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第十二話 舞踏会2


 席のあいているほうへ移動する。

 腰掛けた冬樹はその様を眺めていた。

 右に左に、リズムにあわせてゆったりと体を動かしていく。

 男女で行うことが多く、中にはお互いが頬を染めていることもある。

 ボーっとそちらを見ていると、やがてルナがぽつりと口を開いた。

 

「……あの、一緒に踊りませんか?」

「俺の国は踊りとかないんだよ。だから、こういうダンスはまったくできねぇんだ」

「それでも構いませんよ。私も苦手なほうですから。それに、今日くらいしかミズノさんとは踊れないと思いますし……」


 明日からは闘技大会が始まる。

 その期間、ずっと舞踏会も開かれる。

 本当に他にやるべきことはもっとあるはずなのだが……、そうは感じたが、貴族たちにとっては、自分たちが楽しむほうが優先されるようだ。

 冬樹が闘技大会で目立ち、ルナがそれを話題にして、自分の街に助力してくれる人間を集めていくしかない。


「まあ、へたくそでいいなら相手するけど」

「本当ですか!?」


 予想外なほどに喜ばれ、冬樹のほうが驚いてしまった。

 ダンスは基本的に順番などはないようだ。

 ルナに引かれるようにして、人々に邪魔にならないように踊っていく。

 もちろん、完璧なのは無理だ。ルナにあわせるのだけで限界。

 それも、途中で曲が変わり、どちらかといえば動きが派手なものへとなる。

 ルナは苦手とはいっているが、下手ではない。

 結局、随分と足を引っ張りながら、少しの時間をともに踊り、冬樹は疲れた体を椅子に落ち着ける。

 これならば、戦闘のほうがラクなくらいだ。

 ……ちょうど、そのタイミングで着飾っていたリコが戻ってくる。

 こちらも美しいいでたちだ。

 変な男が近寄るのではないかという大胆な服装を心配していたが、リコの疲労まじりの表情に意識が向いた。


「あんまり、調子はよくないみたいだな」

「ああ……やはり。実力者がいない、というのが問題となっている。……闘技大会の結果待ちでは、間に合わない場合もあるのだが」

「……やっぱりそうなのか」

「……そこで、すまない。相手の貴族に、今回参加するということでミズノ様を紹介してくれと言われているのだ。共に来てくれないか?」

「じゃあ、ルナ行ってくるな」


 サンゾウとイチを見やると、二人は任せてと胸を叩いた。

 

「イチが暴走しないように見守ってますねー」


 イチは相変わらずもくもくと食べていく。

 会場ではメイドが慌しく仕事をしている。仕事を増やすのに、イチも少なからず関係しているだろう。

 リコに連れられるように歩いていくと、やがて壁に背を当てている青年の姿が見えた。

 青年はメイドと楽しげに、話をしている。

 青年はこちらに気づくと、明るい調子で手をあげてくる。

 

