が叫び、冒険者が頭をさげて片手をこちらに向けてくる。

 かかってこい、ということのようだ。

 木剣など何年ぶりに持つだろうか。訓練学校のときを思いだしながら、地面をけって試験官の背後をとる。


「なっ!?」


 加減をするつもりはない。その背中に一太刀を浴びせ、よろめいたところで体を床に押さえつける。

 背中側で関節を固めて、動けなくする。

 このくらいの訓練は慣れたものだ。


「……合格だ。ランクFよりは強そうだな……、おいだれか! もっと上のランクでこいつと戦いたい奴は!」

「……あ、あれ? 合格じゃないんですか?」

「いや、合格だが、もっと上のランクのほうがいいんじゃないか? ランクFだとF以上の依頼は受けられないぞ?」

「別の仲間がAだとしたらどうなんですか?」

「……一応、依頼は受けられるが、報酬金などはAランクの人間の比率が高くなってしまうな。それに、依頼達成もAランク以外の人間は達成数が増えない」

「なら、別にいいですよ。急ぎの旅があるんで」

「……そ、そうか。ならFでいいか」


 試験官の声に血気盛んな冒険者が近づいてきて、彼らはぶーぶーと文句をたれている。

 あまり長く戦って時間をかけるのも面倒だし、どこで誰に見られているかわからない。

 実力を計られて、命を狙われたら嫌だ。

 ここは敵国であるため、出来る限り力は温存しておくに限る。


 ランクがFだろうが、Dだろうが、冒険者として食っていくわけではない。

 戦いたがっている者たちがいたが、それらを無視して受付まで戻ってくる。

 冒険者カードを作ってもらう。

 名前を記入するときに多少問題はあったが、そこはクロースカにやってもらい、完成する。


「後は、あなたの魔力を入れるだけで完成です」

「ま、魔力?」

「はい」


 受付がニコリと微笑む。冬樹もにこーっと引きつった笑みを返しておく。


「……あの、魔力を入れてください。聞いてます? 言葉理解できてます?」


 受付の女性がカードを差し出してくる。

 どこか目つきが鋭いのは気のせいではないだろう。

 そこに手を差し出して、己の魔力を入れる必要があるのだが……。

 冬樹は受付を無視して背後のミシェリーを見る。


「……俺魔力持ってないんだけど」


 ぼそりとミシェリーの耳元で言うと、ミシェリーは聞こえないのか首をかしげ耳を近づけてくる。

 

「もう一回」

「……魔力ないの」

「……もう一回。耳に息をかけるように」

「……おまえ、ふざけんなっ」

「事情はわかった。確か、これは身内の人間の魔力でもよかったはず?」


 冬樹とミシェリーが立場を入れ替える。


「ええまあ……一緒に行動する人ならば問題ありませんが」

「今だーりんは魔力を使い切ってしまっている。ひとまずは、妻の私の魔力を入れておく」

「あ、奥さんのですか、それならば問題ありませんね」


 大有りであったが、他にやり過ごす方法も思いつかない。

 魔力をまったく持たない人間はこの世界にはいないようなので、下手に教えれば悪目立ちする。


「離婚するときはきちんと魔力も解除してくださいね」

「不吉なことを言うな」


 じろっとミシェリーが睨むが受付は慣れた様子で対処する。

 冒険者カードが完成し、冬樹は受け取る。

 すぐにミシェリーが依頼の紙を渡し、ミシェリーをリーダーとする四人パーティでの受領する。


「ランクD未満のかたは、この依頼を達成しても達成回数は増えません。つまりまあ、Fの人は回数が増えませんがよろしいですか?」

「よろしいです」


 こくりと受付は頷き、疲れた様子であくびをする。

 せめて隠す動作くらいはしてほしいものだ。

 依頼の場所へ向かうために、ギルドを後にする。


 ギルド前の階段をおりながら冬樹は冒険者カードを眼前にかざす。

 このカードには特殊な技術があるようで、依頼達成の回数などがわかるようになっているらしい。

 その回数に応じて、昇格試験を受けられるようになる、とかなんとか。


「これ、登録する必要あったのか? 別に、三人の付き添いみたいな感じじゃダメだったのか?」

「一般人と冒険者ではまるで違う。これから護衛する商人からすれば、一般人では客になってしまう」

「なるほどね」


 一目見て相手を強者と見破れる人間は熟練者くらいだ。

 わかりやすい力の目安として、冒険者カードは存在しているようだ。

 

「そういや、サンゾウはいくつなんだ?」

「僕はDだよ。実力的にはもうちょっとあると思うけど、あんまり依頼を受ける機会がないしね」

「なるほどね」


 確かに、最初の試験でしっかり高ランクをとっておかないと面倒なことになりそうだ。

 ミシェリーが宿屋に入っていく。

 ……こういった庶民的な店にはなんだかんだで初めてだ。


 異世界にきてから初めての街探検。

 田舎から都会にやってきたような感覚だな、と冬樹は少し昔を懐かしむ。

 宿屋の店主と思われる女性に、ミシェリーは依頼書をみせ事情を説明する。

 階段から人が降りてきて、若い女性がこちらに気づく。


「おお! さっき伝書鳥が来て話はわかってるよー! 今すぐ出発する!? あたしはできるよー!?」

「……どうする?」

「俺は大丈夫だ」

「私も大丈夫っすよ」

「僕も」

「ということ。いけるのならば、すぐにお願いしたい」

「わかったよー! 待っててね! 荷物持ってくる!」


 金を持っている商人は、自分の鳥を用意している。

 その鳥はギルドに預けておき、依頼が受注されたと同時にその鳥が飛ばされるということになっている。

 この伝書鳥。かなり賢く、主の元にしっかりと戻ってくるらしい。

 確かに商人の肩には鳩のような鳥が止まっていた。

 階段を駆け上ると、いくつかの鞄を持って商人が戻ってきた。


「それじゃあ、竜車を預けているからそっちに行こうか!」

「わかった」


 ミシェリーが商人の横に並び、談笑しながら歩いていく。

 意外だ。ミシェリーはもっと内向的な人だと思っていた。

 彼女らの背中を眺めながら、時々はぐれそうになるクロースカに目をやる。


 ……そういえば、ミシェリーはクロースカと並んで行動することが多かった。

 クロースカは放っておくと魔器のほうにふらふらと近づいていく。

 なるほど、ミシェリーは面倒見が良い子なのかもしれない。

 仲間を冷静に観察しながら、冬樹は歩いていった。

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