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第三十話 その気持ちは嘘じゃない2

 

「わんわんっ!」

 

 スピードスターがこちらへ駆けてくる。

 久しぶりの再開だが、前よりもさらに少し大きくなったようだ。

 飛びつかれそうになったために片手を向けると、スピードスターは大人しく止まる。

 いない間にニバンたちがしつけでもしてくれたのかもしれない。

 スピードスターが立ち止まり、冬樹は膝をついて、その体を撫でる。


「スピードスターがいると、地中の魔石を見つけてくれるのよ」

「おまえ、そんなことできるのか?」

「わんっ!」


 スピードスターを褒めるように体を撫でていると、


「そろそろいこーよー」


 イチが木からおり、サンゾウも立ち上がる。

 それぞれの準備が整い、街を出る。

 この辺りはあまり魔獣もいないが、まったく危険がないということはない。

 普通に動物で熊とかも出るため、最低限の警戒をしながら歩いていく。

 それに、森にある木々には果実酒の材料になるものもあるらしい。


「とりあえず、周囲に出ている魔獣の討伐も任されているわ。なんでも、果実の採取の邪魔になるそうよ」

「なら、僕はそっち優先でやりたいところだね」

「けれど、こちらにはリーダーがいるわ。現れたらよろしく頼むわよ」

「任せろっ」


 冬樹が拳と手の平をぶつけると、三人が頷く。

 さっそくスピードスターが鼻を地面に近づけて吠える。


「魔石を見つけたみたいね。イチ、お願い」

「はいはーい」


 イチがすぐさまスコップを使って、その場を掘る。

 覗きこむと、いくつもの綺麗な鉱石がそこにはあった。


「魔石ってのはこうやってみつけるのか」

「後は採掘場で掘ることもあるわ。魔力は土にたまりやすいのよ。だから、昔の人が石などを入れておくのよ。後は、魔獣だったりが埋めることもあるのよ」


 そういって、回収しながら彼女は適当に石を入れる。


「それが魔石になるのか……」

「本当に何も知らないのね」


 からかうようにニバンが笑ってくる。からかいの表情には、慣れてきたがそれでも冬樹は腕を組まずにはいられなかった。

 スピードスターが鳴き声をあげる。

 あちこちで作業が始まり冬樹も震刃を取り出し、丸く円をかくようにして土を掘りかえす。


 震刃からしたら本来の用途とはまるで違うのだから、驚きの気分だろう。

 冬樹はさくっと、魔石を集めていく。

 イチたちが集めた魔石もどんどん袋につめられていく。

 サンゾウが回収しているのもこちらに入れられていく。


 というか、サンゾウの袋は薬草などの植物などが入っている。

 サンゾウめ。初めからそういう狙いだったようだ。

 してやったり、といった様子でサンゾウが口元を緩める。


 まんまとやられた。冬樹は後で何か仕返しができないか考えながら、馬車馬のように仕事をしていく。

 気づけば袋には結構な量が入っている。

 生身の体だけでは厳しい。冬樹は仕方なく、パワードスーツを展開する。


「一応話は聞いていたけど、凄い鎧ね」


 ニバンが興味深そうにパワードスーツを触ってくる。


「いいだろ?」

「いいなぁっ、リーダー僕には作れないの?」

「これの予備はさすがにな」

「じゃあ、あの剣は?」

「あれも扱い難しいから、無理だ」

「ちぇっ、つまんないなー」


 まだまだ持てる、と思われたようでさらに荷物が増えていく。

 そうこうしていると、


「……グラゥゥゥ!」


 木々の隙間から熊のような魔獣が姿を見せる。

 荷物をおいて戦いの準備をしようとしたところで、サンゾウたちが前に出た。


「任せろってか?」

「僕たちの体を動かす時間がなくなっちゃうからね」

「荷物持ちを変わってくれてもいいんだけどな」

「それじゃあ、いつも通り、ニバン、任せたよ」

「私は戦闘は面倒なのだけれど」


 サンゾウがニバンにウインクして、ニバンが疲れた様子で弓を構える。


「サンゾウがいつも通り注意を引いてちょうだい。余裕があれば魔兵でかく乱しながら、攻撃ね。イチが攻撃役よ」


 矢筒から矢をいくらかとりだしながら、指示をだしていく。


「ええ、僕がやりあいたかったんだけどなぁ」

「文句があるなら、あなたが指示を出せばいいんじゃないかしら?」

