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第十三話 闘技大会1

 花火のような音が響くと、会場に集まっていた人々も釣られるように歓声を上げる。

 冬樹は第一会場にいた。

 メイン会場ということで、客の入りはもっとも多い。


 客席には貴族の姿もあるようだが、圧倒的に平民が多い。

 貴族は闘技大会を見れる建物に多くいる。わざわざ日差しを浴びながら観戦するものは少ないのだ。

 ルナたちも、貴族との関係作りのためにそちらにいる。


 一応は貴族の推薦で参加している冬樹は、メイン会場の中にて開会式に参加できた。

 とはいっても、そこまで嬉しくはない。

 日差しにさらされるわ……昨日のことで視線も多い。

 注目を浴びている、と前向きに捉えていくしかない。

 闘技大会での注意事項は相手を殺さないことだ。


 そして、危険と判断された場合はすぐに審判が止めに入ってしまう。

 なるべく、余裕を持って相手を倒す必要がある。

 司会の煽りに会場の熱はますます高まっていく。

 やがて、説明が終わり、今すぐに行われる試合が発表される。

 まだ試合は行われない。とはいえ、暇だからといってサボるわけにもいかない。

 一度解散されたところで、声をかけられる。


「ミズノくん、ちょっと」


 声をかけてきたのはギルディだ。爽やかな笑みとともに近づいてくる。


「トーナメント表を見に行くのかい?」

「ああ、一緒にいくか?」

「そうだね。それにしても、昨日の宣言よかったよ。キミがもしも、言葉通り優勝したら僕も力を貸せるかもしれない」

「いいのか?」

「……たいした自信だね」

「さっきの言葉忘れないからな」

「ああ、構わないよ」


 並んで歩いていくと、注目を受ける。

 どうにもバカにした笑みが多い。

 ホラ吹きと思われているのだろう。相手が油断してくれるのなら、いくらでもバカにしてくれといった気持ちでトーナメント表を見る。

 全部で四つの会場があり、いまいる第一会場に有名な名前の人が多いらしい。


「僕もキミも第二会場のようだね」

「あ、ほんとだ」

「まあ、直接ぶつかることはないだろうね」


 これから行われるのは予選だ。今日一日でベスト8までを決め、それからまた組を作り直す。

 ギルディとは、普通にやったら、決勝までぶつからない。

 まあ、つまりは明日まで当たることはないということだ。

 試合までまだ時間があるが、第二会場へ向かう。


「君のところ色騎士がいたね」

「なんだっけ、それ?」

「……キミこの国は初めてかい」

「ま、まあ……」


 やはり、常識のようだ。


「まあ、会場で見てみるのがはやいだろうね。行こうか」


 彼とともに第二会場へと入っていく。選手入り口ではなく、観客席のほうへ。

 階段を登っていくと、光が入ってくる。

 人々の歓声が耳をうち、肌を殴る。

 始まって間もないが、人々の熱狂ぶりは凄まじい。

 ロクに娯楽がないのだから、仕方ないのかもしれない。

 ちらほらと空席が目立つが、それでも多くの人がいる。

 溶け込むように席につくと、ちょうど戦闘が終わる。


『さぁ! 次の試合は優勝候補の一人! 国が誇る精鋭部隊、色騎士の一人! レナード様の登場だー!』


 司会のあおりをうけ、全身緑の鎧をまとった人が現れる。

 たいそうな装備だ。

 司会からマイクを渡され、緑鎧は声を張る。兜も隠していて、判然としない。


「私はここで、優勝するために来た! 色騎士最強は私だ!」


 意外にも、女性の声であった。

 歓声がいっそう強くなる。

 色騎士、そう呼ばれる理由は簡単なようだ。

 単純に鎧で色わけされているようだ。

 さらなる説明を求めるように、ギルディへと視線を向ける。


「色騎士について、いろいろと教えてくれないか?」

「色騎士は全部で五人。まあ、今は白騎士はいないし、どうやら茶騎士はいないようだね。今回参加しているのは赤、青、緑、黒……全部で四人だね。この国で最強、と言われる騎士たちで一人ひとりは魔族にも匹敵する力を持っているし……何より全員が神器持ちだよ」