「リコ、そいつがルーウィン家代表で闘技大会に参加する男かい?」

「はい」

「水野、冬樹です。一応、代表です」


 どのくらいの調子で話せばいいかわからない。

 出来る限り下手に出ると、青年はじっくりと観察してから怪しみような目を向けてくる。


「まるで覇気がないね……。本当に実力者なのかい?」

「……街を救ってくれましたよ」


 リコが少しばかり強気にいうと、青年は笑みを浮かべtあ。


「そうなのかい? まあいいや、部屋を確保してある、そちらで話をしようじゃないか」


 メイドに別れを告げた青年は、先を歩いていく。

 会場から抜けた先にはずらっと廊下が並んでいる。

 たまに……女性や男性のつやのある声が聞こえる。

 これは……どうにも、普通の状態ではない。首を捻ると、


「……貴族の方が、良いと思った異性を連れ込んでいるのだ」


 リコが耳元で、小さく呟く。

 まったく縁のなかった冬樹は、部屋にいる人々に嫉妬をぶつけながら青年についていく。

 やがて一室に到着し、中に案内される。

 さすがに貴族が利用しているだけあり部屋内は豪華だった。

 夜であっても、魔石を利用した明かりがこうこうと部屋を照らしている。

 使うかどうかわからない家具がいくつかおかれ、ダブルベッドが一つ怪しく置かれている。


「ここは別に防音というわけじゃないけど、いい感じに会話は聞かれないだろ?」


 部屋を眺めていると、青年がどこかからかう調子でいう。

 確かにそうだ、と納得しながらも、時折聞こえる甲高い声などに頬が引きつってしまう。

 すぐにリコが席の準備を行うと、短い感謝の言葉とともに青年が座る。

 対面に座るよう促されたため、すぐに腰掛けると、リコは背後で待機する。

 ……下手なことをいえばすぐに頭を叩かれそうだ。または背中の肉を掴まれる……。

 日本で同じような経験があるため、ごくりと唾を飲んでしまう。


「オレはグレイエール家の人間、アルフォスだ。一応、領主をやっていて、魔兵も千ほどは動かせる」

「……そ、そうなんですか?」


 まだ敵の数には到達していないが、守りだけに徹すれば一日耐え切れる程度の戦力ではあるかもしれない。

 なるべく、表情には出さないようにしても、喜びが心に生まれてしまう。

 だが、それを遮るようにアルフォスは人差し指をたてた。


「だが……勝てない戦に貸す兵はいない。魔兵とはいっても、使える魔法は術者と同じだけだし、下手に敵に情報を与えるつもりはないからな」

「……まあ、そうなりますよね」

「それに今、この国の別の重要な拠点が魔族に宣戦布告されている。オレはそっちに協力するように命令も来ている。そちらに貸す兵士は、五百。相談を受けるまでは千の魔兵を貸すつもりだったが……もしも、キミの実力がリコの言うとおりならば、そちらに五百を貸すつもりだ」

「……つまり?」

「敵の神器を抑えられる……または倒せる人間がルーウィンにいるのか、どうか。それによってオレが協力するかどうかは決まる、ということだ」


 威圧するように彼は言ってくるが、条件がそれだけだったのはある意味都合がよかった。

 ホッと胸を撫で下ろしていると、アルフォスは愉快げに目を細めた。


「キミは……力を隠すタイプなのか。さっきの抜けた調子とはまるで別人だな」

「別に隠しているつもりはないですよ。ただ、ああやって笑顔浮かべてるほうがラクなだけです。ていうか、抜けた調子ってなんですか」


 あまり逆らわないようにしながらも、多少は苛立ちもわく。

 そんな態度を察したのか、アルフォスは笑みを濃くする。


「それより、アルフォスさんは……どうして、協力してくれるんですか?」

「なんだ、協力はいらないのか?」

「意地悪を言わないでくださいよ。単純に気になったんです。そんなに、ルナの親かルナに恩があったんですか?」

「まあ、それも多少はあるが……一番は、腐った貴族を減らすためだ。そのためにも、少しでも同じ考えを持っている貴族を失いたくはないんだ。数が大事なのは、わかるだろう?」

