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第十一話 舞踏会1

 スーツに身を通し、同じような衣装に身を通しているサンゾウを見やる。

 

「うーん、動きにくいね」

「一応サンゾウは執事ってことらしいからな」

「リーダーは、そんな服でいざってときに動けるの?」

「ま、一応はな」

「……ちょっと聞きたいんだけど僕の戦いどうだった?」


 先ほどのことだろう。突然不思議なことを聞くものだ。

 てっきり男の評価などまるで気にしていないのだと思っていたために、一瞬言葉に詰まる。


「どのくらいが強いっていうのかわからないけど……相手はAランクだろ? それに……どう考えたって戦闘経験は相手の方がうえだ。十分戦えているんじゃないのか?」

「……だけど、ね。僕は女の子を守るために剣を振るっているんだ。仮に、ギルディくらいの相手が襲ってきたら……僕は守れなかったってことになっているね」

「だったら、イチに協力を頼めば大丈夫じゃないの?」

「女の子に頼るなんて、男として情けないじゃないか!」

「けど、その誰かを守れるなら、誰に頼ってもいいんじゃないか?」

「……。確かに、守れない悔しさを味わうよりかは、いいのかもしれないね」


 着替えを終えて外に出る。


「サンゾウは本当に女の子を守りたいんだな」

「……僕が女好きっていわないのかい?」

「男なんてみんなそんなもんじゃないか?」


 腕を組んだ冬樹は、自分の若いときを思いだしていた。

 同じ部隊に所属した可愛い子のために頑張ったり、誰かすきになった子に力を見てもらったりしてアピールする。

 特に、男というのは見栄を張りたがる部分もあるだろうと、考えた。

 サンゾウくらいの年齢の男ならば、決しておかしくはない。

 ……まあ、サンゾウの場合は欲望を前面に押し出しすぎているが。


「なるほどね、トップの目はやっぱりよかった、ということだね。いきなりリーダーにしたけど、なかなか悪くはない選択だったのかもね」

「そういや、本当いきなりだったよな」

「色々トップにはまかせっきりだったし、これからはその負担はリーダーにかけるようにするよ」


 負担をかけないという選択肢はないようだ。

 外に出ると、すでにルナたちは待っている。

 共に移動したが、冬樹はちらとイチを見やる。

 彼女はメイド服に身を包んでいる。日本で考えれば、おかしないでたちだが、ここでは誰も奇異の視線を向けて来ることはない。


 大きな建物に到着すると、すでには始まっていて騒がしい。

 一階では、闘技大会に参加するものたちが明日に向けて、目標を語り合い、ライバル意識を燃やすものもいる。


「私たちは、二階に行きますね」

「それじゃあ、少ししてからそっちに向かうよ」


 ルナたちと別れ、冬樹は一人一階を歩いていく。

 なぜか舞台のような場所にたち、マイクに似たものを握り、声を大にして自分の目標をぶつけている。

 茶化すような歓声がとび、そのような賑わいは別の人に引き継がれていく。

 貴族の人からみれば、まるで品性のかけらもない集まりだろう。

 冬樹はこの空気が嫌いではなかった。


 そろそろルナも挨拶を終えただろうか。

 舞踏会が始まってからは、食事も出てきて、人々の油断が多くなる。

 護衛をするために階段を登っていく。

 貴族たちの舞踏会の入り口では、誰かを待つ人たちが多くいる。

 扉の中には勝手に人が入れない、見張りと思われる騎士もいた。

 ルナがいなければ、中に入ることはできない。


「ミズノさん!」


 着飾ったルナが近づいてくる。

 いつとも違い、走って来ることはない。

