表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/60

第十五話 闘技大会3


 観客席へと戻り、ギルディの横に座る。


「あんなに丁寧な魔力操作はドワーフの鍛冶みたいだったよ」

「ドワーフの鍛冶?」

「そ、けどドワーフのは魔力をまとわせて、特殊な魔器を作るだけだけなんだよね。あんな妨害攻撃はたぶん、ドワーフでもできないよ」


 数少ない気づいた人間であるギルディ。

 つまりは、冒険者のAランク相当の人間は全員気づいていた可能性があるということだ。

 強敵ほど使用できない技なのかもしれない。

 席につくと、近くにいた人に声をかけられる。


 次も頑張って、とか、応援しています、とか。

 確実に注目が集まっているのは、素直に喜べた。

 それらを無下に扱わず、できる限り丁寧に接する。

 もしかしたら、この会話一つで別の評価をされるかもしれないのだ。

 そんなやり取りのせいか、話しかけられることが多くなってしまう。

 試合に集中したいし、ギルディにも色々と聞きたいことがあるのだが。

 試合が始まり人の目がそちらに集中する。

 冬樹の周りから人が減ったところで、ギルディに顔を向ける。


「魔力操作ってのはそんなに難しいのか?」

「体内のだけならば、誰でもできるよ。それが、いわゆる魔法だね。だけど、空気中っていうのは支配するのが難しいんだよ。できる人は、それこそ、賢者といわれた昔の人くらいじゃないかな」