「え、ええまあ」


 アルフォスはしばらくこちらを見ていたが、やがて愉快そうに立ちあがった。


「それじゃあ、明日からの闘技大会、楽しみにしているよ。この部屋は自由に使ってくれ」

「使う相手がいないですよ」


 冗談を言ってくるアルフォスに同じ調子で返すと、アルフォスはなんとも言いがたい顔を作った。


「……あ、そうか。すまないな」

「そんな深刻げな顔をしないでくださいって」

「ははっ、それじゃあ、次はルーウィンの土地で会えるといいな」

「絶対に会わせてやりますよ」


 いうとアルフォスは笑い声とともに去っていった。

 扉が完全に閉じるのをみてから、口を開く。


「これで、多少のめどはたったな」

「……ああ。だが、それでもまだ兵は万全とは言いがたい……それに……まだ、勝ち進めるかどうかも……対戦相手が悪かったら……」


 リコはぶつぶつといいながら、深刻げに顔をゆがめていく。

 考えれば、考えるほど……物事の難しさに頭を悩ませることだろう。

 最悪を考えるのは悪くない。 

 だが、リコが一人で抱えこむ必要はないだろう。

 ぽんと肩を叩くと、リコがはっとした様子で顔をあげる。


「きゃっ!」

「うぉっ!?」


 勢いよく顔があげられ、顔がぶつかりそうなほどに近くなって叫ぶ。

 リコは後退しながら、つまずいて思い切りベッドに倒れこむ。


「だ、大丈夫か?」

「あ、ああ……くっ間抜けな姿をさらした」


 リコは頭を振るうようにして立ち上がり、その場でふらりと身体が傾く。

 倒れ掛かってきた彼女の体を支えながら、リコの様子のおかしさを思いだす。

 竜車の中でも、到着してからも……彼女はどこか人の話を聞いていないときがあった。

 ずっと、ルーウィンをどう守るか考えていたからだと思っていた冬樹だが、今その考えが間違えであったことに気づかされる。

 ……よくよく考えれば、宣戦布告されてからあれこれと作業をしているのだ。

 下手すれば魔族から街を解放された後……いや、もっと前からずっと休めていない可能性もある。


「……おまえ、もしかして全然寝てないな?」

「一応、時間を見て休んではいるぞ」

「ちゃんと休めって。お肌に悪いんだぞ?」

「そ、そうなのか? ……確かに最近はいつもよりも悪い気がするが」

「そうなの。ほら、ちょうどベッドもあることだし休んだらどうだ?」


 肩を抱いたままそういうと、リコが目を覗き込んでくる。


「……だが、まだ挨拶をしていない貴族はたくさんいるのだ。今のうちに、少しでも話をしておかねば……」

「そりゃあ、また明日でもいいだろ?」

「遅れれば、魔兵が……」

「そっちについては俺も考えがあるんだ。……それに、俺が優勝したら、その問題もだいぶ改善されるだろ? 俺を信じて休めって」

「……そう、か」


 リコは短く言葉を吐き出すと、黙りこんだ。

 肩から手を離そうとすると、その腕が掴まれリコが上目遣いにこちらを見てきた。


「……ミズノ様。少しだけわがままを言っても良いか?」

「どんなわがままだ?」

「もう少し、こうして休んでいたいのだ」

「……ああ」


 どこかリコは落ち着いた表情で、腕の中にいた。

 ……さすがに、胸が当たっていると緊張してしまうものだ。

 こうした静かな空間の中でも、周りの部屋からは嬌声が響いてくるのだから、余計に心臓に悪い。

 やがてリコは、ぽつぽつと語りだした。


「……怖かったのだ。あのとき、助けてもらえて本当によかった。もう少しで……私は女としての自分を失うところだった」

「そうか。タイミングがよくてよかったよ」

「……ああ、本当に嬉しかった」


 リコが頭を胸に当てるようにしてくる。

 さらに密着が増し、片手で頬をかいてしまう。

 まあ、たまには誰かに甘えたいときもあるだろう。

 リコの親ではないが、今は父親にでもなった気分で受け止めることにした。

 しばらくそうしていると、がちゃりと扉が開いた。

 

