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第二十九話 その気持ちは嘘じゃない1


「帰ってきたなー!」


 街に戻ってきた冬樹は伸びを一つしてそう叫ぶ。

 街の人たちも領主の帰還に、嬉しげに挨拶をしてくる。

 冬樹に対しても好意的な笑みが多い。

 自警団のリーダーが屋敷近くにいた。

 相変わらず筋肉を見せつけるような服装と暑苦しい笑みだ。


「やっ、領主様! 留守の間しっかりと守っておきました!」

「ありがとうございますね、コルドさん」

「ありがたい言葉です! それでは、オレは街の守りに戻りましょう! 中でトップ殿とニバン殿が待っております! なにやら、情報を集めていたそうなので、それでは!」


 自警団男が片手をあげて去っていく。

 冬樹たちも中に入ると、ニバンとトップが慌てた様子でかけてくる。


「出迎えが遅れた。すまん」


 トップがいって、ニバンもこくりと頷く。


「……領主様、色々と情報も手に入ったわよ。今すぐに作戦会議を開いてもよろしいかしら?」

「ちょっと待つのだ。細かいことは私が受ける」


 まだリコはどこか二人を疑っているようで、厳しい目だ。

 トップたちは顔を見合わせて頷き、それから冬樹のほうを見てきた。


「そういえば、優勝したんだったな。おめでとう」

「ふふ、リーダーとしてさすがだわ」

「……ありがとな」


 リコたちが話し合いを始め、しばらくは自由な時間となる。

 竜車の中で仲良くなったイチたちに、クロースカたちを任せ、冬樹も自室に戻ってくる。

 自宅ではないが、戻ってきたという感覚が強い。


 二日であるがあけていた部屋。その間もきちんと掃除されているようで、ベッドや棚など埃はまるでみえなかった。

 メイドたちがしっかりと仕事をしているのがこれだけでわかる。

 ……まだまだ平和になったわけではない。


 それでも、今日一日くらいは休めるだろう。

 冬樹はスーツをハンガーに似たものにかける。

 そうしてから、外を眺めていると、部屋がノックされる。


「リーダー、少しいいか?」

「トップか? なんだ」


 話し合いが終わったようで、彼の声が聞こえ扉をあけにいく。


「いや、二日の間に魔族側に支配された街、フォールレイドに調査へ行ってきたんだが……」

「行ってきたって……中に入ったのか?」

「ま、その辺りはうまくやったがな。人間と魔族は別段仲が悪いということもなかった。確かに魔族に逆らうようなことをすれば……罪はあるが、あの街はもともと、領主による異常な税金の搾取があったらしい。それに、比べれば全然マシだ」

「そうなんだ。……なあ、ヤユっていう黒髪の小さい子はみなかったか?」

「……さすがに街がでかすぎてな。その名前は知っていたから、調べてみたが……特に見つけることもできなかった」

 