 冬樹だって自分のものとして扱っているわけではない。

 行く先を迷っているエネルギー――魔力を導いているだけにすぎない。

 コツをつかまれたら、誰にでも使えるようになってしまうかもしれない。実際、日本の『パワード』では当たり前の技術だ。


「そろそろ僕の出番だね」


 ギルディが席を離れて、会場へと向かう。

 ギルディの相手はBランク二名。まだまだ、余裕ありげだ。

 ギルディは華麗に敵をさばき、観客に手を振り上げる。

 前よりも歓声が多いような気がする。ギルディほどの容姿があれば、もっと目立つことができたかもしれない。


 悔しさを感じながらも、近くの客に声をかけられたものだから、明るい笑顔で応対するしかない。

 そうしていると、ギルディが戻ってきて、レナードの試合が始まる。

 目にビデオカメラの機能を展開し、試合を撮影する。

 レナードは剣や鎧に風をまとい、敵の攻撃を無効化しながら、胸元の魔石を破壊してみせる。


 ……大した情報が手に入らないというのが一つの問題でもある。

 レナードと戦う相手は、みな萎縮したり、すでに諦め気味だったりだ。

 これでは、せっかく必死に力を隠しながら戦っている冬樹と情報の透明さはさして変わらない。

 戦闘が長続きすれば、クセや戦いの特徴もわかってくるのだが――。

 歯噛みしていると、試合が近づく。後二つ勝てばレナードとの試合。

 レナードに勝てば、ベスト8となり、決勝トーナメントに参加できる。

 次の対戦相手は、帽子を深く被っている女性だろう。すでに情報は獲得しているし、すぐに控え室へ移動する。


 試合を次に控えたために、慌てて移動する。

 階段をおり、人々の波に逆らうようにして選手入り口へ向かう。

 と、通路の途中で大きな帽子にマントをつけた子を見つける。

 まさに、魔法使いといういでたちの女の子だ。

 彼女はキョロキョロと周囲に顔を向けていたが、やがて、何かを見つけたようにぱっと、顔を輝かせた。


「ミズノ様!」


 様づけで呼ぶのはリコくらいだ。しかし、目の前の女の子は明らかに違う。

 もしかしたら、別のミズノ様かもしれない。

 そう思って無視することにした。

 スタスタと横を抜こうとすると、女の子が慌てた様子で、


「み、ミズノ様!」

「えーと、もしかして、それは俺か?」

「は、はいっす。あれ、違ったっすか?」


 女の子は困ったように慌てだす。

 小さな体であるため、どうにも動きが可愛らしい。

 リスとか見ているような気分になった。


「俺は水野だけど、キミは誰かな?」


 小さな子どもだったために、彼女の近くで膝をつく。

 これでも、ヤユで子どもには慣れているほうだ。

 笑みを向けると、女の子はむーっと、頬を膨らませた。


「私、何才に見えてるっすか?」


 返答に困った。このくらいの子は年上に見られたいのか、年下に見てもらいたいのか。

 きっと大人っぽく見てほしいだろう。


「14才くらいかな?」


 背はヤユと同じくらいだったため、2歳程度上にみる。

 しかし、この世界の成人は15とも聞いている。

 目の前の子はもっと若いかもしれないと思っていたが、


「私は、20っすよー!」

「ま、マジで?」


 腕を振り回すようにして癇癪を起こす女性。

 にわかには信じがたい。

 その際に帽子がずれ、可愛らしい耳がこんにちはするように、震える。

 人間ではないようだ。

 周りが怯える様子もないため、魔族ということもないだろう。

 見慣れない種族に困惑していると、彼女は胸に手を当てる。


「私は、クロースカっす。あんな凄い魔力操作、初めて見たっす! 感動したっす!」

「そうなんだ、ありがとね」


 と、返事をしたものの、あれに気づかれているという事実に頬が引きつってしまう。

 本当に子どもではないようだ。

 床からひざを離して立ち上がる。

 少女の身長はやはり、子どもそのものだ。

 獣のような耳もついているし、そういう種族、なのかもしれない。

 聞くかどうか迷ったすえ、結局冬樹は訪ねてみることにした。

 このままもやもやとしていると、戦闘に支障がでるかもしれなかった。

 

「えーとクロースカは何の種族の人なんだ?」

「あれ、この低身長と妖精の耳でわからないっすか?」


 帽子をとった彼女の耳がぴくぴくと震える。

 それがまず妖精の耳ということに今はじめて気づいたところだ。

 だが、確かに、よく見ると透き通るような美しさを持った耳だ。

 獣の耳、というには似たような形のものがない。


「ほら、羽もあるっすよ?」


 彼女がマントをずらすと、確かに、小さな羽根が二枚ついている。

 

「飛べるのか?」

「あはは、師匠は面白い冗談を言うっすね」

「は、はは……」


 冗談ではなく結構本気で聞いた。

 この世界、魔法なんてあるし、工夫すれば空だって飛べてしまいそうだ。

 冬樹は持っていないが、パワードスーツの装備にスラスターがある。

 背中部分ににょきっとちょっぴり無骨な装備をすれば、そこから出るエネルギー噴射によって、空中での移動もできる。

 そう、長い時間発動できないため、あまり好きではなかったが。

 

