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第二十四話 闘技大会本選1



 本選が開始となる。

 会場には市民が多く参加していた。

 ――なんでも、客を入れるために、昨日の事件については口外しないこととなったらしい。


 これは領主グーロドの命令だ。大会による収入が減ることを恐れての結果ということだ。

 あまり褒められたことではないのかもしれないが、大会を決闘の場として使わせてもらっている立場であれこれ言うのもあれだろう。

 領主グーロドは、そもそも色騎士が問題を起こしているのがいけない、との一点張りなのだ。


 交渉するしない、以前の問題だ。

 そのため、今大会に見にきている観客は黒騎士が乗っ取られていることを知らない。

 無事に収まれば、そのほうが幸せだろう。

 合計三十二人が参加する予定の本選だったが、昨日の戦闘で負傷したものもいて、その数は半分ほどまでに落ちてしまった。


 さすがに異常であったが、注目のあった選手が軒並み参加しているため、観客たちはいまだ興奮している。

 会場で司会による挨拶を聞きながら、やがて闘技大会のトーナメントが発表される。


「……おいおい」


 そのトーナメント表は、赤騎士、青騎士、黒騎士が片方に固まった作りとなっていた。

 冬樹は逆に決勝まで色騎士とはぶつからない。

 それだけ色騎士たちに信頼されたのか、はたまた、誰かがぶつかる前に黒騎士を潰そうとしたのか。

 黒騎士は順調に進めば、一回戦が赤騎士で、二回戦が青騎士となる。

 

『おお! これはこれは、面白いことになりましたね! 色騎士同士の試合が早々に決着がつきます! これは、優勝を狙っている人たちにとっては、朗報なのかもしれませんね!』


 今日の司会は別の者だ。司会も何も知らされていないようだ。そして、観客もまた、熱狂的に声をあげる。

 その中で、緊張しているのはトーナメント参加者たちだ。

 色騎士が全力でぶつかっていくトーナメントとなり、緊張しないほうが無理からぬことだろう。

 それだけ、魔本が危険という証明でもあるのだ。


 すぐに一回戦が始まる。一番最初の試合となり、冬樹はその場で待機する。

 司会による、予選とのルールの違いを聞く。

 魔石は体に三つつけ、すべてを破壊すれば試合は終了となる。

 さらに、魔兵も作ることができる。

 それによって、予選よりも見た目が派手な試合ばかりとなるのだ。


『一回戦の右側は昨日、第二会場を騒がせたらしい、ミズノ・フユキだ! 何やらルーウィンの土地を守るために、代表として参加。目指すは優勝らしい! そしてそして……左側! こちらは先日Sランクとして認定された、クラストだ! 街を襲った竜を殺した最強に近く、国の空いている白騎士の席を彼が埋めるかもしれないといわれているほどの実力者だ! これはさすがにミズノには苦しい戦いか! それでは、各自自己紹介をどうぞ!』