 冬樹は地図を開き、ヤユにつけた発信機を見る。

 フォールレイドの街から、ヤユは動いていない。

 ヤユだって、発信機がついているのは知っている。

 だから、わざわざ手放すということはないだろう。


「……俺を中に入れるのはできないか?」


 トップはその言葉を予想していたようで、一瞬顔をしかめてから首をふる。


「……いや、難しいだろうな。オレが特別な手段を使って侵入したが……リーダーに使えるものではない」

「そっか……ありがとな色々調べてくれて」

「もともと、敵の士気などを調べるために調査していただけだ。これから、作戦会議を行う、リーダーも参加するか?」

「……俺が出てもなぁ。あんまり戦争とか詳しくないし」

「オレも似たようなものだ。戦争では恐らく、リーダーを使わざるをえない状況が多々ある。話を聞いておくことくらいはしてもらいたい」

「……わかった。途中までは参加するよ」


 トップとともに部屋を出て、会議室へと歩いていく。

 ルナ、リコがすでに部屋にはいる。

 ニバンとトップも入れるなど、この街に人材が少ないというのがよくわかった。

 作戦会議といっても、堅苦しいのは嫌なようで、ルナがお菓子をテーブルの真ん中に置いてむしゃむしゃ食べている。


 イチをつれてきていれば、大量に必要になっていただろう。

 ルナの近くに着席し、その横にトップ、ニバンと並んでいく。

 そして、作戦会議は始まった。


「今回決めるのは、どこに拠点をおくのかですね」

「……そうですね」


 リコが大きな地図を広げる。

 ルーウィンからフォールレイドまでの地図だ。

 左側にルーウィンがあり、フォールレイドは右側。

 その間は、岩場が多かったり、森が多かったりとあまり交通は良くないようだ。

 一応、通れる道もあるようだが、攻める側は苦労するだろう。


「敵が考えている拠点は、ここ、だそうよ」


 ニバンはすでに獲得していた情報から岩場の影を指差す。

 ……どうにも攻めにくいところだ。

 この辺りにある、高台を背にしているため、背後からの奇襲は難しい。

 あれこれと難しく予想している彼らに冬樹は首を捻る。


「……そんなに悩んでも、次の話し合いのときに相手が教えてくれるんだろ?」

「そうですが、相手の拠点を予想し、有利な位置に拠点を構えるのは必要なんですよ」

「けど、裏の裏とかかくよりかは、こっちがもっとも得意な攻撃を生かすってほうがいいんじゃないか?」

「……それも確かにあるな」


 トップが顎に手をやり、リコが用意した資料に手をのばす。


「こちらの兵士は貴族たちと、いくらかの冒険者か……。さらに冒険者が増えるとなると、難しい作戦による連携などは難しいな」

「……それに貴族の方たちも、こちらの意見を完全に聞く方ばかりではないのだ」


 リコが苦しげに顔を顰める。

 この戦争での勝利条件は、相手を滅ぼすことではなく、相手の拠点に入り、敵のリーダー……今回でいえばルナを拘束すれば勝利となる。

 また、必要以上の殺しも行ってはいけない、というのが神様に誓ったルールの中にある。


 だから、生身の人間が戦争に加わることはあまりない。ルール違反を犯してしまう可能性があるからだ。

 ……とはいえ、それはあくまでもルールがあるというだけで、勝敗条件以外はきっちりとはしていない。

 生身の兵士だろうが、平気で投入するし、抵抗する相手ならば殺しても構わないという場合もある。

 そこらへんはお互いが話し合い、決めていくということらしい。


「……今回の戦争では、生身の人間はあまり投入する予定はないのだ。それを踏まえて、戦闘をどう展開していくかを考えて行こう」

「結局作戦の主軸は、リーダーでいいんだな?」

 

 それには冬樹も同意している。勝つためならばいくらでも使って構わない、と。

 冬樹は会議を見守っていると、ルナがぽつりと口を開いた。


「生身の人間はゼロにするというのも考えましたが……敵の神器持ちは魔兵を作れるのですよね?」

「ええ、私が調べたところによると、だけどね」

「……そうなると、兵力に差が出てしまうんです」


 トップがそれにすかさず口をだす。


「だが、リーダーが強いからといって……さすがに神器持ちの魔族相手にどこまで戦えるか」

「そこは、最悪時間稼ぎに徹してもらえれば、問題ありません。ミズノさん、どのくらい時間を稼げますか?」

「……まあ、敵が圧倒的に強くなければ、それなりにはな。けど、別にチャンスがあれば倒すぞ?」

「はい、ミズノさんの実力は理解していますからっ」


 ルナが興奮気味に笑う。

 トップたちも大会での戦いを多少は聞いていたようで、どこか納得げに頷く。


「それなりに、フォールレイドは人間の協力者が出てくる。下手をすれば、魔兵は二千近くにいくかもしれないな」

「……人間を味方につけるとは、やりますね」

「……まあ、その前の領主が問題だらけだったのが原因だな。もしも、この土地を奪われて、新たな領主が最低な人間だったとすれば……そういった話をすることで、市民たちを味方につけたようだ」