「師匠?」


 聞きなれない言葉に目を瞬く。

 もちろん、言葉の意味は理解しているが、クロースカがそう呼ぶ理由はないはずだ。

 冬樹の反応に、クロースカが目を瞬かせた。


「はい! あたしたちドワーフは鍛冶が得意っす! 鍛冶って、魔石とか道具に魔法を込めるっすけど……そのときに魔力が必要なのは知っているっすよね?」

「ああ」


 聞いたばかりの知識で、はっきりいって、たいして詳しくはない。

 しかし、クロースカは冬樹の反応にさらに目を輝かせてしまう。


「師匠もきっと、すごい鍛冶師っすよね!?」

「いや、俺は……鍛冶なんてしたこともないんだけど」

「えぇ!? もったいないっすよ!」

「もったいないっていわれてもなぁ」


 どうにも興奮気味の彼女相手に、まともに話しても伝わらなそうだ。


「悪い、もう試合だから行くな」

「あ、わかったっす。師匠がんばってくださいっす!」

「師匠じゃねぇっての」


 きちんと否定するのは、後でもいいだろう。

 駆け足気味に会場へと向かった。

 会場に入ると、さらに歓声が増える。


 順調に注目が集まっている。貴族の間ではどのくらいうわさになっているのだろうか、少し気になったが、それは夜までの我慢だ。

 この試合が終わった、一度昼をとろう。

 気づけば、時刻は十三時だ。日本の時計なので、多少のずれはあるだろうが。


 対戦相手の盾女が迫ってくる。

 身長は冬樹と同じくらいだ。

 ただの、人間ではない。髪に隠れるように角が見えた。

 鬼、を彷彿とさせる鋭い角だ。


「……よろしく」

「よろしくな」


 同じように言葉を返す。

 司会による紹介が行われる。

 気づけば司会がルーウィンの地、と言ってくれていた。

 司会に覚えてもらっているだけでも、今日一日は十分すぎる評価のあがりようだ。

 冬樹はマイクを受け取り、ルーウィンの土地について語ってから、マイクを女性に渡す。


「私はここに男を捜しに来ている」


 女性が叫ぶと、会場の盛り上がりが一気にあがる。

 やはり、こういうのが観客も好きなようだ。

 恋愛は身近なこととして考えやすいのだろう。

 女性の両目がこちらへ向き、獰猛そうな牙が口の隙間から覗く。


「強い男……私はこいつに結婚を申し込む」


 女が叫び、こちらを指差してくる。

 ぽかんとした間抜け顔が女には受けたようで、笑顔を向けてくる。


「もしも、私が勝利した場合、おまえは私の物になる。異論は認めない」

「……ちょ、ちょっと待てよ! 強い男なら、もっと勝ち進んでな……っ」

「私と同じくらい強い人。けど、私が守ってあげたくなるくらいの弱さの人がいい。はっきりいって、私はそろそろ限界来てる。ここら辺が潮時なのは、ひとつ前の戦いで理解した。それに、この先のトーナメントは女しかいない。あなたくらいしか好みで候補はいなかった」


 どうやらすべて本音のようだ。

 なんて返事をすればいいのか窮しているにもかかわらず、周囲は勝手に盛り上がっていく。


『さぁ、さぁ! ようやく闘技大会らしくなってきたぞー! 自分の主を探すための騎士の大会から始まったこの闘技大会! 相手を求めるという点では、これほどすぐれた場はないぞ! さあ、闘技大会での命令は絶対だ!』


 そういえば、リコがそんなようなことを言っていたなと思いだす。

 司会が楽しげにマイクを差し出してくる。

 それを受け取りながら、声が入らないように女性へ顔を向ける。


「おま――」

「おまえではなく、ミシェリー」

「……ミシェリーは、もしも俺に負けたとするだろ? そのときになんでも自由にしていてくれ、といわれたらどうする?」

「あなたが嫌といわないならば、あなたにお供させてもらいたい」

「魔族と戦うことになってもだな?」

「うん」


 彼女の両目は真剣そのもの。

 ならば、よいだろう。

 闘技大会の趣旨を理解し、それに則って行動すれば、より人々の注目が集まるはずだ。


『もしも、俺が負けた場合は、ミシェリーの物になろう』


 言うと、歓声が一斉に強まる。


『俺が勝った場合は、ルーウィンで魔族との戦いに参加してもらう!』


 言ったとたん、歓声がブーイングに変わる。

 女にあれこれやっちまえーとか……一応、闘技大会は子どもも見ているのにお構いなしだ。

 最初はあいまいな宣誓で、観客たちに期待させようとも思ったが、あいまいな宣誓では、言い逃れされる可能性が出てきてしまう。

 魔族との戦いに参加してくれれば後はなんでもよかった。

 ミシェリーもこくりとうなずき、お互いが納得したところで距離をあける。

 司会が急いで避難したところで、戦闘が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