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第十九話 闘技大会予選終了


 闘技大会の予選が終了した。

 第二会場の代表として、戦場へと集められた八人の中で冬樹は一人場違いないでたちであった。

 全員が装備に身を包んでいる中、冬樹はそこらの平民と変わらない衣服だ。

 周りの視線が多いが、予想はできる。


 まさか、あの色騎士を破ってくるとは誰も思っていなかったのだから。

 他の視線を受けながら、冬樹は司会が話す言葉を大雑把に聞いていた。

 思考の多くは、明日行われる決勝トーナメントについてだった。それに対しての多くの不安。

 今日と違い、まるで情報はない。


 おまけに、ほとんどの攻撃を使い切ってしまった。

 四つの会場から八人ずつが来る。一回戦から敵は高ランクの人間か、色騎士の可能性があるのだ。

 レナードの話では、そのどこかに魔本持ちまでも参加しているかもしれないということだ。

 司会による紹介の後、一人ずつが自己紹介をする。


 冬樹の自己紹介はいつも通りだ。それを終えて、隣のギルディにマイクを渡す。

 ギルディも、最後はギリギリと言った様子ではあったが、何とかベスト8に残ることができた。

 知り合いがいるのは素直に嬉しかった。

 第二会場での閉会の言葉の後、今日の大会は完全に終了となった。


 この後、会場では平民達が一生懸命に掃除をしていくことになる。邪魔にしかならない選手は速やかに退散、ということになっている。

 会場の外に出ると、仮面をつけて腕を組んでいるレナードがいた。

 どことなく憤慨している様子であった。こちらに気づくと、レナードは近づいてきてぶーっといった声をあげる。


「わ、私は別に真剣勝負ならば、負けていなかったからな。魔石破壊などでは私の真価は発揮できないのだからな?」

「……まあ、確かにな」


 魔石破壊は突破力があれば、誰でもワンチャンスはある。

 冬樹の素直な態度に、レナードはがくりと肩を落とした。


「そ……そう認められると……余計に私が弱いみたいではないか」


 殺しがない、というのを前提に戦わなければならないのだ。

 躊躇のない戦いでは、全力を出せるが、今回の大会のルールではそれは無理だ。

 過剰な攻撃力を持っている人間は、この大会には向かない。

 

「僕は先に戻っているよ。グーロド様の護衛に行かなくちゃだしね」

「あれ、夜も舞踏会あるんだっけ?」

「大会の間はずっと。おまけに、大会終わってからも、大会の余韻を楽しむために三日ほどはね」

「ながっ」


 確かに、無駄な時間とリコが怒りを浮かべるのは仕方ないのかもしれない。

 ギルディが片手をあげて去っていくと、レナードが周囲を気にしながらぼそりと口を開いた。


「魔本について、気をつけるんだぞ? 恐らくだが、魔本は人に取り付いていてもそれを悟られないように隠れている」

「……どうにか調べられないのか?」

「……無理だな。それだけ、魔本の隠密性は高いんだ。……もしかしたら、実は私が取り付かれている、という可能性もある」

「そんなになのか?」

「魔本は対象の人間に取り付き、その魔力からその人間を把握する。そして、その人間とまったく同じように振舞うんだ」

「……人間を、乗っ取るってことか。そんなのどうしようもないじゃんか」


 乗っ取られている本人以外は見破ることもできない。


「ああ。だが、魔本はピンチに陥れば消えたくないと、暴れだすはずだ」

「どうしてトーナメントに参加しているってわかったんだ?」

「最強の肉体を得るため……と考えている。魔本はもともと魔神が作り出した兵器だ。強い人間や権力を持った人間に取り付き、その国を内部から崩壊させるためのな」

「もっと厳重に管理しとけばよかったんじゃないか?」

「管理していたさっ! 地下深くに魔法による結界を何重にも重ねてなっ。なのに、突然その結界が壊れたんだ」

「……結界が壊れたのか。もっとしっかりしろってことじゃないのか?」

「いやいや、そんなはずはないんだ。あの結界はこの世界最強の賢者が作ったものだ。あれを超えるものは誰にも作れない。……そういえば、その賢者の弟子はおかしなことを言っていたな。世界が一瞬歪んだ、とか。異世界が存在するかもしれん、とかなんとか」