「それは厄介だな」

「厄介なんてもんじゃないよ。ほら、みてみな」


 二人組の男たちは、冒険者のようだが、すでにレナードへ畏怖しているようだった。

 あれでは勝てるものも勝てないだろう。が、委縮してしまうのも無理はない。

 会場にある多くの歓声は、レナードを応援している。


 完全にアウェイとなってしまっているのだから、冒険者二人には同情してしまう。

 三人はそれぞれ胸に石をつける。

 あれはなんだ? と問うと、ギルディは呆れた顔で教えてくれた。


「一定の衝撃で砕ける魔石だよ。あれを壊したら勝ちってこと」

「なるほどね」


 試合が始まる。

 レナードは様子をみるように剣を抜く。

 しかし、冒険者二人は動けないでいた。

 レナードが微塵も隙を作っていないからだ。


「……対戦相手の二人は、Bランクの冒険者だね」

「知り合いか?」

「何度か一緒に行動したことがあるくらい」


 冒険者にはそのくらいの相手は多くいるらしい。

 先手を譲っていたレナードが、動かない二人に飽きたようだ。

 冒険者はレナードと打ち合い、背後でもう一人が魔法の準備をする。

 レナードが力任せにふるった剣に冒険者は合わせるが、はじかれる。


 あれでは、打ち合いではない。

 どうにか冒険者が踏ん張って時間を稼いでいるだけだ。

 その時間によって、後方の冒険者が魔法を放った。

 火の矢がいくつも放たれ、冒険者は逃げるように大地を蹴る。

 レナードはその魔法を右手に持っていた剣で払う。

 爆風が会場を吹き荒れ、火は消失する。


「……あれが、彼女の神器だね」

「風を操るって感じか?」

「うん。あれがある限り、生半可な攻撃は彼女の鎧には届かないんだ」


 風――はっきりいって、一番相性が悪いかもしれない。

 パワードスーツは、熱などに強く作られている。

 だが、風となると話は別だ。

 あの風に遠ざけられてしまえば、攻撃ができない。

 さらには、銃を使うにしても、難しいだろう。

 エネルギー弾はおそらく風によって防がれる。

 敵が反応できないほどの速度で攻撃するしかない。

 単純だからこそ、もっとも大変であった。

 レナードの試合が終わり、次々と試合が進行していく。


「そろそろじゃないかい?」

「じゃあ、行ってくる」

「決勝トーナメントで会おうか」

「ああ、負けんなよ」

「緑騎士様がいるブロックで、よくもまあキミは自信喪失しないね」


 ギルディはどこか、諦めの混ざった顔をしている。


「俺はよく強い奴を押し付けられるんだよ。だから、ま、このくらいで諦めていられないんだよ」


 敵の攻め方、態度、それらを分析していけば必ずどこかに隙を見つけられる。

 そうして作り出した隙で敵を倒せばいい。

 先ほどのレナードの戦闘は映像として残してある。

 この後の戦いもすべて見ておく必要があるだろう。

 選手入り口につくと、すぐに案内される。

 細い道を歩いて行き、盛大な歓声が迎えてくれる。

 向かいにも同じように男が二人入ってくる。


『さぁ! 次の試合はBランク二名のチームです! 彼らはコルフォス様の強い推薦によって参加しています! なんと、コルフォス様が魔族に襲われている際に助けたそうです! 今後が期待されている冒険者です!』


 司会の目が今度は冬樹のほうを向く。

 一体どんな紹介をされるのだろうか。

 不安と期待の混ざった心境で待っていると、司会の表情が固まった。


『え、えーと、一応、ルーウィン家代表ですが、詳しいことはわかりません!』


 ……そういえば、特に何かリコが書いたわけでもなかった。

 まあ、この後に宣言があるため、そこで伝えたいことがいえればそれでいい。

 魔石が渡され、それぞれ相手に見せながら胸につける。


『コルフォス様への勝利を捧げます!』


 二人の男は声を合わせて叫ぶ。

 それにあまり歓声はない。この闘技大会で、人々がもっとも沸くのは、人の奪い合いなどだ。

 自分の身をかけたり、好きな誰かのために、など。

 平民、貴族に関係なく、恋愛ならば感情移入をして楽しめるのだろう。


『それでは、次はミズノさんにお願いしましょう! どうぞ!』


 マイクを受け取り一つ呼吸をする。

 すでに言う内容は決まっている。

 ここにいる多くの人にとってはつまらない内容となるだろうけど。


『俺はこの大会で優勝する! 色騎士だか、Sランク冒険者だが、知らないが全部ぶっ倒す! ルーウィンの水野をよろしく!』


 大きく叫ぶと、会場は合わせていたように静まりかえる。

 まあ、これで人々の印象には残ったはずだ。

 自己紹介として、まるで目立たないようなものも用意はしていた。

 目立てばそれだけ相手に警戒されるが……それでは今回のねらいを完全に達成はできない。

 司会もぽかんとしているが、いち早く正気にもどりマイクを奪いながら去って行く。


『さぁ! 先ほどの発言はただのホラで終わるのか!? その実力見せてくれよルーウィンのルーキーよ!』


 司会がうまくまとめあげ、戦闘開始の声があがる。

 冒険者たちは苛立った顔で剣を抜く。


「おまえ、俺たちなんか目じゃないってか」

「随分と舐めてくれるじゃないか」


 別に舐めているつもりはない。

 二人が武器を構えたのを見て、姿勢を整える。


「武器はどうしたんだよ?」

「持ってないんだよ。でもいらないだろ?」


 わざとらしく挑発すると、二人の頬が引きつる。

 剣を強く握った男たちは、ぎりっと歯を噛んで走ってくる。


「丸腰で勝てると思っているのか!」

「さっさと終わらせてやるよ!」


 怒りに支配されたような顔だが、二人の連携は体に染み付いているようで無駄がない。

 だか、力が入りすぎだ。

 ぎりぎりまで引きつけ、瞬時に回避する。

 男達の身体は前に突っ込む形で止まる。

 背後に回り男の体を持ち上げて思い切り投げる。背中から落ちた男は受身をとれずに痛みに硬直する。

 倒れた男の胸に足を落として、魔石だけを破壊する。


「しとめた!」

 

 背後に動く気配。

 それを自分の領域を広げることで把握する。背後であろうとも、魔力による冬樹の世界の中では、敵の動きなど……にとるようにわかる。

 相手は、こちらを殺すことはできない。

 斬りつけるとしても、浅く切る程度。

 ルールの中から敵の攻撃を予測し、前に一歩踏み込んで回避する。

 予想通り、風が掠めるだけで剣が体を傷つけることはない。

 その場で回るようにして、背後の男へ蹴りを放つ。

 回避されるが、すぐさまがら空きの腹へと拳を入れる。

 唾がばらまかれ、男の体がくの字に曲がる。

 胸を軽く殴ると、魔石が砕け散った。


「ま……まさか」


 男たちは呆然と呟く。


「これでも、隊長やってたんだ。日本の代表だとしても過言じゃねぇんだからな」


 二人に向けて言い放つと同時、歓声が会場を包んだ。


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