「さて、頑張るかなっ」


 サンゾウが魔獣の前に躍り出る。

 軽快な動きで、魔獣の繰り出す拳や魔法を回避していく。

 イチが魔兵を三人ほど作り、魔獣の注意をひく。

 魔獣が背中を向けたところで、イチが素早く短剣を振りぬく。

 ニバンは弓を構え、その矢の先に魔力をためる。


「ニバンがリーダー的な感じなのか」

「……あんまり好きではないのだけどね。使えない奴にも役割を与えないとでしょう? ここでの話ではないわよ?」


 放たれた矢が風を纏い、魔獣の体を貫く。

 風魔法によって貫通力を高めているようだ。

 次々と攻撃は放たれ、問題なく魔獣は討伐される。

 すぐさまイチが目の色を変え、解体していく。

 

「こいつの肉はおいしいの?か」

「それなりにね」


 ニバンたちはナイフを使って、綺麗に捌いていく。

 冬樹も指示を受けながら解体し、必要な部位を回収する。


「……さて、さすがに荷物が多くなってきたんだけど」

「あとどのくらいはいける?」

「持たせる気か! わかったよ! あと袋二つくらいは持ってやるよっ」

 

 やけくそ気味に叫ぶしかなかった。

 冬樹の叫びに、サンゾウたちは笑みを作りながら、イチとサンゾウがそれぞれ袋を一つずつ持ってくれる。

 彼らに感謝しながら、冬樹は軽くなった一つの袋を肩に持ち直す。


 笑みを携えながら、冬樹たちは森の中を進んでいく。

 その途中――冬樹は見慣れない反応を見つけた。

 魔本事件の際に、リコたちが誘拐されその探知を行ってから、冬樹は周囲への探知能力がぐっとあがった。


 さらに、この辺りの地図はパワードスーツにもインプットしてある。

 それらの情報から、この近くに五人ほどの人間の反応があるのに気づけた。

 

「どうしたの?」


 どうやら表情に出ていたらしい。冬樹は顎に手をやる。


「なんか、近くに人がいるな」

「街の人、じゃないかしら?」

「まあ、それならいいんだけど……賊とか魔族とかっていう線もあるんじゃないか?」

「……偵察とかの可能性も多少はあるでしょうね」


 冬樹はちらとイチとサンゾウを見る。

 二人はどちらも魔石掘りや薬草の回収を楽しんでいる。

 スピードスターはイチに体を撫でてもらい、気持ち良さそうに目を細めている。

 少し見てくるくらいならば、問題ないだろう。


「……ちょっと、様子見てくるよ」

「なら、私も行くわ」

「別に大丈夫だぞ?」

「戦闘面での心配はしていないわ。何かあったとき、あなた一人では敵を逃がしてしまう可能性があるでしょう?」


 四方八方でなければ、探知で追いかけられるが、別に断る理由もないため頷いた。

 魔族ならば別に逃がしても警戒されるだけだろうが、賊となれば話は別だ。


「イチ、サンゾウ、ちょっと私たちは近くを見てくるわ。ここで大人しくしていなさい」

「うーん、了解」

「わかったよー。早めに戻ってこないと飽きちゃうからねー」


 イチは魔石を掘るのもやめて、スピードスターに抱きつく。

 サンゾウが顔を顰めながら、熱心にスコップを使う。

 スピードスターをちらとみると、こくりと首を縦に振る。

 まあ、彼らならば大丈夫だろう。

 冬樹は僅かな不安を胸に抱きながら、そこを離れる。

 

「それで、相手はどこら辺にいるのかしら?」

「こっちだな」

「……それにしても、凄いわね。人を探知する魔法、かしら?」

「ま、そんなところだな」

『……ぷっ、魔法なんかまるで使えないじゃない』


 冬樹はネックレスを軽く小突く。

 ハイムがしばらく笑っているのを無視して、目的のほうへ歩いていく。

 それにしても、ニバンは気配をたつのが上手だ。

 イチやサンゾウはあまりそういった面では優れていないが、情報収集が得意というだけはある。

 

「どうしたの?」

「おまえ、気配たつのがうまいなって思ってさ」

「あら、そうかしら? 影が薄いといわれることはよくあるわね」

「……そうか?」


 ある意味、冬樹にとっては濃い。

 それなりに歩いたところで、五人の集団を発見し、冬樹は目を瞬かせてしまう。


「忍者……?」

 

 そう。

 視線の先、木々に隠れるように立っていたのは黒装束に身を包んだ者たちだった。

 冬樹がイメージする忍者とそっくりな姿に、脳内が一瞬混乱する。


「……に、忍者……?」

 