「……ほほぉ」


 冬樹は、頬を引きつらせてしまった。

 結界が緩んでしまったのはヤユによる移動魔法のせいなのかも……そんな思考が冬樹の脳をかすめた。

 それを素直にいえば、国に捕まりそうな気がしたために黙ることにした。


「とにかく、だ。魔本はおそらくキミの体も狙っているはずだ。気をつけるんだぞ?」

「一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「色騎士は、大丈夫なのか?」

「……いや、ダメの可能性のほうが強い。魔本は、強い魔力を持った人間に取り付けるように、とにかく魔力を持った人間に対してより有効になっている。……まあ、心に侵入してくる類の魔法だから、強い精神力で跳ね返せるかもしれないが……正直微妙なところだな」

「おいおい……」


 魔力に取り付くというのならば、つまり、冬樹はまるで影響を受けないのではないだろうか、と。

 それを伝えようとすると、


「あ、レナード! 早くしてよね! 明日の作戦会議!」


 赤色の仮面をつけた女性がこちらへと駆け寄ってくる。

 レナードと冬樹を見比べるように何度か見てから、女性は口元に手をやる。


「ありゃりゃー? もしかして、デートの最中だった? ごめんねー!」

「別に……そんなものではない。それよりも、ミカン。悪いが、私は明日の作戦に参加できなくなった」


 その言葉で、女性が色騎士の一人、というのがわかった。


「なにそれ!? ちょっと意味わかんないんだけど!? その男とどこかに遊びに行くとかではないわよね!?」

「違う……単純に大会で負けてしまったんだ」


 困った様子でレナードは後頭部に手をやる。すると、女性は目をひん剥いた。


「あ、あんたが負けるって相手は冒険者のSランクとか!?」

「違う」

「試合前にご飯食べすぎておなか痛くしちゃったとか!?」

「違う。というか、なんだそれは。私は食いしん坊ではないだろう」

「そう思ってるのはあんただけ! じゃ、じゃあ誰に負けたのよ」


 逃げ出したくなった冬樹だったが、一歩を踏み込んだところでレナードにつかまれる。

 じろりと仮面の奥から覗く目が、企みがあるように細くなる。


「こいつが、私を破った男だ。ミズノフユキというらしい」

「……こ、この男が……? でも、まるで覇気を感じないというか」

「そうか? 一度戦えば、こいつが普段力を見せないようにしているだけというのはすぐにわかるぞ? 剣や鎧を作りだす、武具製造の魔法を使用する珍しい人間だ」


 あまり情報を吐き出さないでもらいたい。

 そうは願うが、恐らくレナードは色騎士たちにすべてを教えるつもりだろう。

 それも、過度な装飾をして。どうにもレナードにはそういうクセがありそうだ。

 