「あの……アルフォス様がこちらにいると教えてくれたのですが……」


 言いながらルナが入ってくる。

 リコは慌てた様子で冬樹から離れた。


「リコ?」


 ちらとリコを見ると、彼女は耳まで真っ赤であった。

 どうにも話が出来る様子ではなかったため、冬樹がかわりに答える。


「ここって休んでいっても大丈夫なのか?」

「え……? あ、リコが疲れているからですか?」

「気づいていたのか?」

「……ええ、まあ。けど、リコを頼るしかないので……、どうせ休むのなら、屋敷まで戻りますか?」

「……まあ、そっちのほうがいいか」


 こんな中じゃあ、集中して休めないだろう。

 リコに顔を向けると、コクコクと顔を何度も縦に振る。

 途端に疲れが出てきたのか、リコは危ない足取りだ。誘導するために、手を繋いでいき、イチたちを途中で拾う。

 階段を下りたところで、冬樹はイチにリコを任せた。


「ミズノさん、どうしたのですか?」

「ちょっとやることがあるんだ。後で戻るから、先に帰っててくれ」

「……やること、ですか?」


 しばらく悩むようにしてから、ルナが目を細めてきた。


「貴族の方と密会、というのではありませんよね?」

「そんなんじゃねぇよ。ちょっとやる気を入れるために、ここで宣言でもしておこうかなって」


 今も冒険者たちが闘技大会への目標をマイクにぶつけている。

 親指でそれを示すと、ルナは面白そうに目を細めた。


「なるほど……それでは」

「いや、私たちも聞いていきましょう。せっかくですから」

「リコ、休まなくて良いのですか?」

「ええ、ちょっとさっき寝たので」

「歩きながらですか!?」

「はい」


 リコの表情は、確かにさっきよりかは柔らかくなっている。

 サンゾウたちも気になる様子で、立ち去ってくれる気配はない。

 一階の騒がし冒険者の舞踏会へと入っていく。というか、ここはある意味すでに戦いが始まっている。

 酒によった冒険者同士で喧嘩までも始まっている。

 このまま全員疲れて倒れてしまえばいいのに、と強く思った。

 知り合いの前で言うのは少し気恥ずかしくもあったが、諦めて壇上へと向かっていく。

 ちょうど、交代のタイミングで、誰もいない。

 すぐさま壇上にあがり、マイクに声をぶつける。


「……あーあー」


 マイクの口元には石が込められている。恐らくはこれが、音を増幅させているのだろう。


「よしよし、明日の闘技大会に参加する。ルーウィン家の水野冬樹だ」


 言うと、会場は一瞬だけ静まり、それから再び話が行われる。

 学校と違い、誰かが注意して静かになってくれることはない。

 それどころか、こちらを見ている目は少ない。

 まずは……全員の注目を集める必要がある。


「今、ルーウィンの地は魔族に戦争を申し込まれているんだ。今、必死に魔兵を集めているが、見込みは薄い。はっきりいって、勝てるかどうかはびみょーなところだ」


 酒が入っているせいか、冒険者たちは派手に笑ってくれる。

 諦めてさっさと逃げちまえよ、などという声が聞こえ、遠くにいたリコが目をつり上げたのがわかった。

 一応、注目は集められた。


「だけどな! 俺がこの大会で優勝して、俺の実力をみせつけてやる!」


 優勝を狙っている。その言葉に、多くの声がなくなる。

 ルナたちも目を点にしていた。……そこは信頼してもらいたいところだった。


「そしてルーウィンだって守り抜いてみせる!」


 まだ沈黙のままだ。ほとんどすべての視線を集めた今のうちに、一番の内容をぶつけた。


「もしも、この中で俺と一緒に逆境をはねのけたいと思うかっこいい奴がいたら……俺に協力してくれ! そうしたら、逆境を跳ね返してくれた勇気ある者たちだって、俺が語り継いでやる!」


 目的は、無所属の人間の獲得。

 彼らがどれだけの魔兵を作れるかわからないが、腕に自信のある者たちが集まっているのだ。

 少なからず戦力にはなってくれるだろう。

 しばらくの沈黙のあと、待っていたのは賛同の声ではなく、嘲笑だった。

 

「ゆ、優勝だって!? おいおい、騎士団や冒険者のA、Sランクが参加するんだぞ? おまえ、ランクはいくつなんだよ!」

「ランクはない!」


 堂々と叫ぶと、さらに笑いは増えた。

 声が重なったことで、全身を打ちつけるような笑い声だった。

 まあ、日本でもこういう役回りは多かったし、嘲笑などには慣れているほうだ。

 伝えたいことは伝えた。所定の位置にマイクを戻し、ルナたちのもとへと向かう。

 四人の笑顔が、冬樹を出迎えてくれた。


「さすがリーダーだね。宣言通り優勝してよね」

「ああ、任せろっての」

「優勝したら、おいしいものを作ってあげるよー」

「それをイチが食べちゃうんだろ?」


 サンゾウとイチに返事をしながら、予定通り屋敷を目指して会場を亜tにする。

 ルナたちを巻き込むように笑いがぶつけられる。

 さすがにそれはあまり気分はよくなかったが、屋敷から出るとすぐにそれらはなくなった。

 外には小さな竜車が用意されている。

 だが、操るものがいない。


「あ、私できるから、任せてー」

「……お、おう」


 イチが竜の背中に乗り、全員で乗りこむ。


「はいよー! いっけいけー、しっかり走らないと食べちゃうぞー!」


 イチが笑いながら叫ぶが、乗られている竜にとってはたまらない一言だっただろう。

 涼しい夜風が、窓から入り頬を撫でる。


「……ミズノさん、頑張ってくださいね!」

「これで、注目はされた。後は勝つだけなのだ」

「ああ、任せろ」

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