 マイクを受け取り、宣言は今まで何度もやってきたないようだ。

 相手の目標は優勝して、男としての色騎士を目指しているらしい。

 冬樹たちは一定の距離にたって試合を始めることになる。

 ……無駄な試合に時間をかける予定はない。相手が作り出した魔兵のすべてを、震刃による斬撃で破壊する。

 魔兵を使えるから、有利というわけではない。所詮、震刃にまとわせた魔力で、相手の魔力に干渉して振動させて破壊するのだ、結局は魔兵であろうと破壊の過程は同じだ。


 この斬撃で無力化できるのだから、むしろ魔兵をたくさん召喚してくれたほうが相手の魔力を削れて嬉しいくらいだ。

 数度剣を打ち合わせながら、相手の魔石を破壊し――。

 おおよそ一分程度で一回戦を突破する。

 対戦相手は愕然とした様子で、その場で両手をつく。


 司会と観客が騒がしいが、今は興味なかった。

 今は、魔本についての情報が欲しかった。

 早々に、観客席へと向かい、疲労した様子のギルディが片手をあげてくる。

 その近くには、クロースカとミシェリーもいた。


「だーりん、頑張って。これ作ったから今日は一緒に食べよう」

「お、ありがとな」


 何かの弁当を用意してくれたようだ。

 おいしい昼食を迎えられればいいのだが、と思う。


「師匠! 今日も上手な魔力運び頑張ってくださいっす!」


 クロースカにも軽く返事をしながら、ギルディを見やる。

 ギルディも昨日の影響で今日は欠場している。

 大会が始まってしまえば、そんなことは置き去りにされたように盛りあがっている。


「なんだよ。キミ、まだまだ昨日は全然本気じゃなかったのかい?」

「おまえは、元気そうだな」

「昨日は色々迷惑をかけていたみたいだけどね」

「操られているときの記憶はあるのか?」


 席を探し、空いている場所に座る。


「あ……っと、有名人は大変だね」


 ギルディが答えようとして口を閉ざす。後ろを示してきたため、振り返ると男女問わずの子どもがいた。


「ミズノさん! 握手してください!」

「僕も!」

「私も!」

「お、おお!? い、いいよ」


 困りながらも冬樹はこの程度ならばまだまだ慣れているほうだ。

 一人ずつに握手をしていくが、なかなかその数は減らない。

 ……仕方ない。多少失礼ではあるが、ギルディに聞きたいこともあったし、そちらに顔を向ける。


「で、ギルディは操られているときの記憶はあったのか?」

「あるんだよ。そもそも、僕は操られているとも思っていなかったんだよ」

「じゃあ、大会に参加していたのは、どっちなんだ?」

「それは僕だよ。……そう、魔本は僕の意見通りに体を使わせていたみたいなんだよね。口で説明するのは難しいけど……必要なとき以外は操っていなかったって感じかな。おまけに、魔本が僕の体を操っているときも、違和感ないように脳をいじくっていたみたいで……舞踏会で気を失うまでは全部覚えているよ」

「なるほどな。……やっぱり、首都に行っていたときに取り付かれたって感じか?」

「みたいだね。僕は騎士団から仕事の依頼がきていて、その手伝いをしているときにね」

「そうか……。どんな仕事だったんだ?」

「詳しい説明はなかったけど、見張りみたいなものだったね。他にも何人か誘われていたらしいよ」

「なるほどな」


 怪しいところがあったが、冬樹はさらに増えている子どもやら大人たちに握手をしていく。

 ……なんというか、大変だった。

 冬樹はよくテレビに映っていた有名人の気持ちを多少理解しながら、試合を観察する。

 一回戦、ちょうど赤騎士の戦いが始まったところだ。

 まるで、戦争でも起こりそうな魔兵同士の激しいぶつかりあい。


 しかし、やはり押しているのは黒騎士のほうだ。

 黒騎士が作る闇魔法によって、常に赤騎士は死角を突かれている。

 赤騎士は剣に火をまとわせながら戦うがそれもむなしい。

 黒騎士は斧に闇をまとわせ、その魔法さえも飲み込む。


 赤騎士は距離をあけて、魔兵を突撃させながら、火魔法を放つ。

 黒騎士は、それさえも闇の中に飲みこむ。

 何でも入るゴミ袋、みたいなイメージを勝手に抱いた。

 あれだけ魔法も攻撃も無力化させられれば、対戦相手はたまらないだろう。


 勝利するには、格闘くらいしか手段はないのだ。

 その格闘だって、黒騎士が闇魔法で移動してしまえば、当たることはない。

 どんどん赤騎士は追い込まれ、やがて黒騎士の魔兵によって動きを封じられて胸の魔石が破壊される。


『やはり、黒騎士は強い! 国内最強の彼女を押さえられるものはいるのでしょうか!』

 

