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第十話 闘技大会申し込み2


「なんでそうなったんだ?」


 何も根拠がないのに疑うのは良くない。

 もちろん、リコがそれなりに知り合いだったのだから、理由もあるだろう。

 リコの言葉を丸々受け取らないように意識しながらも、冬樹は耳を傾ける。


「先ほど、魔族に占領されていたとかなんとか言っていたがな、そもそも私が出した文書には、賊としか書いていないのだ」

「けど、たまたまどこかで聞いただけの可能性もあるんじゃないか? ていうか、それだとまるで、賊をけしかけたのが……」

「ああ、可能性はゼロではないだろうな。……あいにく、ルーウィン家はあまり好ましくは思われていないのだ。歴史は浅いし……何より、現国王の考えに従う人間、だからな」

「現国王……? そういえば、仲いいんだっけ?」

「ああ、交友は今も続いているさ。……ともに、お互いがお互いを助けるなどと約束していたらしい。まあ……前領主はあまり迷惑もかけたくないと、頼ることはないようだったが」


 国王が贔屓をすれば、そこを別の貴族につつかれる可能性は十分にあるだろう。

 それよりも……冬樹は気になることがあった。


「現国王の考えってのはなんだ?」

「貴族の平民を下にみる考えを取り払うことだ。今の貴族は……本来の平民を守る立場ということを忘れているものが多いのだ。……確かに多少はいるが……どこも多くの税をかして、むさぼるものばかりだ」

「あー、ルナがそんなこと言っていたな」


 騎士学校にいって一番驚いたことは……とかなんとか。


「って、じゃあルナが危ないんじゃねぇか!?」


 サンゾウとイチをおいてきたとはいえ、貴族同士の話し合いとなれば割ってはいることはできないだろう。


「……一応、殺されることはないのだ。やるとするならば、それこそもっと人がいる場所で行うはずです。舞踏会、という場は……なぜか、人が死にやすい場所でもある」

「……本当に大丈夫なのか?」

「一応、出される代物に口をつけないように、とも伝えている。……それに、ルナ様はそこら辺の毒ならば小さい頃からなれているから問題ない。殺すつもりならば、気づかれない程度の毒しか盛られないだろうしな」

「なら、いいんだけど」

「……まあ、グーロド様が完全に黒というわけでもない。……ルナ様を気に入っているのは嘘ではないだろうし……何事もなければそれで良いのだ」

「そうだな」


 リコほどルナとは親しくないし、長年付き添っているだろう彼女がいうのなら、間違いはないのかもしれない。

 