「……うぅ」

 

 ルナが怯んだ様子を作る。

 そんなルナの代わりに、リコが地図を指差した。


「拠点をおくとしたら、ここだな」


 この中ではもっとも標高の高い場所だ。

 高所を利用したほうが、攻めやすいと考えたようだ。

 おまけに、街に近い位置。


「……ここからならば、一方的に攻撃を仕掛けることも可能だ」


 リコが示した場所は敵を見つけやすい。

 敵に見つかりやすくもあるが、わざと見つかることで敵をまとめて攻撃することも可能だろう。


「以前、ミズノ様が使ったあの雨攻撃を使用できれば、十分な攻撃となるだろう」


 ぴくりとトップの眉尻があがる。


「街の水を引っ張ってくるのか。だが、それはリスクもあるはずだ。こっちのほうがいいんじゃないか?」

「ふん……何を言っているのだ。そこでは攻撃は仕掛けにくい」

「だけど、攻撃もされにくい。貴族たちの魔兵に特攻させて、連携ができる魔兵を使って、裏から攻撃を仕掛けることも可能なはずだ」

「……確かにそっちもいいが」


 拠点については、リコとトップが念入りに話をしてくれるだろう。

 それを察したニバンとルナもお菓子を口に運び、世間話でも始めるかの勢いだ。

 冬樹もこのくらいのほうが肩の力も抜けてよかった。


 冬樹もお菓子に手を伸ばす。

 なんでもグーロドの屋敷でもらったものらしい。

 それを口に運んでいると二人の言い合いがエスカレートする。

 ルナたちと協力して二人の意見を聞き入れ……拠点をおくばしょは結局リコの意見を採用することになった。


 どちらが正しいかはわからない。だが、魔器を利用した罠などを仕組むのなら、そちらのほうがいいだろうということに落ちついたのだ。

 作戦会議はひとまず終了する。これからは、どんな罠を仕掛けるのか、部隊の編成などについて考えていく必要があるが、また今度ということになった。

 会議が終わり、昼食を食べているとニバンがやってくる。


「スピードスターと一緒に素材探しに行くのだけど、一緒に行かない?」

「……荷物もちってか?」

「……ふふ。普段はトップとサンゾウに手伝ってもらっていたのだけど、どうにもトップは忙しいみたいなのよね」

「ま、別にいいよ。それじゃあ、昼食の後にな」

「ええ」


 再び昼食を食べていると、今度はハイムからの声が響く。


『……なんていうか、戦争って嫌よね』

『けど……ここの戦争はあんまり人も死なないだろ。もっと酷い戦争はいっぱい人が死ぬし、それに比べたらまだ、平和的なんじゃないか?』

『……うん、昔より、魔族の様子も変わってるみたいね』


 さっさと昼食を平らげて、外に出る。

 外ではサンゾウとイチが既に準備を整えている。

 

「リーダー、帰ってきたら手合わせしようぜ」


 サンゾウが勝気な様子で腕を組む。


「おう、わかったわかった」

「よっしゃ、僕がリーダーを倒して、この国トップの座はもらうからね」

「簡単に負けると思ってんのか?」

「こっちにだって秘策はあるんだよ、秘策」

「楽しみにしてるよ」


 サンゾウが調子よく笑う。

 弓を持ったニバンが屋敷から出てくる。

 大き目の袋をサンゾウと冬樹に差し出していて、受け取る。


「この袋一杯にいれるわよ」

「うへぇ、そりゃあまた大変だねぇ」


 サンゾウが肩を落とし、冬樹は袋を肩に担ぐ。


「それじゃあ行くか」


 これだけの量だ、さっさと終わらせないと夜になってしまうだろう。

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