 司会の言葉を受け、黒騎士は申し訳程度の笑みを浮かべ、手をふるばかりだ。

 その表情からは何も見抜けない。

 青騎士は問題なく勝ち破り、次の見物の試合は黒騎士対青騎士、となる。

 その前に冬樹も試合がある。

 握手を終わらせて、冬樹は人々の波をかきわけるようにして、選手入り口へと走っていく。


 ……試合はあっさりと終わった。

 昨日、一日で実戦の感覚を完全に取り戻したこともあり、今日の敵は昨日よりも弱く感じていた。

 おまけに、パワードスーツも温存できている。

 レナード以上に強い相手がいない、というのが何よりの理由だろう。


 しばらく時間を潰してから観客席に戻ると、黒騎士と青騎士の試合が始まる。

 青騎士は、何よりも一撃必殺の水魔法を最初から全開で放つ。

 黒騎士はそれらを冷静に闇魔法で吸収していく。

 同時に魔兵をたくさん放つが、青騎士は自分の周囲を水で覆う。

 鉄壁の防御と攻撃を同時に繰りだす火力に、観客たちが立ち上がっていく。


 もしかしたら、黒騎士が敗れるかもしれない。

 その瞬間がみたいのだろう。観客たちも次第に青騎士を応援する声が増えていく。

 黒騎士は焦った様子などはなく、冷静に魔兵で対処している。

 二人の試合は、長期戦となり、先に疲労を見せ始めたのは青騎士だ。


 もともと、黒騎士のほうが魔力は多いはずだ。そこに、魔本の魔力も上乗せされるのだから、魔力勝負では限界があるだろう。

 限界がある……それは黒騎士にもいえることだ。青騎士は初めから、魔力を削ることに注目していたのかもしれない。


 ――頼りにされているのかもしれない。

 レナードの言伝があったとはいえ、さすがに信用されすぎではないだろうかとも思ったが、期待を破るつもりはない。

 冬樹だって、昨日からあれこれと作戦も思いついているのだ。

 そのどれか一つくらいは成功するだろう。


 次の試合に向かった冬樹は、現れた相手を十秒ほどで粉砕してみせる。

 集中力がかつてないほどにとぎすまされていた。

 今ならば、誰にも負けない自信もある。

 次はいよいよ決勝戦だ。

 選手入り口を歩いていくと、仮面をつけた三人が入り口で待っていた。


「やはり負けてしまったわ。あとは任せたわ。黒騎士だって殺されるのは覚悟しているはずよ」

「……出来る限りはやってみるよ」


 冬樹は誰かを守る人間だ。

 自分よりも小さい彼女たちを助けられないなんて、そんな情けないことは絶対に出来ない。

 集中力を高めながら、客席から最後の黒騎士の試合を眺める。

 ……相手の冒険者もあれこれと作戦を立てていたようだが、すべてが黒騎士に潰される。


 いやらしい戦い方だ。

 黒騎士は相手の戦意を喪失させるように、相手の作戦を片っ端から潰している。

 冬樹は次の試合のために歩きだそうとして、司会の大きな声が響く。


『次の試合は昼食後の鐘がなったときになります! それまでにミズノさんと黒騎士様は準備をしっかり整えてくださいね!』


 一休みが入り、動きかけた腰をおろす。

 すぐに、ミシェリーに引っ張られていき、クロースカもついてくる。

 会場の近くにある公園にやってきて、適当なベンチをみつけて腰掛ける。


「……はい、あーん」

「一人で食えるぞ、別に」

「あまり、無駄に動くのは良くない。試合前に余計な怪我をしてしまう可能性がある……嫌?」

「ま、別にいいけどさ。こういうのって、学生のときに憧れたんだよな」


 差し出されたパンにぱくりと食いつく。

 その口をつけた部分だけをちぎり、ミシェリーが口に運ぶ。見なかったことにした。


「……師匠、見てくださいっす! 昨日作ってみた魔器っすよ!」


 クロースカが二つのアクセサリーを差し出してくる。

 ネックレスのようなそれは、確かに不思議な魔力を宿している。


「どうっすか!?」

「……まあ、鍛冶がよくわからないんだけど、綺麗に魔力が収まってるな」


 手の中にあるネックレスは、握っているだけで優しさを感じ取ることができた。

 これが、クロースカが作る魔器なのだろう。


「お守りです、受けとってくれると嬉しいっすけど」

「ありがとうな。大切にするよ」


 受けとって首につけると、クロースカはより笑顔を強めた。

 お守り、といってもそこまでの効果はないだろうが、確かに友達にこういったものをもらうのは嬉しく感じる部分もある。

 笑顔を返しながら、ミシェリーのパンを受けとり、腹を満たす。


「キミは随分とのん気だね。勝つ算段はついているのかい?」


 呆れたように、片目を閉じながらギルディがやってくる。

 彼は近くで立ち止まり、クロースカたちも挨拶をする。

 冬樹がいない間は、よく話をするらしく顔見知り以上ではあるようだ。

 冬樹は口の中のパンを咀嚼する。


「今から迷ってもなぁー。そもそも、昨日作戦は全部考えたんだ。ない脳使いすぎて、もうこれ以上思いつかないんだよ。やるしかねぇってだけだろ?」

「……何かあるの?」


 そこでギルディとしまったという顔を作る。

 クロースカもミシェリーも魔本についてはまるで事情を知らない。

 余計な心配をかけるつもりはなかったため、慌てて誤魔化した。


「ほら、優勝しないと土地の助力がもらえないかもしれないだろ?」

「……そういえばそうっすね。大丈夫っすか?」

「黒騎士を倒せば問題ないって話だ」

「そうだそうだ。それについて、少しいいかい?」


 ギルディが手招きしてきたため、席から立ち上がりそちらに近寄る。

 ギルディが肩を組みながら、小声で言ってくる。


「どうにもキミのご主人様にかなりの助力があるようだよ?」

「本当か!?」

「うん、魔兵も現在わかっているのは五百くらいの協力らしい。優勝すれば、というところが千近くにもあがっている。キミという、切り札がいることが分かったのだから、みすみす土地を奪われる、というのは良くないという考えになったんだろうね」

「よかった……後は優勝すれば完璧ってことだな」

「そうだね。相手は黒騎士だけど、どうにかなると思うよ。頑張って」


 ギルディが肩を押してくれる。

 冬樹はこくりと頷きを返した。


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