「……魔兵を借りられない何よりの理由は、ルーウィン家をこのまま奪わせてしまったほうが色々と都合がいいからだ。国王に従う貴族が減るからな」

「でも、貴族たちも馬鹿だよな。無理やり搾り取っても、土地はダメになるし、平民たちだっていつかは不満が爆発する。将来的に見れば、どこかで必ず破綻するだろ?」

「みなが、将来を見据えて行動できれば……だ。人が多くいるのならば、どこかで必ずラクをしようとする者が現れる。……それは神様に頼むしかないんだ」


 特に神を信じていないため、それには同意しかねる部分もあったが、何も言わなかった。

 やがて順番が回ってくる。


「申し込みはお一人、でしょうか?」

「あ、ああ……リコ、何人も登録できるのか?」

「まあな。一応最大四人までだ。ただし、冒険者Aランク以上のものなどは一人という規定がある」


 そこから、冬樹ではなくリコが登録をしていく。

 どこの推薦で参加するのかなどを聞かれ、参加費としていくらか要求されるが、リコが支払ってくれる。

 具体的な金の価値はわからない。

 が、札を十枚ほど渡している。

 もしも、日本と価値が同じであれば、一万か、十万ほどは払っていることになる。

 どちらにしても、払ってもらうには少し高い額だ。

 話ながら、リコはこちらに目を向ける。


「一つだけ大事なことを伝えておく、よく聞くのだ」

「なんだ?」

「闘技大会では始まる前にひとつの宣誓ができる。それによる命令には絶対従わなければならないのだ。だから、変な宣誓には断りの宣誓を返すようにするのだぞ」

「……それで、兵士を集めるってのはどうだ?」

「……私もそれを考えたのだが、自主的ではない参加では、むしろ足手まといになる可能性もあるのだ。第一、参加するのが多くの場合冒険者だ。冒険者自体が、まず連携に不慣れなものが多い。おまけに、命令に従っての無理やりでは、満足に敵と戦ってくれないだろう。まあ、もしも、ミズノ様が信頼できる、と思った場合には誘ってみてもよいぞ」

「機会があったらスカウトしてみるよ」


 リコが申し込み用紙に書き終えたところで、受付がしまったお金を見届ける。


「お金、大丈夫か?」

「ああ、街を救ってくれたお礼だとしても少ないくらいだ。それに、この参加費には、夜の舞踏会の費用も含まれている」

「……え、俺も参加するのか?」

「平民側の舞踏会にだな。ここでは、事前に大会参加者同士で目標を語りあうのだ。とはいえ、貴族に好かれれば、二階で行われている舞踏会へ誘われることもある、そうだ。ま、そもそもミズノ様には、ルナ様のそばで待機してもらう予定なのだ」


 他の貴族になびくなよ、と牽制されているようであった。

 もとより、ヤユを取り戻せばすぐに日本に帰るつもりだ。

 戦争に勝つための権力は欲しても、ルナにとってマイナスになるような権力は求めていない。

 申し込みを終えたところで、一つ羽を伸ばす。

 簡単に闘技大会について話をしてもらったが、魔兵が使用禁止ということだけが聞けたので、後はどうでもよかった。

 嫌な視線もいつの間にか消えている。


「さて、ルナも心配だし……さっさと戻るか」

「そうだな」

 

 歩きだしたところで、あっと短く声をあげる。

 リコが不思議そうな目をこちらに向けてくる。


「帰りながらでいいけど、リコのことも聞かせてくれよ」

「……なぜだ?」

「いや、おまえのこと知りたいからだ。ルナとずっと一緒に生活してたのか?」

「あ、ああ……自分のことを他人に話すのは、これが初めてだな」

「そうなんだ。ルナの母親ってわけじゃないんだよな?」

「ミズノ様、それは私が年をくっているといいたいのか?」

「ひ……。ち、違う。お姉さんってわけでもないんだよな?」


 異世界に来てから、もっとも恐怖した瞬間はいつだったか。

 そう問われれば、この瞬間と叫んでいただろう。

 お姉さんという言葉に僅かに表情は緩み、リコは歩きだす。


「私の祖父が、ルーウィン家にお世話になったそうだ。それから、私の父もルーウィン家に仕え……、私もな。ちなみに、今年で二十一だ」

「ルナと同い年か、一つ上くらいだと思ってたよ」

「今さら誤魔化そうとしているのか?」

「いやいや、本音だって。あんまり意地悪言うなよなぁ」

「ははは、ところで私もミズノ様のことを知りたい。年は四十くらいか?」

「……今年で二十八だ。そんなふけてるか?」

「いや、娘もいるといっていたし、もっと年をとっているのだと思っていた」

「娘っていっても、俺は拾っただけだからな。それも兄さんが拾ってきたのを、育ててるだけ。血はまったく繋がってないし、娘は俺のことをおっさんと呼んでお父さんとか全然呼んでくれないんだよ……」