 一応は貴族の場であるからだろう。


「挨拶は終わったのか?」

「……はい」


 彼女の表情は疲労にまみれている。どこか、悲しげにも見える。

 挨拶自体が苦痛でもあったし……恐らく魔兵を借りられなかったのだろう。


「それじゃあ、ここから護衛開始だね」


 サンゾウが笑みを浮かべた。

 共に中に入ると、まず一階との違いに驚いた。

 部屋自体が綺麗であるし、人々の喚き声などまるでない。

 弦楽器によって、優雅な音楽が響くだけだ。それにあわせて、ダンスができるスペースもある。

 たまに談笑が聞こえるが、その会話だってどこか高貴な印象を与えてくる。

 どうにも冬樹はこういう空気は苦手であった。

 この音楽を聞いていればそれだけで眠れてしまいそうだ。


「食事は自由なので、どうぞ遠慮せずに」

「そういや、リコは?」

「交渉を任せています」

「……ルナはいいの?」

「……一緒にいると邪魔だと言われました」


 何も言えなかったため、口を閉ざした。

 あまり、貴族たちと話もしたくない。

 そんなルナの気持ちもあり、バルコニーへ移動する。

 空を一望できるそこでは、星々が輝いている。

 この景色を、ヤユもどこかで見ているだろうか。

 深く考えると、悲しい気持ちになる。

 ルナが不安げに顔を覗き込んできたため、慌てて笑顔を作った。


「それにしても、貴族はいつもこんな盛大にパーティーしてるのか?」

「そうですね。……あまりやりすぎるのも良くないと思うんですけどね」


 と、イチとサンゾウが食事を持って近づいてくる。


「すでに毒味はしておきました!」


 イチがもぐもぐと口を動かす。

 その手には皿があり、食事がのせられている。

 銀のフォークとともにこちらへ差し出してくる。

 食事は各自が自由に取れるようになっているようで、冬樹の貧乏魂が僅かに顔をみせる。


「イチさんは毒大丈夫なのですか?」


 ルナはイチから食事を受け取りながら、口を開く。

 イチは無邪気に微笑みぐっと親指を立てる。

 ぱくぱくと、ルナも食事をしていく。


「おーい、リーダー! この飯うまいよー!」


 サンゾウが駆け寄ってきて、イチに護衛を任せる。


「い、行ってしまうのですか」

「イチがしっかり守ってくれるって」

「そ、そういうことではないのですが……」


 とはいうが、少し口にしてしまったために、腹が減ってきた。

 どこか潤んだ瞳ではあるが、少し食事をしたらまた戻ってくる。


「それじゃ、イチ任せたぞ」

「えぇ、もっと一緒にいてくださいよー……」

「うーん、任されたよー」


 サンゾウとともに、その食事を口にする。確かに味は良い。

 一緒に食事巡りをしながら、視界の端でルナを見る。

 一応はイチがいるが、彼女一人に任せるのは良くない。


「へぇー」

「どうしたのさ、リーダー」

「いや、ルナは人気あるんだなって思ってさ」


 冬樹たちが離れた途端、貴族の男に絡まれている。

 なるほど、どうしてルナがあれほど一緒にいてくれと言っていたのかがわかった。

 冬樹がいたおかげで、よい風除けになっていたのだろう。


 若いうちに男性経験を積むのはわるくないだろう。

 冬樹だって、もっと若いうちに女性と関わっていれば、今には結婚していたかもしれない。なんて願望を含んだ希望を夢見る。


「ま、あんだけ可愛いとねぇ。僕もうっかりお触りしたいねー」

「おいおい」


 呆れながらも、彼の素直さは少し見習いたい部分もある。


「そういや、おまえって何歳なんだ?」


 ルナを観察しながら、食事を口に運ぶ。

 四人は似たような年齢だろうと思っている。

 15かその前後くらいだろう。

 