 ニバンの声はどこか焦りが含まれていて、冬樹はそちらを見る。

 ニバンは、目を見開き、それから口を開いた。


「……まずいわねっ。あいつらは、他国の特殊部隊、忍者よ」

「に、忍者? そりゃあ、あれだよな? 手裏剣投げたり、ニンニンって言ったりする奴か?」

「後者については知らないわっ。とにかく、早くイチを連れて街に逃げるわよ!」

「……なんで、イチ、なんだ?」

「それは後で説明するわっ」


 ニバンが声をあげたところで、はっとした様子で後ろを振り返る。


「リーダー避けて!」

「え?」


 振り返ると同時に、頭をつかまれ冬樹は地面に叩き潰された。



 ○



 ――忍者。

 この大陸から東の国レイドンにいる、特殊部隊だ。

 この国でおける騎士……それに近い者たちだ。

 ニバンは対面する忍者の一人を睨みながら、隠していたナイフを取り出す。


「……どこかで見た顔だと思ったら、ニバンか」

「……その声は、シェルね」


 女の声に反応し、ニバンは受け答えをする。

 彼女の足場にはリーダーが倒れている。

 ……恐らくは死んでいないだろうが、それでも心配ではあった。

 忍者は、短期決戦においては最強だ。


 魔力を身にまとい、体を限界まで強化し、本来人間では不可能な動きを可能にした存在だ。

 ……ただし、それは寿命を削って行う強化だ。

 本来人間がもっている限界を超えるように体を強化する禁魔。無理が出てくるのは当然だ。

 他の国では、魔力をまとっての戦闘は禁止されている。それだけ、危険な魔法だ。


「まさか、国から逃げ出してこんなところにいたとはな」

「それはこちらの台詞よ。他国に不法侵入なんてよくもまあ、できたわね」

「この国の人間は間抜けすぎるからな。簡単なことだ。おまえだって同じように侵入したのだろう?」

「……そうね」

「それで、実験体はどこにいる?」

「……あの子を実験体だなんていうんじゃないわよ!」


 ニバンは素早く弓を構えて、矢を放つ。

 しかし、すでにシェルの姿はない。

 背後から体を押さえつけられる。


「……どうした? あの程度の動き、前までのおまえなら避けていただろう」

「あいにく、忍者みたいな体削って戦うのはやめたのよ。せっかくの大切な人生を短く生きるなんて馬鹿みたいでしょ?」

「なるほど、足の怪我か」


 シェルは腰から剣を抜き、そのまま遠くに跳んで逃げる。


「……ニバン、大丈夫か?」


 起き上がったらリーダーが、剣を構えながら油断のない目でシェルを睨む。

 近くの木に着地したシェルを見ながらも、ニバンはホッと胸を撫でおろした。


「……リーダー、よかった、怪我はないのね?」

「この額から垂れてるの見えるか?」

「血ね。そのくらいは負傷じゃないわ」

「……まあ、そうだけどさ」


 リーダーの額から僅かに血が出ているが、死んでいないのならばいくらでも治る傷だ。


「驚いたな。今の一撃に耐えられるような人間がいるとはな」

「こっちも色々工夫したんだよ」

「……さて、一度避難させてもらうとしようか。ルーウィンの街にいる、という情報が嘘ではないというのはわかったしな」


 そういってシェルはこちらを一瞥してから逃げた。

 リーダーがその背中を追おうとする。


「待ってリーダー! あいつらは逃げながらの戦闘のほうが得意だわ。追うのは危険だわっ」

「でも……いや、まあいいか」


 リーダーは案外あっさりとやめた。

 こういうところが、リーダーの良いところ、だとニバンは勝手に思っている。

 トップに比べて熱血的な部分もあるし、人との接し方もよく理解している。

 トップは反対に、冷静すぎるし、理想はいわない。現実をよくみるクセがあり、後は言葉が少なく人とぶつかることが多い。

 だから、リーダーの補佐のほうが気楽でいい、というトップの言葉の意味も理解はできる。

 いきなりリーダーにしたトップにはさすがに驚きもあったが、今ではそれが間違いではないというのはよくわかった。


「詳しい話は……イチたちの前でするか?」


 剣をしまいながら彼は額の傷を押さえる。


「……ここで、してもいいかしら?」

「わかったよ」


 何も言わずに受け入れてくれる。

 そういう気遣いは、嬉しかった。

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