「……そうか」


 リコの表情はどこか暗く沈んでいた。

 拾った、という言葉に反応しているように見える。

 ……貴族に近い人間であるために、拾われる子どもがいるというのに悲しみを感じたのかもしれない。

 日本でのことであったが、リコには異世界から来たとは伝えていない。

 あまり伝え歩くものでもないため、何も言わなかった。


「……少し、話をしていいか?」

「ああ、いいよ」

「……私はな、時々微妙な気持ちになることがあるんだ」

「微妙?」

「……私は祖父と父に、ルーウィン家に仕えることを叩き込まれてきたんだ。……この感情は果たして本当に私の本心なのか、とな」

「……ルナに仕えるのが嫌だったらやめればいいんじゃないか? おまえの人生なんだし、無理に親の言葉に従わなくてもいいと思うぜ」

「い、いや……! ルナ様に仕えるのはとても好きだ! 仕事として最高なのだ」

「だったら、それが立派なおまえの気持ちだと思うぜ」

「そうなのだろうか?」

「ああ」


 本当にそうなのかはわからないが、リコの表情はすでに自分の考えにある程度の答えを出せているように見えた。

 だから、最後の一つ背中を押すような気持ちで断言した。

 リコは晴れやかな顔になる。

 ……可愛らしくもあり、どこか大人の色気を含んだ表情。

 もっと若ければ、告白していたかもしれない。

 そんなことを考えていると、貴族街の門に到着した。


 家紋を見せてから、すぐにグロードの屋敷に向かう。

 ルナは玄関にて、サンゾウと……もう一人見慣れない青年の剣の打ち合いを眺めていた。

 こちらに気づいたルナはすぐさま笑顔で駆け寄ってくる。

 よかった、五体満足の元気そうな姿だ。


「申し込みはどうでしたか?」

「間に合ってなかったら、泣いて帰ってきてるよ」

「できたんですね! それでは、舞踏会に行く準備をしましょう! ミズノさんが着ていた上質な服もきちんと用意してあるんですからね!」

「お、本当か?」


 今着ているこの服は、悪くはない。

 が、あのスーツはそれなりに運動も出来るように配慮されている。

 もともと、ボディガードをしていたときに使っていたスーツだ。

 あちらのほうが、普段通り戦える。


「ていうか、あんなので参加できるのか?」


 いくら正装とはいえ、日本で舞踏会などが開かれればあれではギリギリ不合格、をもらってしまう可能性もある。

 

「と、とんでもないですよ! みんな大絶賛ですよ! いったいどんな魔物の毛皮を使ったらあんなのが作れるのか知りたいそうですよ! ま、うまく誤魔化してはおきましたけどね」

 

 ふふんとルナが腰に手をあてる。

 ……確かに、この国の文化レベルを考えればこの先何百年もかける必要があるかもしれない。

 屋敷の庭を歩いていくと、

 

「くそっ!」

 

 ひときわ大きな金属音がして、近くに剣がささる。

 サンゾウが持っていた剣だ。


「ぼ、僕が負けるなんて……くぅ!」

「まあ、僕はこれでもランクAの冒険者だ。キミが負けるのも無理はないよ」


 サンゾウは拳を地面に叩きつけながら、悔しそうに対面する男を睨んでいる。

 対面する男はどちらかといえばイケメンといわれる優しそうな面持ちの男だ。

 死ね、という言葉だけを送る。

 その近くでは、メイドと楽しそうにイチが談笑している。あまりにサンゾウには興味がないようだ。


「はっはっはっ、なかなかいい戦いを見せてもらったよ。うちのギルディはどうかね?」

 

 グーロドが、屋敷から出てきてルナのほうを見てくる。

 凄いですねーと棒読みと愛想笑いを返したルナに、グーロドは嬉しげに目を細めた。


「だろう!? 彼は私が見込んで是非ともと護衛として雇っているんだ。この前まで、騎士見習いではあるが、首都の防衛任務もきちんとこなしていたのだからな」


 自慢する様子のグーロドに、疲れた様子ではあったが、ルナはきっちりと笑みを返した。

 ご苦労なことだ。


「ま、本番で当たったら、諦めたほうが無駄な怪我をしないですむかも知れぬぞ?」

「そ、そうですね」


 もう、テンションが最高潮に達しているらしい。

 グーロドは脂で光っている額を近づけながら顔を近づけてくるものだから、少し臭いがきつかった。


「もう一回やらせてくれないか?」


 怒りで声が震えながらも、サンゾウは冷静な様子を崩さない。


「僕はあまり雑魚との戦いは好きじゃないんだ。どうせなら、そちらの青年も挑んできたらどうだい? 相手になるとは思えないけど……明日のための肩慣らしくらいにはなるだろうからね」