「へぇ……なかなか面白そうだね」


 じゅるり、と女性は唇を舐める音をだす。

 仮面をつけた二人の女性に囲まれ、周囲の目がだんだんと集まってくる。


「……ってこれじゃあ、顔を隠している意味がなくなるね。それじゃあ、レナード行くわよ」

「わかった。ミズノ、それでは明日、期待しているからな」

「ちょっと、あんた色騎士のくせにどこの誰かもわからない奴を応援するの?」

「そちらのほうが面白いだろう?」


 二人は言い合ってから、手を振って去っていく。

 冬樹は片手をとりあえずあげてから、つかれきった体から力を抜く。

 どうにも明日の本選も苦労がたえないようだ。

 なんて考えていると、


「師匠! 本選出場おめでとうっす!」

「だーりん、さすが」

「クロースカにミシェリー……ありがとな」


 また疲れそうな二人が、やってきたものだ。


「とりあえず二人も、今日はお疲れ様だな」

「だーりん、今日はこの後暇? 暇だったら一緒に遊びに行こう」


 くいくいと大きな身長のわりに控えめにミシェリーが服の裾を掴んでくる。


「それは楽しそうだけど、俺はこれから貴族街に戻らないといけないんだよ。また、今度でいいか?」

「……うん。なら、また今度にする。ずっと待ってる」

「お、おう。クロースカは?」

「私も、鍛冶についてあれこれと語りあいたかったすけど……あはは、無理そうっすね」

「そう、だな……。いや、待てよ?」


 二人には次の戦いで参加してもらうのだ。

 だったら、今のうちに紹介しておいても良いのではないだろうか。

 例えば、リコたちが他の貴族に交渉する場合についてだ。


 今は大会で勝ち進んでいるミズノが自分の領にはいますよ、としか言えないが、大会で活躍をしたクロースカとミシェリーもいますよ、になれば、よりスムーズに交渉ができるかもしれない。

 それを想像して、こくりと頷き拳を固める。

 二人がその挙動に首を捻ってくる。


「二人とも、俺の領主様に挨拶しておくか?」

「……だーりんと長くいれるなら」

「私も行って見たいっすね! どれくらいの武器があるのかとか興味あるっすし!」

「よーし、なら、早速行くとするか」


 二人をつれて貴族街へ向かう。二人はどこか緊張した様子であった。


「二人はこっちはあんまり慣れないほうか?」

「……私は何度か貴族の依頼で来たことはある」

「私もっすね。たまーに、魔器の調子が悪いっていうので見に行くことがあるくらいっす」


 ぽつりと呟いた二人は、周囲を見ながらそう呟くようにいう。

 やがて見えてきた一際大きな屋敷。


「わーでっかいっすねー」


 クロースカが両手を合わせて目を輝かせる。


「あの入り口にある明かりは、太陽の力を入れた魔器っすね。わー結構完成度高いっすーっ。あ、あっちにあるのは――」


 キョロキョロとクロースカは興奮気味に見ていく。

 その見た目も重なり、随分と子どもっぽく見えるが、微笑ましく眺めている。

 屋敷内に先に入ったクロースカを追うように入ると、入り口近くでドレスのままぽつんと座っているルナを見つけた。


「どうしたんだよルナ?」

「……ミズノさん?」

「おうっ、そうだ。本選まで出場できたぜ!」

「ええ、第二会場でしたので、それなりに見える位置でしたよ。楽しそーでしたねー」

「……あれ?」


 なんだかルナの様子がいつもよりもおかしい。

 どうにも少し怒っているようにも見えなくはない。

 気のせいか、気のせいだろう。そう思って冬樹が屋敷に戻ってきた安心感から、あくびをしていると。


「女を口説きすぎです!」


 突然叫ばれ、驚きにあくびがとまる。

 ルナが頬をむくれさせながら指を突きつけてくる。


「い、いや……だって大会に参加しているのは女ばっかりだしな」

「そ、それはわかっていますけど……っ。協力してくれるのは嬉しいですけど……嬉しいですけど……っうぅ!」


 ルナがその場で地団駄する。

 ドレスが白色でウェディングドレスに見えたため、結婚式で男に逃げられたように見えてしまった。

 そう話していると、足音がして着飾ったリコが近づいてくる。耳元近くにつけられた造花のようなものが美しさを引き立てている。


「ルナ様、気持ちはわかりますが……落ち着いてください。二人は何度か貴族に誘われている程度に名前も知られています。……これからの交渉で十分に活躍してくれるはずです」

「そ、そうですよね。はい……ミズノさん、ありがとうございました」

「……お、おう」


 ルナはひとまず落ち着いた様子であったが、それでもまだ頬は膨れている。


「ここが私たちの屋敷であれば、残ってもらえるのだが……さすがに、な」

 

 リコが近づいてきてそういう。


「わかった。ミシェリー、ルーウィンに帰るときにまた会うってのはどうだ?」

「……わかった。少し寂しいけど我慢する。また明日?」

「あ、ああ」


 返事をしながらきっとルナが睨んでくるために口ごもってしまう。

 なぜこんなに居心地悪い空間になってしまったのか。

 クロースカにも同じように伝え、冬樹は二人を平民街まで見送った。

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