「僕は12だよ。トップが18で、あとはみんな12だよ」

「い、意外と若いなぁ」


 驚きだった。

 しかし、そもそもこの世界の人はどちらかといえば、成長が早い。

 イチはすでに容姿だけならば高校生くらいはある。


「成人って何歳だっけ?」

「15でしょ? リーダーって僕よりも物を知らないよね」

「ほら、食事もそろそろ切り上げようぜ」

「えぇー、まだ食おうよ」

「そんな食うと動けなくなるぞ? ルナを守れなくなっちまうぞ?」


 サンゾウは、それはまずい、といった様子で食器をメイドに渡した。

 その辺り、しっかりしているのが彼らしい。

 ルナのほうに歩いていくと、彼女もちょうどこちらに気づいて手をあげた。

 ルナたちがいるバルコニーに片足を入れたところで、道を女性に塞がれる。


「……あなた、ちょっとわたくしの相手をしてくださりませんこと?」


 派手な衣装とともに、髪をかきあげた女性。

 名前は知らないが、どこかの貴族のようで、ドレスに家紋の刺繍が入っている。


「ああ、美しい方だ。僕でよければ」


 一瞬冬樹は自分が誘われたのだと思っていたが、サンゾウだったらしい。

 サンゾウに任せてその脇を抜けようとすると、女性に腕を掴まれる。


「あなたですわよ」

「……は、はぁ。けど、待たせている人がいますので」


 言いながらルナを指差す。ルナの驚愕に見開かれた目に、冬樹は首を捻る。


「あなたっ! 邪魔をしないでくれませんか!?」


 ルナがばっと駆けてきて、女性と冬樹の間に割って入ってくる。

 女性はさぞ楽しげに目を細めてみせた。

 知り合い、という様子である。


「……誰だ?」

「騎士学校のルームメイトです」


 ぼそりと彼女は教えてくれる。


「あ、友達か」

「友達じゃないです!」


 ルナが叫び、女性も不服そうに髪をかきあげる。

 騎士学校について詳しくはないが、それでもルナと同じ年か近い人なのだろう。

 女性の体を改めてみる。

 ルナと比較すると、あらゆるものが大きかった。

 ということは、すでにルナは成長しきったのかもしれない。

 異世界でも人によっての個人差はそれなりにあるのか、と考えていると女性がルナを押しのけてこちらに寄ってくる。


「わたくし、ちょうど暇をしていましたのよ」

「そうなんだ」


 相手すると、ルナが唇を尖らせるようにして睨んでくる。

 とはいえ、相手は貴族。無下に扱っていらぬ噂をまきちらされたくはない。

 

「む、一緒にダンスでもしませんこと? わたくし、高身長の方が好みのタイプですのよ」


 冬樹はこの前の身体測定では、180センチであった。

 部隊の男子の中では平均の身長だが、ふと気になって周りを見回してみた。

 この世界の人々は……確かに、あまり背の高いものはいない。

 会場にいるのはよくて175くらいだろうか。

 身長の関係で、確かに視線が集まることは多い。

 女性から秋波を送られながらも、断ることばかりを考えていた。

 女性だって、もっと若い男のもとに行けばいいだろう。

 おっさん……とは思っていないが、ヤユにはよくおっさんと呼ばれるのだ。……前に老け顔と友人に言われたこともある。


「……悪いけど……ちょっと大事な話があるんだよ」

「……え?」


 途端、女性の表情がひきつった状態で固まる。

 あまり見ないようにして、ルナの手を掴む。


「だから、また今度、ということで。ルナ、行こう」

「は、はいっ」

「ちょ、ちょっと……」


 サンゾウたちに視線を送る。

 彼らの理解も早い。

 ずっと口を動かしているイチも、近くの食事を皿に乗せていく。

 ……丁寧で凄く綺麗な食べ方であったが、もしかしたら一番イチが食いしん坊なのかもしれない。

 ある程度離れたところで、四人で隅のほうに固まる。

 サンゾウは女探しに出歩き、イチもまた、食事を取りにいった。


「さっきの子と仲悪いのか?」

「……まあ、それなりに。お互いに成績が近いせいで、よく言い合いをします」

「へぇ、学校の成績はどうなんだ?」

「昨月の評価はAでしたよ」

「Aってのは……いいのか?」

「えーと、学年での順位は二位でした。で、さっきの女性が三位。ふふん」

 

 ちょっと誇らしげに腰に手をあててみせる。


「……少し不安でしたよ。……あの人、なんだかんだで公爵家の方ですし」

「……公爵って? あれ? 結構偉いんじゃなかったか?」

「ええ。一応王族の次に偉いって感じですね。……私も父の関係で小さい頃からよくあっているので、いまいち分からないんですけどね」

「ほ、ほぉー」


 腕をくみ、口を半開きにする。

 ルナたちに何か、被害が出ないかと少し心配してしまう。

 それが表情に出ていたのか、ルナが慌てて否定してきた。


「大丈夫ですよ。あいつ、権力とか使って潰すとかいう回りくどいことはしません、やるなら正面からぶつかってきますので」


 どうにも棘のある言い方だが、ルナの笑顔に不安などは一切なかった。

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