「……いや、俺はいいよ。あんた強いみたいだし、今から切り札を見せるのは、ね」


 特に、冬樹が武器として使用する予定のパワードスーツ内の武器はさして多くはない。

 水銃、震刃、砲銃、線銃……が入っている武器だ。

 一つ一つの武器に様々な使い方があるとはいえ、決してバリエーションは豊富ではない。

 戦うである強者たちは、魔法を使用するだろう。

 もちろん、Aランクであるギルディも、恐らくは強い魔法を備えているはずだ。

 そんな敵に、一つでも多く武器を見せるのはやめておきたかった。


「そうかい。まあ、仕方ないね。それじゃあ……暇つぶしに相手してやろうか」

「くっ!」


 立ち上がったサンゾウは忌々しそうに歯噛みしながら、剣を抜く。


「サンゾウ。今はルナが背後にいると思って戦ったらどうだ?」

「……あいつは最悪の人間。僕の大切な女を殺そうとしている……よし、確かにやる気が出てきたね」


 さっきよりも闘志をむき出しにするサンゾウに、ほう、とギルディが唸った。


「なんだ、まだまだ戦えるんじゃないか。惜しいね、キミも冒険者になっていれば、僕が鍛え上げたのに」

「悪いけどね、僕って美少女以外を師匠に持つつもりはないんだ」

「そうかい」


 二人は向き合い、サンゾウが地をける。

 数回の剣戟……だが、ギルディが放った空間を破るような横薙ぎの風によってサンゾウは姿勢を崩す。

 ギルディが一瞬だけ見せた本気。

 それは、殺意に近い、強烈な迫力を持って冬樹を打ち抜く。

 ……少しばかり笑みがこぼれた。


 明日の闘技大会自体にはあまり興味はなかった。

 これでも人を守る仕事をして、それなりに体を鍛えてきていた。

 やはり、戦いと聞くと少しばかり心が躍る。

 サンゾウの首元に剣がつきつけられる。ギルディは大げさに剣を動かし、格好つけるように腰に戻した。


「……くっ! また、負けたぁ!」

「いや、最後のはよかったよ。コツを掴めば、もっと強くなれるはずさ」

「……悔しいけど、僕じゃあ勝てなかったね」

「まあ、まだ若いんだ。もっと修行するんだよ、少年」

「サンゾウだよったく。ま、野郎に名前なんか覚えてもらいたくないんだけどね。……ていうか、格好良い姿見せて、この屋敷のメイドに近づこうと思ってたのに!」

「素直な感情は素晴らしいが、ばらまかれるこっちの身にもなってくれないかね。不愉快だよ」


 ギルディが睨むが、サンゾウはいつもの調子だ。

 それを見かねたイチが拳を一つ落として、冬樹たちのほうへ連れてくる。


「あ、リーダーどうだった?」

「問題なく登録できたぞ」

「そうなんだ、よかったねっ。……それにしても、これから舞踏会かぁ……緊張してきたなぁ」


 とはいえ、彼女は笑顔であった。


「まあ、でも……イチはメイドとしての参加なんだろ?」

「う、うん……」

「大丈夫だって。イチ結構器用みたいなんだし、な」

「……うん、ありがとね。さっすがリーダー!」


 ばんと背中を叩いてくるイチに苦笑をする。

 イチたちも着替えに向かい、冬樹も屋敷に入っていった。


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